10-18


「で、どうした。言ってみろよ取り敢えず。」
「レイさん、実はエースのお祖父さんとかなんじゃないかなって。」


は?
似てねぇだろ全然。
何を言い出すんだいきなり。


急に思い悩み始めたウイが口にした突拍子もない内容に、正直面食らった。


「凄い大事そうな目でエースのこと見てたから。……有り得ない事じゃないでしょ?」
「まぁ、可能性はなくはねぇのかもしれねぇけど。」


なくはねぇけど違ぇだろうとは思う。
そもそも本当の祖父さんが生きているかすら微妙だし、生きていたとしてもこんな場所で巡り会う確率なんてどんな奇跡だ。


「私のお祖父様とか、手配書とかブラーヴェの記事で突然居なくなった私のこと耳に入っててもおかしくないのに、何の音沙汰もない。」


拗ねたような、そんな顔。

なるほど。
そこか。

そう考えてたならあの様子にも納得だ。


「父様だけじゃなく、お祖父様もお祖母様も、私のことなんてもうどうでも良いんだって思ったら……悲しくなった。」


ウイは過去のトラウマとか以前に、寂しがり屋だと思う。
安心して寄りかかれる拠り所が、欲しいんだと思う。


「優しくされたいから心配かけるようなことして、エースの気持ち利用してるみたいで、自分ヤなヤツだなって物凄い自己嫌悪。」


女なんだから、寧ろもう少しずるくなりゃ良いのに。


「アイツには言えねぇことなんだろ?俺はそれが嬉しいし、言えよちゃんと。」


そんな事気にせずに、もたれ掛かれば良い。
利用されてても都合の良い存在でも、その相手が俺だけだってことは純粋に嬉しい。

それに俺は、アイツ以上の何かがねぇと
戦う土俵にすらのぼれねぇ。


「例えじいさんがウイのこと嫌ってようと、今まで出会ったヤツらがおまえをどう思おうと、俺は利用されてても何でもウイのことが好きだ!」


まだ納得行かない顔を浮かべているウイの頭をもう一度くしゃりと撫でた。

下らねぇこと気にすんなって思いを込めて笑ってやると
人の気も知らないでと顔を背けるその様子が、なんか小さなガキみてぇに見える。




本当に変なところで自分を過小評価するもんだ。
こんなん、可愛い以外の何ものでもねぇだろ。





「ほら。」
「ありがとう!」


その辺にあったベンチにウイを座らせて、気分転換にでもなればと買ってきたソフトクリームを手渡せば、雲っていた表情が一瞬で晴れた。

単純だし、一時しのぎだって分かってても
落ち込んでいた顔を笑顔に変えるきっかけを自分が作れることは中々嬉しいもんだ。


「特濃!美味しい!!」
「だな。明日早速遊園地行くか!」


ソフトクリームを頬張りながら、それが旨いからなのか遊園地が楽しみなのかは分かんねぇけど
笑顔を向けてくれるウイにほっとする。


弱い所を見せてくれるのは有難ぇけど
へこんだとこをへこみっぱなしで終えたら意味がねぇ。


「皆も行けるかな。遊園地は大人数の方が絶対楽しい!」
「……どうせ暇だろ。誘っとく。」


楽しみー!と脚をバタつかせているウイに
気付かれないようにこっそりため息を吐いた。


二人で行こうと思ってたのに。




「エース何が好き?絶叫系?おばけ屋敷?」



木々の隙間から見える観覧車の頂上部分に目を向けながら
明日の予定を想像してるのかニコニコと楽しそうなウイが恨めしい。



必要とされてるのは事実なんだろうし
それで良いとも言った。

でもウイの中で俺は、二人で遊びに行きてぇとか、くっつきてぇとかキスしてぇとか
そういう対象ではねぇんだろうなっていうのが、こういう所でのし掛かってくる。


「ウイと乗れればなんでも好き。」
「……なんでエースは照れ屋な癖にたまに凄い激甘な事をけろっと言うの。」


