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「ウイの飯はウマイぞ!エース飯好きだろ!?」
「まぁ。」
「ウイは安全な航路を見極めるプロだ!途中で船が大破しても困るだろ!?」
「………まぁ。」
「1日1本シードルも付けてやる!」
「……途中までだ。行きは良いとしても連れて帰っては来ねぇぞ?」
一時的とは言え、なんとかエースを口説き落としたシュウが窺うような視線をソニアに向ける。
「シュウ、お酒の仕込みはギリギリなんじゃなかったの?」
「俺がその分多く作る!だからウイを巡回に出してやってくれよ!」
すがるようなその瞳に、ソニアはため息を付き他の面々を見渡す。
楽観的なアオイが良いんじゃね?と首を傾げているのはともかく
ディゼルまでもがにこやかに頷いていることに、ソニアは驚きを隠せなかった。
「本当に、お願いしちゃって良いのかしら。」
「どうせひと月やそこらだろ?乗り掛かった船だ。構わねぇよ。」
呆れたように目を細めるエースに、シュウが歓声を上げる。
「悪い人ではないと思うわ。でも私は心配なんだけど、……色々と。」
「そうだね。僕もその辺りは心配かな。」
はしゃぐシュウの頭をがしがしと撫でるエース。
その様子を眺めながら、小声で話す常識人二人。
些細なサービスの借りを返す為に一肌脱いでくれたこの青年。
シュウに礼儀について説教をする辺りを考えても、きっとエースは“彼ら”のようなまともな部類の海賊なのだろう。
ウイは不思議と誰からも好かれる魅力を持っている。
“彼ら”にせよ、天竜人にせよ、自分たちにせよ
その魅力に引き寄せられるように、集う思いが彼女を守る。
「ん……?あいたたたたた……。」
「おう目ェ覚めたか!これからよろしくな!ウイ!」
シュウの大声で目を覚ましたらしいウイが後頭部を押さえながら体を起こすと、すぐ目の前に差し出されるエースの手。
ぽかんとした表情のウイは、状況も読み込めないままその手を握り返していた。
「本当に大丈夫かしら。あの子。」
「大丈夫だよ、ウイ意外と頑固だし。」
出航は明日。
予定通りウイの積み荷を卸しながらの巡回は、決行される。
「じゃあ行ってきまーす!!」
「気ぃつけろよっ!!」
笑顔でぶんぶんと手を振るウイを、ブラーヴェの皆と見送った。
昨日、エースが護衛として付いて貰う事になった話を聞いたウイは目を丸くして驚いていた。
「大丈夫だよ?フリーウィングも居るし!」
拐われかけた事自体自覚がなかったようだけど、やっぱりこっちとしては心配だ。
2億って言ったらローの懸賞金より遥かに上。
エースは今までウイを守ってきたロー達よりも強いんだろう。
「遠慮すんなって!飯と酒で話は付いてるし!なっ?」
「そうだよウイ。巡回行きたいんでしょ?」
「でも……。」
申し訳なさそうに眉を下げるウイの肩を、エースが抱え込み仲良くやろうぜと笑いかけている。
馴れ馴れし過ぎるのは少し考えものだけど
エース以上にウイの護衛に適任な人が居ない。
「面倒になったら途中で放り出して良いからね?」
「「「「それは困る。」」」」
俺とブラーヴェの皆の声が重なった。
そんな様子を見て、エースは声を上げて愛されてんなって笑ってた。
こいつなら、エースなら大丈夫だ。
エースも海賊らしいけど悪いヤツじゃない。
ウイと俺らを助けに来てくれたハートの海賊団とエースからは、同じ雰囲気を感じる。
「良かったの?せっかくウイと一緒に居られるチャンスだったのに。」
昨日は俺らと同じく休みを取っていたカレンが、小さくなっていくフリーウィング号とスペード海賊団の船を見送りながらそう呟いた。
「ウイ楽しみにしてたんだ。ロー達に会えるの。ウイが拐われかけたのも、……元はと言えば俺が油断してたせいだし。」
「ふーん、忠犬。……でもあんたのそういうとこ好きよ。」
カレンがクスリと笑いながら頭にポンと手を置く。
それが子供扱いされてるみたいに感じて、俺はその手を振り払った。
「でもまぁ、本当アイツすげぇのばっか引き寄せるよな。」
「凄い強運だよね。」
アオイとディゼルが沖へ目をやりながら、そう呟く。
船が見えなくなる前に
ウイが無事にロー達と会えますようにと、羽のプリントされた旗をなびかせる船に念を送った。
「ねぇエース!エースの船のクルー達は皆エース並に沢山食べる?」
「あ?あー、まぁぼちぼちってとこだな!」
出航してすぐ、エースは彼らの船からフリーウィングの甲板に跳び移って来た。
その際彼の体を覆う炎に驚いたけど、それはエースの悪魔の実の能力みたいだった。
「それじゃどのくらい準備したら良いか分かんないよ!」
「マジで作ってくれんの?航海中も?」
彼が食べた実はメラメラの実。
自然(ロギア)系の実らしいその能力は、体を炎に変化させる事ができるらしくて
その炎を自由自在に操れるらしい。
ローの能力も初めて見た時も十分おったまげたけど
エースの能力って、ちょいとチート過ぎやしないだろうか。
「そういう約束でしょ?10人くらいだっけ?そんな大人数分作ったことないけど頑張る!」
「マジかよ。お前すげぇんだな!」
食事とお酒を交換条件に護衛を引き受けてくれた筈だったのに、なぜ食事を作る事にこんなに驚いているんだろう。
エースはちょっとクルー達と相談してくると言って彼らの船へと戻って行った。
