10-12


「どっかズレてる?」
「普通自分の身を第一に考えるもんだろ。おまえがそんなんだからアイツも連れてこうとしないんだぜ?」


そこはありがてぇけど、と少し怒ったように話すエースにはっとする。


本当だ。
自分が殺されたり捕まるかもって所を、華麗にすっ飛ばして考えてた。

私も学ばないな。
あの時皆にもう会えないかもって思って、あんなに寂しかったのに。


「自分を軽んじ過ぎだ。なんで周りが心配するのかしっかり考えろ。」
「ごめんなさい。」


でも正直、ローの役に立てるなら殺されてしまっても良い気がする。
後でそれを知ったローは、めちゃめちゃ怒った後に悲しんでくれる気もするけど。

でも駄目だね。
ロー達だけじゃない。

ブラーヴェの皆も、エース達も、きっと悲しむ。


「ドフラミンゴと会うとこで安全策があるなら、そこまでは俺らが連れて行ってやる。」
「え?」
「元からこっち側の連中じゃ相手になんねぇ。それに、会いてぇ人があっちに居る。」


良いんだろうか。
店舗の巡回だけって約束だったのに。


会ってからの策はいくらでも考え付いたけど
新世界に行くまでの安全策が中々思い浮かばなかった。

フリーウィングが守ってくれるとは言え、辿り着く島が安全か分からない中で、そこでも補給は必要だ。
私一人じゃ100%の安全策は厳しい。


「良いの?」
「俺は好きなヤツと離れたくねぇ。どうにかブラーヴェからおまえを切り離す方法考えてたくらいだ。寧ろ好都合。」


わぁ、男らしい。

ローや皆はなんだかんだで私の意思を尊重してくれるから
そういうものなのかなって思ってたけど

こういう愛情表現もあるんだ。


難しいこと考えるのが得意じゃない、エースらしい考え。


「じゃあ少し方法考えてみるけど、もし受ける事になったらお願いしても良い?」
「受けねぇことになった場合を、考えとかなきゃいけねぇのか。」


面倒臭ぇから受けとけ!とボリボリ頭を掻くエースに苦笑いが浮かぶ。


やってみたい。
リスクだけしかなくて、何も得られないかもしれないけど。

会ってみたい。
ローが討とうとしている相手に。

ローの恩人のお兄さんは、どんな人なんだろう。




『……1週間考えた結果が、それなのね?』
「うん!」


顔を見なくても分かる。
ソニアはきっと、呆れ顔だ。


ドフラミンゴからの取引の話を聞いて1週間が経った。
その間私はベガス聖に連絡を取ったり、ロー達に怪しまれないように皆が掴んでいる情報に探りを入れたり
なんとか無事に会合を持てる策を必死で練った。


相変わらず定期的に夜でんでんむしを鳴らしてくるペンギンは、キャプテン関係のことは教えてやんねぇと黙秘を貫き

シャチはなぜか逆に挙動不審に陥って

ローは鋭すぎてバレそうだから聞けなくて

結局頼りになるのは我が大親友、ベポだった。


皆はまだドフラミンゴと直接接触を図っていないらしくて、でも恐らくあっちはローを探しているんじゃないかって情報を得られた。

ローの悪魔の実、オペオペの実は元はと言えばドフラミンゴが求めていた能力だったらしくて
海軍に保護されてると思っていたローが海賊になっていて、グランドラインに入っていることくらいはあっちも知ってる筈だって。

ドフラミンゴはローを絶対探してる筈だって。


参考になったのかならないのか分からない情報だったけど、ドフラミンゴがローについて聞いて来た場合の当たり障りない返答パターンを何個か考えとかなきゃなって思った。


『ベガス聖にはお世話になってばかりね。』
「うん。お礼言いに行かなきゃなって。」


取引の相談をした時、ドフラミンゴという名前に
受話器越しでも分かる程ベガス聖が動揺したのが分かった。

あのリアクションには、ドフラミンゴはそんなにヤバい人なのかって思ってちょっとびっくりした。
関わったらダメだえ!!!って猛反対されたんだけど、訳は教えてくれなくて。

なんで?ってしつこい私に押しきられる形でだけど
会合の時には海軍を護衛に付けて貰えることになった。
ベガス聖の御用達職人の護衛に海軍が動く
そう不自然な事じゃない筈だし、あっちの七武海としての立場上下手なことをするリスクはぐんと下がる。

いつも迷惑ばっかりかけて申し訳ないけど、これは有難い。


でもなんだか、あのベガス聖があそこまで動揺するのも、訳を教えてくれないのも
なんだか何かが引っ掛かった。


『ちゃんと対策も考えたみたいだけど、危険がない訳じゃないのよ?本当に気をつけてね。』
「うん!ありがとう、わがまま聞いて貰っちゃって。」


私の方は新世界まではエースに、会合中はベガス聖に守って貰えることになって

ブラーヴェ全体では新世界への進出の為に今まで拠点にしてきたルンルンバースを離れる準備を始めるらしい。

シュウが面接してくれた子は、二人とも採用になったみたい。
本人からも報告があったけどソニアからもうまくやってるみたいって教えて貰えた。

リンゴのカットとかラベル張りを手伝って貰いながら酵母の発酵について授業してあげたりしてるんだって。
気さくで明るい子達みたいで、アオイやカレンにからかわれながらも少しずつ馴染んで来てるみたい。

