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「お前変なヤツだな。リアクションに困るくらいなら触れなきゃ良いだろ。」
「あはは。でもきっとそうだよ。……サボさんが言えないから、ちゃんとエースに伝えておきたかった。」
鱗を取り終えた魚の血抜きをして、氷を張った桶へと魚を戻すウイは
あんな細い腕でよく大ぶりの魚を持てるものだと一瞬ぎょっとした。
ウイは特に血縁関係もないらしいシュウに、仕事を教えたり遊びに連れて行ったりと大分世話を焼いているらしい事を聞いた。
いつも周りに笑顔を振り撒き、世話焼きな彼女は
纏う雰囲気がとこかサボに似ているかもしれない。
「ありがとな。」
「なんで?私がエースにありがとうって言わなきゃいけないくらいなのに。」
変なのと笑うウイの顔に、サボの面影を探してしまう。
顔は流石に似ていない。
自分も初めてウイを見たとき、無邪気に笑うその顔を可愛いと思った。
仲間達もデレデレと鼻の下を伸ばしていたくらいだ。
そんな彼女が、まだ幼かったとはいえ男であるサボと似ている筈がない。
「……でんでんむしか?なんか鳴ってねぇ?」
「ほんと!?見てくる!!」
船室の方からか、無機質で独特な音が聞こえてくる気がした。
ウイは途端にぱぁっと表情を明るくして
蛇口で手を洗うと船室の方へ駆け出して行った。
電話がかかってくる当てに、そんな顔をする程待ち遠しい連中でも居るのだろうか。
飛び散った鱗を払い落としながら、ウイに続いて船室の扉をくぐる。
既にでんでんむしにたどり着いていたらしいウイの話し声はいつもより少し高くて、今まで見たこともない程嬉しそうな顔をしていた。
受話器を使って話しているせいで相手が誰かは分からない。
ただなんとなく
その光景を面白くないと感じた。
「本当!?じゃあそこで待ち合わせね!」
「一週間くらいで着くんじゃないかな。……うん!」
「楽しみにしてるね!はーい。じゃあまたねー。」
でんでんむしを切ったウイは受話器を置くと
嬉しさを堪えきれないのかふふふと声を上げて笑った。
「ブラーヴェの連中?こっち来んのか?」
「違う違う。友達!」
鼻唄混じりにキッチンに回ったウイは夕飯の準備を始めるらしい。
ダイニングの椅子に腰掛け、野菜を手際よく切っているウイを眺めていると
たまに何かを思い出したかのようにニヤつきだす。
「何にやけてんだよ。……男?さっきの電話の相手。」
「男っていうか、……雄?」
何言ってんだこいつは。
視線を宙にさ迷わせながらそう話すウイは、え?合ってるよね?と一人自問自答している。
「いや、真面目に。」
「いや、真面目だよ。」
俺の言葉に、今度はウイがお前こそ何言ってるんだとでも言いたげな視線をよこした。
雄ということは、さっきの電話の相手は人じゃねぇことになる。
虫なのか動物なのかそれ以外なのかは知らねぇけど
その人じゃねぇ生物がでんでんむしをかけてよこして、更には普通に会話していたとでも言うのだろうか。
「……あぁ!そういえばベポって珍しい生き物なんだった。」
「ベポ?」
会話が噛み合わない原因に検討がついたらしいウイが、ベポというミンク族の親友について話し出す。
白熊のミンク族らしいそいつの話をするウイの顔は終始笑顔で、余程そいつの事が好きなんだということが伝わってきた。
そもそもグランドラインには人語を喋る動物の民族まで居るのか。
「それでね!ベポは基本的に私のことキモいとかウザいとかしか言わないんだよ!」
「なんでんな事言われんのにお前は嬉しそうなんだよ。」
ドMかと突っ込んでみたものの、そいつの暴言には愛がこもっているから良いらしい。
よく分からんが、余程気の知れた仲なんだろう。
「俺も会ってみてぇな。そのベポってやつに。」
「次の次の目的地で会えるよ!……あ。……やべぇ忘れてた。」
急に険しい表情を浮かべたウイは包丁を持ったまま、どうしようと固まってしまった。
「なんだよやべぇって。」
「あー……。いや、うーん……。どうしよっかな。」
どうやら落ち合う約束をしたのはベポだけじゃなく、他にも居るようだ。
皆心配性だから怒られるかもと口をへの字にして眉を寄せるウイは、どうやら俺をどう紹介しようか悩んでいるらしい。
「お前の周りって心配性ばっかりだな。」
「ほんとに……。でも、……大丈夫だきっと!エースペンギンとかシャチと気が合いそうだし!」
ちょっと待て。
「おい。まさかそのペンギンとかシャチは名前のまんまの動物とかじゃねぇよな?」
「あはは!違う違う!ペンギンとシャチは人だよ。」
それなら良いんだが。
流石にペンギンはともかく、シャチの背格好をした生き物が喋って人のように陸で生活してるのを想像して
少しビビった。
「よく考えてみたらローもトラファルガーさんだし、ハートの海賊団って動物園みたい。」
「確かにな。で?ウイはそいつらの誰かが好きなのか?」
