10-15


「おはようエース!」
「……はよ。」


翌朝、朝食メニューをリクエストしたエースは宣言通りフリーウィング号にやってきた。


「ちゃんとオムレツにしたよー。温かいうちに食べよー。」
「サンキュー。」


トーストしたパンとスープを分けて、既にダイニングで食べる準備万端なエースの前にそれを置く。


「「いただきます。」」


二人で手を合わせてから、朝食にありついた。
ハートの海賊団のみんなもそうなんだけど、エースも基本的に礼儀正しい。

食い逃げする時もご丁寧に頭を下げてご馳走さまでした!って言ってたし。


でもあれは
食い逃げらしからぬ行動過ぎて、正直呆気に取られた。

そこまで計算してやってるんじゃないかって思ったこともあったけど、普段もこうだし礼儀正しいのは性格なんだろうな。
エース的に食い逃げは礼儀に反しない括りらしいのは突っ込みどころ満載だけど。


「ねぇ、なんでエースは口も悪いし食い逃げもするのに所々礼儀正しいの?」
「あ?会いたい人が居るって言ったろ?あっち側に。恩人なんだよ、ルフィの。」


もぐもぐとパンを頬張りながら話すエースは、弟の恩人にお礼を言うために礼儀を習ったんだって。
やっぱりエースは面倒見が良いっていうか、兄貴肌だ。


「食い逃げが駄目っては教えて貰わなかったの?」
「いつもその人に宝払いで食わして貰ってたんだ。いつか返さねぇとな!」


宝払いは、将来海賊になって手に入れた宝でお代を払いますっていうツケみたいなものらしい。

うん、そんなツケ普通通用しない。
その人の優しさがエースの食い逃げ観念を培ったのか。
なるほど。


「つーかなんでアイツに仕事の相談?商売素人だろ、アイツ。」
「あー……、昨日?なんかここのお店で従業員がトラブってて。なんとかするのにお知恵を借りたかったんだ。」


思いの外あっさり出ていったエースは、やっぱりローと話してたことを面白くは思ってなかったらしい。
ご飯食べてる時はいつも上機嫌なのに、見るからに納得いかない顔してる。


「コミュ障にしか見えねぇけど、アイツ。役に立つ助言とか出来んのか?」
「コミュ障って……、でもカレンも言ってたな。そんなこと。」


分かりにくくても良いんだ。
ローが色々考えてて本当は優しいこと、私はちゃんと知ってるから。


「ローってね、必要な情報を必要な所で使うの上手なの。」
「へぇ。」


本とか読むときもそうだ。
書いてある内容をそのまま鵜呑みにしない。

胡散臭い内容でも、そういうこともある、くらいに頭の片隅にちゃんと入れておいて
必要な時にはそれすらも引っ張り出してくる。

得た知識を使うときも、ちゃんと考えて必要な部分だけを有効に活用する。

だからローとのゲームは初戦よりも再戦の方が格段にやりづらい。
私がどんな戦い方をしたかを覚えてて、どういう意図でそうしたかも分析した上で裏を掻こうとしてくるから。

敵だったらとんでもなく戦いたくないけど
味方だと凄く心強い。




「俺には相談しようと思わなかったんだ?」
「だってぱっと思い付いたのがローだったんだもん。エースには協力して欲しいことがあるよ!お願いしても良い?」


買い物代支給で覆面調査をお願いしたら、エースはまだ不貞腐れてたけど、仕方ねぇなって頷いてくれた。
スペード海賊団の皆にも協力させるって。

先入観のない状態で見て欲しかったから、二人のいざこざの話は伏せたまま従業員の接客態度を見てきて欲しいって頼んだ。

私は外でお客さんが出てきた所で聞き込みだ。






オムレツを頬張りながら、我ながら美味しいなって卵のとろふわ半熟具合に酔いしれる。

卵好きな誰かさんのおかげで
私の卵料理の腕は絶対に格段に上がったと思う。

エースも気付けば卵好きの仲間入りだ。


「もう一個食いたい。」
「はいはい。」


エースにつき出された皿を受け取ってキッチンにまわる。


カウンター越しにジャムを大量に乗せたパンに目を輝せながらかぶりつこうとしてるエースを見て、思わず頬が弛んだ。






相談して欲しかったって拗ねてみたり
頼み事したのに機嫌治してくれたり

役に立ちたいって思ってくれてるエースが分かりやすくてなんだか嬉しい。


必要とされるには、役に立たなきゃいけないって思ってた。
面倒ばっかりかけて嫌われてしまうんじゃないかって、あんまり人に頼ろうとした事ってなかったかもしれない。


ちょっとした我儘だったら簡単に言えるのにな。





中は半熟に仕上がったオムレツを皿に乗せて、ケチャップでお礼のメッセージを書いた。


とりあえずエースは暫く卵抜きだ。
1日で卵6個は流石に食べ過ぎだろう。


それから2日間に渡る大調査は、中々実りの多いものだった。
アリスちゃんだけじゃなくヨナさんの接客態度も見て欲しかったから、覆面調査員の皆さんには2日間連続でブラーヴェに通って貰った。