まだ会ったこともない子達だけど、良かったなって思った。

その子達の活躍の場を増やす為にも、頑張らなきゃ。


『新世界へは私も行ったことがないんだけど、結構日数かかるわよね?』
「エースにもそれは聞いてた。順調に進めて2、3ヶ月じゃないかって。」


レッドラインまで着くのに凡そ1ヶ月。
そこから魚人島を通って新世界に出て、海軍と場所や日程を調整してあっちの到着を待つのにも結構時間はかかりそうだ。


『ドフラミンゴの連絡先、一応伝えておくわ。私から取引の了承の件と目安の時期は伝えておくけど、細かい調整は任せるわよ?』
「うん!ありがとう。任せて!」


ドフラミンゴの元に繋がる番号をメモして、でんでんむしを切った。


この番号が
ここにかけて出る人が

ローの恩人の仇で、お兄さん。


会合が終わるまで、絶対にロー達にはこのことを知られてはいけない。

きっと反対されて、止められる。
皆が言いそうな事くらい分かってる。

でも
これは皆じゃ出来ないことだ。
私が皆の為に、ローの為に出来るかもしれないこと。

怒られたって良い。

だって
好きな人の役にたちたいって思うのは、悪いことじゃないでしょう?


窓の外に広がる大海原の果てを、しっかり見据えた。

絶対に成功させる。
そう決意を込めて。




「着いた!ルテイン!!」
「こら待てウイ!」


巡回の最終目的地、ルテイン。
一店舗目のお店探しをした場所で、初めて従業員を採用した場所。

中々いい人が来てくれなくて、ここはもうダメかなって思ったこともあったけど
ヨナさんとアリスちゃん、元気に働いてくれてるかな。


「エース!納品しながらお店見てきて良い?」
「俺行けねぇからエイト連れてけ!」


エースはどうやら何か別件で用事があるらしい。
ルテインは治安も良い方だから、一人でも大丈夫だと思うのに。


「これで全部?」
「うん!ありがとうエイト。」


エースに呼ばれたのか港に降りてきてくれたエイトは、台車の荷物を確認するとそれを引いて歩きだした。

懐かしいな。
もう皆とウォーターセブンで別れたのが大分前のことみたいに感じる。

あの時はこの景色を楽しもうって気分なんてまるでなかった。

春島のルテインは、前にここを訪れた時よりも暖かい気温ではあるものの
街路樹はいつでも新緑と濃い緑が混ざりあったグラデーションの葉を風にそよがせているし
街並みの至るところに色鮮やかな花々が咲き誇っている。


「綺麗な街でしょ?」
「あー、汚くはねぇんじゃねぇか?」


興味なさそうに辺りを見渡すエイトは、お花とか自然とか興味なさそうだ。
アレは気になる、と差された指の先には、何とも食欲をそそる匂いを漂わせる露店。


「帰り食べて行こっか!」
「お!イイネ!行こうぜ!」


ニカッと表情を明るくするエイトの足取りが軽くなって、何も持っていない私が置いて行かれそうになるほどだ。

そうこうしているうちに見えてきた、商店街の角にあるアンティーク調の小さなお店。
年季は入ってるけど、綺麗に塗装し直した外観は清潔感があって
カレンが作ってくれたブラーヴェの看板も中々雰囲気に合ってる。


今日の出勤はアリスちゃんだった筈だ。
ほわーっとした笑顔が素敵なアリスちゃんは、今日もその笑顔で私たちの商品をお客様に届けてくれてるかな。


ブラーヴェの従業員は皆大好きだけど、初めて採用したここの二人には特に思い入れがあったりする。


逸る気持ちを抑えて、従業員出入口の扉をそっとあける。
雑貨屋さんみたいなお香の良い香りが、事務所の中にもほんのり漂っていた。




「お疲れ様でーす。」
「……!ウイさん!」


お客様用出入口じゃない事務所の扉から現れた私に、アリスちゃんが驚いたように顔を向けた。

ちょうど今はお客さんが入っていなかったみたいだけど、私に気付く前のアリスちゃんの表情はどこか暗かった気がした。


「お久しぶりです!遠い所ありがとうございます。」
「全然顔出せなくてごめんね!どう?何か困ってることとかない?」


納品に来たのも事実だけど、従業員が働きやすい環境作りにもしっかり役立てねば。
既に色んな店舗で在庫量を増やせとか、夜は客が入らないから閉店時間を早めて帰らせろとか意見は出てる。

無駄を省いて楽しく働ける環境を、作ってあげたい。


「あー……、特にないですよ!楽しく働いてます!」
「本当?良かったー!何か困ってることとか改善点とか、遠慮なく言ってね?」


私の言葉に笑顔で頷いたアリスちゃんは、既に常連化しているお客さんの話やシードルが開店後30分でその日の分は売り切れてしまうことを楽しそうに話してくれた。

私達が話している間にエイトは持ってきた商品を倉庫にしまってくれてて。
丁度お客さんが入って来たこともあり、私たちはまた来るねとこっそり声をかけて店を出た。

アリスちゃんはにっこり笑って頷いてくれた。






「あの子結構可愛いな。」
「それに凄い良い子だよ!エイトアリスちゃんタイプなの?」


アリスちゃんね、とどこかニヤついた顔を浮かべるエイトに春がやってきたかもしれない。


アリスちゃん、付き合ってる人とか居るのかな。


エイトも優しいし愉快だし、どうにか上手く進展しないものかと思いを巡らせると
私まで自然と顔がニヤついてしまってた。


「屋台寄ってく……
「ウイさん!!」


背後から声をかけられて振り向けば、そこには走ってきたのか小さな子供を抱えながら息を切らせているヨナさんの姿。


「ヨナさん!お久しぶりです。お子さんですか?可愛……
「あの子クビにして下さい!!」


怒りを顕にしたヨナさんが、荒々しい口調で告げた言葉の意味を理解するのに時間がかかった。



あの子ってきっとこれは、……アリスちゃんのことだよね?


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destruct at reality.