10-22


新世界2日目の朝、相変わらず空は快晴。
昨日のお酒も残ってない。

最近朝起きればリビングで寝てたエースが居ないのが、少し寂しく感じた。

昨日は結局、何て言ったら良いか分からなくて何も言えなくて
結局エースを避けるように他の人たちと飲んでた。

気のせいかもしれないけど、他の人と飲んでるエースの視線を
何度か感じた。

私が気にしてるみたいに、エースも気にしてくれてるんだろうなって
そう思った。


今日は、朝ごはん食べに来ないかな。


窓から見えるエースの船を眺めても、誰かが起き出して来た気配はない。


こっちで寝起きしてる時だって、私が起こさないと起きなかったしね。


今日は一人で朝ごはんかって、少し憂鬱になりながら冷蔵庫を開けた。


一人なら残り物で良い。
タッパーに入ってる常備菜、これとご飯で良いや。


そう思ってタッパーに手を伸ばした時、甲板に続くドアが勢い良く開いた。




「飯、なんか汁っぽいのが良い。」


眠気眼で入ってきたエースが、それだけ言ってリビングのソファーに倒れこんだ。


くかー


恐る恐る覗きに行けば、さっきまで起きてた筈なのにもう寝てる。
イビキまで掻いて。


「もー、……しょうがないな。」


ブランケットをかけてあげて、キッチンに回る。


汁ってなんだ。
お蕎麦とかそっち系か?


自分の為だけなら作る気が起きなかった朝ごはんも、誰かの為なら作ろうとしてる自分が居る。


しょうがないとか、嘘だね。
眠いのに、寝てたい筈なのに来てくれたエースが嬉しい。

もしかしたらまた気まずくなっちゃうかもって、少し怖かったから。


「ありがと。」


聞こえてくるイビキは、私の言葉がエースに届いてない事を証明してる。

聞いて欲しい訳じゃないけど、言いたかった。


「本当はちょっとだけ、嫌だったよ。」


ついでとばかりに昨日言えなかったそれを口にしてみた。
寝てるから、言ったところで何も変わらないんだけど
少しだけスッキリした気がした。





「うまっ!俺汁もん食いたかったのよく分かったな!ウイ天才か!」
「……。」


呆れた顔を浮かべるウイが、本当私天才かもね、と乾いた笑いを溢した。


なんだよ。
でも本当にすげぇ。 

痒いところに手が届くって、こういう事を言うんだろう。多分。


最近お決まりになりつつあったウイの目覚まし。

最初の頃は結構優しかったのに、日を追う毎にそれはエスカレートして行った。


今朝はくるまっていたブランケットごと床に落とされたし
その前はこよりで鼻を擽られたせいで出たくしゃみで目が覚めた。

その前は濡れティッシュを顔面に被せられて窒息しかけたし
その前は耳元でフライパンシンバルの大演奏。


んな起こし方をされて目覚めが良い訳もないのに
覚醒して一番に目に飛び込んで来るのがウイのしてやったりとでも言いたげな笑顔ってだけで

怒る気も失せた。
寧ろ、なんか嬉しかった。

っつーか俺、昨日こっちで寝てたっけ。

朝起きたらこっちに居たってことはそうなんだろうけど
記憶にねぇ。


「今日は何すんだ?」
「ベガス聖に連絡入れる!落ち合う場所と日程決まったから!」


新世界最初の島で選べるのは3つ。
ログポースが指すそれの内、落ち合う事が決まったのは左の指針が指すデロアって島らしい。

順当に進めば約半月。
落ち合うのはひと月後。

急がなくても良さそうなその日程を頭の隅に置きながら、ウイがそれ以外の予定を楽しそうに話すのを聞いていた。


人と飯食うの、好きなんだろうなって思う。
いや、誰かが傍に居るのが好きなんだろうな、と。


基本的に誰と居ても楽しそうなウイが、それを好きだと気付いたのは一緒に海中で過ごしてからだ。


何をしててもにこにこヘラヘラしてるのに
気を許してるからこそのふとした表情を見れるのが嬉しかったりもしたのに

何か物足りねぇなと思った。


それが何なのか最初は分からなくて
ヤツらからのでんでんむしの着信音を聞いた時のウイの顔を見て、それが何なのかやっと気付いた。

別々の船で過ごしてた時は、こっちに顔を出すと
ウイは俺の顔を見るなりこんな顔をしてたって。

来てくれて嬉しいとでも言いたげなその笑顔を見るのが、すげぇ好きだったんだなって。






「ねぇ花火!今日風も結構あるしやってみようよ!」
「おう!やろうぜ!」


海中の航海で、一緒に作った改良版の花火。
俺の物を燃やし慣れた経験が役に立って良かった。

前回の失敗作はやっぱり、不純物のせいで煙まみれになったらしい。

シャボンディで買った金属の化学反応について書いてあった本を一緒に読まされたけど
正直何が何だかんだわからなかった。

アルファベットと文字の羅列。

なるほど!と声をあげるウイがどの部分に納得したのかすら理解不能だったけど
何か混じってんじゃねぇのってあの時何気なく言った言葉がヒントになったと喜んでいるウイを見てたら
得意気な気分になった。


