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順風満帆な毎日。

あれから月日は流れ、ブラーヴェは着々と新世界でも新店舗を増やしていった。

エースも白髭海賊団での活躍は目覚ましく、いつの間にか懸賞金も倍以上に上がっちゃうし、二番隊の隊長になっていた。

相変わらず私は頻繁にモビーディック号に出入りしていて
ただいまって言ったらおかえりって当たり前に返ってくるこの些細な喜びを、噛み締めてたんだ。

ロー達に会いに行きたいなって思ってもそれは中々叶わなくて。
でんでんむしでやりとりするだけの日々が続いてた。

ハートの海賊団には新しいクルーが沢山増えて行ったのに、会いに行けないからサイズを聞いては仕立てたつなぎをカモメ便で送るだけ。

ブラーヴェでの仕事も忙しくて充実してたし、モビーディックに行けばパパや皆と楽しく過ごしてたのに
私の知らない所でロー達が仲間と新しい関係を築いていってしまうことを、少し寂しく思ったりしてた。

ドフラミンゴとの取引もさっぱり。
定期的にシードルは出荷していたけど、また連絡するってあの時言われたきり
連絡が来ることはなかった。

最初の直営店オープンからもう、2年が経とうとしてる。

私たち初代メンバーの弟子達はそれぞれ立派に成長してて
急な大量注文が入らない限りは商品作りは弟子に任せっきりでも平気な程になっていた。




そんなある日、事件は起こった。









「……サッチが、殺…された?…誰にっ!?」







いつものようにモビーディック号にフリーウィングを繋いで甲板に顔を出すと、そこは普段とは似ても似つかない雰囲気で。

理由を問いただせば、信じられない答えが返ってきた。


サッチが?
…誰に……どうして。


事態が飲み込めないのと、怒りと苛立ちで声が震えた。
実際に体も、震えてたと思う。



サッチは4番隊の隊長で、人当たりも良いフランクなお兄ちゃんだ。

エースがパパを殺そうと躍起になっていた時も、まるで野犬のように荒れていたエースに嫌な顔一つせず、よく気にかけてくれてた。

私も、お嬢!って凄く可愛がって貰ってた。

隊員達にも凄く慕われてたし
他の隊長達からの信頼も凄く厚かった。


それに、強かった。


隊長なんて、エースやマルコ以外でも殆どが能力者なのに
サッチは悪魔の実の能力なんてなくても強かった。


エースが全力の手合わせで負けてしまうこともあるくらい。


あんなに強いサッチが、…なんで?









「嘘、でしょ…?ねぇっ!!」


誰も何も言ってくれなくて、つい口調が荒くなる。

それでも皆はお互いに顔を見合わせるだけで、口を開く人は居なかった。




なんで誰も何も教えてくれないの。
なんで皆平然としていられるの。

仲間が、家族が殺されたっていうのに
怒りを感じているのは私だけで、皆戸惑った表情を浮かべるだけ。

一体、何があったの?



「ウイ、戻ってたか…お帰り。」
「パパ!!ねぇちょっと!皆が…サッチが殺されたって……からかってるだけだよね…?」



部屋から出てきたパパは、深刻そうな顔をしていて
嘘であって欲しいこれは嘘じゃないんだって、それを物語っているようだった。



白髭の仲間に手を出したらどうなるか、それはこの海では誰もが知っている事だ。

家族に手を出した相手を、白髭海賊団は許さない。
サッチを殺した相手を、白髭海賊団は許さない。





「なんで止めんだっ!!はなせっ!!」
「エース!!落ち着けっ!!」


「親父は今回は特例だって言ってんだティーチは追わなくて良い!!」
「ヤツは俺の隊の部下だ!!これをほっといて殺されたサッチの魂はどこ行くんだよ!!?」




騒々しい声が聞こえて来てそっちに目を向ければ、旅支度を整えたエースを抑え込むようにして止める隊長達の姿。


エースも怒ってた。
サッチの死に憤りを感じてるのは私だけじゃなかった。


自分と同じ気持ちで居てくれるエースにどこかほっとする気持ちを感じつつも
遅れてそれに気付く。






ティーチ…?
ほっとく…
……殺された…?







ティーチがサッチを、殺したの…?




