12-10
「うわぁー。これ自分で飛ぶの勇気いるね!足すくむ!下怖い!!」
「一人で飛べんの?」
一人用のバンジーのベルトを装着して貰って、わくわくしながら橋の下を覗き込めば中々怖い。
一緒に飛び込み地点まで来てくれたペンギンはニヤニヤ笑ってて
バカにすんな!って思いつつも、実際結構怖い。
飛んじゃえば楽しい筈。
さっきもめっちゃ面白かった。
でもこの高さを自分で踏み出すのは勇気がいる。
「自分のペースでいいぞー嬢ちゃん。」
バンジー小屋のおじさんは飛ぶ瞬間に怖じ気付く人なんて見慣れたものなのか
けらけら笑いながら見守ってくれてた。
「行ける。私、飛べる。目とか瞑ってた方良いのかな…いや逆に思いきっ……ぅわっ!」
「あ、悪ぃ手が滑った。」
嘘だろおまえ。
突然押された背中。
傾く体を防ごうと出した足の先に橋はなくて
そのまま再び心の準備も出来ずに真っ逆さまに川へと落ちていった。
「キャアアァァァアァァアッ!!!!」
「あっはっは!うるせーうるせー。」
「楽しかったな!」
「楽しかったけど酷い!心の準備ってもんが必要でしょ!」
バンジーの帰り道、人通りもまばらな林道を二人で並んで歩いてた。
結局二回ともペンギンのペースで飛ばされた。
寧ろ二回目は突き落とされた。
昨日も来たらしい皆。
どうせビビってる人を後ろから突き落とす遊びが流行ったんだろう。
想像に易い。
そういう人達だ。
私もきっとやっただろうな、絶対楽しそう。
「チキンの背中押してあげたんだから感謝してよ。」
「面白がってただけでしょ絶対!…あーでも楽しかった!また飛びたい!」
人生初のバンジージャンプは中々衝撃的な体験だったけど
あのスリルと爽快感にびっくりし過ぎたのが合わさって、色々考えてたのがどっか行っちゃった。
「連れて来てくれてありがとね!」
「朝から面白いアホ面見せてくれてありがとね。」
どういたしましてって素直に言わない所もペンギンらしい。
偶然、だよね?
まさか私がどうしようか悩んでたから気分転換に誘ってくれたとか、流石にそういうのではない筈。
「ウイちゃんアイス食って帰ろー。」
この人実は凄く人の気持ちに敏感だけど
それ以上にマイペースな人だから。
「スプーン取って。」
「そのままで良いじゃん。」
ペンギンが食べたいと言った露店のソフトクリーム。
買って貰っちゃったそれは、確かにそのままでも食べられなくはないけど。
ぺろりと真っ白なクリームを舐めれば、甘くて冷たいそれは叫びまくった体に染み渡る。
「甘いー濃いーおいしー!」
「そのまま食った方がなんかエロいじゃん。」
なん、だと?
