それからその日はそのまま流されるように屋上をあとにしてしまった。
あんなこと言われたら、飛ぼうにも飛べなくなってしまうじゃないか…
「神楽坂桜子、かぁ」
すごく綺麗な人だったな。
羨ましい。
あんなに綺麗なら、好きな人とも付き合えて、幸せなんだろうな。
あんなに綺麗なら、死にたいなんて、思わないんだろうな。
ぎゅぅっと痛いほど下唇を噛んだ。
家に帰れば、両親が大声で怒鳴り合い、喧嘩していた。
「お前の教育が間違っていたんだ!」
「あなた仕事仕事って言ってあの子の世話を私に押し付けて…知ってるのよ、若い女の人と遊んでるんでしょう!?」
日に日に酷くなる一方だ。
もう嫌だ。誰か助けて。
しにたい。
しんでらくになりたい。
もうどこでもいい、どこか遠くへ行きたい。誰も知らない、何も知らない、どこか知らないところへ。私は家を飛び出し暗がりの中をただひたすら走った。
どれくらい走ったか、走り疲れてその場に膝から崩れ落ちてしまった。
ぽつぽつと雨が降り出してきた。
「お願い、誰か…助けて…」
どうせ誰も助けてくれない。
「陽菜、濡れるよ」
はずだった。