並走する二隻の船。
その間を
中心から外に向かうほどに赤みが増す黄色い火の玉が、弧を描くように渡って行く。
エースが向こう側の甲板に着地すると、風邪引くから中で待ってろと船室の方を指差しながらそう言う彼の声が届いた。
なんか、シュウと話してる所見てても思ったけど
エースって面倒見が良いと言うか、シャチみたい。
確実にお兄ちゃん気質だ。
風邪引くぞって心配されたのなんて、いつぶりだろう。
その割に結構大雑把と言うか
細かい事を気にせずいつも豪快な笑顔を浮かべている彼を、太陽みたいな人だなって思った。
ソニアには悪い人ではなさそうだけど一応彼も海賊だからって、注意を怠らないように念押しされたけど
無理かもしれない。
どこをどう見てもエースが悪い人には見えない。
食い逃げすらも笑いに変えてしまうあの愉快さだ。
そんなに寒くはないけれど
言われた通り中で待っていようと思って船室への扉をあける。
明かりの付いていない室内と、誰の気配も感じられない空間。
忘れてた。
ロー達と別れてから、
本格的にこの船で一人きりで過ごすのは
これが初めてだ。
皆と離れてから暫く経ったけど
いつもフリーウィングには誰かが居てくれた。
カレンやディゼルだったり、シュウだったり。
静まり返った船内は
波に乗って揺れるものだということも
誰も居ない船室は、明かりが付いているわけなんてないことも
すっかり忘れてしまっていた。
エースには彼の船がある。
面白くて良い人だと言っても、彼とは知り合ってまだ間もない。
ほぼ善意で護衛をして貰う事にはなったけど、皆が頼み込んでそれが叶ったのであって
これはエースの意思なんかじゃない。
何事もなければ、彼は仲間達と自分の船で過ごすだろう。
「こんなに、広かったかな。」
自分以外の痕跡が見当たらない船内は
ガランとして見えて、独り言のように呟いた声がやたらと反響して聞こえた。
なんだか急に寂しくなって
皆に貰ったログポースを飾っているコレクションケースの元へと足を向ける。
船の進行方向とは別の方角を指すそれ。
台座に彫られた皆のイニシャルと、皆が私に贈ってくれたラブレター替わりの宝石達。
目を閉じると、皆の笑った顔が見えた気がした。
でもその思い出は、この寂しさをより増させてしまったみたいだった。
早く、会いたい。
「ウイ?」
突然聞こえてきた声に思わず肩がビクリと震えた。
振り返るとそこには、腰に手を当て不思議そうな顔を浮かべているエースの姿。
いつの間にこっちに来てたんだろう。
全然気付かなかった。
「お前明かりも付けねぇでどうした。目、悪くするぜ?」
昼間でも、進行方向によっては陽射しが入ってこないリビング。
薄暗かった室内は、少し呆れた様子のエースが明かりのスイッチを入れた事で適正な明るさへと姿を変えた。
「そうなんだ?今度からちゃんと明るくしとくー。」
「おう!そうしとけ!」
暗い所で本とか読むと目が悪くなるって、ちゃんと知ってるよ。
ただこんな情けない気持ちに囚われて明かりを付け忘れていたなんて、言えなかった。
始まったよ。
私の悪い癖。
自分の格好悪い所を隠して、誤魔化す腕は我ながら一級品だ。
ほら、その証拠にエースは何も不振がってない。
フリーウィングの船内を見渡して、中も広ぇなって感心したように歩き回ってる。
格好悪い所も、弱味も、嫌われたくないから見せられない。
そんな所を晒す生き方は、なにかが起こったとき
私をすぐ不安に引きずり込もうとする。
それに弱点を知られてしまったら
そこを狙って、いつか私を陥れようする日が来るのかもしれない。
「早かったね。なに話してきたの?」
「飯の話!作ってくれんのは週一で良い。その代わり毎回宴にしてくれ!」
この太陽みたいに笑う彼が私を陥れようとする日が来るなんて、とてもじゃないけど思えない。
でも何が起こるかなんて、分からないから。
直営店のある島でも一番奥に位置するルテイン。
彼とはそこに着くまでの短い間の付き合い。
そんなすぐに別れてしまう相手であっても
嫌われたり嫌がられるのも、切り捨てられるのも
私は嫌なんだろうな。
「遠慮しなくて良いのに。いっぱい食材買い込んでおいたよ?皆が。」
「じゃあたまに腹減った時飯食わせてくれ!」
エースはその後も結局食事を食べに来る頻度を多くはしてくれなくて。
食い逃げとか平気でする癖に、意外と気とか遣ってるんだなって思った。
「お前こんな広い船に一人で寂しくねぇの?こっちにも遊び来いよ!俺の仲間は口は悪ぃけど、気のいいヤツらだぜ!」
「あはは、じゃあそうさせて貰おうかな。」
寂しいって、簡単に言えちゃう人は本当は強い。
本当に一人じゃ生きていけない寂しがり屋は、そんなこと簡単には言えないから。
自分の寂しいって気持ちが洒落にならないほど
重たくて、惨めで、途方もないものだって知ってるから。
その後もエースはこっちに居てくれて、色んな彼の話を聞かせてくれた。
エースは弟がいるみたいで、やっぱりお兄ちゃんだったみたい。
ルフィって言うらしいその弟は中々破天荒みたいで、手がかかるとかどうしようもねぇって愚痴を溢すその内容とは裏腹に
彼の話をするエースはとても、優しい目をしていた。
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