11-4


「しっかし七武海か、ついに政府も俺の存在を放っておけないと見た!」
「あれだけ暴れまわってたらそりゃ目立つよ。」


入らないって言う割に得意気にふんぞりかえるエースが可笑しい。

私にはちょっと分からない感覚だけど、男の子って懸賞金が上がったり七武海から勧誘の声がかかったり
そういうのが嬉しいものなのかな。


「見てろ!!七武海なんて通り越して、まずは四皇になってやる!」
「はいはい。あんま無茶しないでね。」


新聞を読んでから見るからにテンションが上がったエースはこの際放っておこう。

ローに報告しなきゃ。


じゃあありがとって伝えて船室に戻ろうとすると、腕を引かれて体が傾いた。


「今あっちで椅子取りゲームやってんだよ!ウイもやろうぜ!」
「なにそれ面白そう。」


中々出てこないと思ってたらそんな事やってたのか。


聞けば中々巧妙な椅子取りゲームだ。
椅子は船中の至るところに拡散してるらしくて、鬼がハリセン片手に皆を追い回してるらしい。

前のゲームの敗者が好きなタイミングで鐘を鳴らして、その時点で椅子に座れてなかった人が負け。

ハリセンを食らった人も負け。
鐘が鳴る前に椅子に座ってても鬼にはぶん殴られる。


「で、負けたヤツは一気だ!!」
「昼間っから……。私ちょっと電話してたから終わったら行くよ。」


楽しそうだけど、ローが待ってる。

エースにアイツ?って聞かれて、嘘付くのもなんだからそれに頷いた。


「珍しいじゃん、昼間っから。」
「ローの懸賞金が上がってたの!それでさっきかけてたんだー。」


ローの懸賞金が二億になったことを聞いた途端、エースがあからさまに眉をしかめた。


なんでそこで張り合うかな、お互いに。


「じゃあ少ししたら迎え行く。さっさと切り上げろよ!」
「え、ちょっと……!待っ…!!」


私の声、聞こえた筈なのに
エースはこっちを振り返ることもなく船室に消えていった。


もう。

凄いとは思うよ、強いの。
でも私、強い人が好き!とかじゃない。

本音を言えば、強くなくて良いから危ないことしないで欲しい。







でも大人しく平凡に過ごしてるローもエースも、想像付かないや。


目標に向かって目をギラつかせてる顔。


そんな感じの方がしっくり来る。





「ってことで入らないって!」
『そうかよ。』


ローにでんでんむしを繋いでさっきの経緯を話せば、興味なさそうな返事が返ってくる。

自分から言い出した癖にって思いつつも
久しぶりにローと他愛のない話を楽しんでた。

今日は何するの、とか。
何か面白いことあった?とか。

ローは相変わらず素っ気ないんだけど
声が聞けるだけで嬉しかった。


本物の声じゃないって分かってるけど、鼓膜に響く低い声がくすぐったい。


でんでんむしをスピーカーモードにして肩に乗せて、話しながら手配書をコルクボードに飾ることにした。


エースも迎えに来るって言ってたからさっさと済ませなければ。


ピンで止めた新旧二枚の手配書。


古い方の写真が撮られた時のローを、私は知らない。
顔つきも少し、幼い気がする。


でも今のローは知ってる。
帽子被ったまま写ってるのも、何トレードマーク晒してんのよって思う気持ちも多大にあるんだけど


私のローって主張出来てるみたいで
嬉しいのも事実。


「ローこれ撮られた時気付いてた?」
『何の話だ。』


手配書の写真って言ったら、おまえよく頭ん中で考えてる事途中から当然のように話し出すよなって呆れられた。


確かにそうかもしれない。
どこまで口に出して喋ったか分からなくなる事って結構あるかも。


私のことよく見ててくれてるんだなって嬉しくなりながら、微妙に曲がってる気がする手配書を平行にとめ直そうとした時



バタン

「ウイー?」



部屋のドアが開いた。


「何してんだ?」


ピンを片手に固まる私の手元を見て、エースの顔が面白くなさそうに歪む。


これはエースに確実にバレた。

好きな人の手配書を部屋に飾るミーハーだって。


『おい、誰だ今の声。』
「……エース。」


作業する為にスピーカーモードにしてた自分を呪いたい。


「アイツらウイ来んの待ってる。」
「あ、うん。これ終わったら、行く。」


もう見られちゃったからには仕方ない。
任務は全うしよう。

ローの手配書が傾いていてはいけない。
ビシッと綺麗にとめておきたい。


『忙しそうだな、じゃあ切るぞ。』
「え、やだ!ちょっと待って待って待って!」


不機嫌そうなローの声に慌てると、エースが部屋から出て行ってしまった。



エースが居るところでローと喋るのは、なんだかやりずらい。
でも何も言わずにどっか行かれるのもなんか
怒らせちゃったかなって心配になる。


でもまずはローだ。
切られてはないみたいだけど、普段以上に口数が少なくなったこの人は、確実に機嫌を悪くしてる。


「椅子取りゲームするの。スペード海賊団の皆と。」
『それは良かったな。』


これは確実に、怒ってらっしゃる。


「何か変なルールで面白そうだから今度一緒にやろう!」
『そういうアホみてぇな遊びはペンギンとでもやれ。』


ああ、好きそうだね。ペンギン。
でもペンギン、なんか椅子持ち運びながら逃げそう。

それ良いな!
そうしよう!