勝てねぇと思ってた知識的な部分で
ウイの役に立てたのがすげぇ嬉しかった。



















ヒュー、パンッ


「「おおっ!!」」


明るいせいで良くは見えないものの、前回のような煙は殆んどなく打ち上げられた花火。


「やったね!大成功!」
「だなっ!ウイすげぇなホントに!」


良く分からないまま手伝わされた花火作り。
誰かが作ってんだろうとは思ってたけど
まさか目の前でそれを作ろうとして作っちまう人物にお目にかかれるとは思わなかった。


「あの導火線の長さであの距離でしょ?……やっぱ包み紙のせいで煙はちょっと出るか。でもあのくらいなら普通?」


ぶつぶつと親指に顎を乗せて何かを呟いているウイは、次の改良点を洗い出そうと必死なようだ。


そう言えば酒も、人が作ってるとかあんまり実感出来てなかった気がする。
出来てるモンを買うのが普通だと思ってたから。


ウイはそれも作っちまうんだもんな。
飯だって店で出てくるようなモンその辺で釣った魚とかで作っちまうし。


「今度夜にやろうぜ!」
「金属すり潰すの手伝ってね!」


あれ結構めんどいのに。


しれっと重労働を押し付けられた。
満足したらしいウイが花火の筒を回収しながら鼻唄混じりに室内に戻っていくのを、頭を掻きながら目で追う。


「手伝ってくれてありがと!」


振り向き様に向けられた言葉と笑顔に、ドクンと鼓動が音を立てた。


反則だ。
これは飴と鞭の飴の方だ。





なんでこんなに可愛いんだろ。





『じゃあ、明日!行ってくるからね!』
「ハイハイ。終わったらすぐ連絡寄越せよ。」
『りょっ!』


本当に、大丈夫なんだろうか。

なんだかんだで、ついにウイがドフラミンゴと会合を行う日が明日に迫っていた。


「ほんとに無茶とかすんなよ。」
『分かってるってば!』


なんかこれ、ウイちゃん調子乗ってるパターンな気がしてならないんだけど。

少しきつく言ってへこましといた方が良いか?




大丈夫大丈夫!と楽天的な発言しか聞こえてこないこの感じ。

あの時も、ウイはシャチとベポにちゃんと隠れているから大丈夫だと大嘘ぶっこいたらしい。


「もし。」
『ん?』


あの時は嘘を付く予定じゃなかったかもしんねぇけど
いざというとき思い止まれる心積もりが出来てなければこいつはまた同じ事をする。


「ウイに何かあったら俺、一生キャプテンのこと許さねぇから。」
『……なんで?』


簡単に自分より誰かを優先してしまうのなら
その自分に何かがあれば大事なヤツが危ねぇくらいの危機感は持って貰おう。


「だってドフラミンゴの情報欲しいの、元はと言えばキャプテンの為でしょ。」
『いや、でも……ローだけじゃなく皆の役に立つかなって。』


知ってるけど。
キャプテンだけじゃなく俺らの身を案じてくれてんのも分かるけど。

ここでそれを了承するのは得策じゃねぇ。


「俺らがドフラミンゴ狙ってるのも、元を正せばキャプテンがそうしてぇからだし。だからウイになんかあったらキャプテンのせい。」
『ち、違うよ!行くって決めたの私だし!ローは関係ない。』


動揺し出したウイに、内心しめしめとほくそ笑む。
これは良い脅しだ。


「ウイがそう思ってても俺はキャプテンのせいって思うもん。あいつらもそうだと思うけど。」


ただの脅しだし
キャプテンのしようとしてる事について行こうと決めたのは俺らだ。

万が一そうなったとしても、それでキャプテンを恨むのはお門違い。
逆恨みだって分かってる。

でもきっと
シャチも、ベポなんて特に
キャプテンに凄い剣幕で文句言うくらいはするんじゃねぇかと思う。






「俺、ウイの為なら船降りて良いって言ったの覚えてる?」
『降りないでよ。』


そこの返事を聞いてるんじゃない。

即答で返ってきた言葉に頬が引きつる。
覚えてるか、を聞いてんのに。


「ニシキで俺らがキャプテンに楯突いたの、誰のせいだか分かってる?」


キャプテンがウイを悲しませたから。

着いていくと決めた相手でも、あれはねぇだろって思ったからウイ側についた。

キャプテンの言うことは絶対。
でもそれは時と場合にはよる。

相手がウイでこの状況なら、キャプテンに非難が向くのはあながち狂言でもない。


「傍にいねぇから止めらんねぇだけで。別に今回の件に納得した訳じゃないから。」


何も言わねぇのを良いことに畳み掛ける。


少しは真剣に考えろ。
これはへらへら笑って軽い気持ちで首を突っ込んで良い事じゃねぇ。


「目の前に居たら、縛ってでも閉じ込めてでも行かせない。そこ、勘違いすんなよ。」
『…はい。』


しゅんとした声だった。

それで良い。
細心の注意を払って貰わねぇと困る。


覇気の修行もそこそこ形になってきた。
でもコツを掴んで来ればこそ、それがどんだけ手強いもんか身に染みる。


新世界の海賊達は、これを使いこなしながら戦う化け物だ。
キャプテンですら、集中して戦いに使えるレベルの武装色を維持できるようになった程度。


覇気の覇の字も知らなかった俺らに簡単に負けるような雑魚。
そんなヤツらにウイは大怪我を負わされた。

そんなおまえが会おうとしてるヤツがどんだけやべぇヤツか
どんだけ目を付けられるリスクを負ってるか


自覚しろ。


『ペンギン。』
「なに。」


ウイに呼ばれるのは、最後かもしれない。
考えたくねぇけどふとそんな事を思った。


『ありがとう。』
「フラグっぽいこと言うのマジやめて。」


心配しすぎ、とけらけら笑うウイの声が遠く聞こえる気がした。


明日、生きた心地しねぇかも。


ウイに寄せたつもりなのか疑わしい見た目のでんでんむしを眺めながら
重苦しいため息を吐いた。



906


destruct at reality.