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『も、もしもし!!』
「待たせて悪かったな、どうした。」


何やら物凄い勢いででんでんむしを受信したウイに多少驚いた。

酒盛りをしていたリビングでは、相談を聞くような雰囲気ではない。
ましてやそれが、ウイが初めて俺に切り出した相談事。

何事だろうと思った。
それと同時に、頼られているようで嬉しかった。


『飲んでたんじゃないの?ごめんね、なんか。』
「飲んでんのなんかいつもの事だろ。気にすんな面倒くせぇ。」


さっきからごめんごめんと謝るウイに、一体何があったんだろうか。

久しぶりに会って、醜態を晒して、惚れ直して、別れた。

こうなったものの、実際の所火拳屋と一緒に旅をさせる事には微塵も納得していない。
何かされてないか、気持ちが傾いてはいないか、この気に病み具合は正直自分でも引く程だ。

それを確認する為にでんでんむしを繋ごうにも、話す内容が思い浮かばず躊躇する。
それを気にして掛けてんじゃねぇかって、鬱陶しがられるのも望む所ではない。


そんなウイが切り出した相談事。
嬉しい反面、少し嫌な予感も感じなくはない。


「どうした。……言ってみろ。」


唸ってばかりで話し出さないウイに、可能な限り穏やかな声色を心がけて声をかけた。

唸るのをやめたウイが、実は……とぽつりぽつりと話し出す。
それをただ、黙って聞いていた。















『という訳なんだけどね、ローならどうするかなって聞いてみたくて。』


正直、肩透かしを食らった気分だった。

話の内容は聞いていたものの、ここが誰もいない自分の部屋なのを良いことに、話の粗筋を理解した辺りで思い切りソファーの背もたれに脱力した。

心配させやがって。


「俺は専門家じゃねぇから参考にもなんねぇだろ。」
『そうなんだけど、ローってキャプテンだし人の上に立ってる人だし、皆も結構癖強いじゃん?何か工夫してる事とかあるのかなって。』


改めて聞かれると分かんねぇ。
あいつらを纏めるのにしてる工夫?

基本的に任せてても上手くやっている事が多い。


「お前はどうしたい。」


そこが分かんねぇとどうしようもねぇ。


『二人とも、楽しく仲良く働いて欲しい。』
「なるほどな。」


本人達を見たことねぇから知らねぇが、
典型的な勝手に頑張る見返り要求女と
トロくて頭悪い弱カス女で合ってるんだろうか。

相性最悪じゃねぇか。


「いがみ合ってるとこをどう変えたい。」
「えー?お互いの良いとこを認め合って、補い合うーみたいな……、お互いがお互いを好き、みたいな……。」






無理だろ。



いや、無理ではねぇんだろうけど
そこに労力を割くぐらいなら、どっちかに合いそうな新しいヤツを探した方が手間がねぇ。


「他雇う気はねぇのか。」
『うーん……どうしようもなければそれも考えるけど、初めて採用した人達だし。最初は頑張ろうって凄く仲良かったから……。』





ねぇな、雇う気。


全く、どこまでもお人好しだ。

雇い主なら、自分の労力を抑える為の駒としてそいつらを見れば良いものの
いつだって自分以外の誰かの事ばかり考える。

効率悪ぃし、損な性分だと思わなくもねぇが
ウイらしい。


「気性荒い女の方は売上に差があること気付いてんのか。」
『え?』



「要求する所は負担の削減か、それとも働きに見合った金か。」



「ビビりの方は注意されんのが気に食わねぇのか、本人自体にビビッてんのか。」



「ブラーヴェとしてそいつらに求める基準は明確に決まってんのか、それが透明性のある評価体制になってんのか。」
『ちょ、ちょっとメモ取るから!待って!!』


バタバタと騒がしく走り回る物音に呆れてしまう。
そもそもこんなことくらい、普段のウイなら考え付いてもおかしくねぇ筈だ。


でんでんむしのすぐ向こうにはいないだろうウイに、盛大なため息を付いた。








『……評価体制っと。後は?』
「駒。」
『え?』


さっぱり思い当たらないらしいウイがマヌケな返事を寄越す。
これでは能力の持ち腐れだ。


「得意だろチェス。どの状況でどう動く駒か、それをどういう形に持っていくか。普段のおまえなら言われなくてもそんくらい勝手にやってんだろ。」


人を駒として見られない。

人は駒より面倒で複雑だ。
ただこいつはそういう能力が人より抜きん出て高い。

そこさえ割り切れば、こいつは人でもチェスが出来る。


「ヨナさんとアリスちゃんを、駒だなんて見られないよ。」
『そいつらそのものをあれと同じと思えって言ってる訳じゃねぇ。』


貰ったアドバイスを走り書きしていたら、ローが変なことを言い出した。

よく、従業員を駒だって思ってる雇用主の話を聞くけど
私はそうは思いたくない。

仕事をしている中で生まれる感情を、押し殺して機械的に働いて貰いたくない。



『店番や帳票整理だって、突き詰めれば本人の意思じゃねぇ。しろって言われたからやってんだろ。』


まぁ、確かに。


『どんなヤツかを把握しろ。そいつらを活かせる布陣と状況を作れ。』
「布陣と状況……。」


どんな人たちか。
二人が何を不満に思ってて、何をブラーヴェや相手に求めているのか……ってこと?