俺の発言を聞いた途端、ウイは目を見開いて頬を染めた。
なるほど。
やっぱりそういう事か。
「な、……なんで?」
「なんでって。お前すげぇ分かり安いけど。」
マジか!と両手で頬を覆うウイの、手に持っている包丁の刃先が心配で仕方ない。
危ねぇから下ろせと言うと、目線を包丁へと向けたウイがぎょっとした表情を浮かべ包丁をまな板に置いた。
「好きなんだけど、内緒ね?」
「それは良いけどよ。バレてると思うぜ?」
ベポとの親密具合からして、ウイはその連中と結構長い付き合いなんだろう。
出会ってひと月以内の俺ですら分かると言うのに
どんなに鈍かろうとこれで相手の男が気付かない訳がない。
「バレてるって言うか確かに知られてはいるんだけど!でもこれは内緒なヤツなの!」
「お前振られたのか。」
頬を赤らめもじもじと体を揺らすウイは、違うような違くないようなと
とてつもなく歯切れが悪い。
全く意味が分かんねぇ。
振られてはいないようだが、その相手と上手くいっている訳でもなさそうだ。
「どんなヤツ?ウイの好きな男。」
「えー?……強くて格好良くて、頭も良いしお医者さんだし。基本的に無愛想だけど仲間想いで優しいよ!でも頑固だし、周りの話とかあんまり聞き入れないかも……。背も高くて、おにぎりが好き!!」
最初照れていたウイは、頭の中にその好きなヤツを思い浮かべているのか
次第に綻んでいくその顔は、なんとも楽しそうだ。
頭の良い医者で、無愛想。
あまりそいつとはウマが合いそうにない。
「ウイはインテリ系が好きなのか。」
「インテリ?……うーん。ローのことは好きだけど、別にそういう人が好きって訳でもないんじゃないかな。」
やはりウイから見ても、俺とそのローってヤツは気が合わなそうらしい。
さっき俺と気が合いそうだと言っていた名前に、そいつの名前は上がらなかった。
ウイの口から、改めてそいつの事を好きだと言葉にして言われると
面白くない。
その相手が、俺とは真逆そうな人物だと言うことも
何だか腹立たしかった。
「でもローって口悪いし、結構お茶目だったりイタズラっ子だったりもするよ?本人に自覚はなさそうだけど。」
きっと、アレだ。
ウイは人懐っこいから。
海に入れない分、ウイが仲間達とそこで戯れることはあっても
スペード海賊団で一番懐かれているのは、俺だ。
その一番が、あっさり横取りされた気がするのが面白くない。
「あとね、本読んでばっかりで夜更かし常習犯だから、いつも目の下に隈つくってるの!」
きっと、それだけだ。
その後も暫く続いたウイの恋バナ。
ウイがそいつの事を好きなのは嫌と言うほど実感したし
話を聞く分にはそいつも
ウイのことを好きなんじゃねぇかと思った。
先程よりも上機嫌さを増したウイが鼻唄を唄いながら、トントンとリズム良く包丁をまな板に打ち付ける。
その音を聞きながら、窓の外の景色を眺めた。
なんだか無性に
酒に酔いたい気分だ。
夕暮れ時のフリーウィング号の甲板は
各々が出して来た机や椅子に腰掛け、騒ぎながら酒を酌み交わす者達で賑わっていた。
「エース今日ピッチ早いじゃん。潰れんなよ?面倒臭ぇ。」
「お前も飲め!!」
スペード海賊団の一員で最も古株であるエイト。
エースは彼を、相棒もしくは相方と親しみを込めてそう呼んでいた。
彼の船長が宴好きであることは彼自身も知っているのだが
まだ始まったばかりの今現在でさえ、既に傍らには何本もの空き瓶。
流石に飛ばしすぎなそのペースに、どうしたのだろうとエイトは首を傾げた。
「エースー!手伝ってー!!」
甲板の中央からウイに呼ばれ、どうしたとそこに駆けて行くエースの足取りは軽い。
きっと手伝いの内容は、いつものアレだろうとエイトはその背中を見送った。
ウイとスペード海賊団での初めての宴の際、
バーベキューの炭にメラメラの実の能力で火を着けてとおねだりをした彼女。
海賊の、更には億超えの賞金首を
便利道具か何かのように使おうとするウイには、スペード海賊団一同が一斉に吹き出したものだ。
「最初強火ね!あと炭にも着けてー。」
「はいはい。……っとに。お前俺を何だと思ってんだよ。」
昼間にエイトが捕獲した魚で作ったアクアパッツァ。
火を入れ完成を待つばかりのそれが盛り付けられた大きな蓋つきの鉄板の下には、炭がセットされている。
それも使うようだが、
炭への着火と、彼女の要望である最初の強火を担うのはエースの仕事のようだ。
文句は言いながらも、指示通りに火を調整してやるエース。
「俺はガスコンロじゃねぇぞ。」
「当たり前じゃん!ガスコンロこんなに有能じゃない!」
相変わらず凄いと喜ぶウイを呆れた表情で眺めるエースは、些か満更でもない様子だった。
「なぁ。アレってそういうこと?」
「かもなー。」
スペード海賊団のクルー達はその様子を眺めながら、至るところでそんな話題が上がっている。
当の本人達はそんな事には全く気付いた様子もなく
酒を片手に楽しそうに騒いでいた。