12-13


あっちは気付いていないだろうこの膠着状態。


仕掛けるならこっちから動いた方が有利。
自分のしてぇ事ですら手に負えない状態の今のウイなら、余程の事がなければ切り崩せる。


この状況なら問い詰めるのも押し倒すのも上手く行きそうな状況だってのに
肝心の自分の問題が一向に解決していない事が戻かしい。


これでドフラミンゴを討ち終えていれば
この冷戦状態に付き合ってやる事もなくあいつを抱き締めるのに。


嫌だダメだと拒まれようと
あいつの拘りを無視してでも、腕の中に閉じ込めて自分だけのものにしたいのに。





覇気はある程度扱えるようになった。
ただあっちの実力の全貌が計れねぇ。

流石と言うべきか
密売人の末端の駒に、ドフラミンゴは重要な情報の一つすら掴ませねぇ。


ぶつかる海賊も海軍も、手応えを感じなくなってきているところはある。
こっち側では得られる情報もきっとこれが限界だろう。


新世界にそろそろ入るべきか。





ドアノブの金具が擦れる音がして、自分でたてたその音に驚いたように扉の先の気配が跳ねる。

まだやってんのかと、今も一人百面相をしながら頭を抱えているだろうウイの様子を想像して苦笑いが溢れた。


一見ただの変質者にしか見えないあの奇行が、可愛く見えて仕方ない自分は相当毒されてると思う。


頭が良い癖にバカで
お調子者で欲しがりで

隠し事が得意な筈なのに
最近ではそれも下手くそ

強がりで、人の事ばかり考えて…




あぁ、そうだ。

周りを守る為なら平気で自分を犠牲にするあいつを危険に曝す事がないように
こんな手間のかかる方法を選んだんだった。


俺の女とあっち側に事情が筒抜ければ、確実にドフラミンゴはウイを利用しようとする。
それが分かっていたからそのリスクを避けた。



好きな女を犠牲にして助かるのも
ドフラミンゴに大事な人を奪われるのも


もうたくさんだ。


全部カタを付ける。


好きな女を幸せにしてやるのも、自分のしてぇ事の為に生きるのも
それからだ。



俺が歯止めをかければ良い話。


生殺しもキツいもんがあるが、また暫くすればウイとは離れる事になる。


束の間でも、少しでも、ウイを近くに感じたい。


こんこん


「ロー?…もう寝た?」


廊下で固まってるウイの元へ向かおうと足を踏み出せば
タイミング良く聞こえて来たノックと声。

それには答えずドアノブを回した。


「ぅわっ!…起きて、たんだ。」
「さっきの今で寝れるか。シャチじゃあるまいし。」


あははとぎこちない笑顔を顔面に張り付けるウイは、やはりどこか様子がおかしい。
いつもおかしいが、いつもと違う方向におかしい。


「あの…、お話!が…あります!」
「だから聞くって言ってんだろ。」


扉を挟んで繋がったドアノブをお互いに握りしめながら、廊下なのか部屋なのか微妙なこの場所でうだうだやってても仕方がない。

顎で向かいの部屋を指せば、どうぞ!と扉を開けたウイに中に招かれた。


足を踏み入れた途端に鼻先を擽る懐かしい香り。
思えばこの部屋でも色んな事があった。


ベッドだったりソファーだったり、作業机だったり。


グランドラインに入る直前やニシキ、あとはウイが海軍に捕まった時の事。


ふと目に留まったのはウイがビブルカードをとめているコルクボード。


「おい、これどういうつもりだ。」
「え!?言ったじゃん!でんでんむしで話してる時!」


聞いた事は聞いた。
でもこれは聞いてねぇ。


「なんで火拳屋のまで貼ってあんだ。」
「あぁそれ!エースが俺のも貼っとけって。」


それは私がやったんじゃないよと顔の前でぶんぶん手を振るウイに苛立ちが募る。


貼られたからと言ってなんでそのままにしてる。
まずそれよりも。

火拳屋がウイの部屋に気軽に出入りしている事が伺えるその発言に無性に腹が立った。


5億5000万ベリー。
追い付けど突き放される懸賞金。

新世界でしか作れない紙切れに書かれた火拳屋の名前。