頭の中でこれからの椅子取りゲームの必勝法を考えつつも
全く喋ってくれなくなったローには困ってしまう。


ヤキモチ、妬いてくれてるんだよね?
エースに。


嬉しいんだけど、そんなに不機嫌になられると流石に心配になる。
目の前に居てくれればそうは感じなかったのに
でんでんむし越しのこの状態じゃ、どんな顔してるのか分からない。


このまま、呆れられて嫌われちゃったらどうしようって
不安になる。


「ねぇ、怒ってる?」
『別に。』


怒ってるじゃん。
もう、どうしたら良いんだ。

ここは恥を忍んで身を削ってみるか。





「……ロー。私ね、今部屋のコルクボードにローの手配書飾ってたよ。」


キモい程ローが好きな私の気持ち、なんで信じてくれないんだろう。


「前の分と今の分、並べてとめてるの!保管用にもう1枚ずつ欲しいから、どっかで入手してくるね。」
『……さっきのアレはそれか。』


呆れたような口振りだったけど、少しは機嫌を直してくれたような気がした。

なんとなくだけど。


「格好いいけど、これじゃローにキャーキャー言うお姉さん達増えちゃうから。次の手配書は変顔で写ってね。」
『断る。』


遊び心がない人だ、全く。
変顔のローとか、私も見たことないけど。

でもやっぱり機嫌、良くなったみたいで
せいぜい頑張れって言ってくれた。

全員まとめてハリセンでぶん殴ってくる!って意気込んだら、椅子取りゲームじゃねぇのかよって。


また話したつもりになってしまうこれ、やってしまってた。





向き良し!
間隔良し!
全体のレイアウト良し!


我ながら完璧だ。


急に賑やかになったコルクボードを眺めて悦に浸っていると、階段を駆け上がる足音が聞こえてきた。


「でんでんむし、終わったのか?」
「うん?」


姿を現したエースは、何か手に持ってる。
さっきは持ってなかった。

これ取りに行ってたのか?


「俺のもやる。」
「……は?」


突き出されたのは、エースの手配書。
火を纏いながら不敵に笑ってるエースの写真。

こっちも中々好戦的だ。


「ありがと。」


取り敢えずそれを受け取ってみたものの


え?なに?


ローに負けず劣らず不機嫌そうなエースはそっぽ向いたまま頭を掻いてる。


「行く?椅子取りゲーム!待たせてごめんね。」
「……だぁ!もう貸せっ!!」


渡された手配書を奪い取られたと思ったら、それをコルクボードの開いてるスペースにピンでとめ出した。


ああ、そういうこと。


「エースって、意外と可愛いことするよね。」
「うっせ!!行くぞ!!」


照れてる時に絶対目を逸らすのはエースの癖だ。


私の腕を掴んだままずんずん歩いて行くその後ろ姿が、顔は見えないのに照れてるのがバレバレでなんだか可笑しい。


「ねぇ、私必勝法思い付いたよ。」
「普通にやっても勝てるぜ?アイツら既に結構でろでろに酔ってっから。」


どんだけ朝早くからやってたんだよ。


心の中で突っ込みを入れつつ、愉快な椅子取りゲームを思って心を踊らせてた。






好きで居てくれてて嬉しい。

ローも。
エースも。
ペンギンも。


好かれるって事は凄く嬉しい事で、ずっと欲しかったものだ。


でもさ、嬉しいんだけど
やっぱりなんだか罪悪感みたいなものも感じる。


ちゃんと断っても
私とローは付き合ってる訳でも何でもない。
それなのに好きって丸わかりな態度はローを振り回して
この宙ぶらりんな態度も、エースやペンギンを振り回してる。


きっと私は、応えられないからって断っておいて
実際3人に他に好きな人が出来たら悲しくなる。


いつものこと。
振り払っても手を伸ばしてくれる事を期待してる。


凄く滑稽で、嫌なやつだ。


自分の為だけじゃない。
私を好きでいてくれる人の為にも、そろそろ本当に自分の気持ちに蹴りを着けなきゃいけないのかもしれない。




それからもエース達の白髭縄張り荒らしは続いた。

後日正式に要請があった七武海への勧誘を、エースはあっさり蹴った。
白髭傘下の海賊達も、次々に返り討ちにしていった。





エース達と別れて沖でお留守番を始めてから、もう4日目。
いつもなら帰ってきててもおかしくない筈なのに、今回はまだこちらに向かってくる船影が見当たらない。


何か、あったのかな。


これまで連勝がずっと続いてたし、遅くても3日くらいで帰ってきてたから慣れてしまってたけど
4日も帰って来ない事なんて今までなかった。


たかが1日。


白髭傘下の海賊達だって、常に縄張りの近くに居る訳じゃないだろう。
駆け付けるのに時間がかかってるのかもしれない。


もう戦いも終わってて、遠目で見えるあの島が実は凄く楽しい所で
皆で遊んでるのかもしれない。


良い方に良い方にって考えようとしても


ふと浮かんでくる嫌な妄想。


凄く強い相手で、大怪我してるんじゃないかなとか。
寧ろ、殺されちゃったりしてないよね、とか。


自分で考えておいて、勢い良く首を振ってそれを掻き消した。






大丈夫。
エース達は強いから。

ただ今回はちょっと、時間がかかってるだけ。


祈るような目で、島を見つめた。






お願い、無事で居て。
早く帰ってきて。





コントロールなんて全然出来るようになってないけど
私のこの亜型の覇気が使えるなら、その力が効果を発するなら

言霊よ現実になれって、神頼みでもするように口を開いた。



「死んだら絶対、許さないから。」












さして大きくないその言葉は、潮風があっという間に浚って行った。





とりあえず今日は待とう。

明日、まだ戻って来ないようであれば私も島に上陸する。
何も出来ない。足手まといかもしれない。


でもこれ以上こんな所でただ待ってるだけなんて出来なかった。




destruct at reality.