12-11
その日の夜は皆で大宴会。
スペード海賊団で培ったコールを新メンバー達に仕込んで、標的を決めての潰し合いが敢行された。
お陰で大分仲良くなれたし、私と一緒に旅してた皆はどうやら初代って呼ばれて一目置かれてるらしい。
「中でも船長は別格ッスよ!」
憧れの存在らしいローの話を聞けるのはなんだか楽しい。
皆目をキラキラさせながらローのこんな所が凄い!カッコいい!って一生懸命話してくれる。
なんだか、嬉しくてニヤけてしまう。
「でもウイさんもある意味レジェンドッスよ!」
「私が?」
なぜに。
なぁ?と同意を求め合う皆が顔を見合わせながら頷いている。
ベガス聖の御用達職人だからだろうか。
「だってあのキャプテンを手玉に取るだけに留まらずお預け食らわしてるんッスよね!?」
「すっげーよウイさん!船長絶対どんなに誘っても女買いに行かねぇもん!くそモテんのに!」
キラキラ輝く目がこっちに集中して、たじろいでしまう。
話が大分逸れてる上に飛躍してる。
本当にそうなら確かに私凄い。
そりゃレジェンドだ。
「あの、違う!そういうんじゃない!」
「え?じゃあ実際どうなんスか!?」
「聞きてぇ!その話超興味ある!!」
いやあの、これ
どうしよう。
ちらりとローの方に視線を向ければ別のクルー達に囲まれてるし、ベポもペンギンもシャチもそれぞれが談笑しながら飲んでる。
やべぇ、逃げらんない。
「本当に!あの人手玉に取るとか無理だから!出来ないから普通に!」
「なんか親密ぅー!!」
「理解し合う二人…的な!?」
ダメだこりゃ。
酔ってるせいもあるのか上手く撒けない。
「いやマジ勘弁!たんまたんま!!」
ふと聞こえて来たシャチを飲ませようと言うコール。
これを逃す手はない。
「行くよ皆!シャチをぶっ潰すチャンス!!」
「おっ!!良いッスね!」
「えー?船長との恋物語はー?」
何人かが不満そうにぶーぶー文句を言っていたけど無視だ。
どうせ酔ってる。
騒いでれば忘れる。
「シャチー!なんでジョッキ持ってるの?」
飲み足りないんでしょ?と言いたげな私の雰囲気にシャチを囲んでいた皆と私が引き連れて来た皆がニターっと口の端を吊り上げた。
「ちょっと待て!!何で俺ばっかり!!」
「あ、起きてきた。おはよー。」
「昨日はどうもー。」
キッチンに顔を出したシャチのあまりの顔色の悪さに思わず吹き出してしまった。
昨日あれからも大分飲ませた。
相当な二日酔いなんだろう。
「おまえのタチの悪さがグレードアップした事は良く理解出来た。」
「可愛い妹の戯れじゃん。」
コップの水を一気飲みして尚具合の悪そうなシャチは、こんな状態でも皆の朝ごはんを作る為に起きて来るのか。
それでカスとか言っちゃう皆も中々だな。
「休んでて良いよー?私作っとくから。」
「当然だ。おまえのせいだろ大体。」
ぶつくさ文句を言いながらも、食堂で顔を伏せてるシャチは何だかんだで優しい。
寝てて良いのに、ここに居てくれるんだから。
特に何かを話す訳でもなく、淡々とおにぎりを握る。
今日はどうせ皆起きてくる時間もまばらだろうから、セルフでどうぞって事にして食堂に置いておこう。
ローの分別に取って置かないとまた拗ねるな、アレは。
好物に関してはどこまでも子供っぽいとこをさらけ出す好きな人を思って、昨日言ってた鮭と昆布のおにぎりを何個か別皿に取り分けた。
「ウイ今晩久々に麻雀しよーぜ。」
「良いね!それまでには復活してね。」
任せろと親指を突き立てる割に、弱々しいその声は本当に大丈夫なのかと疑わしい所だ。
頭痛と吐き気に苦しんでるだろうシャチに多少申し訳ない気持ちを抱かなくもないけど
でも昨日は楽しかった。
ぷるぷるぷるぷる
ぷるぷるぷるぷる
でんでんむし…エースだ!