「エース良いんだ、今回だけは妙な胸騒ぎがしてな。」
「あいつは仲間殺して逃げたんだぞ!!?何十年もあんたの世話になっといて…その顔に泥を塗ったんだ!!」


パパにすら噛み付く勢いで食って掛かるエースの言葉が、さっきのは聞き違いじゃないって
サッチを殺したのがティーチだっていう事実を突き付ける。


仲間殺し…
それは白髭海賊団最大の禁忌。


それはいつか誰からか聞いた事があったけど
それを私は、どこか他人事のように聞いていた。


皆が仲間を殺そうなんて思う訳がない
そんなこと有り得ない


そんなルール不要なんじゃないかとすら思った程だ。





ティーチ…なんで……?












『おまえ随分古株だろ…?何とも思わねぇのか?』
『ぜははは!良いんだ気にすんな!俺はそういう野心がねぇのさ!』


エースを長らく欠番だった2番隊の隊長にって、そんな話が持ち上がった時
エースが真っ先に気にかけた相手はティーチだった。


『海賊なのに野心がないの?チェリーパイにはそんなに貪欲なのに?』
『お嬢も食うか?』
『わーいありがとう!』


ティーチはすごく古株らしいのに、出世とかそういうことに拘りを全く見せなくて
いつも好物のチェリーパイを食べながら笑ってる、そんな人だった。


『やってくれ!エース隊長!!』


何ともさっぱりしたティーチのあの言葉と笑顔には
エースは救われたと思う。
隊長として頑張ろうって思わせてくれる、気遣いと優しさが、そこにはあったと思う。

その後もエースの部下として
ティーチは今まで通り皆と楽しそうに笑って、戦って、お酒を飲んで…

少なくとも私にはそう見えた。










それなのに、なんでティーチが…?







「何より親の名を傷付けられて黙っていられるか!俺がケジメをつけてやる!!」
「おい待てよぃ!戻れエース!」



マルコの腕を振り払って、パパが止めるのも聞かないで
エースはティーチを追おうとしてる。


ちらりとパパの顔を覗き見れば、凄く心配そうな顔で
エースを見てた。





「…わ、私も行く!!」
「「「「は!?」」」」


心配性お兄ちゃんズが、お前まで事を荒立ててくれるなと一斉に私に振り向いた。


「ウイ、…仲間と油断したとは言え、ヤツはあのサッチを殺したんだ。…危ねぇ、ここに居ろ。」
「どうやって探すの?」


聞き込みでも諜報でもやるさって、エースは言うけど


エースがティーチを追うのに使おうとしてたのは毎度お馴染みストライカー。
スピードだったら何にも負けないと思うけど
休んだり補給したりする島がなかったらどうするつもりだ。
そんなリュック一つの蓄えで。

大飯食らいの癖に。



「エース、ウイ。」
「エースが行くなら私も行く。…上手く言えないけど、何も出来ないけど、…なんか腹立つ。」



宥めるように名前を呼ばれて、パパを見上げた。

私の大好きな、自慢のお父さん。
強くて豪快で、でも優しくて
子供想いの、家族想いのパパ。


私はエースみたいに、ティーチに制裁を与える力はない。
でも大事な仲間を、家族を殺したティーチを許せない。

なんでそんな事をしたのか、納得なんて出来ないと思うけど本人の口から言い分を聞きたい。


パパの顔に泥を塗ったって言ったエース。
それを聞いてただ納得した。


もう一つの怒りは、それだ。

家族が仲間を殺すような人だって
パパがそれを許す人だって
そういう風に取られかねない事をしでかしたティーチに腹が立つ。


私の大事な家族を、パパを、愚弄された気がしてならない。



「危ねぇ場所には連れてかねぇぞ。」
「分かってる。足手まといにはならないよ。」



私には力がないから。
道中のサポートくらいしかできないから。


それでも何かがしたい。


「行ってくるね!!」
「ちょっ…!待てよぃ!!」


来たばかりなのにもう出発。
暫くのんびりして行こうと思ってたのに。


止めようとするマルコの腕を振り払ってフリーウィングを繋いでいたロープの結び目を解いた。


エースはもう私を止めなかった。
ストライカーを船に乗せて、海の果てを睨み付けるその目に映る、自責の念と憎悪。


こんなこと、本意じゃない。
出来る事なら起こらないで欲しかった。

でも、これが私がパパに初めて出来る

親孝行だ。



destruct at reality.