11-5


「でけぇの……俺は白髭ってのに会いてぇんだよ!」
「こんな人斬りナイフみたいな小僧を…オヤジさんにゃ会わせられん!!」


上陸と同時に、待ち構えるように立ち塞がっていたデカイ魚人。


もうそろそろ親玉が出て来ても良いんじゃねぇか?


新聞でだって“白髭狩り”って報道されるぐれぇだ。
あっちも俺が白髭目当てで動いてることくらい、気付いてんだろ。


「わしは“白髭海賊団”でもありゃせんが…義理あって…おまえさん達の相手をする!!」


義理、ね。
魚人島でもやたらと歓迎されてたみてぇだし。

どうやら白髭は魚人に気にいられてるみてぇだ。


「エースそいつ!!“ジンベエ”だ!!!」


“ジンベエ”?
仲間の叫ぶその名前には聞き覚えがあった。


ああ、そうだ。
確かにこういうツラしてた覚えがある。


懸賞金は、俺より若干上だったか?




『ローの懸賞金が上がったの!』




先日ウイが嬉しそうに話していたその顔が思い浮かんだ。

あの野郎、弱くはねぇと思ったが結構早く追い付いて来やがった。

金額は同じでも、俺の方が強ぇ。
それでもアイツと同額ってのは、イケ好かねぇ。


この魚人を倒せば、俺の懸賞金は上がるか?


「どかねぇし白髭も呼ばねぇってんなら、手加減はしねぇぞ。」
「小僧に手加減されるほど落ちぶれちゃおらんわ!!」


デカイ割に機敏に反応するこの様子だと
接近戦より丸焼きにしちまった方が早そうだ。


「火銃!!」


指先を炎に変化させ、ジンベエ目掛けて放つ。
何発かは避けられたものの、確実に食らった。


これでいくらか捕まえ易くなる。


蒸気の上がったそのデカイ図体をまじまじと見れば
食らった筈の炎銃の痕跡が、全くねぇ。


どういう事だ?


「効かん!!」


蒸気の中から突進してくるその巨体を武装色で受け止めるものの
重量の差で押し負ける。


どこだ。
どこで反撃に転じる?


どこまで押しやるつもりか知らねぇこの突進型イノシシ。
付き合ってらんねぇと身を炎に変えて背後に回り込んだ。


「余り舐めてくれるな、ロギアが。」
「ガハッ!!」


久しぶりに打撃を食らった。
こいつも覇気使い。覇気の気配には気をつけていたのに

全くそれを感じさせる事なく炎化してる俺をぶん殴ってきた。




どうなってやがる。





「ってぇな!!」


機敏な魚人に覇気を纏った拳を振り上げる。
避けた先を予め狙って蹴りを繰り出せば、生身の体にそれがしっかり入った感触に口の端がつり上がった。


「調子に乗るでない!!」


そんな怒声と共に体を襲う脱力感と、不快な生ぬるい液体。


これ、海水かよ!!


力が込められない状態で鳩尾に入った一撃に眉をしかめつつ、なんとか距離を取った。



ジンベエの口から水鉄砲のように吐き出されたあの液体。
間違いねぇ、ありゃ海水だ。

さっきの湯気と、火銃を食らった痕跡がなかったのはそういう事か。
なるほど、こりゃ厄介だ。


火を海水で消しやがったこの魚人。
火と水の相性も悪ければ
能力者と海の組み合わせも最悪だ。


ちらりと仲間達の様子を覗き見れば、ジンベエの連れも中々腕が立つらしく
押されてはいねぇが拮抗してるように見える。


俺はこっちに集中してても良さそうだ。


「その腹ん中の海水、無限って訳でもねぇんだろ?」
「これが尽きようと…おまえさんなぞに負けはせん!!」


今にも突進して来そうな巨体の魚人を視界に捉えつつ、その距離を測る。
この程度なら、囲める。


「炎戒!!」


逃がしはしねぇ。
いくら消火できようと、本体は魚だ。
表面は人間より、熱に弱ぇ筈!!


「火拳!!」


炎で取囲み退路をたった袋の鼠に、炎を纏った拳を打ち込む。
覇気を纏った手で受け止められはしたものの、尋常じゃねぇ汗の量だ。


「我慢比べだ!ジンベエ!!」
「挑むところっ!!」















その戦いは、昼夜を徹して続いた。


お互いに眠ることなく、拳を休めることなく
火花を散らしてぶつかり合う意地と義理。


ボロボロになりながらも、立ち上がる理由はそれぞれの信念。


世界一を目指しそれに焦がれる思いと
人情を突き通す熱い思い。


何度目の日が登った頃だろうか。
振り上げられる拳の勢いも、それを受け止める腕も
出会い頭の衝突程の威力はもう、ない。

お互いに、限界は近かった。

それでも二人は諦めない。


気持ちの強さも、実力も
どちらも勝るとも劣らない程に拮抗していた。




どうしてもっと早く、上陸しなかったんだろう。


「みんなっ!!大丈夫!?」


地獄絵図。
そんな言葉がぴったりだった。

スペード海賊団の皆だけじゃない。
武器を握った魚人達も、血を流しながら息も絶え絶えに倒れてる。


魚人島では、白髭の海賊旗を見かけた。
住民達も、白髭のことを英雄みたいに話してくれた。

今回縄張りの応戦にあたったのは魚人達だったんだ。


魚人達が動けなそうなことを確認してから、スペード海賊団の皆をなんとか一ヶ所に集める。








エース……エースは?






倒れている全員を見て回っても、エースの姿が見当たらない。



どこ行ったの?



