9-8


「ねえ、そういえば3日か4日おきに夜でんでんむしがかかってくるのはなんでなの。」
『足りない?もっと俺の声聞きたい?』


いつからだろう。
昼間皆と話をするのとは別に、夜何日かおきにペンギンからでんでんむしがかかってくる。

ニヤついた調子の彼の声は、さらっと流すことにしよう。


「いやそういうんじゃなく。特に意味ないなら良いんだけど。」
『意味?ねぇな、特に。』


久しぶりの一人ぼっちの夜。
昼間以上に寂しくなって、早く寝てしまおうと寝酒を飲んでいた所だった。

意味もないならなんなんだろう。
実際の所、かかってくるのは嬉しいんだけど。


『サンタさんがクリスマスプレゼントくれたの。俺より悪い子なキャプテンが貰ってて、俺にない訳ないっしょ。』
「は?サンタ?ローに?なにそれ聞いてない。」


ローは仲間思いだし優しい。
でもサンタさんがプレゼントをあげたくなるような良い子じゃない事は確かだ。

しれっと人とか斬ってくるし。
お行儀は良いけど口は悪い。

っていうかあなた達いくつよ。
サンタさん役は誰がやったんだ。


『良いじゃんキャプテンの話なんて。』
「言っとくけど言い出したのペンギンだからね。」


知らねぇしって不貞腐れるペンギンは、今何してるかとか、最近の近況について聞いてきた。

なんとなく、拐われかけた事を言いにくくて。
そうなるとエースの事も伝える糸口がなくて。

嘘を付かないように、ただその話を避けて近況を話した。


『どの辺で落ち合おうかね。俺ら結構レッドライン側に居る気すっけど。』
「じゃあルテインとかかなー。そっちは?最近どうなの。」


伏せたい事があると、普段は止まらない自分の話からも気を逸らそうとするらしい。
でも、実際皆が今何をしてるかは気になるところだ。


『なんかねー。密売人から情報聞こうとしたら芋づる式に海軍まで出てきちゃって。大変だったらしいぜ?キャプテンが。』
「なんだそれ。ローだけ?ペンギンは暴れて来なかったの?」


どうやら海軍と繋がりがあったらしいその密売人。
不可抗力とは言え結構な数の海軍を斬り倒したらしいローは、もしかしたら首にかかる懸賞金が上がってしまうかもしれない。

本人は気にしなそうだけど、なんか心配だ。


「ねえペンギン。2億ベリーの賞金首ってすんごい強い?」
『金額だけじゃ分かんねぇだろんなもん。俺より強ぇのは確かだな!』


そんな威張って言う事でもないだろう。

でもペンギンよりは強いのか。
確かにあんな体が炎になっちゃうような相手に、どうやってダメージを食らわせたら良いのかが分からない。

っていうか無敵じゃん、エース。


『なに急に。知り合いに2億の首ぶら下げてるヤツでも居んの?』
「まぁ、そんな感じ。」
『へぇ。』


ペンギンお馴染みのやる気のない返事。

でも強さと懸賞金は必ずしも比例する訳じゃないんだって。
賞金首狩りをしていた時も値段の割に弱い人も居たみたいだし、相性とかもあるらしい。


ちょっと気になったんだけど、
ローとエースってどっちが強いんだろうか。




やっぱり懸賞金の額通り、エースの方が強いのかな。

いくらローでもエースは斬れない?よな。
ルームの中でも?


改造自在人間VS炎人間


うん。なんかショーとかやったら見物料取れそう。




まあ二人が戦う事なんて、ないと思うんだけど。









なんだか二人は対極的な気がする。

エースが太陽なら、ローは月みたい。


『ウイなんて10億だったのに激弱じゃん。』
「……あれは別枠でしょ。」


ペンギンはなんだろう。
風っぽいな。





その後も、ベッドでごろごろしながら特に内容もない話をしていたら
でんでんむしからペンギンの寝息が聞こえてきた。

寝落ちってやつだ。



通信を切ってなんとなく窓の方に目をやると
さっき誰かさんに例えたばかりの月が、ちょうどそこから覗けた。







ねえロー。

今、何してる?



ローもこんな風に

ふと私のことを考えてくれることとか、あるのかな。



「ねぇアレ!あの魚美味しそう!!捕ってきて!」
「は!?素手で?無理だろ普通に。」


楽しそうに海の中で戯れているウイと仲間達。
一緒に航海をするようになって、もう大分経つ。


「網とかあれば捕れる?」
「あー……。やってやれねぇ事もねぇかもしんねぇけど。」


酒の仕込みをする以外は特にすることもないらしいウイ。
いつだったか、一人で本を読んでいたアイツをこっちの船に呼んでみた。

仲間達は分かりやすくデレデレと鼻の下を伸ばしたが、ウイの人懐っこく時に豪快な性格は
ヤツらのツボに入ったらしい。

週に一度と決めた宴以外でも、今では頻繁にお互いが船を行き来するようになっていた。


「エース!網投げてー!魚捕まえられそうなやつ!!」


海面から笑顔を覗かせるウイにその辺に放り投げてあった網を投げると、彼女はありがとうと礼を述べて仲間達と共に海へと潜っていった。



エースは船縁に肘を付きながら、海中から上がってくる気泡の群れを不貞腐れた表情で眺めていた。
お祭り騒ぎや心を踊らせるイベントが大好きな彼であっても、流石に海には入れない。

