12-12



「ローも張ってたでしょ!?何待ち?」


手配を見せろと詰め寄るウイに、ふんと鼻を鳴らしたキャプテンがそれを倒す。

それは予想通りのピンズ祭りで。







え、ちょっと待て。
これ何待ち?



「高めでメンチン、タンヤオ…3か6ならイーペーコーも付く?え…倍満!怖っ!!ロー怖い!!」
「染めてるかなーとは思ったけど。ペンギン俺に感謝だね。」
「だな。どっちに振っても地獄かよ。」


差しこんだ訳じゃねぇけど、これはベポに振って良かった。
俺の上がり牌はキャプテンに独占されてるし、この状況で突っ張るメリットがねぇ。


「俺基本打ちたい派だけど、こういうの見ると抜けで良かったって心底思う。」
「「激しく同感。」」


キャプテンもウイも、強いし上手いのは分かってるからこそ攻め時に迷う。
無駄に攻めなくなった結果、放銃率も減ったけど和了率も激減だ。


「でも皆強くなったよね。前程バカ勝ち出来なくなった!」
「さっさと積め。」


バカ勝ちはしてなくても普通に勝ってるウイと、今回の勝ち度合いによっては総合でウイを捲れるキャプテン。

ラス親のキャプテンがげっそりしてる俺らに構うことなくさっさと自分の分を積んで、最終ゲームの開始を促した。


「ねぇ、今日朝まで打つの?」
「私はイケる!余裕!」
「俺もう寝みぃわ。」


こんだけ勝ってればそりゃ朝まで打ちたくもなるわ。
シャチは眠そうだけど。


「これでラストなら今決めろ。出方変わんだろ。」
「まだ明日だって明後日だってあんじゃん!な!」
「えー…もう戻っちゃうの?負けて逃げるの超ダサい。」


不完全燃焼とでも言いたげなウイに、俺が眠ぃのはおまえのせいだと食って掛かるシャチ。


俺はどっちでも良いけど、今日はこれでお開きになりそうな雰囲気。


「どうせ戻ったってあっちでもやってるんでしょ?こっちで打ってこうよ。」
「俺は久々にこっちで寝る。本気で眠ぃ。誰かさんのせいで。」
「地下そのままにしてるからベッドあるよ!」


