10-9


「ウイさんマジでありがとう!飯もマジで旨かったっす!」
「いいえー。皆のこと、よろしくね。」


作って貰ったつなぎに袖を通し、任せて下さい!と自信満々に返事をするエイジは
ハートの海賊団の中では随一の弱さを誇る。

皆に鍛えられて伸び盛りではあるから、今後に期待かな。


「皆もまたね!久しぶりに会えて嬉しかった!」
「あんま危ねぇことすんなよ。」


シャチが船縁から身を乗り出してウイの頭を撫でると、その顔ははにかむように微笑んだ。

いつかみたいに
ウイは見えなくなるまで手を振ってくれていて

笑顔だったけど、どこか寂しそうなその顔が
なぜか目に焼き付いていた。














「ねぇキャプテン。なんでウイと付き合わないの?」
「……言っただろ。ドフラミンゴを討ってからだ。」


潜水準備に取り掛かりながら、ずっと気になっていたことを口にした。


「俺はキャプテンの身に起こった事、話でしか知らないけどさ。そんなに大事?」
「なにがだ。」


キャプテンとウイを見ていると、ほっこりするけどもどかしい。
ウイの過去を知って、隠してたことが明らかになって

ウイがなに考えてるかなんて分かんないけど
繋がりが欲しいんじゃないのかなって俺は思ったのに。


「ウイを待たせる程、ドフラミンゴ討つのって大事?」
「……恩人の仇だ。そこは譲れねぇ。」


だろうね。
キャプテンならそう言うと思った。

でもね、コラさんはそんなこと望んでないと思うんだけどな。


「命懸けで救って貰った命だ。ただ許せねぇだけじゃねぇ。あいつをどうにかしねぇと、俺は俺のしたい事をしちゃいけねぇ気がする。」


変なとこ本当に潔癖。

ウイと離れた後も全く他の女の人にふらつかないのは凄いと思う。
他の二人、最近は三人か。
あれを見てると尚更。


「そんなに自分をガチガチに縛って生きてて疲れないの。行き過ぎでしょ、キャプテンのそれは。」
「ウイも分かってる。こういう俺が好きなんだと。」


ウイ趣味悪っ。

キャプテンは確かに顔だけじゃなく生き方もカッコいいとは思うけど。


なんかな。



「ご馳走さま。」



この二人には、着いてけない。


皆を見送った後お店に顔を出して、私もカレンもそろそろ出航する事になった。

昨日で麻雀にハマったらしいカレンが、またやりたいってはしゃいでて
同じ趣味を共有できるのが嬉しかったな。

シュウから預かって来たらしい出掛けに完成したばかりのシードルを預かって、定期船に乗り込むカレンを見送った。

我が一番弟子は離れている間の成果を私に味見して欲しいんだって。

ルンルンバースで別れた時には既にもう私のシードルと全く同じ出来だったのに。
いつかシュウは私より上手く作れるようになっちゃうんじゃないだろうか。

今晩が楽しみだ。


















「エースお待たせ!船出そっか!」
「あ?あぁ。」


フリーウィングに着くと、エースが甲板で待っててくれてた。

錨を上げてくれるエースを横目に渡し板を仕舞うと、お隣の船はもう出航準備完了らしい。


「次はルテインにしゅっぱーつ!」


ノリの良いスペード海賊団の皆は、各々おおー!と号令みたいに声をあげてくれて
船長になったみたいで少し楽しかった。


ローは絶対こんなことしないけど。


ローがあの真顔で号令をかけてるところを想像しちゃって、思わず吹き出した。
罰ゲームとかでもないと絶対してくれない。


「随分ご機嫌だな。」
「え?うんちょっとね。」


一人で笑ってたの、見られてしまってた。


なんか前に皆と別れた時ほど寂しくない。
エースが居てくれるからかな。


「ねぇ!今晩私の一番弟子のシードル一緒に味見して!エースのが最近沢山私のシードル飲んでるでしょ?」
「……良いけど。」













ん?


気のせいかな。
なんかエースがよそよそしい。


目、合わせてくれないし返事が素っ気ない。


「どしたの?」


エースの視界の先に回り込んで顔を覗き込むと、驚いたように目を見開いた後、思い切り逸らされてしまった。


え、なに?
また私何かした?


「なんでもねぇ。夜な、了解!」


結局顔を背けたまま、エースは自分の船に跳び移って戻って行ってしまった。


まぁいっか。
一緒に味見してくれるらしいし。

楽しみだな。


今晩の飲みを想像して、うっかりまた一人で笑っちゃってた。


エースに、聞いて欲しいことが沢山ある。



「まぁまぁ、飲んで下さいようちの弟子のシードル。」
「……おまえ、ぜってぇフライングしただろ。」


えへへ、と笑うウイはつまみを作りながらキッチンドリンカーで自分のシードルを何本か開けた事をあっさり白状した。
弟子の酒の出来見るのに、酔ってて良いのかと突っ込みどころは多大にある。


フリーウィングを訪れた時にはリビングのテーブルには大量のつまみが用意されていて
ウイは味見どころではなくガッツリ飲むつもりでいる事が見てとれるそれに嬉しさが沸き上がった。


