12-9
ロー達と連絡を取って、今から向かう事を伝えた。
さっきのでんでんむしでは今のゴタゴタが片付いてからって、断っちゃったから。
状況的に考えれば、効率の面でも、足手まといな私のお守りって面でも
エースが考えた案が最善だ。
二人で決めた事を遂行するのに
エース一人が頑張ってる間に
エースが嫌がる事をしに行くっていう
その状況が後ろめた過ぎるって、それだけだ。
「じゃあ後連絡すっから!」
「島移動する時と、着いた時!あとティーチ捕まえたらすぐ連絡して!」
ここからストライカーで向かうって言うエースを甲板でお見送りだ。
「分かったから。取り敢えずこれ全部回ってそれでも見つからねぇ時は合流してから次の手考えっか!」
「うん!私も情報収集して有益そうなのあったら連絡する!」
ロイの情報を元にチェックを付けた地図。
そのポイントは確かにアラバスタの周りに固まってる。
ストライカーで一気に回っちゃった方が早いか、これなら。
お荷物感満載な自分に落ち込みながら、リュックに地図をしまうエースの顔を見上げた。
無茶、しないでね。
「よし!行くか!…その前に。」
「へ?」
腕を引かれたと思ったら、エースに抱きしめられてた。
お日様みたいなエースの匂いと、あったかい体温、ちょっと痛い腕の力。
「ちょっと!!なに!?」
「暫く会えねぇから充電。」
うっかりされるがままになってた事に遅れて気付いて抗議の声を上げれば、全く悪びれない口調でそんな事を返して来る。
「じゃ、行ってくる!気を付けろよ!」
「エースの方こそ、気を付けて!」
離れて行った温もりは、ひらりと船縁を飛び越えて海面に浮かぶストライカーに着地した。
ブオン、というエンジン音と共に上がる水しぶき。
動作に問題ない事を確認したらしいエースが顔を上げると、ニカッといつもの笑顔を浮かべてストライカーを発進させた。
ストライカーのスピードはやっぱり凄く早くて
見えなくなるまで、その後ろ姿を見つめてた。
まさかあんな事になるなんて
この時の私は微塵も思ってなかったの。
最後だって分かってたら
死んでも離さなかった。
行かせなかった。
あの時に戻れるなら、戻りたい。
何度後悔したかなんて、もう数えきれない。
フリーウィングを出発して、快晴の空の下海を駆け抜ける。
流石に寒く感じてた風も徐々に和らいで、辺り一面代わり映えのない映像が流れていく。
ウイが居れば、何もなくてもただ楽しいのに。
アイツらのとこに行きてぇって言ったウイに
行くなと言えなかった。
本当は言いたかった。
告白しに行くって知ってんのに、アイツのものになりに行くって分かってんのに。
でも早かれ遅かれそうなる事だ。
それなら、海の上で一人心配しながら待ってるよりも
アイツらと居た方がウイも良いだろ。
俺もあんな顔したウイを一人沖に置いてくのも心苦しいし
何かあったらと思うとそれもそれで心配だ。
どこかの島影が見えて来たものの、流石にそれはアラバスタではなくて
無人島らしきそれが大きくなってはまた小さく離れて行くのをぼんやり眺めたりしてみる。
ルフィに、会わせたかった。
ルフィにもウイにも、お互いを紹介したかった。
どっちも気に入ると思う。
でもまあ、実際会えるかも分かんねぇしな。
告白か。
告白って、アレだよな。
好きですとか言うのか?
なんて言うんだろう、ウイは。
アイツといる時、どんな風に話してどんな感じなんだろう。
いつか見たあの愛しげな目であいつを見つめて、照れたように笑うんだろうか。
あームカつく。
羨ましい。
普段なら、ストライカーで海の上を走るのは結構気分転換にもストレス発散にもなる。
でも今回は無理みてぇだ。
この爽快感よりも、感傷的な気分が勝る。
俺の気持ちが届くことがねぇことは最初から分かってた。
でもどっかで
ウイの想いも届かねぇもんだと思っちまってた節がある。
好きだから怖いと言っていたウイは
いつか、その怖さを伴う好きよりも
安心できる俺の方に流れてくれんじゃねぇかって、心のどっかで期待してた。
ウイだって、強くなる。
強くなりたいと思ってたアイツが強くなることは喜んでやるべき事だと思うのに
いつまでも俺だけに頼ってくれる、弱いままのウイで居て欲しかったとか
最低な事しか浮かばねぇ頭に嫌気がさした。
なんて、言おう。
急に好きとか?
あれ?
それいつも通り。
パパのこととか、白ひげ海賊団のこと話して
私にも家族が出来たんだよって
もう怖くないよって?
あれ?
私ローにどこまで話したっけ。
自分をおすすめ出来ないとかしか言ってなかった気がする。
でもローは気付いてるかな。
頭も勘も良い人だ。
きっと私がなんで受け入れられなかったとかも、全部お見通しだ。
待ち合わせの島で、黄色い潜水艦を前に絶賛尻込み中だ。
来てしまったからには、せっかく来たからには
任務を遂行せねば…。
っていうか人増えたんだよね?
私寧ろアウェイじゃない?
でもローはわざわざ時間作ってくれたし、皆の仲間だ。
仲良くなりたい。
かと言って初対面で重たい話するのもアレだし。
じゃあローとベポとペンギンとシャチを別口で呼ぶのか?
エイジくんは?
…微妙なとこだ。
どうしよう。
どうすれば良いんだ?