まだ打ちたかったらしいベポの発言はこっちに居るなら良いらしいウイの裏切りによってあっさり却下された。


「まだ終わってねぇ。それでいいからさっさと積め。」


これでラストか。
サンチャを死守、それがベストだ。




「ロー残念だったねー。」
「毎回狙い通りに勝てるもんじゃねぇだろ。」


負け惜しみだの煩ぇだの、本人達にその気はないのかもしれねぇけど
イチャついてるようにしか見えねぇ。


ウイに布団を出して貰った途端嘘だろと突っ込みたくなる勢いで眠りこけたシャチ。

散々まだ打ちたいと文句を言いつつも同じくマッハで夢の世界に旅立ったベポ。

そしてこの二人。


「俺ちょっと出てくるわ。」
「あぁ。」
「いってらっしゃい!」


何があぁ、だ。
スカした顔でそう答えるキャプテンに若干いらっとした。


船室の扉を閉めて外に出れば、心地良い風。


なんか俺、告白するらしいウイに状況的アシストをしてやった感じもしなくはない。


まぁいっか。


あの二人が拗れ合ってようとくっつこうと
ウイを好きな気持ちがなくなってくれることはない。


諦められたらどんなに楽か。
他のヤツを好きになれたらどれ程楽か。


そんな試み、とっくの昔に試して無駄なことは立証済みだ。


それでも
叶わなくても

ウイ以外の女をウイみてぇに思えねぇ。


「あほくさっ。」


俺はキャプテンみてぇに潔癖で居られる程出来た人間じゃねぇ。
それにキャプテンと俺とは訳が違う。

我慢した先にお宝確定なキャプテンと
我慢したところでその先に宝がある保証はない俺。

寧ろない確率の方が高い。


そんなんで人間の三大欲求の一つを我慢するとか
俺には無理。





「ペンギン?」
「…あゆみ?」


目の前でイチャつかれたせいで、やや気が立っていた。

誰に非難された訳でもないのに、己を正当化しつつ夜の繁華街を歩いていれば聞き覚えのある声が鼓膜を揺らす。


「うそ!?旅してるんじゃなかったの!?久しぶり!うそ!!なんで!?」
「久しぶりー。」


以前この島を訪れた時に、一人飲み屋でとんでもない量の酒を飲んでは店員にクダを巻いていたその女。

見た目もタイプ。
性格もタイプ。
どこかの誰かを思わせるような
ちょっと女としてどうなのっていう豪快さと、変なとこで乙女ぶるくせに上手く出来ていないような、そんな女。


「一人?久しぶりに飲もうよ!」
「俺女の子買いに行こうと思ってたのに。」


ここは引いた方が良い。
直感でそう感じた。


「ローも今日はこっちで寝てくでしょ?お布団出しとくね!」
「手伝う。」


ローが使ってた部屋。
カレンにもエースにも使って欲しくなくてあの時のままにしてた。
ゆっくりしてて良いのに、階段を昇れば後ろからローの足音が着いてくる。


たかがベッドメイキングなのに、二人での共同作業が
ううん、一緒にしてくれなくても良い。
近くにローが居て、同じ空間に二人で居られるだけで嬉しいしドキドキする。


自分の部屋の向かいのドアを開ければ、そこはもういつかのローの名残は薄れてきっていて
それでもやっぱり、この部屋に来る度に真っ先に思い浮かぶのはローだ。


また暫く、この場所に思い出が残る。


「懐かしいな、もう2年近く経つのか。」
「本当だね。私ももうすぐ20歳だよ!」


宣言通り手伝ってくれたローの指揮のもと張られたシーツは
ビシッと皺一つなくて、そんな所にもローの性格を感じた。


完璧主義。




もうロー達と出会って4年経つのか。
早いな。


「私と初めて会った時、ロー20歳だったんだよね。…20歳ってなんか凄い大人だと思ってたけど、いざなってみるとそうでもないね。」
「老けてるとでも言いてぇのか。」


老け…てはないな。
落ちついてる?

うーん。
なんだろう、しっくり来ない。


「違うよ!なんか…なんて言えば良いんだろう。…普通じゃないなって!」
「おまえにだけは言われたくねぇよ。」


あら酷い。

達観してるっていうか、大人っぽいっていうか、しっかりしてるっていうか
とりあえず同年代の人と比べて普通じゃないんだから普通じゃないであってるだろ。


ローは世の中が自分みたいな人で溢れてるとでも思ってんのか。


え、ローがいっぱい?
素敵!


「喜ぶとこじゃねぇぞ。」
「あーでも皆が皆これだとやりずらいよね!一家に1台くらいが良いかも。」

「…またか。」
「え?」


急に呆れ出してため息を吐くそんな姿も格好いいなって思う。


世界に一人だけのこの人に出会えて、好きになって、好きで居て貰えて
これこそ奇跡だ。









あれ。


これってもしかして、告白のチャンス?
二人っきり、そんな雰囲気じゃなくもない。






ごくり



急に緊張してきて喉が鳴った。
ベッドに腰かけるローをじっと見つめる。




…言うか!!