なんでおまえもそういうスルーして欲しいとこに敢えて触れて来るんだ。




もう知らねぇ、そう思ってウイから視線を逸らしてコーンを噛る。
ガリガリと音を立てながら、それで照れ臭さを紛らわそうと必死だった。


「エース。」


また何かからかう気かよと、半分睨むように顔だけ向けると
こっちを見上げているウイと目があった。


「いつもごめんね、ありがとう!元気出た!」




ウイは普段からにこにこへらへらしてる方だ。

でも嬉しかったり、楽しかったり、そういう時の笑った顔は
本当にその瞬間に花が咲いたみてぇに目を惹き付ける。


やっぱ好きだなって、そう思った。





「……という訳で明日は遊園地だ。どうせ予定ねぇんだろ?」
「ねぇけど、良いのか?」


宿に戻ると、既に店から直帰していたらしい仲間達に明日の遊園地行きを告げた。

各々傍目で見ていても楽しそうな遊園地には興味を引かれていたらしく、明日を楽しみに待つ声が聞こえてくる。

そんな中でエイトが一人、若干ニヤついた顔でそう問いかけて来た。


「なにがだ。」
「いや、ウイと二人で行きてぇんじゃねぇの?」


ああ、そうだよ。

特にウイへの気持ちを話したことはなかったものの、相棒にはバレバレだったらしい。

エイトの言葉を聞いた仲間達も、ヒューヒュー!と指笛を鳴らしたり囃し立てたりと騒ぎだす。


なんだ、こいつらにもバレてたのか。


「大人数で行った方が楽しいんだと。だからおまえら、付き合え。」
「…あらあら。意外と船長健気なんだな!」


うるせぇよ。

一瞬同情するように哀れまれた後、結局自分たちもウイと遊園地ではしゃぎたかったのか
再び何に乗るかと騒ぎだす仲間達にため息をつく。


きっとウイも、二人で行くよりもこいつらがいた方が騒げて楽しいんだろう。


魚人島に着いたら今度こそ、二人でどこかに出掛けよう。
ウイは海底の島を、目を輝かせて見て回ると思うから。


「苦労してんな。」
「別に。そんなんじゃねぇよ。」


相変わらずニヤついているエイトのその顔が、勘に障る。

男まみれの俺らと混ざって部屋を取るわけにも行かず、ウイは同じ階に別の部屋を取った。


船から荷物を運び出す時に見かけた、服の入ったカバンの上に乗っていたでんでんむし。


今頃ウイはあいつに電話、かけてんのかな。


ガヤガヤと騒がしい仲間達の喧騒の中で、壁が透けて見える訳もないのにウイの部屋の方向に目を向けた。


あいつより俺の方が近くに居るのに
俺の方が分かってやれるのに 


越えられる気がしねぇ。


俺があれこれ手を尽くして頑張ろうと、あいつが一声かければそれだけで
さっきの比じゃねぇくらいに、簡単にウイを笑顔にしちまうんだろう。


買ってきた酒を煽りながら、窓の外の月を見上げた。

いつか誓いを立てたその月は、俺の心境を映すかのように
今夜は俯いているように見えた。





ぷるぷるぷるぷる
ぷるぷるぷるぷる


皆と近くの店で夜ご飯を食べて、遊園地の計画を練って
明日が待ち遠し過ぎて早めにお風呂に入った。


濡れた髪をタオルで拭いていると、聞き覚えのある着信音。


振り向いてそれを確認すれば、もうすっかり見慣れた誰かさんを模したその格好。


「はーい!もしもーし。」
『ウイちゃん今どこいんの?』


お、おう。
これは、いきなりだ。

どうしたペンギン、私の心の準備はまだ出来てないぞ。


「…どこだと思う?」
『知らねぇよ、で?どこいたの。』


だからなんだよ急に。
ドフラミンゴに会いに行く間のことを皆にどう話すか、まだ嘘の予定を決めてない。

たまにどの辺りにいるか聞かれる事はあったけど
最近はそうでもなかったからすっかり油断してた。


