10-19


『この場合、俺はここで納得してあげたら良いの?』
「……なにが?」


嫌な言い方をする。
問い詰められてる訳でもないけど、納得した訳ではないことを示すその返事。


『別に?ウイが一番分かってんでしょ。聞かれたくないなら聞かねぇけど。』


そうでした。
ペンギンはこういう人だ。


『ウイがそういうことにしときたいならそうするけど。俺気になってキャプテンに相談しちゃうかもしんないね。』







う……。
なんなんだペンギン。


誤魔化せるだろうと見くびってた。
想像を越えた返しだ。



『俺一応副船長だし?ウイはキャプテンにとっても大事な女な訳だし?報告は必要よね、事情聞いて黙っとけとか言われない限りは。』


すげぇやり方するな。
それつまり、口を割れって言ってるようなもんじゃん。


『でもウイちゃんは言いたくないんだもんね、オッケーりょーかーい。』
「待て!ちょっと待て!!」


話を終わらせられてローにこれを話しに行かれるのは困る。
理攻めで白状させられる。

ペンギンなら、もしかしたら黙っておいて貰える可能性はあるけど
ローは絶対に許さない。

ローを誤魔化せるだけの自信もなければ、もし上手くいきそうな仮説がたったとしてもあの人は手強すぎる。

どうせバレて今すぐ引き返せって言われる。
とんでもなく説教される。


慌ててる私の様子に、クツクツ笑ってるペンギンの声がでんでんむしから聞こえてきた。


『なに企んでんの?ペンギン先生に教えてよ。』
「……絶対ローにも、皆にも黙っててくれる?」
『事と次第による。』


そこは二つ返事で頷かないのか。
嘘、付かないもんね。ペンギンは。

でもこれで、黙っててくれるという言質が取れればこの件はセーフだ。

ペンギンさえ説得できれば
あっち側にも秘密を隠そうとしてくれる協力者が出来る。


このまま黙っておくより分は良い。


「ドフラミンゴに、会いに行く。」


意を決して告げたその声は、少しだけ震えてしまった気がした。



「なんでまた。アイツがとんでもねぇヤツなの知らない訳じゃないでしょ。」
『実はね、……』


ウイが観念して話し出したその内容と
それを受けるに当たって立てた対策。

まぁ、ちゃんと危ねぇことは分かってるんだろうし
ドフラミンゴの気性や実力が不確定とは言え、中々手を出しにくい状況ではあると思う。


「キャプテンそれ知ったら怒濤の勢いでぶちギレると思うけど。」
『だから黙ってて!大丈夫だから!』


ウイとキャプテンは、本当に変な所が似てる。

お互いの為を思って、それを相手に黙ったまま何とか解決しようとする。


「一個質問ね。それ上手くいったとして、内緒にしとくのにどうやってキャプテンに情報渡すの。」
『……上手くいったら、怒られるんだろうけどちゃんと話す。』


そんなんだからキャプテンはウイを連れて行けないでいるのに。
アホなのかしら、この二人は。


「俺としても心配。ドフラミンゴは結構本気でヤバい。止めて聞くなら止めたいんだけど。」
『私だって!皆がそのヤバい人と戦うのは心配だよ。でももし!有益な情報引き出せたら、皆が少しでも有利に戦えるかもしれない。』


つまり止めても聞かねぇよと。
分かってたけどそういう事か。


『心配かけてるのも分かってる。無事に戻ってこれるように準備もした!当日もすっごい気を付ける!』
「2つだけ約束して。」


結局止めても聞かねぇなら、キャプテンにバラして止めさせようにも無駄だろう。

俺が心配で止めたいのと同じように、ウイも俺らを心配してるからこそドフラミンゴに接触しようとしてる。


「黙っててやるから、俺には本当の事話せ。ヤバそうな状況でもなんでも。」


聞いちまった以上心配だ。
離れた場所から出来ることなんてたかが知れてるけど、それでも何か出来るかもしれねぇ。


「あともう一個。…好きな女が危ねぇ橋渡るの、止められたのに出来なかった後悔、絶対俺にさせんな。」
「……分かった。ありがとう。」


どうなるかは正直分かんねぇ。
俺との約束が、どこかでウイを守れれば良い。


どうせこいつは、言っても聞かねぇから。



『私だってちゃんと学んでる!絶対捕まったり殺されたりしないから!』
「直でそう言葉にされるとぞっとすんだけど。」


本当に大丈夫かと不安が過る。
止めても聞かねぇなら、報告させて釘を刺した方がマシかと思った。


『だってドフラミンゴも七武海辞めさせられちゃったら困るでしょ?ベガス聖がついてるから大丈夫だよ!』


天竜人の後ろ楯と、海軍の護衛。
七武海は海軍公認の海賊。
海軍の後ろには世界政府と天竜人。

七武海は天竜人の息が掛かった海軍には逆らえない筈だ。
普通なら。

状況としては勝ちが決まった出来レース。
情報が引き出せようと引き出せまいと、デメリットはない。

でも何故か、不安が消えない。


『そういえば皆はドフラミンゴについてどこまで情報掴んでるの?ベポに聞いた以上のことで何か掴んでるなら聞きたい。』
「あー、だからあの時それ聞いて来たの。」


ベポがどこまで喋ったかは知らねぇけど
新世界では四皇が陣地争いをしながら幅を利かせていること
ドフラミンゴの密売網は主にその新世界に張り巡らされていること
ドフラミンゴが四皇の誰かと取引がある可能性があることを簡単に話した。