「ロー、あの…ね。」
「どうした。」


そんなつもりないんだと思う。

ただ話しかけられたから返事してこっちを向いただけ。
それだけの筈なのに
久しぶりとは言え見慣れた普段のローの筈なのに


そのちょっとした見上げるような何気ない仕草が
格好良すぎて怯む。


思わずかち合った視線を反らしてしまった。


いかん。ダメだ。
自分が言いたいってのもある。


でも

エースにもペンギンにも宣言した。
思うようには行かなかったけど、振り回したくないって思ったこの気持ちはしっかり行動で示さなければ。


言わなきゃ。


「えっと……、覇気!覇気の修行は順調?」
「…?あぁ。」


集中してれば全身武装化できるようになったとか、今は精度を上げてるだとか、戦いながらでも使いこなせるように鍛練中だとか

恐らくそんな事を話してくれてた。


自分で聞いておいてアレだけど
正直全く頭に入ってこない。


違うの、ロー。
私が話したいのはこれじゃない。
本当に聞きたいこともそれじゃない。


「あのっ!……明日、晴れるかな。」
「知らねぇ。…どうした本当に。言いてぇことあるならはっきり言え。」







言えたら苦労しないよローのバカ!


訝しげに眉を寄せるそんな顔にすら心臓が跳ねる。


この人に、好きって言わなきゃ。
まずはパパ達のことを話して…







どこから!?


「おい。」


どうするかでいっぱいいっぱいになっていたせいで、ベッドに座っていた筈のローが目の前にいて腕を掴まれた事にびっくりした。

どこからどう見ても挙動不審な私を若干引いたような目で見るこの人のこの態度は特別だ。

一見冷たくてそっけないように見えるこんな態度を
ローはどうでも良い人にはしない。
気にもかけない。


「あの、ね…。」


ドキドキ煩いこの心臓の音が、腕からでも伝わってしまってるんじゃないかと思う。


言わなきゃ何も変わらない。


私変わったんだよって。
ほんの少しだけど、まだダメで面倒臭いとこ沢山あるけど


でも変われたのって、言いたいのに
伝えたいのに。


「…なんだっけ。言いたい事忘れちゃった。」


呆れを通り越して心配そうなローの手を振り払って扉に足を向けた。


「おやすみ!ゆっくり休んで。」







本当に、意気地無し。





「おい。」
「お、思い出したら!!…また聞いて?」


パタン


おやすみ、と笑顔を取り繕って扉を閉めた。


取り繕えたんだろうか。
どっちかというと様子がおかしすぎる私に流石のローも呆気に取られてうっかり見逃してしまったような気がする。


理由はどうあれせっかく切り抜けられた。
早くより安全地帯に、部屋に戻ろうとドアノブに手を掛ければ
次に二人きりになれて話が出来そうなのはいつなんだろうという疑問が頭を過る。


このまま逃げて良いのか?
せっかくのチャンス。


でもなんて切り出せば良くてどう話せば…
こんな事ならしっかり考えておくんだった。


握ったドアノブを回せずに、廊下で一人襲ってくる自己嫌悪と戦っていた。



































なんだ、あいつは。


何か言いたげで、なんだと聞けば口ごもる。
あまりにも挙動不審過ぎて振り払われた手を重力に従って降ろす事も出来ずに
視線はウイが出ていった扉に縫い付けられたままだった。


変なヤツなのは重々承知してる。
でも今日は、さっきのあれは
普段以上に様子がおかしすぎる。


何かあったんだろうか。
新しいクルー達とも上手くやっていたように見えたし、昨日からの様子を見ていても特段変わった事はなかった。


いつもの欲しがりか?
二人きりで、出会った頃の話でもして
またくっつきたいとかそういう思考に陥ったんだろうか。


久しぶりに会えたのもそう思うのもこっちだって同じだ。
寧ろ触れたいと思う気持ちはウイ以上に常々思っている。


扉一枚挟んだ先で固まっている一つの気配。
くっつきたいだけなのか何か話があるのか、言い出せずに逃げた癖に諦め悪く自分の部屋に戻ろうとしない。


あっちもその気なら、抱き締めてキスくらいはしてやっても良い。
自分がしたい事でもあるそれ。

求められる事を嬉しく思うところもある。


ただ問題は、あっちもその気だと歯止めをかけるヤツがいねぇ。


顔を赤くして、目を潤ませて見上げてくるウイのおねだりを
俺は適度にかわせるんだろうか。





生殺し。


地味に過酷過ぎる。




destruct at reality.