12-7


「エース趣味悪いよね。」
「そうか?ウイの男を見る目の方がねぇと思うけど。」


そんなことはない!


さっきみたいな事にならないように、見えるギリギリの角度で振り向いて横目でエースを睨み付ければ
ニシシって、悪戯っ子みたいな満開の笑顔が視界の端に映った。


これじゃどっちが元気付けられたのか分かんない。


私に見せないようにいろんな事を思い詰めてるエースに、少しでも肩の力を抜いて貰えたらなって思って誘ったのに

結局また私が助けて貰って、甘やかされてしまった。


「ねぇ、サッチもこの中のどれかなのかな。」


夜光虫が珍しくてあんまり見てなかったけど、今夜も星が綺麗。

あの時程じゃなくても、視界いっぱいに広がる満天の星は触れるんじゃないかと思うほど
それぞれが力強く輝いているように見えた。


「エースにしとけって、サッチも空から見てる。」
「サッチならエースより俺の方が良い男!って言う。」


無意識に空に伸ばしていた手に、いつかみたいにエースの手が重なる。


「届けば良いのにな。」


そう言って力なく笑うエースの視線は空に縫い付けられたままだった。

サッチは空から見てるかな。


私が、エースが、サッチの無念は晴らすから。


だから応援しててね。


「また見に行きたい。」
「そうだな。」


この世界中でどこよりも星を近くに感じられる場所。
死んでしまった人達と、普段より近くに居られる気がする場所。


どこって言った訳じゃないけど
あの星空をエースがどう感じたかは分からないけど


不思議と同じ場所に同じ思いを重ねているような気がした。


包んでくれる温かいぬくもりは
一人じゃないって、同じだよって

そう言っているような気がしたから。



「ん?……でんでんむし鳴ってる!!」
「ペンギンじゃねぇの?」


いや、ペンギンからは昨日かかって来たばっかりだ。
それにこの時間。


ロイかもしれない。


夜光虫を見に行った帰り、甲板で聞こえたでんでんむしの着信音に思わず駆け出した。





「も、もしもし?!」
『遅くにごめん、早い方が良いと思って。』


でんでんむしを鳴らしていたのはやっぱりロイで
どうやらティーチの件らしいその口振りに、エースを振り返って頷いた。


「大丈夫!ちょっと出掛けてた。…何か分かったの?」
『ああ、名前だけじゃなくウイに聞いた特徴も全て一致した。ティーチは魚人島を経由して前半の海へ向かっている。』


ロイの言葉に
私の耳に当ててる受話器の反対側に屈んで耳を寄せるエースの肩がピクリと動く。


「…そっか。目的とかまでは、分かんないよね?」
『そこまでは流石に。でもいくつか情報は掴めた。』


どうやら海軍もティーチ達をマークしているらしい。


少なくとも3人以上仲間が居るらしいこと
その仲間らしき人たちの特徴

それと
黒ひげ海賊団と名乗っていることを、聞いた。


黒ひげって、何の冗談?
パパの掟を破っておいて、白ひげ海賊団の仲間を殺しておいて

よくそんな名前を名乗れると思う。


『また何か分かったら連絡するけど、あんまり良い噂は聞かない。…深入りはするなよ?』
「…うん。教えてくれてありがとう!」


深入りしないのは、無理だ。
落とし前着けようとしてるんだから。


でも本当に心配そうな声を出すロイに、それは言えなかった。








「行くぞ、前半の海。」
「うん!」


夜だけどフリーウィングなら大丈夫。
魚人島へのエターナルログポースが示す方向に船首をぴたりと合わせて、船を出した。



ティーチが名乗ったその海賊団の名前は
何か事情があったのかもしれないっていう、心の隅っこにあった期待をものの見事に打ち消した。

事情があった所で許せることじゃない。
でもティーチも、家族だと思ってた人だから。


私の気持ちを嘲笑うかのような
サッチの死を悼む気持ちを逆撫でするかのような、その名前。


やっぱり許せない。


進行方向を向いて夜の海を眺めているエースの背中も、同じことを思っている気がした。



「ウイ、頼みがあんだけど。」
「なに!!寒い!!なに!!」


ガタガタと震えながらこたつに入って暖を取る。
暖炉の真ん前でこたつに入ってても、外の冷気で冷えきった体は中々暖まらない。

流石のエースもアウター羽織ってるくらいだ。
こんな寒さでもほぼ半裸のポリシーを貫いてたら、エースは本当にバカなんだなって思ってたと思う。


「ルフィに会いに行きてぇ。」
「ああ、良いんじゃない?グランドラインに入って来てたんだっけ?」


深海を抜けて魚人島もスルーして、全速力で前半の海に戻ってきた私達は、ロイからの情報を元にティーチの足取りを追ってた。


今向かってるのはドラム王国。
この寒さには覚えがある。


絶対に冬島。
極寒。
雪。


「おう!ルフィもいっちょ前に賞金首だ!久々に会いてぇし、ウイにも会わせてぇ。」
「私も会ってみたい。寒いけど。」


エースの弟。
いつもエースが話してくれるルフィくんの話は、文句ばっかり言う割に凄く大好きで大切な事が伝わって来て

私がベポを腹黒!とか性格悪い!とか言いたくなっちゃう気持ちに近いんだろうなって思う。


でもそれ以前に
ルフィくんはエースが多少話を盛ってるとしても、中々愉快で破天荒な人そうだ。


「楽しみだなー、生ルフィくん。」
「すげぇぞ、ルフィは!とんでもねぇバカだ!」


エースも中々いい勝負だと思うけど。


そう思いながら、少し暖まって来た手を出して
篭の中のみかんをエースの前に置いた。


「剥いて。」
「自分で剥け。」


突き返されたみかんを眺める。

食べたいけど、面倒臭い。


「エースも半分食べて良いから。」
「俺は半分じゃ足りねぇ。」


私とエースの前を行ったり来たりするみかん。

それと別のみかんを篭から取って剥き出すエースは、こういうとこでは私を甘やかしてはくれないらしい。
剥き上がったみかんを半分に割って皮の上に置いた隙に
さっと自分の前のそれとすり替えた。