なんて事ないようにそう言いながらじっと凝視してくるペンギンに、ぴしりと固まってしまった。
エロ…い、とな。
それはこう、ぺろっと舐める感じがエロいのか。
そんなもんだろうかと同じくソフトクリームを食べてるペンギンの様子を観察してみるけど
超ハイペースで食べ進めるその様子にはエロさなんて微塵もない。
「そうでもないでしょ。ペンギンの頭はそんな事しか考えてないの。」
「エロいじゃん。俺の頭の中常にそういうことでいっぱい。」
急に身を乗り出して来たかと思えば、コーンを持つ手ごと握り締められて溶けかけのソフトクリームとコーンの境目をペロリと舐め上げたペンギンがニヤリと笑った。
ああ、本当だ。
えっろーい。
じゃなかった。
「なにしてくれんのよ。」
「ウイ食うの遅いから溶けちゃうじゃん。」
期待の籠った目で私がソフトクリームを舐めるのを心待ちにしているペンギンを無視して、露店の人にスプーンを貰う。
これで普通に食べられる。
変な事言われると食べずらくて仕方ない。
ちぇっとつまらなそうにガリガリとコーンを噛るペンギンは、人で勝手にエロい妄想を楽しむ事は諦めてくれたらしい。
それにしても美味しい。
運動後に自然の中で食べるソフトクリームは格別だ。
太陽の日差しを透かすように黄緑の柔らかい光を届けてくれる木々を見上げながら、なんか平和だとか思わなくもない。
「ご馳走様でした!」
「こちらこそ。」
ソフトクリームはペンギンが買ってくれたのに、どういう事だとその顔を見上げれば
「間接ちゅー。」
「……はいはい。」
ルンルンで先を歩くペンギンの後ろ姿を呆れた顔で眺めながら、確かにそうだったなって
遅れて恥ずかしさが襲ってきた。
「ねぇペンギン。」
「なにー?」
石ころを蹴りながら歩くペンギンに、人に当たるからやめなさいって注意しても全くそれをやめる気配はない。
言わねば、ペンギンにも。
「あのね。私ローに…ちゃんと、告白しようと思う。」
「へー、ふーん。あっそう。」
漫画じゃないけど、その拍子抜けする返事にはずっこけそうになった。
あまりにも素っ気なさ過ぎてこっちが驚く。
…ペンギンはもう、私がこんな事言わなくても私の事なんてとっくに吹っ切ってたのかな。
「ペンギンはもう、他に好きな人でも出来たの?」
「今も好きだよ、ウイのこと。」
照れるでもなく、さも当然のように話すペンギンの考えてる事が読めない。
じゃあ何で、そんなどうでも良さそうに私の話を聞いてるんだろう。
「あの、告白、するから!…だからペンギンもちゃんと…
「ムカつく。」
「は?」
この人本当に意味分かんない。
眉を寄せて片眼を細めてるペンギンが苛立ってる事は何となく分かるけど、何に?
私が告白するってとこか…?
「じゃあウイは、俺がキャプテンのこと諦めてって言えば諦めてくれんの?」
「…あー、なるほど。」
よく分からないけど何となく分かった。
確かに人に言われたからってそうそう気持ちが変わる訳ないか。
エースも結局私が告白するって言ってもお構い無しだったもんな。
…でも良いのかな、これ。
なんか結局私が周りを振り回してる事は変わらない気がする。
「なんで俺が誰を好きでいるかまでウイに決めらんなきゃいけないの。」
「そういうつもりじゃないけど。」
そういうつもりじゃなかったけど、そういう事だ。
確かに私は自分の都合だけで、人の気持ちが変われば良いと思ってた。
「何に気ぃ遣ってんのか知らねぇけど、悪いと思うくらいなら告りになんて行くな。」
「…行く。もう決めたから。ごめんありがとう。」
ふんと鼻を鳴らすペンギンが再び小石を蹴り始めて、その少し後ろを着いていく。
「モテる女はつらいね。精々ペンギン先生の恋心を思って苦しんで。」
振り向き様にそう言ってニヤリと笑うペンギンに、ため息を吐いた。
これは結局背中を押されたのか?
