ペンギンが手放しでドフラミンゴと会いに行く事を認めてくれた訳じゃないってちゃんと分かってる。
後悔させないって約束した。
きっと今も心配、かけちゃってる。
万が一何かあればローも凄く怒ると思う。
怒って、悲しんで、そして傷付けてしまう。
ローの冷静な頭をそんな感情で埋め尽くしてしまってはダメだ。
役に立ちたいから行くの。
私のせいで、ローがこれまで準備してきたことを覆すような事になれば
私は例え死んでも死にきれない。
ついこの前実感したばっかりだ。
ローだって信念が揺らぐ事があるって。
大丈夫。
ドフラミンゴが私とローの関係に気付いているとも限らないし
例えそうだとしてもドフラミンゴは私に手を出せない。
ベガス聖が守ってくれる。
会合の時に何て聞かれても良いように、何パターンも会話の返しを頭の中でシミュレーションした。
これで覇気も使えるようになれば、更に安全かなって思ったんだけど。
「全然感覚掴めなすぎて、これが難しいのかすら分かんない。」
「そんなもんだ。たった数日で使いこなされてたまるかよ。」
上手くいかずに不貞腐れる私に、エースが呆れた視線を投げ掛けてくる。
結構覚えは良い方だと思ってたから、修行したらもしかしたらすぐ出来るようになるのかもって思ったのに。
暗かった海中の中に、ゆらりと白い光の帯が一瞬出現した。
もうすっかり慣れた海中の航海も、そろそろ終わりが近いらしい。
「もう海面に近いのかな。今の見えた?光っぽいの。」
「もうそんな経つのか。早ぇな。」
二人で海面の方を見上げていると、やっぱり気のせいじゃない。
上の方が少しずつ白んで来てるし
射し込んでくる光の帯がまた見えた。
「どんなとこだろうね、新世界。私グランドライン入った時、あまりの代わり映えのなさに驚いたわー。」
「は!?テンション上がるだろうが!!あー、腕が鳴るぜ!」
前半の海では不完全燃焼に終わったエースは相当鬱憤が溜まっているらしい。
バキバキと指の関節を鳴らしては楽しそうに海面に目を向けるエースは、やっぱり海賊で男の子だ。
今まで考えたこともなかった。
戦う事が楽しみって思うその気持ち。
でもあれだけ強かったら、楽しみにもなるのかな。
甲板で火を纏いながら体慣らしだと跳び回るエースを見ながら、そんなことを思った。
久しぶりに自分の船に戻って来て、仲間達と鍛練したりぐだぐだしながら過ごして居るとウイが自分の名前を呼ぶ声が聞こえた。
その声に、自分でも驚く程過剰に反応して飛び起きた自覚がある。
仲間達もその様子を見てニヤニヤ笑ってた。
「エース!海賊にでんでんむしかける時って何か気をつけた方良いマナーとかある?」
「海賊にどんなマナー求めてんだよ。」
宴の下ごしらえを終えたらしいウイがメモとでんでんむしを片手に真面目な顔で唸っていた。
ドフラミンゴに連絡入れんのか。
一人でかけるの緊張するからこっちに居てと言われてそれに従うものの、居たところで俺に何が出来る。
メモを見ながら番号を打ち込むそんなウイにため息を付く。
ため息を付きながらも、必要とされてることを
頼られてるような気がする事をどこか得意気に感じている自分が居た。
「お世話になります。ブラーヴェのロレイシル・ウイと申します。シードルのお取引の件でご相談したいのですが、ドフラミンゴ様いらっしゃいますか?」
仕事用の喋り方と声。
普段のウイはどっちかって言えば、女にしては口が悪い。
仕事と言っても、ブラーヴェの連中や店舗の従業員と話してるとこしか見たことはなかったから
ウイも真面目にしようと思えばできるのかと、そんなことを思った。
こういうのをギャップっつーのか。
悪くない。
でもこういうギャップよりも、恥じらったり照れたり、そういう方のギャップが見たい。
意外と下ネタも全然オッケーで、寧ろ女としてどうなんだと言うくらい仲間達とそんな話で盛り上がってたりするウイは
恥ずかしがるということが殆どない。
マーメイドカフェでも、ベストオブおっぱい大賞をデレデレしながら選ぶ仲間達の中に
ちゃっかり混ざって人魚の胸をガン見していた。
あいつには、照れたりする癖に。
緊張するとか言ってた割に、無事ドフラミンゴに取り次いで貰えたらしいウイは当たり障りなく普通に話してるみてぇだった。
寧ろ七武海相手の初めての会話で所々爆笑してたりする辺り、本当に緊張してるかも疑わしい。
本当に、なんで俺を呼んだんだウイは。
そういやウイの姓はロレイシルっつーのか。
父親の姓を名乗りたくねぇ俺とは違って、ウイはそこは気にならねぇらしい。
それにしても、ロレイシル・ウイ。
改めてフルネームを聞くと、我ながら気持ち悪ぃ思考が頭を過る。
ポートガス・D・ウイ。
もし俺とウイが結婚すればそうなんのか。
悪くない。
でもあいつと纏まっちまえば
トラファルガー・D・ウイか。
胸糞悪ぃ名前だ。
合わねえ。
ウイの名前にはポートガスの方が絶対に合う。
一生背負って行く名前だ。
字面とか響きを考えても、俺の方が絶対に良い。
そういやあいつもDか。
ルフィもDだ。
Dがいるなら、AとかBとかCもいるのか?