「1.5個食べれて良かったね。私優しいね。」
「っとに仕方ねぇな。」


結局エースが剥いた二個目のみかんも、半分に割った所で掠め取ってやった。


非難の籠った目で睨まれたけど、気にしない。


こたつでみかんは、冬の醍醐味だ。



「あの、さ。」
「んだよ、もう剥いてやんねぇぞ。」


いや、そうじゃなく。


もうすっかり暖まったらしいエースはアウターを脱ぎ捨ててすっかりいつもの格好だ。

窓の外をちらつく雪をバックに、室内とは言え半裸。

やっぱバカなのかな。
それともメラメラの実には寒さを和らげる効果でもあるんだろうか。


まぁ、そんなこと良いけど別に。


「ティーチ、ドラム王国を襲ったんでしょ?…しかもあっという間に国が滅んだって。」
「らしいな。そこまで目立つ力量はなかったんだがな、…どうしたもんだか。」


何てことないようにそう言うエースは、自分の身の危険とかちゃんと分かってるのかな。

仲間殺しを許す訳にはいかない。


でも、サッチは強かった。
パパも胸騒ぎがするって言ってた。


それに加えて、たった一瞬で国一つを滅ぼしたって…


「ねぇ、本当に大丈夫?…やっぱりパパの言い付け通り戻った方が良いのかな。」
「俺は戻らねぇぞ。…絶対にアイツを捕まえる。」


ぶすっとした顔でそう宣言されても、気持ちは分かるけど心配だ。


エースに何かあったら、私はどうなっちゃうんだろうか。


考えたくもない
かといって、エースの強さを信じてない訳でもない


「心配か?俺がティーチごときに殺られるかよ!」
「でも…。」


心配は心配だ。
エースが真剣勝負で負けたのは、パパ相手のアレ以外見たことがない。


でも手合わせなら、サッチにも負けた事がある。


「心配すんな!俺は負けねぇし、ウイも危ねぇ目に合わせねぇから!な?」


がしがし頭を撫でるその手からは、ほんのりみかんの匂いがした。

心配させないようになのか
負ける気なんて更々ないのかは分からない。


「負けたらラベル貼り1ヶ月無賃労働してやるよ。」
「言ったな?絶対だよ!負けたらダメだし、万が一負けてもちゃんと刑を全うしてよ!?」


分かった分かったって、半分呆れたようなその態度に
私の取り越し苦労なのかもと思う気持ちもちらほらしてきた。


約束だからね、エース。


絶対に負けないで。
負けたとしても、ラベル貼らなきゃいけないんだからね。

意味ちゃんと分かってるのかな。


絶対に死なないって、そう約束したんだからね。



「わー!雪止んだー!」
「まぁ寒ぃけどな。」


フリーウィングが海賊船ではねぇとは言え、国が滅ぶ程の大事件の後
国民たちの気が立ってる可能性もあり得る。

んなとこにウイを上陸させる訳にはいかねぇ。


港に送って貰った後はストライカーを船から降ろして、ウイに沖で待機を言い渡した。


「すぐ戻る。2日、2日経って俺が戻らなければ親父にそれ連絡してウイは戻れ。」
「え…。」


途端に心配そうな表情を浮かべるウイを、一人で待たせる事が
なんかいたたまれない。


「戻りはティーチも乗ってくかもしれねぇんだ。地下に檻かなんかでも作っとけ!」
「檻…?あの巨体を…?」


本気で脳内シミュレーションでもしてんのか、親指で支えた顎と唇に押し当てた拳が
ウイの気を少しは逸らせることに成功した事を物語ってた。


ぐるぐる巻きにして船で引いていけば良いんじゃない?とさも名案かのように手のひらで拳を打つウイの、ティーチへの怒りの度合いが垣間見える。


そりゃ拷問だ。
下手したら死ぬ。


拷問か。
でも確かに、そのレベルの仕置きが必要だな。


ウイの頭を撫でてやって、フリーウィングを降りる。


不満気な視線は、受け止めてしまえばいつまで経っても聞き込みに行けねぇ気がして
敢えて気付かないふりをした。


さっさと取っ捕まえて戻らねぇと。


防寒具なんて持ってない俺にウイが作ってくれたロングコート。

いつからか気に入ってよく被るようになったハットを目深におろし、ポケットに手を突っ込んで歩く俺に
住民達の警戒の籠った視線が集まる。


見たところ、街に目立った損傷は見当たらない。
けど通行人に話を聞くにも、この警戒されっぷりは上手くねぇな。


聞き込みなら飯屋か。


手近な店の暖簾を潜って中に入れば、店内はコートを羽織ったままでは暑すぎるぐれぇだ。


「腹減った!飯をくれ!」
「あいよ!兄ちゃん、見ねぇ顔だな!」


カウンターに腰を降ろせば、鼻先を擽る匂いにつられて腹の虫が鳴いた。


ウイも今頃昼飯食ってんのかな。


さっきまで一緒に居たのに、離れた途端にすぐ気になる。
ウイの為以前に、俺が早く会いたい。


さっさと片付けて戻ろう。




destruct at reality.