「おー!!ウイ久しぶり!」
「シャチ!元気だった!?」
甲板でベポに纏わりつきながら話していたら、船室からシャチが出てきた。
そう言えば忘れてたけど、皆が私が作ったつなぎを着てくれてるのを見るのは初めてで。
ベポと色違いだけど統一感もあるし、なんだか見慣れない筈なのに違和感がない。
「元気元気!お前も元気そうじゃん。見たぜ新聞。」
「可愛く写ってた?」
「写真は喋らない分可愛いよね。」
ベポの然り気無い毒吐きに、シャチがお腹を抱えて笑いだした。
どういう意味よとベポを睨み付けるけど、当の本人は上手いこと言ったでしょとでも言いたげな得意気な顔をしてる。
なんか
懐かしい。
皆と一所に居るって感じがする。
「中入れよ。キャプテンとペンギンも中居るし。あと新しいクルー紹介しねぇと。」
まだ一度しか足を踏み入れたことがないハートの海賊団の潜水艦。
前に入ったときは、無機質な、新品感漂うにおいがした気がしたけど
今はもうすっかり、懐かしい皆のにおいがする。
新しいクルーか。
私は何て挨拶したら良いんだろう。
私は友達、だよね?
皆の友達のウイですって、そう言えばいい筈。
変な緊張感を感じながら、前を歩くシャチとベポの後ろを着いていった。
「ウイ!着いてたの?!」
「久しぶりー。」
「初めましてっ!」
左から、なぜか居るカレン。
ペンギン。
そしてきっと新しいクルーの人。
3人は仲良くソファーに並んで座りながら、切り抜きのブラーヴェの記事を覗き込んでいて
見覚えのない新しいクルーの彼にぺこりと頭を下げて挨拶した。
凄く明るそうで、年も私とそんなに変わらなそうな男の子。
誰だお前、みたいな反応されたらどうしようって思ってたから、社交的そうな彼の様子にほっと胸を撫で下ろした。
「着いてたのか。」
背後から聞こえた低い声に、反射的にそちらを振り向くと
私を見ていたローの視線と、私のそれが絡まった。
相変わらず、なんでこんなにかっこいいんだろう。
相変わらずの目の下の隈。
お世辞にも良いとは言えない目付き。
喋り方も表情も、一見無愛想だ。
でも知ってるよ。
私に会えて嬉しいって
ローもそう思ってくれてるでしょう?
「ウイこいつの採寸、さっさとやっちゃって。」
「お願いします!」
久しぶりに見る好きな人の姿に見とれていたら、ふいに聞こえてきたペンギンの声にはっと我に返った。
そっちを振り向くと、採寸スタンバイ完了と言わんばかりににこにこと笑顔で立っている新入りくん。
「メジャーとか持ってくるの忘れた。」
「マジっすか!俺も早くこれ欲しいっす!」
分かりやすく頭を抱えて落ち込む彼は、皆のつなぎを指差しながら少しむつけたように頬を膨らました。
皆も気に入ってくれてるみたいだし
新しいクルーの彼も、仲間の証にとこれを欲しがってくれてる。
なんだか嬉しくて、鼻が高い。
お前一生そのまんまで良いだろとからかわれてる新入りくんが微笑ましくて、自然と頬が緩んだ。
「すぐ持ってくるよ!ごめんね。」
「飯、食いに行った帰りで良いだろ。」
ローに言われて時計を確認すると、もうお昼時だ。
腹減ったーと続々と腰を上げる皆が、外出の準備をし始める。
「ごめんね、採寸したらパパっと作っちゃうから!」
「忙しいみたいなのにすんません!でもマジで早く俺もつなぎ欲しいんすよ!!」
新入りくんに声をかけたら、両肩をがしりと捕まれ
つなぎへの熱意を語られた。
皆は普段気だるそうにしている事が多いからかな。
この新入りくんのやる気に満ち溢れた感じは、何て言うかレアだ。
「皆のこと、大好きなんだね。」
「超好きっす!特にキャプテンは俺の憧れです!!」
おお。
すげぇ、真っ直ぐだ。
ローの格好いいポイントを熱く語り始めた彼に苦笑いしつつ、崇められたてられている本人の表情をちらりと覗き見た。
「なんだ。」
「ローさんモテモテだね。」
照れているのか、うんざりしているようにも見えるローの顔。
凄いね。
ベポやペンギン、シャチもそうだって聞いたけど
ローに憧れて、惹かれて集ったハートの海賊団。
女の人にモテモテなのは心配だけど
同性からモテモテなのはただただ嬉しくて誇らしい。
ローの様子なんてお構いなしに、熱く語り続ける新入りくん。
うんうんと頷きながらも、私は自分の顔が緩んでしまうのを止めることが出来なくて。
寧ろいつまでだって聞いていたいと思った。
私の好きな人、とっても素敵でしょう?