これは長居してオッケーサインだろ。









そして酒。

いつかみてぇに潰れるまで俺が飲むつもりはねぇが、ウイがそうなれば何かがもしかするんじゃねぇかという期待が脳裏を過る。


ウイがそこまで酔ってるところは見たことねぇけど、俺が何かするんじゃなくあっちから何かしてくる分にはセーフな筈だ。


「これね、うちのギルドマスターが作ったシャンパングラスなの!可愛いでしょ!」
「折っちまいそうでおっかねぇ。」


普段はそのままラッパ飲みのシードルを、にこにこと上機嫌なウイが華奢なグラスに注いでくれた。


ガラス細工について良し悪しは正直分かんねぇ。
でもどんだけ薄いんだよっていう口の部分と、女が好きそうな彫刻が施されたそれを作るのは難しいんだろうとは思った。


「乾杯!」
「はいはい、乾杯。」


涼しげな音を立てて重なった2つのグラス。
酔っ払いに呆れた風を全面に出しているものの、内心邪な期待がざわめいているのが実感できる。


「おお!美味しい美味しい!」
「ウイのと差が分かんねぇ。」


それシュウにとって最高の誉め言葉だと思う!と酒の出来の良さを自分のことのように喜ぶウイがスティック野菜に手を伸ばした。


人参をポリポリ食べるその姿が、小動物みてぇで可愛い。


自然と目がいった口元に、記憶から抹消しようとしていた忌々しい昨日の出来事が甦ってきて無意識に頭を抱えていた。


「ねぇ、やっぱりどっか具合悪いの?ごめんね無理に誘っちゃって。」


ちらりと横目を向ければ、訝しむように見上げてくるウイの顔が視界に入る。






なぁ。
付き合ってねぇんじゃなかったのかよ、おまえら。




「具合は悪くねぇ。」
「じゃあ何が悪いの。口?性格?」


あ、頭!?と自分で言っておいてケラケラ笑い出すこの様子は、相当酔ってる筈だ。


口も性格も頭も確かに褒められた出来じゃねぇよ。


本気じゃない睨みを飛ばせば、それにすら笑い出す始末。
何が面白いんだか。

結構よくドキツイ戯れを口にするウイのこれは、気を許してる相手限定の特典だ。

ルンルンバースを出たばかりの頃はなかったそれが、いつの頃からかよく口から飛び出すようになっていた。


先日、ハートの海賊団の連中のウイの扱いを目の当たりにして
ウイはこいつらともこんな感じなんだろうなって。


大好きで大切らしいヤツラと同じ扱いをして貰えることは、どこかこそばゆい嬉しさをもたらす。


それにしても。







あのスカした野郎の腹立つドヤ顔が頭から離れない。
ウイが目の前にいると

考えねぇようにしても
浮かんだそれを打ち消しても

すぐにまた浮かんでくる。


「ねぇこれ凄いお勧めだから!食べて食べて!」


ウイの飯は何でも旨い。
お勧めでも、即席で作ってくれたヤツでも。


まだ食べてねぇのに得意気な顔で見上げてくるウイは、俺にはあの愛し気な顔を浮かべることはない。





駄目だ。
自己消化できる気がしねぇ。聞いちまおう。





「気分が悪ぃ。」
「え、なに急に。もう酔ったの?……嘘だろ。」


眉を寄せて首を傾げるウイに、盛大なため息が出た。


「どこ悪ぃか聞いてきたから。強いて言うなら気分が悪ぃ。」
「……私やっぱり、また何かした?」


一変して不安そうに顔を覗きこんでくるその様子は、先ほどまでの楽しそうなそれではなくて


マズったと思った。


「お前が考えてるようなヤツじゃねぇ。俺はおまえの事好きだから安心しろ。」


頭を撫でてやるとほっとしたのか、表情が緩んで力が籠っていた肩の位置が下がる。


こう目の当たりにすると
本当にウイは人の感情に過剰過ぎる程敏感な事を実感する。


嫌いにでもなれたら、寧ろ楽なのにな。




「おまえさ、あのローってやつと付き合ってねぇんじゃなかったのかよ。」
「付き合ってないよ。」


まだ少し不安そうな顔で、そう答えるウイは嘘でもついてるんだろうか。


はっきり見た。
寧ろ意図的に見せつけられた。


あの時、見せつける為にウイに何か言ったんだとしても
酔っ払ってキスした俺にあんだけ不満を溢したくらいだ。


「付き合ってなくても、すんだ?キス。」


途端に火が着いたように頬を染めて顔を覆うウイ。

いくら好きなヤツが相手でも、普段からそういう仲じゃねぇとウイは自分からキスなんてしねぇんじゃねぇか?


責める気持ちがなるべく表に出ねぇように気をつけつつも、咎めるようにウイを軽く睨んだ。


「……あれか。あー……なるほどね。うん。そっかそっか。おかしいと思ったんだ何か。」


遠い目で一人納得し出すところを見ると、訳分かんねぇけど昨日のアレを思い出しているんだろう。

自分で思い出させたのに、一瞬でウイの顔を恥じらうような女のそれに変えたあいつにまた腹が立った。


「えーっと……付き合ってはない、よ?」
「付き合ってねぇけどヤることはヤってる、と。」


事実であれば一番聞きたくねぇことだ。
知りてぇけど、事実ならマジで聞きたくない。


「ヤるって……違うよそういうんじゃない。好きだから、キスとか…したいけど普段は寧ろ怒られてる。」





したいのか。

セフレみたいな関係ではないらしいことに安心したものの
本人の口からそれを言われるのも結構ショックだ。


「怖いから、付き合ってない。さっきも、怖かった。知らない間にエースに何かしちゃってて、嫌われたんじゃないかって。」
「悪い。……好きなヤツ居るって分かってても、流石に目の前でアレは堪えんだろ。」
「知らなかったんだもん!」


顔を真っ赤にして唇を尖らせるウイには悪いが
人目がなければ問題ねぇのかってとこはやっぱり胸に突き刺さる物がある。


バレたら拒まれるって分かってたから、あの男は視界に俺が入らねぇ位置にウイを移動させたんだろう。


本気でイケ好かねぇ野郎だ。




destruct at reality.