12-8


つい最近の出来事らしいだけに、飯屋の店主からも十分な情報は得られた。


ここにもう、ティーチはいねぇ。
そしてアイツはなんかの実を食った。


この辺りはそうでもねぇにしても、先の村は家屋がほぼ全壊のひでぇ有り様らしい。

それを、ティーチがやったと。


災害か何かみてぇだったと店主は言った。
急に吹き飛ぶように家が崩壊して、死人も何人か出たらしい。




俺はあんまり頭が回る方じゃねぇのは自覚してる。


ただ、無関係に思えねぇのが
サッチが殺される前に手に入れた悪魔の実。


ティーチは何の実も食ってなかった。
それが今は人知を越える力で国一つを滅ぼした。


あれは何の実だったか。
まさかティーチは、サッチが手に入れたあの悪魔の実を奪う為に…


だとしたらとんでもなく胸くそ悪ぃ動機だ。
そんなことの為に、アイツは家族を殺したのか。


確証は持てないとは言え、胸の奥にふつふつと沸き上がる怒りを感じた。


動機がどうであれ、舐めてかかったらマズそうだ。


「大変だったんだなー。」
「こっちはそうでもねぇさ。元から胸張れるような国でもなかった。…結局ワポルも戻って来ちまうし。」


大変なのはこっからだと苦笑いを浮かべる店主。

ティーチが暴れる前からこの国は色々と事情を抱えていたらしい。
ワポルっつー国王が医者を囲って国民から法外な治療費をぼったくる。


税金上げるより下手したらタチ悪ぃな。


医者と聞いて真っ先に頭に浮かんだ胸くそ悪ぃ顔。
店主の話に適当な相槌を打ちながらも、一度浮かんだその顔が中々消え去ってくれねぇ。


…告白されんのか。ウイに。
良いな。






半分愚痴な店主の話を聞きながら、出して貰った飯を綺麗に全て平らげた。


これも旨いけど、ウイの飯のが旨い。


「大変だろうけど頑張れよ!」
「ああ!兄ちゃんも頑張んな!」
「御馳走様でした!」


頭を下げて店を出る。
店主も愚痴を吐けて満足したのか、笑顔で見送ってくれた。


ティーチがここに居ねぇとなると、長居は無用だ。
さっさと戻ろう。


来た道を早足で戻れば、通りに二人組の村人の姿。


…一応聞いてみっか。





「なぁ、麦わら帽子を被った海賊がここに来たか?」
「…?知らねぇな。おまえ見たか?」
「いんや?」


アイツは煩ぇ。
知らねぇなら来てねぇんだろ。


「こいつがもしここに来たら伝えてくれ。俺は10日間だけアラバスタでおまえを待つって。…頼んだぜ。」


通行人に手配書を渡して踵を返す。
ロイだか言うウイの知り合いの海軍から仕入れた情報は結構膨大で
実際ここにもティーチは来てた。

次に向かうのはアラバスタだ。

目撃情報はここ以外ねぇけど、海軍曰くティーチが出没しそうな国がこの辺にいくつかあるらしい。

なんで出没しそうかまでは明かさねぇものの、何か理由はあんだろう。

つい最近までアイツがここに居たなら、近いとこからしらみ潰しに当たるしかねぇ。


「おい!ちょっと待ってくれー!アンタ名前は?!」
「あぁ、忘れてた。俺の名はエース。そいつが来たらそう言ってくれりゃ分かる。」


会えるかどうかは分かんねぇ。
でも、またウイを沖で待たせとくのはしのびねぇし
アラバスタはデカイ国だ。

すぐには戻れねぇだろうし
ウイを連れて聞き込みがてら暫く観光しながらルフィを待つのも悪くねぇだろ。


ティーチの件も、状況によっては長期化するかもしれねぇ。
片付けてからってよりも、さっさと会っちまって本腰入れて追った方が身も入る。


「おい!!そいつを捕まえてくれ!!食い逃げ野郎だ!!」





…やべぇ、バレた。


さっきの店の店主の怒声が迫ってくるのを感じて足早に通りを駆け抜ける。


走って逃げなくても捕まるつもりはねぇけど
あの心配で堪らねぇって顔したウイが沖で待ってる。


早く戻ってやらねぇと。


追ってくる声が止んだ後も、駆ける足は止まらなかった。



「戻ったぞー!」
「おかえりなさい!早かったね!」


船室の扉を開ければ、キッチンから顔を覗かせたウイの顔がぱぁっと明るくなってパタパタと駆け寄って来る。


これだ。
これが堪んねぇ。


顔見た瞬間にそれを喜んでる事がありありと滲み出たこの反応が、一番嬉しいと思う。


「ティーチは…居なかったの?」
「ちょっと前までは来てみてぇだが。海軍の情報通り、あの国はティーチが潰したらしいのは本当だった。」


そっかと目を伏せるウイに、ティーチの悪魔の実の話をすべきか悩む。

俺でもティーチの動機にたどり着いたぐれぇだ。
ウイならすぐにそれに気が付く。


家族が家族を殺した原因が物取りで
俺が追ってる相手が未知の能力者。


知って良いことあんのか?これ。


「どしたの?難しい顔して。」
「あー、…居るもんだと思ってたから拍子抜けっつーか、上手くいかねぇもんだなって。」


咄嗟に口から出た言葉は、嘘じゃねぇ。


「うーん、でも思ったより早く帰ってきてくれて良かった!」


…言えねぇ。
無事に戻ってきた俺をこんなに喜ぶウイに
悪魔の実の事を知らなくてもあんな顔するウイに、余計心配させるような事なんて
言える訳ねぇ。


隠し事がバレた気配もなくて、ウイは嬉しそうにキッチンに戻って行った。