「え、なんで?」


まさか、既にどっかから情報が漏れて怪しまれてるのか。


ドキマギしながら続きを待つ。
その間も皆に話す嘘予定を考えることで頭がフル稼働だ。


『なに、理由ないと聞いちゃいけないの。』
「いや!珍しいなって思って!ペンギン達はどこいたの?」


時間を稼ごうと彼らの居所を質問しつつ、当たり障りない予定を考える。

とりあえずどこかへ行く事になった事にしておかないとヤバい。
皆がルンルンバース付近に来た時にバレる。
ブラーヴェの皆にも口裏合わせを頼まなければ。

ブラーヴェ直営店の航路以外に私が居て、それが自然な理由。
なんだ。
なんなんだ。


『おまえまさか変なとこに首突っ込んでんじゃ……


ひぃっ!!



ガチャン、ツーツーツー。
















やってしまった。

痛いところを突かれそうで、どう返答するかに困って、思わずでんでんむしを切ってしまった。


とりあえず考える時間は出来たものの、電話を切っちゃった事への言い訳も考えなきゃいけなくなってしまった。





ぷるぷるぷるぷる
ぷるぷるぷるぷる




ど、どうしよう。

考えろ私!
この状況を打破するとっておきの嘘を!



ぷるぷるぷるぷる
ぷるぷるぷるぷる



鳴り止む気配のない着信音が、只でさえ慌てる私の心を急かした。




ぷるぷるぷるぷる
ぷるぷるぷるぷる



しつこい。
粘り強い。



ぷるぷるぷるぷる
ぷるぷるぷるぷる




頑張りすぎだろペンギン。


鳴りやまないでんでんむしを眺めながら、引き続き嘘の予定を考える。

新世界側に新店舗出店を考えているのは事実なんだから、そこの調査?

皆とバイバイしてから今までそれを黙ってたのは、出店場所についてブラーヴェで話し合いがあって中々纏まらなかったから。

よし、これでいこう。
嘘じゃない。
言ってないことがあるだけ。

下手な嘘をつくよりよっぽど自然だ。
突っ込まれても対応が利く。


方向性が大体決まったそのタイミングで、でんでんむしの着信音が止まった。


ほっとしたのも束の間、ふとヤバい可能性が頭を過る。


まさかペンギン、ローに何か言いに行ったりしてないよね?
ペンギンならまだしも、ローの本気の尋問は厄介だ。

ちょっとした会話の間すらも、ローの洞察力は見逃してくれない。


電話を急に切ってしまった理由も考えなきゃいけないけど

ローにこの状態がバレることが一番ヤバい。




ぷるぷるぷるぷる
ぷるぷるぷるぷる



「も、もしもし!」
『……やっと出た。何なの、珍しく今日は色々と下手くそじゃん。』


呆れたようなペンギンの声は特に船長室に駆け込んだ様子もなければ、声の響き方がさっきと変わった感じもない。
でんでんむしが繋いでいる場所はきっとペンギンの部屋だ。
まだ最悪の事態は避けられる。

とりあえず一安心。


「えっと、今新世界に向かってて。」
『は!?なんで?』


さっき考えた本当を少しだけ混ぜた嘘の予定を話すと、ペンギンは微妙なリアクションを返して来た。


『危ねぇじゃん、大丈夫なの。』
「エース達も新世界行く予定だったみたいだし、一緒に連れていって貰おうと思って。」


新世界に進出する事自体には不満がありそうだけど、他の目的については気付かれていない気がする。


良かった。


『で?なんでさっきガチャ切りされたの?俺。』
「…着替えてた時に急にノックされて!急いで着替えてちょっと話してた。エース達と!」


ふーん、と気のない返事をするペンギンは、はたして上手く騙されてくれただろうか。

ちょっと、わざとらしかったかな。



destruct at reality.