よく分かんないけど
私を好きになってくれる人は揃いも揃って曲者揃いだ。
「ウイ遅かったね!聞いてた海域からだったら昨日の内に着いてたのかと思ってた。」
「着いてたんだけど、外でペンギンに会ってバンジーして来た。」
昨日の恐怖体験を思い出したのか、ベポがピシリと固まる。
楽しかったよって話しても、思い出したくもないのか不機嫌そうなベポが可笑しい。
やっぱり泣き叫びながら宙吊りになるベポを私も見たかった。
「ウイさんはじめまして!つなぎありがとうございました!」
「「「「っした!!」」」」
白いつなぎの集団が一列に整列したかと思えば、全員が揃って深々と頭を下げる。
とても躾が行き届いているというか、どこの軍隊かと思った。
「あの、そんな畏まらないで!私こそ急にお邪魔してごめんなさい、よろしくね!」
「「「「「よろしくッス!!」」」」」
流石海賊。
ガタイの良い体付きの彼らの号令には圧倒されてしまう。
「ウイさん俺ウイさんの飯食べたい!」
「あー、噂のシャチさんの飯が不味く感じるミラクル料理!?」
「俺も!!俺も食いたいッス!」
「てめぇらぶっ殺すぞ!」
とんだ貰い事故の被害を受けたシャチが苛立ったように声を上げればやべぇとリビングから逃げて行く彼ら。
なんだか愉快そうな人達だ。
仲良くなれそう。
「来て早々悪いな、鮭と昆布多めで頼む。」
「はぁ!?そりゃないっすよ船長!!」
「そっスよ!!何しれっと昼飯おにぎりで決定みたいな流れにしてんスか!」
「折角女の子が作ってくれんならもっとそれっぽいのが良いッス!!」
「俺オムライス食べたい。ふわとろ卵のやつ。」
「「「「「じゃあそれで!!」」」」」
なんだこの人達。
コントか。
コントなのか。
突っ込み要員と賑やかし隊がもの凄く増えた、そんな感じ。
おにぎりに盛大な却下を食らったローは面白くなさそうな顔をしてるし
反対に自分のリクエストが通ったペンギンは鼻唄なんて歌いながら上機嫌だ。
いや、良いんだけどさ、オムライス。
でもこの人数分は流石に一人で作りきれるだろうか。
「シャチ手伝って。」
「やだ。たまには休ませろ。」
酷い。
即答された返事にへこみながらも、楽しみって言って喜んでくれるのはなんか嬉しい。
よし、やるか。
「全員いっぺんには無理だから出来た人から先食べててー。」
「「「「はーい!!」」」」
チキンライスを盛った皿の大行列と、大量の卵の山。
なんだかんだで手伝ってくれるシャチがボウルに卵を割っては混ぜてくれてる。
本当に皆、返事も良ければ愉快でいい人そう。
皆ローを慕って集まったんだもんね。
どこか通じる物はあるんだろう。
ふわとろ卵は作るのが面倒臭い。
強火でガッて火を入れちゃえば早いんだけど、ふわとろのタンポポオムライスにするなら時間がかかる。
シャチは焼くのは手伝ってくれないし。
「だって俺どう頑張っても卵はウイみてぇに出来ねぇもん。」
確かにコツを掴むまでは難しいかもしれないけど、こんだけ大量の卵を目の前にオムレツ作り続けるとか
結構カオス。
「ウイちゃん次俺ー。」
「絶対二度取りすんなよ!今日それやっても本気で作ってあげないからね!」
卵大好きペンギンに予め釘を刺して、チキンライスの上に卵をころんと乗せてあげる。
ちぇっと舌打ちが聞こえてきたけど無視だ。
今日は本当に無理。
おかわりどころか全員分作るのに精一杯。
「うっめ!何これマジふわとろ!シャチさんの飯マジでカスッスね!」
「だろ!ウマいっしょ!ウイの作るふわとろ卵!」
バキっ
「シャチ落ち着いて!菜箸に罪はない!」
「俺もう飯当番辞めて良いかな。」
なんか嬉しいけど、シャチに申し訳ない。
へし折った菜箸を流しに放り投げて新しい物を出したシャチがしゃかしゃかと卵を解いてくれる。
その手つきは凄く手慣れてて、こんな人数のご飯を一人でいつも準備してるなんて
私よりもう料理の手際は良いんじゃないかと思えてくる。
慌ただしいけど楽しいなって思いつつ、さっきから全然ローと喋れてない事が戻かしい。
でもまずは新しいハートの海賊団の皆と仲良くなるのが目的だ。
まだ今日来たばっかり。
時間は…
いつまで一緒に居られるんだろう。
「ロー、ここにはいつまで居られるの?」
「別に決めてねぇ。」
わぁ。
まだお昼がおにぎりにならなかったことに拗ねてる。
むすっとしながらオムレツ行列に並ぶ気配もないローがなんだか可愛い。
明日の朝ごはんはシャチと一緒におにぎり握ろうって、そう思った。
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