「あ!そうそう!次ってどこ行く?近いんだったらアラバスタかな。」
「その予定!」


カチャカチャと食器を洗う音に、ウイは今日昼飯何食べたんだろうとか
一人で飯食わせちまって悪かったなとか
そんなことを思いながら荷物を片付ける。


アラバスタは確か砂漠。
ウイにあの踊り子っぽい格好とかさせたらすげぇ似合う気がする。


絶対可愛い。
見たい。


「ねぇエース、ロー達近くに居るみたいなんだよね。…アラバスタの後とか、ティーチ取っ捕まえた後でも良いから!…行ってきても良い?」


言いにくそうにそう切り出すウイに
邪な妄想でいっぱいだった脳内が暗黒の闇に切り替わった。





会いに行くってことは、つまり

アイツに告白しに行くって、ことだよな。



エースがドラム王国で聞き込みに行ってる時、でんでんむしが鳴った。
それは帽子を被った目付き悪い形相で。


珍しいなって思ってすぐ飛び付いたんだ。


どうやらドラム王国とそう遠くない海域に居るらしい皆。
前半の海に向かうって連絡してそう日も経って居なかったから
私の為に都合付けてくれたのかなとか、ローも会いたいって思ってくれてるのかなとか
ついつい頬がだらしなく弛んだ。


でも、今そんなことしてて良いのかなって。


そもそもエースはドラム王国でティーチを捕まえて来るかもしれないし
戻らなければパパに連絡しておまえは戻れって言われた。


ドラムにティーチが居なければ、次の候補地に向かわなきゃいけないし。


ローに、皆に会いたいけど
次に会ったらローに告白しようって、早く伝えたいなって思ってたけど
とてもじゃないけどそんな状況じゃない。


私の問題は、ティーチの件が片付いてからだ。


やれることがあるのに、それを放り投げてローに会いに行くのは
なんか出来ないししたくない。


そう思ってすぐに返事はしなかった。











「…あー。」


視線を宙にさ迷わせながら頭を掻くエースは、きっと私がローに告白しようと思ってるって言った事を考えてる。

嫌そうな、複雑そうな、そんな顔してた。


「…行ってこいよ!今。」
「え?」


それは予想外の展開だ。
なぜそうなった。


「ティーチをどうにかしてからで良い!今はそっちが大事!」
「いや、海軍に聞いた情報だとティーチ行きそうな島結構纏まってんだろ?俺その間そこ回って来っから!な?」
「だったら私も行く!」


ストライカーでさっさと回った方が早いって言う、エースの言い分も分からなくはない。


私がいたら
いちいちエースは私の所に戻って来なきゃいけなかったり
ティーチを捕まえるのにも役に立たないどころか足手まといだったり
するのかもしれないけど、でも…


エースに着いて行くって決めたのは私だ。
私だって何かしたい。


「正直行って欲しくねぇけど。でもウイを一人で沖に置いとくより、あんなんでもついててくれた方が俺も安心だ!」


だから行ってこい!って結構な力で背中を叩くエースを不満気に見上げた。


痛いし、なんか複雑だ。


私は本当に、何の役にも立たない。




「…あー、その。行くのは構わねぇしそっちのが良いんだけど。…戻って来んだよな?」
「当たり前じゃん!なんで戻って来なくなんのよ!」


意味分かんない事を言い出すエースについつい口調が荒くなる。

自分の無力さと
そっちの方が良いとは言え、こんな状況でのこのこ好きな人に会いに行かせて貰っちゃう自分に嫌気がさして
むしゃくしゃしてた。


完璧な八つ当たり。
エースはとばっちりを食らった方なのに、ほっとしたように笑うその顔に胸が締め付けられた。


「アイツとくっついちまったら、もう戻って来てくれねぇのかとか思って。なら良かった!」
「そんな無責任な事する訳ないじゃん!私は今ティーチを追う為にここに居るの!!」


いつかは会いに行くつもりだった。
でも今回はその為に来たんじゃない。

告白してローが受け入れてくれたとしても、じゃあ後はよろしくねってティーチの件をなかった事にする気なんてある訳ないじゃない。


「何も出来ないけど、エースが一人で無茶しないようにって!少しでも安全にって!!その為に来てるの!!」
「んな怒んなよ。十分役に立ってんだろ?情報もだし、飯とか寝る場所だってそうだし、そもそもストライカーじゃレッドライン抜けるの無理だっただろ。」


少しはマシだったかもしれないけど、きっとエースは私が居なくてもなんとかしてた。

情報だって、レッドライン越えだって
ご飯だって、休息だって

私が居なきゃ、私じゃなきゃ出来ない事なんかじゃなかった。


「それに俺はウイが居てくれるだけで心強い。…ありがとな!」


よーしよしよしって、ペットか何かでも撫でるように鼻息荒くぷんすか怒る私を宥めるエースは
やっぱり面倒見が良くて、私を甘やかすのが得意だ。


「ウイが色ボケかましてる間にさっさとティーチ捕まえとくから、そしたらすぐ戻って来いよ!」


ニカッと笑うエースのこの顔に、私は何度助けられただろう。

甘やかして、励まして、私の不安とか不満を取り除いて
最後にいつも、冗談混じりに雰囲気を変えてくれる。


私が気にしないようにって。


本当に、情けないな。



destruct at reality.