12-5


「ブラーヴェの方は暫くお休み貰ったから!」
「平気なのか?それ。」


朝ごはんのピザトーストを頬張りながら、昨日の報告タイム。
前々から交代制で纏まった休みを取ろうって話にはなってた。

なにせ私たち幹部組は直営店オープンに向けて動き出したあの頃から、全く休みという休みを取ってない。
働くのは好きだから苦にはならないんだけど、他の皆が休みにくいでしょってソニアが。

という訳でお仕事はオッケー。


「あとね、ブラーヴェの店舗従業員に聞き込みしてみたんだけど。ティーチっぽい人の情報なくて。」
「そう遠くにはまだ行けてねぇ筈なんだけどな。」


そう、それなの。
どう足掻いてもそう遠くへは行けない筈。


「それでね、ベガス聖に頼んでロイの連絡先聞いたんだけど。ティーチ、前半の海に向かったのかもしれない。」
「は!?…何のために。」


驚いて、咥えてたトーストを落としたエースが目を見開く。

気持ちは分かる、私も驚いた。


「知らないよ。でもこっち側のコーティング職人がティーチに良く似た背格好の人から依頼を受けたって。」
「…意味が分からねぇし、確かでもねぇんだろ?」


うまく皿の上に落下したトーストを再びもしゃもしゃ頬張り出すエースは、その情報に納得がいかないみたいだった。

それもそうだ。
何の為に前半の海に?


「何か情報があれば教えてくれるって。魚人島にも寄るだろうから、そこでその人がティーチっぽいなら私達も追おう!」
「おう!」


流石に不確かな情報でレッドラインを越えるのはギャンブル過ぎる。
間違いだった時のロスタイムがとんでもなく大きい。


「取り敢えずそれまでは近くの島で聞き込みと補給!それで良い?」
「それしかねぇだろ。」


最後のひと切れを綺麗に食べ終えたエースが、デザートのリンゴにかぶりついた。


相変わらずすげぇ。
パン一斤一食でペロリだよ。

それで良くあんなリュック一つでティーチを追おうとしてたもんだ。


「近いのか?島。」
「お昼過ぎには着くと思うよ?」


じゃあ寝る、とエースはソファーに突っ伏すと
5秒もせずにイビキが聞こえて来た。


「しょうがないな、本当に。」


そっとブランケットをかけてあげて、洗濯でもしようと立ち上がる。
外はお洗濯日和の、良い天気だったから。





「背は3メートルよりおっきくて、前歯所々なくて、髪の毛黒くてもじゃもじゃってしてて、ゼハハハ!って笑う人見かけませんでしたか?」
「見てないねぇ。」


やっぱりこの島にも来てないのかな。


ロイからの連絡を待ちながら、レッドラインに程近い島を巡っては情報収集をする日々。

エースが繁華街、私は買い出ししながら商店街、手分けしての聞き込みが続いた。


全くと言って良いほど掴めない足取り。
やっぱりティーチは、前半の海へ向かったんだろうか。


見知った相手を聞いて回るのは特徴が分かる分やり易い。
でもなんだか、こんな目的で家族だった人を探さなきゃ行けないのはつらい。


エースも同じように思いながら聞いて回ってるのかな。


「すみませんありがとうございました。」
「役に立てなくてごめんねぇ。…お嬢ちゃん旅の人かい?」


八百屋のおばさんが、買った野菜やら果物を箱に詰めながらこの島の事について色々と話してくれた。




モビーディック号を出発したあの日から、エースが塞ぎ混むことはなくなった。
でもふとした時に、海を眺めて思い詰めた顔をする事がある。


サッチが死んでしまって、私も悲しい。
でもエースはきっとその悲しさだけじゃなく
自分の部下が殺したっていう責任を凄く感じてる。


何も言わないだけで、私以上につらくて苦しい筈。






「おばさんありがとう!素敵なこと教えて貰っちゃいました。」
「今晩あたりは丁度頃合いだと思うよ。」


八百屋のおばさんにお礼を言って船に戻る。
ティーチの情報はなかったけど、少しは役に立てそうな事を聞けた。




あの時エースが見せてくれたものには敵わないと思うけど、少しは気分転換になれば良いな。




今晩は早めの夜ご飯にしようと早速準備に取りかかった。
まだ戻ってこないエースに、これがバレないようにポーカーフェイスを貫かなければ。


「んだよウイ、押すなって!」
「良いから良いから!」


夜の林の中を、ただエースの背中を押しながら突き進む。
前方から香ってくる潮風が肌に心地良い。


「どこ行くんだよ!ちゃんと歩けっから行き先と理由を言え!」
「煩いなー……別に良いじゃんそんなこと。」


適当な嘘を考えるのが面倒で、そのまま押し通す。
文句は煩いけど、良さそうな嘘が思い浮かばないから仕方ない。


林を抜けた辺りで、石で出来た丘に前方を塞がれる。
エースの手を引いて階段のふもとまで連れて行くと、そこで待てを言い渡し先に階段を登った。


凄い!
ばっちり!


石で塞がれた先に広がる景色に大満足で頷いてエースの元に戻る。


「ねぇ!目!瞑って?」
「は?」


訳が分からねぇと顔をしかめるエースの目を手で覆う。
せっかくだからびっくりさせたい。


「危ないから腕!掴まって?一歩ずつだよー。」
「っとになんなんだよ。」


結構我儘を聞いてくれるエースも、事情も知らせず見知らぬ場所に連れて来られて、目隠しで歩かされる所まで来れば不機嫌にもなるらしい。

エースの前に立って、その目を覆いながら後ろ向きで階段を昇る。
エースも私の腕を掴みながら、目隠し状態でそれに続いた。


ん?


