結婚
「名前水いる?」
「ほしい」
そう言いながら白く細い腕が首に回って引き寄せられるから中々抜け出せない。
どこで覚えるのかDNAの問題かキスがエッチだと思うのは仕方ない。
吸い付かれる唇を離して仕返しに頬っぺたを両方引っ張っておいた。くふくふ笑う名前を可愛いと思いながら部屋を出た。
慣れた家の中を歩いてリビングに行くと名前の弟の紫音が学校から帰ってきていたようでソファに座ってテレビを見ていた。
俺に気づいた紫音が嬉しそうにこちらに寄ってくる。裕兄って呼んで慕ってくれるのが可愛いんだよな。
「姉ちゃんとイチャイチャしてたの?」
「そうです」
「これあげる」
「なんこれ?」
中学生になってから身長が伸びてきていずれ追いつかれるだろうなと思いながら差し出してくるものを受け取る。
「玩具の指輪?」
「姉ちゃんと結婚するのに指輪いるでしょ」
「どうしてそうなった?」
「裕兄が18歳になったら結婚できるんでしょ?」
「そうだけど」
「姉ちゃんが裕兄が18歳になったらプロポーズするのって言ってたから。まだされてない?」
「そうなん」
「俺の兄ちゃんになってくれる?」
「ならせてくれるの?」
答える代わりに満面の笑みで抱きついてくるのを抱きしめ返して指輪のお礼を言ってから取りに来たはずの水を忘れて階段を駆け上がった。
「何かあった?」
「結婚してくれるの?」
指輪を見せて聞けばシーツを頭から被って顔を隠してしまった。
「名前?」
「無理なお願いするよ?」
「していいよ」
「上京する前に結婚して?」
「俺もしたい」
「ほんと?」
「ほんと。まだ玩具だけど受け取ってくれる?」
シーツから出てきた名前は泣いているけど笑って左手を差し出してくれた。花のように笑う彼女も可愛いけど涙を流して笑う名前はとても綺麗だと思った。