とりあえず



皆の手当てだ。
船に救急箱を取りに走った。


ロー程の医療の知識も技術もない。
でも、何も分からない訳じゃない。


倒れてる皆の中には、良く見れば目立った外傷もなく寝てるだけだったりする人も居て
重傷者だけを選り分ける。

五日間もぶっ通しで戦ってたら、そりゃこうなるわ!!


いつのものか分からない傷口を真水で洗って、まだ塞がってない傷口にアルコールをぶっかける。


「ぃでぇぇえっ!!!」
「我慢!化膿してるんたから仕方ないでしょ!!」


こんだけ騒げる元気あれば大丈夫か。


一通り出来る処置を終えると、見下ろした救急箱を何かの影が覆った。


「マジかよ……」
「え?」


その影は手元だけに留まらず

辺りを覆いつくす。









「俺の首を取りてぇってのはどいつだ?……望み通り俺が相手してやろう。」



今まで見たことがないような大きな船。
その船首に立っている、遠目でもその大きさが分かる巨体。

その名を示す白い髭と
地を這うような、威厳のある声。



この人が、白髭。
四皇で、その中でも一番海賊王に近いと噂されている人。



ついに、呼び寄せてしまった。






「白髭…海賊団……!!」


ごくり、と皆が息を飲む音が聞こえた。


これは、分かる。
いつかセントローズでメルヴィスに感じたあの感じ。


いや、違う。
そんなもんじゃない。



「俺は一人でかまわねぇ。」



白髭は後ろに控えている海賊達を手で制し、島へ飛び降りる。
着地と同時に、地鳴りのように地面が震えたのはきっと気のせいじゃない。


この人はヤバい。

今まで縄張りを荒らして回ったエース達に
傘下の海賊達をことごとく返り討ちにしてきた皆に

怒ってない筈がない。








「おまえらっ!!逃げろっ!!」
「船長!!」


聞こえてきた声にはっとする。
そこには見るからにボロボロなエースの姿。


生きてて良かった、けど。

こんな相手にあんな疲れきったエースじゃ歯が立たないのは私にだって分かる。


思ってたよりは元気だった皆も、あんな見るからに凄そうな相手に背を向けて
逃げ切れる程の余力はない。



「炎上網!!」



次の瞬間、私達とエースの間を隔てるように炎の壁が出現した。


「エース!!」
「エース船長何すんだよっ!!」


見えなくなった炎の先から、エースの声が聞こえた。


「おまえら逃げろっ!!」


あんなボロボロの体で、こんな炎を生み出す力がどこに残ってたの?
そもそも、一人であれと戦うつもりなの?


無理だ。
敵いっこない。


「ウイ、行くぞっ!」
「ゃっ!!なんでっ!?エースは?!!」


無理やり腕を引かれて立ち上がらされる。
見れば皆は、退却の準備をしていた。


「エースを見捨てるの!?置いてくのっ?!」
「聞き分けろ、ウイ。なんでエースが体張ってここまでやってるか。」


辛そうな顔の皆が、言ってる意味は分かる。
残っても何の役にも立たない。


でも……。




立ち上ぼる炎の壁に目を向ければ
なんだか炎の音が聴こえる気がした。


何かが燃える音でも
燃え盛る勢いとも違う


ゆらゆらと風に揺れる、炎の音。
その奥に確かに感じる、エースの鼓動。



「行って。」
「は?」



皆が唖然とした顔で私を見ているのが
振り向かなくてもなぜか分かる。



「先に戻りなさい!!」






己の力を過信した。
まさかこんなとんでもねぇ化け物がこの世に存在するとは思わなかった。


こいつには勝てねぇ。
直感がそう訴えかける。


「なんだ……今更腰が抜けたか……。」
「仲間たちは逃がして貰う……そのかわり…俺が逃げねぇ……!!」




ヤバいヤツだからこそ
勝てねぇ相手だからこそ、俺は逃げちゃいけねぇ。

俺の後ろには仲間達が、ウイが居る。
俺がこいつを抑えねぇと、あいつらが逃げらんねぇ。



「ハナッタレが生意気な……。」
「うオオオオああぁっ!!」


少しでも、引き付ける。
あいつらを追わせねぇ。

ありったけの力を込めて
かき集められるだけの気を拳に集中させて

それを放った。


ドンっ


「こんなものか…拍子抜けだ。」
「まだまだァっ!!」


特に防御もされねぇ。
その代わり、びくともしねぇ。

軽く振り払われただけなのに、その腕は軽々と俺の体を吹っ飛ばした。


勝てなくても良い。
ただ俺は、あいつらを守る。


軋むように悲鳴を上げる体に鞭打って、デカすぎるその男を見上げた。


どうすりゃ良い。
あの化け物相手に、何が有効だ?


仕掛けて来る様子がねぇのを良いことに、体を休めながら策を講じていると




いつもは視界に入るだけでも心が踊る人物が

背を向けるように両手を広げて





俺を庇うように立っていた。


この状況じゃ、姿が見えた事を喜ぶどころか
ぶん殴ってでも炎上網の向こうに放り出すべきか悩む。




「ウイ!?おめぇ何やってんだっ!!さっさと逃げろ!!」
「嫌。」




そもそもどうやってこの炎を抜けて来た。





「怖ぇ顔してどうした……嬢ちゃん。」
「あなたにエースは殺させない。」



ウイの小さな背中が、その時はなぜか
とてつもなく大きく感じた。



「そこの坊主が今まで何やったか…知らねぇ訳じゃないだろ。」
「知ってるけど、私がここをどく理由にはならない。」


女に
しかも惚れた女に

庇われるなんて格好悪ぃことこの上ない。







でもそれが
命懸けで俺を守りに戻ってきてくれたことが











泣いちまいそうになるくらい、嬉しかった。


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destruct at reality.