「ねぇちょっと!見えてない?」
「うおっ!!」


あまりにもスムーズな足運びが怪しくて、手で覆った上から塞いだ目を覗きこむ。
びっくりしたのか後ずさったエースのこの様子だと、指の隙間から見てたな、絶対。


「危ねぇだろ!」
「目!ちゃんと瞑ってて!次見たら絶交!明日からご飯抜き!」
「んなんだよ…ったく。」


文句は言いつつも慎重に足を出すようになったこの様子は、ちゃんと目を閉じたんだろう。

石の丘の頂上に着くと、エースにまだだよって声をかけて後ろに回り込む。


なるべく近くで見せたい。
きっとびっくりする。


後ろから目を覆ったまま、エースに階段を降りさせて、砂浜を進んで貰う。

サンダルに入り込む砂に一瞬エースが驚いたように足を止めたけど、そんなのお構い無しに進ませた。













「目、開けて良いよ!」


目を覆っていた手を離して、その顔を覗きこむ。
エースは驚いたように目を見開いた後、ほうと感嘆の息を吐いた。


その顔には、水面で放たれた青い光が反射してた。


「ぅわっ…、すげぇな。」
「ね!びっくりした?」


青く光る夜の海。
その幻想的な風景にひょこりとウイが顔を出した。

マジでビビったから素直に頷けば、してやったりとでも言いたげな得意気な笑顔。


「これなんだ?初めて見た。」
「夜光虫って言うらしくて、プランクトンの一種!日中見るとアレだ、赤潮。体内のルシフェリンとルシフェラーゼっていう物質が波とかの物理的な刺激で合わさって……
「綺麗だと思えなくなるから難しい話はいらねぇ。」


意味分かんねぇ単語の羅列をすらすら喋り出すウイの言葉を遮れば、面白くなさそうに顔が歪む。


怒んなよ。
聞いても意味分かんねぇもん。


なんの超常現象かと思うくらい、海面で輝くその光は幻想的だった。

波間にその光が特に多く集まっている所を見れば、意味分かんねぇ中でも刺激で光るってヤツは本当なんだろう。


空には星、海面には夜光虫。
水平線を挟んで白と青に輝き合うその様子は、なんだか別世界にでも来たんじゃねぇかと思うほど不思議で綺麗な風景だった。


「ねぇ!もうちょっと近く行こう!」


ウイに腕を引かれて波打ち際まで近寄れば、打ち寄せる波に点在する光の一つ一つが見て取れる。


集合体も綺麗だけど、これもなんか綺麗だ。


「見て見て!触れる星!」


ウイが掬い上げた青い光は、手から溢れて青い光を放ちながら海へと戻っていく。

ガキみてぇなその無邪気な笑顔と、青い光を操っているようにすら見えるその様子が
まるで妖精か何かみてぇだ。


「エースも触ってみなよー。」
「ちょっ…!!待てウイ!!」

「あ。」





ウイは結構強引だ。





「ごめん忘れてた!」
「っとに…。」


能力者が海水に触ればどうなるかなんて、この世界では小せぇガキでも知っている。


本気で振り払えば出来たのに、ちょっとおいしいかもと思って好きにさせては脱力して凭れかかったのは黙っておこう。


「はい!手ー出して。」


準備良く持ってきていた真水で海水に触れた手を洗って貰って
こいつ本当は分かっててやったんじゃねぇかと思えば


「これ赤潮だから綺麗な水じゃないんだ。」


とけろっと答えやがった。


汚くても触りたかったんだろう、うん。


「なんでウイこんなとこ知ってんだ?」
「聞き込みしてたら八百屋さんに聞いたの。」


波打ち際で青い光との追いかけっこを楽しむウイを眺めながら、初めて来た筈のこの島の不思議現象を知っていた理由を問い詰める。

たまに波に追い付かれては冷たいときゃーきゃー騒ぐその様子は、なんか本当にガキみてぇだなって思った。


「ねぇ。目、開けた時びっくりした?」
「した。」


一通り遊んで満足したらしく、砂浜に腰掛けていた俺の隣にしゃがみこんだウイが嬉しそうに微笑む。


「あの時見せて貰った星よりは凄くないかもだけど。びっくりすると一瞬頭真っ白になるでしょ?」


なるほど。
…そういうことか。


どうやらウイは元気付けようと俺をここに連れて来たらしい。
確かに驚いて、ごちゃごちゃ考えてた事が頭の中から一瞬どこかへいってたと思う。


この不思議な青い光はなんだろうとか
ただ綺麗だなって思える景色をぼんやり眺めてみたり


何よりも、ウイに気付かれねぇようにしてたつもりなのに
気付いてくれて、元気付けようと考えてここまで連れて来てくれた事が嬉しかった。


「私着いて来ておいて何も出来ないから。今回だけじゃなく普段もだけど。」
「…んなことねぇよ。」


いつの間にか木の枝で砂浜に落書きを始めたウイがどんな顔してんな事言ってるかは見えない。


でも本当に、居てくれるだけで良い。
それが力になる。


ジンベエと戦ってた時、中々手強い相手に挫けそうになった心を支えてくれたのは
沖で待つウイの元に戻らなければいけないって思いだった。


親父と対当したあの時も、いつの間にか目の前に立ち塞がったウイにどれだけ救われたことか。


モビーディックで親父を殺そうと躍起になっていた時も、敵だと思ってた連中に囲まれながらも自暴自棄にならなかったのは
親父達を受け入れてみようと思える気持ちになったのは

同じ船にウイが居てくれたからで
ウイへのあいつらの態度が、ウイがあいつらに心を許していた事が
俺をああさせたんだと思う。


「でも今回も…私も見てみたかった訳だからダメか。」


ダメじゃねぇ。






ダメなとこなんて、1つもねぇ。


982


destruct at reality.