「もしもし!」
『はよ。眠ぃ。』
欠伸までしっかり聞こえてくるその声は一昨日まで毎朝聞いていたもので。
でんでんむし越しのそれが何だか新鮮に感じる。
「昨日どこで寝たの?」
『宿。今から飯。』
「どうせまた食い逃げするんでしょ、あのタチ悪いヤツ。」
煩ぇって言いながらも、この人は絶対やる。
宿とかはちゃんとお金払う癖になんでご飯食べる時はお金払わないんだろうか。
「ティーチ居た?」
『いんや。もう少しアラバスタで様子見たら次行くわ。』
「そっか。」
取り敢えずいつも通りな感じのエースにほっとした。
皆と楽しく過ごさせて貰っちゃってるけど、エースが国一つ滅ぼすような相手を追ってるってことは変わらないから。
『そっちは?変わりねぇか。』
「バンジーしてきた。」
『はっ?』
は?って言われたって、してきたもん。
バンジー。二回も。
「今度一緒行こう!楽しかったよ!」
『あー、今度な。…いや、そうじゃなく。』
言葉を濁すその様子に、エースが何を聞きたかったのかを遅れて理解する。
あぁ、そういうことか。
でもどうしよう。
半分死んでるけどシャチもいるしな。
「まだ、だよ。」
『あー、そう。』
なんとも言えない返事だけど、それは伝わったんだろう。
エースも気にして、るよね。やっぱり。
早いとこ伝えなければ。
『じゃあ俺行くわ。また連絡すっから。』
「うん!気を付けてね。」
ふぅ。
さて、どうしたものか。
「今のエース?」
「え?うん!」
やっぱり電話してたのが聞こえてたらしいシャチ。
テーブルに顔を突っ伏したままで喋ってるその声はくぐもってる。
「一緒来てたのか。」
「うん。」
それっきりシャチはまた屍のように何も言わなくなった。
ただ気になっただけなのかな。
食堂の外でガヤガヤ皆が起き出して来た気配を感じて、鍋に火をかける。
今日はローに、言えるかな。
「はよッス!お!朝からウイさんの飯!」
「おにぎりじゃん!船長今日1日機嫌良いな!」
「おはよー。」
急に賑やかになった食堂で、起きてきた人の分のお味噌汁をよそってあげた。
仲良くなる口実にと初代を中心に飲ませて回ってたせいか、他の皆はシャチみたいなグロッキーさの欠片もない。
「シャチさん生きてます?」
「年じゃないッスか?」
「うるせぇてめぇら…ペンギンのが年だ。」
受け取った味噌汁のお椀を持ってシャチを囲む皆の姿にほっこりする。
皆仲良いな。
でも、本気の二日酔いの時は放っておいて欲しいよね。
うん。
「あ!キャプテンおはようございます!」
「はよッスキャプテン!」
「あぁ。」
いつも通りのポーカーフェイスで食堂に姿を現したローが、テーブルの上のおにぎりに目を止めた。
喜んでる。
分かりにくいけどあれは喜んでる。
些細な事なのに、そんなほんの少しの仕草が読み取れる事が嬉しい。
好きな人が同じ空間に居るっていう事が、堪らなく幸せだと思った。
「え!?マジすか!?」
「こっちで一緒やりましょうよ!」
「俺はそっちッスよね!?」
夕暮れ時のポーラータング号。
そのリビングではハートの海賊団のメンバーが口々に不満を漏らしていた。
「いやどうせ別々ならエイジはこっちだろ!」
「は!?なんで!?ウイさん俺そっちっすよね!?」
今晩は俺ら麻雀するからって、初代がフリーウィングの方に来るって話をしたら
この有り様だ。
皆とも仲良くなれたから、一緒にわいわい騒ぐのは楽しい。
でも、懐かしいメンバーと色々話したい気持ちも正直ある。
「あはは。どうなんだろ。」