一番先頭を、ベポ、シャチ、エイジ。
その少し後ろを、ウイとキャプテン。
そのまた少し後ろを、俺とカレンが歩いていた。
エイジは少し前にハートの海賊団の仲間として一緒に旅をするようになった、15才の少年。
初めて自分より年下のクルーが出来た事が、ベポの年上ぶりたい気持ちを擽ったらしい。
やたらとエイジに構ってはからかって、兄貴ぶった振る舞いを存分に楽しんでいるようだった。
多少腹黒い熊も、所詮17のガキだ。
今日も先頭集団の中で、エイジに何やら無茶振りを指示している。
「ねえ、それ暴れに行くとき被っていかないでよ?」
「考えておく。」
ベポと同い年の、少し前を歩くこの女。
結構な身長差がある二人は、他愛もない話をしながら時折顔を見合わせては笑い合っていて。
キャプテンがウイに向ける表情には
普段仲間内には絶対に見せないような、目元に力のこもっていない穏やかな笑みが浮かんでいる。
久々に見たその顔に、無意識にため息が溢れた。
「どうせ考えた結果被って行くんでしょ。それなら普段取っててよ。」
「それも考えておく。」
またそうやって!とキャプテンの腕を掴み軽く睨んでいるウイの表情は
その口調とは裏腹にどこか嬉しそうに見える。
賞金首であることを隠せるようにと、キャプテンに帽子を贈ったウイにとって
日常でも戦闘でもそれを被っているキャプテンの行動は、想定外だったんだろう。
確かに。
キャプテンを探す分かりやすい目印が増えたようなもんだな、アレは。
「平気なの?」
「なにが?」
隣を歩くカレンからそう声をかけられて、そっちに目線を移すと
呆れの色を宿した大きな瞳に見上げられていた。
「つらくないのかなーって。私だったら嫌だから。」
「じゃあ今カレンは嫌な訳ね。」
楽しそうではないにせよ、俺がウイを想って前方に視線を向けていたのは事実で。
俺の事が好きらしいカレンは、そんな俺を見てるのが嫌なんだろう。
「そこまでストレートに言われると、腹立つ気も失せるわ。」
「そ?なら良かった。」
良くないわ!と脇腹を殴ってくるカレンの拳は
実は中々の拳をお持ちの誰かさんのそれと比べれば、全然痛くもなかった。
「じゃあ、エイジくんのハートの海賊団仲間入りを祝して……「それもうやった。」
ウイの乾杯の発声を、ベポが遮る。
「じゃあカレンも居ることだし!久しぶりなブラーヴェとハートの海賊団……「それも昨日やった。」
今度はカレンがそれを遮る。
「じゃあ私と皆の再会を祝して!!かんぱーい!」
昼間から、酒場の一角でジョッキが重なる音が鳴り響いた。
店内は他の客もそこそこに賑わっており、喧騒の中で各々が他愛のない話を咲かせている。
「ウイさんって、キャプテンの好きな人なんすよね!」
「ごふっ!」
ジョッキに口を付けていたウイは、酒を気管に誤嚥したらしく涙目でむせこみだした。
エイジがキャプテンに陶酔しきっていることは周知の事実で、色恋沙汰に興味津々な年頃のエイジがキャプテンの女関係を聞きたがったのは仲間に入ってすぐの頃。
「お前本人ら前にしてよくそこ突っ込むな。」
「え!?だってそうなんすよね!?」
キャプテンもキャプテンで、尻尾を振りまくる犬のようにじゃれつくエイジが鬱陶しかったのか
リビングのコルクボードに刺さっていたいつかのウイの手配書を無言で指差したのは、まだ真新しい記憶だ。
「で!?ウイさんはキャプテンのこと好きなんじゃないんすか!?」
未だに咳き込んでいるウイと、相変わらずの仏頂面で酒に口を付けるキャプテン。
無知で無垢というのは恐ろしい。
ベポのニヤついた視線と、すましているようで面白くなさそうなペンギンの顔。
カレンは我関せずといった様子でポテトを頬張っている。
毎度のことだが、俺はどうすれば良いんだ。
「ウイ、その、なんだ。ピアスキャプテンに貰ったの?それ。」
「え?あ、うん。」
話を逸らそうと試みたものの、結局二人の仲に関わるそれに触れてしまった自分は
完全に墓穴を掘ったと思う。
「そんな黒かったか?それ。」
「黒い?明るい赤だよ?」
訝しげにウイの耳元に視線を向け、眉間にシワを寄せるキャプテンと
黒いと言われた大粒のルビーの色彩に検討がつかないらしいウイ。
よく分からねぇけど、なんだか話は逸らせたようだ。
「ウイ!探したのよ、もう!やっと会えたわ!」
突如現れた派手な女。
馴れ馴れしい様子でウイの首に手を回し、猫なで声を上げている。
見たことねぇ女だ。
カレンの様子を見ても、きょとんとした表情を浮かべていることから
この女はブラーヴェ関連の知り合いではないんだろう。
抱きつかれているウイは、相手のテンションとは打って変わって
俯いたまま固まっていた。
表情が、伺えない。
「どれだけ心配かければ気が済むの?ね?早くお家にかえりましょう?」
ウイは相変わらず顔を上げない。
でも、この女の発言を耳にしたハートの海賊団古株組は
揃いも揃って息を飲んだ。
ウイが触れられるのをずっと拒んできた、家族の話を
この女は知っている。
「お父様も屋敷で待たれてるわ?どんな子だって、やっぱり娘は可愛いのよ。」
顔も上げず何も言わないウイと
なんとなくこれが良い状況じゃないことを把握できてる俺ら。
流石のこの不穏な雰囲気に、カレンとエイジも何かが起こっていることには気付いたようだ。
「無視?相変わらず可愛いげのない子。……とりあえず私は今、戸籍上あなたの母親なの。言うことを聞きなさい。ノースブルーに、ロレイシルのお屋敷に帰りましょう?」
そういえば、ウイに贈る宝石を探していた時
ルビーについて書かれた文章を見かけた。
“不運が近付くと、色を変え持ち主に知らせてくれる”
キャプテンが贈ったピアスのルビーが、元はどんな色をしていたかは知らねぇ。
でも目の前で起こっているこれは、十中八九ウイにとっては不運だろう。
知らせるって言っても、遅ぇだろ。
全く。