普段釣りをする事はあっても、海に入ることなんて滅多にしなかった仲間達。
ウイがす潜りをしたいと声をあげた瞬間一斉に水着に着替えだしたその光景には、羨ましさを通り越して呆れて物も言えなかった。


「っぷは!!エイト凄い!!今日これでアクアパッツァ作る!!」
「良いからお前も手伝え!」


程なくして海面から顔を覗かせた仲間達。
どうやら目当ての魚の捕獲は成功したようだ。

網のなかで暴れまわっているらしい魚に手を焼く相方と、目を輝かせて喜ぶウイ。
そして彼女を喜ばせたエイトへ、羨望がこもった仲間達の視線が集中する。




普段はにこにこと愛想の良いウイは
たまに何をするでもなくただ、ぼーっと佇んでいる所を見かけた事がある。

らしくないその行動に面食らい、何となく声をかけるタイミングを失ってしまったものだ。
ウイは窓の外に広がる海に目線を向けながら、右耳のピアスに手を触れていた。



その横顔を見た時、ああこいつも訳有りかと
何となく、そんな気がした。



誰も居ない船室で一人海の果てに想いを馳せるその姿から
なぜか目が離せなかった。


「アクアパッツァ以外で何食べたい?」
「まずそのあくあぱっつぁ?が何なのか分かんねぇよ。」


巣潜りを心行くまで楽しんだウイは、船に戻ると水着の上にパーカーを羽織っただけの格好で先程の獲物の鱗を変な道具でこそげ取っている。

こっちに飛ばすなと文句を言っても
ごめんと笑うばかりでそれをやめるつもりも、飛ばさないように気を付ける様子もない。

寧ろそれを面白がってやってる。
絶対に。


「お魚とその他の丸焼き!いや、蒸し……?」
「焼いて蒸すのな。」


そんな感じ!とへらへら笑っているウイは鱗取りで魚の背をこそげると、再び物凄い勢いで鱗が飛んでくる。

魚を囲むようにしゃがみこんでいたせいで既に顔やら服には鱗がついていたものの
今回飛んできたそれはこちらに届く前に、空中で燃やして処理した。


「エースの能力って本当にチートだよね。誰かに負けた事とかあるの?」
「通算では引き分けか俺がちょい上だったけど、……兄弟には負けたりもしてたな。」


あれはメラメラの実を食べる前のことだったから、もし今サボが生きていたとしたら……
恐らく俺の圧勝だっただろうな。

今は亡きもう一人の兄弟。
あれほど実力の近い相手とは最近も遭遇していない。


「ルフィくんは世話は焼けても強いんだねー。流石エースの兄弟!」
「あぁ、ルフィじゃねぇよ。アイツはまだまだ弱虫だ。」


そうか、ウイにはサボの話をしていなかった。
兄弟って言われりゃそりゃルフィの事だと思うか。

案の定ウイは鱗を取る手を止めてきょとんとした顔でこちらを見上げている。


「もう一人居んだよ。兄弟。俺と同い年だったサボってのが。」
「3人兄弟なんだ!双子なの?珍しいね!!」
「血は繋がってねぇよ。それにサボは、ガキの頃に死んでる。」





ウイが息を飲む音が聞こえた。

そりゃそうか。
いきなりこんな辛気臭ぇ話を振られても、困るな。

目を見開いた後にそれを泳がせるウイに苦笑いが溢れた。

俺もなんでこんな話を
出会って間もない、すぐに別れてしまう予定のこいつにしたんだろうか。

「えっと……、なんかごめん。」
「気にすんな。こっちこそ悪かったな、辛気臭ぇ話しちまって。」


ウイは首をふるふると横に振って
止まっていた手を再び動かし、魚を裏返しては反対側の鱗を取り始めた。

その表情は、浮かない様子だ。


「……ねぇ、どんな人だったの?サボ、さん?」
「サボは優しかったのにって、よくルフィが文句言ってたな。」


確かにアイツは優しかった。
面倒見が良くて、常に笑ってた。

ウイはエースも優しいじゃんと首を傾げている。

もし俺が優しいなら、恐らくサボの分もルフィの面倒を見なければと
アイツだったらどうするか考えて行動した結果ついた癖だ。

それを伝えたら、ウイは鱗を取りながらも
目を細めて笑った。


「サボさんは、エースの中でちゃんと生きてるんだね。」


未だに鱗を飛び散らせながら言うくらいだ。
何気なく、そう思っただけだろう。

でもなんだか、言われてみればそんな気もしてきて
それを嬉しく感じている自分が居た。


「アイツ、貴族だったんだ。親がとんでもねぇヤツラでよ。」


自分の事を地位を上げる為の道具としてしか見ていなかった両親に呆れ果て
自由を夢見て一緒に海賊貯金をしていた話をすると、まだ鱗は残っていたのにウイの手が止まった。


「ウイ?」
「……サボさんは、エースやルフィくんに出会えて良かったって思ってる。早くに亡くなってしまったのは残念だけど、それでも二人と過ごした時間を、少しも後悔なんてしてないよ。」


サボに会ったこともない癖に断定するようにそう話すウイは、真剣な顔をしていた。

それでいて少し、悲しそうだった。

お前にサボの何が分かると、普段だったらムキになって反論したかもしれない。
でもなぜか、ウイがそう言うのなら
そうなのかもしれないと思った。




destruct at reality.