「おまえはそっち。積もる話があんだよ、俺らには。」
「ええええーー!酷い!酷いッスシャチさん!!!」
その喚きっぷりに呆れたらしい他のクルー達が
しがみついてでもこっちに来ようとするエイジくんを捕獲してくれて、いってらっしゃいって見送ってくれた。
なんか、申し訳ない。
「なんか久しぶりだね、この感じ。」
「皆は普段はこのメンバーで話とかしないの?」
「誰か混じってたり誰か居なかったりかなー。」
そう離れた所には停めてないとは言え、港を5人で歩くこの感じは確かになんだか懐かしい。
ベポのもふもふの腕に巻き付くように腕を組んで先頭を歩きながら後ろを振り返れば
後を着いてくる3人の態度というか、その風貌はとんでもなくガラが悪い。
「なんかチンピラみたいだね、皆。」
「うっせーよ!」
元から大人数で居るときにはあんまり喋らないローと、マイペースに海を眺めながらポケットに手を突っ込んで歩くペンギン。
私が話しかけた言葉に返事をくれるのはシャチだけだ。
「そういえば皆、負け分清算してないんだからね!」
「時効だろ時効。」
一年以上かけて作った私の賭け貯金は簡単になかった事にされるらしい。
まぁどうせ今日も勝つから良いけど。
都合が悪くなった途端に視線を逸らして口笛を吹き出すシャチが分かりやすくて可笑しい。
なんだか本当に、やっと皆のとこに戻ってきたって
そんな気分になった。
さて、どうしたもんか。
メンツはキャプテンとウイとベポ。
八巡目でテンパイ。
リーチで裏が乗れば跳ねる。
キャプテンから直取りかツモれば逆転イッチャ。
ダマでも7700。
俺の親はもうねぇし、これアガんねぇとウイも捲れねぇ。
しかしこれ、リーチ掛ければ確実にベポ以外からは出ねぇな。
ツモれるか?
「何そんな考えこんでんの。」
「さっさと切って。」
ベポとウイからの催促が煩い。
そしてだんまりのキャプテンの捨て牌はあからさまにクサい。
中々そんな分かりやすい切り方しねぇのにそう出るって事は結構高い手がもう出来てるかそれに近い筈。
振ってケツは避けてぇ。
「ハイハイ。」
ここはダマだ。
相変わらずバカツキしてるウイと手強いキャプテン相手に、そんなリスキーな賭けはできねぇ。
「おっ!ラッキー!!愛情リーチ!!」
「えー…またぁ?」
「…マジかよ。」
点棒を河に放り投げたウイが、牌を横向きに叩きつけた。
この引きの良さは正直ドン引きレベルだ。
わざわざリーチしただけじゃなく愛情リーチとか言う位。
そこそこ高そう。
にこにこ楽しそうなウイがキャプテンにさっさと引けと促せば
親リー相手にノータイムで危険牌をツモ切りするこっちもこっちで怪しい。
自分のツモ番で巡って来た牌は、キャプテンには通りそうだけどウイに刺さりそうな嫌な予感。
「ウイちゃん竹さん欲しい?」
「教えなーい!」
くそ。
可愛い。
憎たらしい顔で舌を出すウイに眉を寄せつつも、ここで突っ張ったらさっき勝負を仕掛けなかった意味がなくなる。
一旦頭落として回るか。
張ってるっぽい二人へのアンパイを河に投げた。
「ロン!タンのみ。」
「ベポやるじゃん。助かったわー。」
「最低!超アガりたかったのに!」
千点棒一本で済んだ事にほっと息を付きつつも、ベポも地味に張ってはいた事には驚きだ。
アガりたかった!とウイが倒して見せた手配に背筋が凍る。
リーチ、三色、タンヤオ、イーペーコー、ドラドラ。
筋引っかけといて愛情リーチとはよく言ったもんだ。
でもこれダマで振ったらマジ地獄。
ダマでも跳ね確。
やっぱウイちゃん怖い。