悪ノリ大好きな皆は、それぞれ愉快な設定のお客さんを見事に演じきった。


お裁縫が趣味なお客さんや、近所への引っ越しの挨拶に配る物を探しに来たお客さん。

好みにあったお酒を買い求めるお客さんや、自分へのご褒美を探し求めるお客さん。


店員さんと絡む為に皆色々考えてくれたんだろうけど
それぞれの設定と見た目のギャップを考えて欲しい。


あんなゴツくてがたいの良い男の人が、ハンカチを縁取るレースを探してるとか






ネタだろ。






面倒なこと頼んじゃったのに、エースだけじゃなく他の皆も
それぞれ自分の設定を考えながら楽しんで協力してくれたことは嬉しかったし助かった。


エイトは確実に、半分ナンパしてたけどね。


女の子にあげるプレゼントを見繕って貰ったらしいエイト。
アリスちゃんに


「その子と雰囲気とか結構似てんだけど、何貰ったら嬉しい?」


って。

やたら長かった。
あれこれ出させて来ては、あーだこーだ楽しそうに雑談してた。

選んで貰ったガラス細工の小物入れ、絶対アリスちゃんにプレゼントするんだろうな。


鼻の下を伸ばしながらアリスちゃんの接客の親身な様子とか、話しやすさを語るエイトの意見は参考程度に聞いて置こう。

他の感情が大いに混ざったそれは、あんまりアテにならん。


でも選んでくれた小物入れは、私も欲しいなって思ったけど、ソニアがこういうのも作ってた事はお恥ずかしながら知らなかった。

鍵やアクセサリーを入れておくのにぴったりなそれは、機能的にも仕切りが付いててごちゃごちゃしなそうだし
縁に彫刻された蔦みたいなデザインも、全体的に丸みのあるフォルムも凄く可愛い。


私も欲しい。


アリスちゃんはこういうメインの商品以外も、お店の隅々まで見てくれてるんだなって感心してしまった。


「……という方向性で行こうと思うんだけど、どうかな?」
『随分大掛かりに頑張ったのね、お疲れ様。』


聞き込みや調査の結果を踏まえてソニアに報告してみると、ここまですると思ってなかったらしいソニアはちょっと驚いてたようだった。


『まず、私が前に聞いていた時点で考えていたのは、従業員の評価制度をしっかり確立することよ。』


ローも言ってたそれ。

お店の事お願いねっていうざっくりした業務内容だと、出来る人や気付く人がカバーに回って不満が発生する。
これはよくあることらしい。

業務を遂行するにあたって使う労力や時間、その代価としての賃金。
そこを明確に提示して、透明性のある評価をすることでその働きに適した代価を受け取って貰う。

うん。
やっぱローは凄いわ。
専門外とか言ってたけど大体合ってる。


『でもウイがしようとしてる事は随分世話焼きというか、強引ね。私ならそこまでしないわ。』
「えへへ。無理だったら諦めて他の人探すよ?でもやってみたいんだ。」


あの二人の性格を考えたら、結構上手く行く気がする。


ヨナさんのお店を良くしようっていう向上心とか、少し負けず嫌いな所。

アリスちゃんの、感情に敏感で周りに合わせてしまう所と、聞きたい事が怖くて聞けないって言ってた所。

中々正直な、日を選んでやってくる常連さん達。


駒は揃った。
後は最適な布陣を私が作れば良いだけ。


ローの性格が参考になった。
ロー程色々気が付く人じゃないから、少し強引だけど自覚して貰う為に私が状況をねじ曲げよう。


『私も興味あるわ。ウイの思惑通りに、どこまで進むのか。』
「ご期待に添えるか分かんないけど、また明後日報告するね。」


勝負は明後日。

仕掛けたトラップがいくつ発動して、その中のどれがどのくらい二人の気持ちに刺さるかは分からない。

でもただ言葉で状況を説明するよりも、期待できる効果は大きい筈だ。


なんだか本当に、チェスをしてる気分。
負けた時に失う物が大きい分、不安がない訳じゃないけど

それに勝るこの高揚感。


上手くいくと良いな。


「お休みの日なのに出てきて貰っちゃってごめんなさい。」
「良いのよ。研修の方、お願いね!」


アリスちゃんの出勤日、ヨナさんに無理を言って出勤して貰った。
店番をヨナさんに任せて、アリスちゃんには帳票管理とかの事務作業を勉強して貰う。

開店時刻と同時に鳴り響く来客を知らせるベルの音で、ヨナさんがお店の方に出ていった。


「さて、私たちもやりますか!まずレジ閉めから行こうか。どこか分かんないことある?」
「えっと、割引とかある商品の集計が……」
















アリスちゃんの改善点。
メモを取らない。

そら忘れるわ。

一通り分からない事を聞き終えたアリスちゃんに、少し意地悪をして全部説明を終えてからメモのことを伝えた。

やることも少なくないから無理もないけど、さっき教えたばかりなのにアリスちゃんは既に全部は覚えていなくて。


「私本当に忘れっぽいんですね。ヨナさん怒らせてしまうのもこれじゃ当たり前です。」


ただメモを取ってもそれを確認しなければ意味はない。
ちゃんと自覚して、その都度メモを開いて貰わなきゃただの時間の無駄だ。

とりあえずイレギュラーな事が起こらなければアリスちゃんの物忘れは少しは改善されると思う。
読み返し易いように業務ごとに纏めてるアリスちゃんを横目に店内をこっそり覗く。

シードル完売後に訪れるお客さんの対応に終われるヨナさんは、バタバタと忙しそうだ。

こちらもしてやったり。

勝手に店内を見て回る訳じゃない常連さん達の絡み具合に、心の中でガッツポーズ。


ナイスだお客さん。
その調子でもっと絡んでくれ。














夕方、一通りの研修を終えたアリスちゃんと
普段以上のお客さんの多さにぐったりしてるヨナさん。

アリスちゃんにレジ閉めを頼んで疲れきっているヨナさんに声をかけた。


「お疲れ様です。お休みの予定だったのにすみません。」
「……随分色々聞かれたわ。あの子はいつもアレを捌いてたのね。」


ため息と共に出てきたヨナさんの言葉に、自然と目尻が下がった。

分かってくれたみたいで良かった。



destruct at reality.