『敵が気性荒い女の不満とビビりの学習能力の低さ、守る駒はそいつらの事務能力と客引き能力。足りねぇこっちの駒は自分で作れ。おまえはそれが出来る立場だろ。』
「そう言われてみればなんか、イメージ出来るかも!」


お互いの不満を感じる所を仮想敵に設定!
なるほど。

撃ち破るのに必要なのはお互いに相手の魅力と自分のマイナスを自覚すること。
お互い様、で納得できないようなら
納得させられるような状況を作り出せば良いのか!

でもこれは、もう少し二人のやりとりを見てみないと分からない。















「ローってやっぱり凄いね。」
『お前が一緒になって盤上に立ってるだけだろ。盤面全てを見ればおまえはそれを何とか出来る。』


確かに。

感情をぶつけられて、それに囚われて本質を見失ってたかもしれない。
嫌とか怖いとか不満とか
そういう気持ちをどうにかしなきゃって思ってたけど

元を絶たなきゃ何も変わらない。
ただの一時しのぎだ。

そしてその原因をどうにかするのが、本当の解決で私の仕事だ。




私なら出来る。

ローがそう言ってくれたのがくすぐったくて嬉しかった。


不安って
どうしたら良いか、どうなるか分からないから生まれるものなんだな。

簡単なことじゃないけど、やるべきことの目星は付いた。
進む方向に見当さえ付けば、後は行動あるのみ。
私の腕の見せ所だ。


どうしようかな。
ソニアに報告する前に調査が必要だ。

ヨナさんの事務処理能力は帳票を見れば一目瞭然。
あとはアリスちゃんの接客能力の方だ。

お店の外でお客さんに聞き込みしてみるとか
スペード海賊団の皆に覆面調査を頼むとか、そんな感じか。

あとは二人がどんな感じで普段コミュニケーションをとってるのか。














……覗きか。


お互いの言い分だけじゃ客観的にそれがどうなのか分かんないしな。

やることいっぱいだ。



『なんとかなりそうか?』
「あ、うん!ごめん早速作戦考えてた!本当にありがとう。」



ローに相談して良かった。

やっぱりローはいつでも冷静だ。
状況を感情とか抜きで判断するのも凄い的確だと思うけど
気持ちを整理してくれるのが上手。


『急に相談とか言い出すから何事かと思った。』
「なんかね、ローに聞いてみたくなっちゃって。飲んでたのにごめんね。」


私がずっと抱えてる悩みも
ローなら上手く整理してくれて、解決の糸口を見つけてくれるのかな。

でもそれをするには全部言わなきゃいけない。
私の綺麗じゃない思いも、弱くて面倒臭い気持ちも。




やっぱそれは勇気出ないや。




そういえば、ベポは皆が私を守れるくらい強くなったら迎えに来てくれるって言ってたけど
それってどのくらい強くなったら?

今まではロー達以上に強い人なんて、海軍のメルヴィス?くらいしか見たことなかった。

でもローは、エースはローより強いって言ってたし
ドフラミンゴだって七武海って凄い称号を持ってるくらいだ。
物凄く強いんだろう。

ローが納得できる強さって、どのくらいなんだろう。


「ねぇロー……
「なんだまだ起きてたのか。電気消し忘れたのかと思った。」


突然開いたドアにビクリと肩が震えたけど、顔を出したのがエースでほっとした。
鍵閉めるの、忘れてた。


「電話ブラーヴェ?悪ぃ、仕事か。」
「……ローに仕事の相談してた。」


素直に答えたらエースは面白くないんだろうなって思ったけど
伏せておけば、ローが面白くないんだろうし。


案の定、それを聞いたエースが眉を寄せて目を細めた。


「じゃあ邪魔者は退散する。……明日の朝飯オムレツでよろしく。」
「え?あ、うん!分かった!おやすみ!」


エースは意外とあっさり出ていってしまって
あのままだったらちょっと気まずいとか思ってたから助かったんだけど


「……ロー?」


エースが入ってきてから黙り混んでしまったローの心の内が気になる。



やっぱりなにか、怒ってる?



「もしもし?聞こえてる?」
『あいつこんな時間に勝手に入ってくんのか。』















怒ってた。


『鍵閉めろって言ったよな。早速忘れたか。』
「いや、あの、うん。忘れてた。」


その後暫くローのお説教が続いて
適当な返事ばっかりしてた私に更にお説教の勢いは増して

よくよく考えたらあんなに喋りますまくるローを見たのは初めてだったかもしれない。

一緒に居た頃も、日々色んなローを発見出来てたけど
離れてから初めて知ったところも結構ある。

知れば知るほど好きになる。

今回ばかりは顔が見えなくて良かった。
お説教されながらニヤついてた私は、絶対にそこでもまた怒られたと思うから。






日付が変わる頃、やっと気が済んだというか
諦めたローがでんでんむしを切った。

楽しかったなって思いながら一人で笑ってたら
ふと、ローの納得のいく強さがどのくらいなのかを聞き忘れたことに気付く。


まぁ、いっか。

ロー達が迎えに来てくれるのがいつなのかも大事だけど
私は私の問題を解決しなければ。


最近思うんだ。


気持ちを言葉にしたり
それを聞いてくれる人がいるっていうのは
少しずつ気持ちが軽くなっていく気がする。


今も
いつか大切な人達に嫌われてしまうんじゃないかって、怖い。

でもエースの存在と
エースが私にしてくれることは
前に進もうとする私の背中を押してくれてる気がするんだ。


ローにはまた今度聞いてみよう。
私は私のやるべきことをする。


「寝るか!」


明日の店番はヨナさんだ。
覆面調査員を手配してさっそく情報収集、頑張らなきゃ。

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destruct at reality.