『それが誰か聞けたら、役に立つ?』
「世間話であっちから話される内容以外に首突っ込むな。危ねぇだろ。」


持っている情報を改めて聞くことで負うリスクを減らそうとしてんのに
ウイは更にそのリスクを上げようとする。

本当に危ねぇこと分かってんのかこいつは。


『キャプテンが知ったらぶちギレる理由、ちゃんと分かってんだよな?』
「ドフラミンゴが危ない人だから!」


その答えは、怪しい。
ふと、いつか喉元に剣を突き付けて海軍に立ち向かって行ったウイの姿が脳裏に浮かんだ。


『ウイに何かあったら俺らがどう思うか。忘れてねぇならそれで良い。』
「……ごめん、心配かけちゃって。」


謝るくらいならすんなと言いたい。
でもそれが出来ないのがウイだ。

きっと俺の嫌な予感も、ウイを大事に思うが故の心配。


これは詫びと口止め料、しっかり貰わねぇと割に合わねぇな。


でんでんむしの向こうで、人の気も知らずに居るだろうウイにため息が出た。





エース達との遊園地は、想像通り楽しい1日だった。

島の至るところに浮かんでるシャボンはヤルキマン・マングローブの樹液で出来ている物らしくて
普通の遊園地にはないシャボンを使ったアトラクションや、遊園地名物のジェットコースター。
お化け役の人も出る幕がないくらい脅かしてくる皆と笑い合ってたら
あっという間に日が暮れてしまった。

コーティングが出来るまでの残りの日は、観光とか買い物で潰して
いよいよ今日がコーティングが仕上がる日。

シャッキーさんのぼったくりバーに着いた私達は、レイさんが待っているらしい港の場所を聞いてそこへ向かった。






「来たか。コーティングは完璧だ!」
「ありがとうございました!!」


食い逃げする時みたいに、深々と頭を下げるエースがなんだか可笑しい。

レイさんにとってみれば、エースのこのたまに見せる礼儀正しさが余程意外だったみたいで。
少し目を見開いて驚いた後、行ってこいと背中を叩いて笑ってた。


コーティング船の操縦の仕方を説明して貰って、各々が運び出した荷物を船に積む。

これから海底に行くんだ。

ロー達が普段見ている海の中の景色が見れるのが、実は結構楽しみだった。


「エース荷物積まなくて良いの?」
「俺はこっちに乗る。海の中で何かあっても移動して来れねぇだろ。」


確かに。
エースは悪魔の実の能力者だし、それ以前に海の中では船同士の行き来は無理だ。


「ありがとう!」
「どういたしまして。」


よく遊びに来てはくれてたけど、常にこっちに居てくれるっていうのはなんか嬉しい。


「二人は、恋人同士なのか?」
「違います。」


質問に即答で返すと、何が可笑しいのかレイさんが盛大に笑いだした。
状況が分からなくてエースの顔を伺えば、面白くなさそうな不貞腐れた顔。


「片思いか。頑張りたまえよ、エースくん。」
「煩ぇ余計なお世話だ。」


そのままエースはフリーウィングに荷物を置きに行ってしまって、まださっきの笑いが抜けきれていないレイさんと二人きりになった。

船室に消えていくエースの後ろ姿を優しい目で見つめるその様子は、やっぱり何か意味があるように思えてしまう。


「あの、レイさん。」







「レイさんは、エースのご親戚とかでは……ないんですか?」
「なぜそう思うのかな。」


私の問い掛けに再び目を丸くしたレイさんが、穏やかな笑みを私にも向けてくれる。


私にも、こんなお祖父さんが居たら良かったのにな。







「ウイさん?」
「あ、ごめんなさい!……凄く優しい目でエースを見てるから、そうなのかなって思っちゃって。」


よくよく考えたら、違かった場合とんでもなく何言ってんだこいつ的な発言だ。
今更ながら恥ずかしくなってきてしまって目を伏せる。


変なことを聞いてしまった。





「はっはっは!……当たらずしも遠からずと言った所かな。」


どういう事だろう。


変なことを聞いた自覚はあるんだけど、何がレイさんのツボに入ったのか。
未だに笑い続けているその様子を不思議に思いながら見てた。


「ウイさんは特殊な覇気を纏っているようだ。」
「分かるんですか!?」


覇気らしいあの変な力。
何もしてないのにそれを言い当てたレイさんに驚く。


武装色でも見聞色でもなく、覇王色とも少し違うらしいアレ。
私もこれが何なのか、自分でも気になってた。


「亜型の覇王色、といった感じかな。私も初めてお目にかかったよ。」
「亜型…?」


レイさんが目の奥を覗き見るかのようにじっと見つめてくるから、なんだか少し居心地が悪い。

全部を透かして見られているみたいな、そんな気分。


「覇王色の覇気は鍛練でコントロールこそ出来るようになっても、力の底上げは出来ない。持って生まれた人間の資質だ。」


皆が必死で鍛練してる武装色や見聞色の覇気とこれは、根本的に違うのか。

でもコントロールは出来るようになるらしい。


「そのコントロールって、どうすれば出来るようになりますか?」
「他の覇気同様に己の気を使いこなす技術は勿論必要だ。あえてそこに追加するとすれば、……心の強さ、思いの強さかな。」


心の、強さ。


私一番苦手なジャンルじゃないか?それ。
それに他の覇気みたいな鍛練も、やっぱり必要なのか。


皆があんなに頑張ってても難しいって言ってるくらいだ。
ドフラミンゴの所に着くまでにこれを使いこなせるようになるのは、無理なんだろうな。




destruct at reality.