考えたことなかったけどなんなんだ、このDは。
「エースありがとね!でんでんむし無事終了!ちゃんと話せた!」
「……なら良かった。俺なんもしてねぇけどな。」
考え事をしてたら、いつの間にかウイは電話を終えてたらしい。
「エースのおかげで心強かった!一人だったらドキマギしちゃってたと思うから、本当にありがと!」
ウイのこの笑顔が好きだ。
何かにつけて、すぐ人に感謝するとこも
自分がしたい事に遠慮なく周りを巻き込むとこも
最近特に、頼ってくれてる気がするとこも。
ポートガス・D・ウイの方が似合ってんぞ。
んなこと考えてるとか我ながらキモくて口には出せねぇ。
でもマジでそうなれば良いと思って、ドフラミンゴとの会話をあーだったこーだったと話すウイに呪いでもかけるように心の中で念じた。
似合ってるだけじゃなく、守ってやれる。
俺の方が強ぇし、ウイのことも理解してやれる。
我が儘だってなんだって聞いてやるし、あんな愛想ねぇやつよりも俺と居た方が絶対楽しいと思うのに。
なんであいつなんだろ。
顔か。
あと頭か。医者だし。
あいつに敵いそうもないその2つが壁のように立ちはだかる。
それもあるんだろうけど
根拠なんてねぇけど
ウイがあいつを好きな根本的な理由はきっとそこじゃねぇんだろうなって思う。
マジで俺、どうすれば勝てんだろ。
「ではでは!新世界突入を祝して、かんぱーい!」
「「「「「かんぱーい!!!」」」」」
夕焼けが海をオレンジ色に照らし始めた頃、フリーウィングの甲板で酒盛りが始まった。
程よい気候のこの海域は波も穏やかで、外で飲むのに最適な環境だと思う。
「なぁ!海中でなんもなかったの?二人。」
「ぶはっ!」
「……ちょっとエース汚い。」
一通り乾杯一気のコールが止んだところで、ニヤ付いたエイトがグラスを片手に私たちに絡んできた。
ビールを吹き出したエースはゲホゲホとむせ混んでいる。
何もなかったのに気の毒。
「何だよエース!いつになく純じゃん。」
「うっせーよ。おまえあっち行ってろ!」
組まれた腕を払いのけながら、未だにむせているエースの顔はむせてるせいなのか照れてるせいなのか真っ赤だ。
ん?
待てよ?
「エースは普段は純じゃないの?」
気になったから聞いてみただけなのに
二人は揃って固まってしまった。
なんだよ。
「俺これ言っちゃって良いの?」
「だからおまえはあっち行ってろって!」
おやおやおや?
これは……そういうことか。
エースがエイトの口を抑えながら必死で追い返そうとしてる。
言われたくないって事は、エースも私と出会う前まではある程度お盛んだったってことか。
酔っ払ってちゅーしてくるぐらいだしな。
エースだって年頃の男の子だし。
そら、色々あるよな。うん。
「ウイ気になる?エースの今までの遍歴。」
「だぁからやめろって!マジで黙ってろおまえ!!」
「……そ、そんなに酷いの?」
エースの慌てぶりが尋常じゃない。
一体何をしたんだエース。
「それなりに普通だ普通!そんなやべぇことしてねぇし、好きとかそういうんじゃなかった!」
「ヒューヒュー!!」
ゴスッ
あ、遂にエイトが殴られた。
結構凄い音したな。痛そう。
殴られたお腹を押さえて踞るエイトを、ぼんやりと見てた。
なんか、……そっか。
そりゃそうだよね。
海賊だし。
男の子だし。
うん。
そっか。
「まぁまぁ。ペンギンとかシャチとか、島に着く度にお姉さんのお店入り浸ってたし。そういうもんなんでしょ?」
「なーんて理解がある女なんだー。」
「良いからおまえ本気でどっか行け!」
二発目の肘打ちを恐れたエイトが遂に渋々退場して行った。
ちょっとなんだか、行かないで欲しかったかも。
あのままここに居たらエースが気の毒だけど
なんか
なんて言ったら良いのか分からない。
気まずい。
「あーもう、なんだ?……っとにあいつは……。」
同じく気まずいらしいエースがガシガシと頭を掻いた。
目を泳がせているこの様子じゃ、きっと私にそれを知られたくなかったんだよね。
「えーっと、……まぁ、男の子だし!」
「……そうだよな。ウイは別にンなことどうだって良いもんな。」
ため息を付いたエースがグラスに残っているビールを飲み干す。
うーん。
これは私がエースのこと好きじゃないんだろって、そういう事を言ってるんだよね?
正直、少し嫌だった。
なんでだろ。
エースとそういうことしたいとかそういうんじゃないのに。
「俺が知られたくなかっただけだから。」
傍に置いてあった酒瓶のコルクを抜きながら、もうすっかり暗くなった空を睨むエースがそう呟く。
「軽い男って、ウイに思われたくねぇなって。……ただそれだけ。」
傾けた酒瓶の中身が、エースの喉を鳴らした。
上下する喉仏は、私にはないもので。
ローの喉仏にキスしたいと思ったいつかの出来事がふと頭を過った。
軽い男とかは思わないけど。
ちょっと嫌だったのは本当。
でもそれを上手く説明出来る気もしないし
なんか、気を持たせるようなことするみたいで気が引ける。
でも別にどうだって良いんだろって、少し悲しそうな顔をしたエースは
私が嫌って思ったこと伝えたら喜ぶ?
……喜ばせてどうするの?
だめだ、なんかよく分かんなくなってきた。
なんなんだろ。
この気持ち。