取り敢えず最初は皆と仲良くなろう。
それで、最低でもローだけはなんとか呼び出す。
話があるって。
きっとローは時間作ってくれる。
そこで…
取り敢えず言ってみよう。
好きですって。
後はローが何か言ってくれるだろうし、その流れに任せる?
こんな適当な作戦考えたの初めてだ。
大事な事なのに。
でもいっか。
どんな伝え方したって、言いたい事は変わらない。
ローはどんな顔するかな。
何て言ってくれるのかな。
「ウイちゃん久しぶり。」
気配もなく急に聞こえて来た聞きなれた声と、懐かしい温もりを感じた。
抱き締められてるとかじゃなく、のし掛かられてる。
重い。
「ペンギン…重い。久しぶり。」
「何やってんの?入ったら良いじゃん。」
背後からひょっこり顔を出したペンギンの、特に笑顔を作るでもないやる気のない表情を見て
なんかほっとしないでもない。
ああそうだ。
私はこの人にも、ちゃんと話さなきゃいけない。
「入るんだけど、…って、え!?どこ行くの?」
「別に急いでないんでしょ。デートしよ、デート。」
ニヤリと何かを企むように笑うペンギンが腕を引いて歩き出す。
別に急いではないけど、まだ午前中の早い時間帯。
どこに行くんだろう。
っていうかペンギンはこんな朝早くどこに出掛けて…
あぁ。
出掛けてたんじゃなく帰って来たのか。
「相変わらずお盛んなようで。」
「大好きな人が振り向いてくれないから、ペンギン先生寂しいんだもん。」
嫌味を言えば逆にこっちが嫌味を返される始末。
久しぶりなのに、全然変わってない。
寧ろ、何だかんだで離れてる間一番良くでんでんむしで話してたのはペンギンだ。
私に電話してる時間がなくなれば、ペンギンだってもっと遊びに出歩けるし
好きな人だってすぐ、出来るんじゃないかな。
この人の事も、いつまでも私一人が独占してて良いわけない。
「ねぇ、どこ行くの?」
「ウイ朝飯ガッツリ食った?」
相変わらず人の話を聞かないな、きみは。
マイペースな癖に歩く速さは私に合わせてくれてる。
自分勝手なそういうとこに隠されたこの優しさで、何度も助けて貰った。
「さらっとしか食べてないけど。何か食べに行くの?」
「食べるとしたら後だな。前はいくらウイでも止めといた方良いと思う。」
は?
さっぱり意味が分からない。
結局行き先も目的も分からないまま腕を引かれるがままに歩き続けて
周りの景色は夜に向けて活気を蓄える静かな繁華街を抜けて、新緑の眩しい木々が生い茂る林道へと変わっていた。
道中の会話と言えば相変わらず他愛もないふざけた話ばっかりで。
やたら美人そうな雰囲気の人の顔を覗き見る為に不自然に振り返ってみたり
後ろ姿巨乳当てクイズを始め出してはそれに参加させられたり
男の人ってバカだなって思いながらも、うっかりつられて楽しんでた。
「あの足首の締まり具合は絶対デカい!」
「いやあの人細いじゃん!そうでもないよ!」
道行く女性の皆さんごめんなさい。
世の中の男の人は、女の人をそういう目でしか見てない生き物なようです。
でも
最低だと思いつつも、結構楽しいです。
「あの…、ペンギン…これは…?」
「すげぇ面白ぇから!昨日シャチは8回飛んだ!」
たどり着いたらしい目的地は、川の上に架かる吊り橋。
近くの小屋に顔を出したペンギンは仲良さげにおじさん達と話してた。
あれよあれよと言う間に吊り橋の中央に連れて来られて
足やら体にベルトのような物を装着されたと思えば、同じようにそれを着けたペンギンに後ろから抱えられるようにドッキングされた。
「いや、ちょっ!待っ…
「レッツバンジー!!」
事態を飲み込むより早く、覚悟を決めるより前に
らんらんと目を輝かせるペンギンが私を抱えて橋から飛び降りた。
「きゃああぁァァアァァアーーーッ!」
「たーまやー!」
川から吊り橋までの距離は結構な物で
猛スピードで迫ってくる水面と、見投げしたかのようなその感覚に一瞬死を覚悟した。
足はぞくぞくすくむし心臓が口から飛び出るかと思った。
体を置いてけぼりにして意識だけ先に落っこちてるんじゃないかって、とにかく凄い速さで近づいてくる川に頭が着いて来ない。
バイーン
「っあははっはは、なに、これ、たのしーい!!」
水面すれすれでベルトに引き留められるように落下を止めた私達は、今度は重力に逆行して宙に放り出される。
体に浮遊感を感じたと思えばまた落下。
なにこれ、超楽しい。
「面白ぇだろ、ベポ昨日これで号泣。」
「ベポ飛んだの!?チキンの癖に!」
川辺に待機しててくれたおじさんが、宙吊りになった私達を小舟で助けに来てくれて
あの熊の兄ちゃんは凄かったなって爆笑してた。
ジェットコースターでも半泣きなベポにこれをさせるとか、それは凄い叫びっぷりだっただろう。
親友の恐怖体験を想像して、申し訳ないけど笑ってしまった。
私も見たかった。
「ねぇ、私もっかいやりたい!今度は一人で飛んでみたい!」
「言うと思った。」
昨日ペンギンもシャチ程ではないにせよ散々飛んだらしい。
ペンギンはもう飛ばないらしい事に少し引っ掛からなくもなかった。
ウイのアホ面見ててあげるって企むように目を細めたその顔に込められた意味に、私は気付けてなかったんだ。
だってペンギン
基本いつも悪巧みしてるような顔、してるから。