どれもこれも、格の違いを知らしめられる。


「やっぱ気持ち悪い?私結構気に入ってるんだけど。」
「別に。」


小せぇことにぐちぐち文句は言いたくねぇ。


怒りの矛先にウイも気付いてもいないなら

ここは抑えろ、俺。


「で?どうした。」
「あぁ、あの…ね。」


ソファーにぽすんと腰を降ろしたウイに倣って向かい合ったそれに腰かける。
膝の上に置いた握りしめた手が白くなっていて、何か思い詰めてるだろう事は見てとれる。


なんなんだ、本当に。


「私、家族が出来たの!」
「…は?」


予想だにしなかった“家族”という言葉に、一瞬面食らった。


家族?
ガキ?

産んだのか?
ウイが?


「相手は誰だ。」
「え…白ひげ海賊団って知ってる?主にそこの船長かな。」


なん…だと?


すっごい大きくて強くて、こーんな髭生やしてるの!とニコニコと笑顔で話し出すウイに唖然とする。


四皇だと?
強ぇとか以前に





結構なジジィじゃねぇか。

あれか。
父親へのトラウマが相まってファザコンなのか。

父親以上に年の離れた男への拘りが強いのか。







主に…?


「他にもいんのか。」
「後は白ひげ海賊団の皆も!」


両手を合わせてにっこり笑うウイに目眩を感じた。


照れる割に欲しがりな事は分かってた。
一度タガが外れればお構い無しと、そういう事なのか。


いや、落ち着け俺。
様子がおかしい。

これはおかしすぎる。


「それを俺に話す意図はなんだ。」
「えっと…、私家族が出来て嬉しくて!なんか…強くなれた?っていうか…前向きに考えられるようになったから!!」


そこだけ聞けば喜ばしい話だ。
変なとこでネガティブと言うか、突然何かに引っ張られるように自分の殻に篭る癖が改善されたのであれば大成長だろう。


ただ、そうなるに至った経緯の方を
聞かされた俺が喜ぶとでも思ってんのかこいつは。


どこかがおかしい。
何かが拗れてる。


ウイは変なヤツだが
ここまでぶっ飛んだヤツではなかった筈だ。


そもそも…


「おい、ガキはどうした。」
「は?」


きょとんと目を丸くして呆けるその顔に益々事態が飲み込めねぇ。


「だから、おまえが産んだそのガキはどうした。」
「何言ってんの?頭大丈夫?」


理解が追いつかねぇ。


俺か。
俺の頭がおかしいのか。


キャパを越えた内容のこの話に、上手く頭が回らねぇ。



「あっはっはっは!…何がどうしてそうなるの!…可笑しい!」
「おまえの話し方が問題だろアレは。」


ゲラゲラ腹を抱えて笑い出したウイに、これは100%説明の仕方が悪いとは言え
盛大な勘違いをした自分に気恥ずかしさが襲ってくる。


取り敢えず離れてる間にウイが四皇の子供とかを産む事態に陥っていなかった事は良かった。

んなこと笑いながら報告されてもどうリアクションして良いのか正直分かんねぇ。


「なんで私がパパと夫婦になってんのよ。…パパが私みたいな小娘相手にする訳ないじゃん。」


あぁ可笑しいと涙目になりながら笑い転げるウイにいい加減腹も立ってくる。


有り得ねぇと思った。
だから呆気に取られた。


だからこそそんな勘違いをした自分がくそアホらしくて居たたまれない。


「家族が出来たって言ったらガキ想像すんのが普通だろ。」
「そうだね、…ごめんごめん!」


ムカつく。


口ではそう言いながらもバシバシソファーを叩いてのたうち回っているこいつがどうしようもなくムカつく。


「…良かったな。」
「え?うん!パパも白ひげ海賊団の皆も凄くいい人なの!自慢の家族だよ!」


散々な目にあったとは言え、ウイがこんなに喜ぶ事なら良かったんだろう。
白ひげはともかくその仲間達には同じ位の年頃のやつらも居て
ウイを家族ではなくそういう目で見てる連中も居るんじゃねぇかと思わなくもねぇが。


火拳屋とか

火拳屋とか。


「あの!!それで…ね、ここからが本題なんだけど…。」


急に真顔になったウイがもじもじと人差し指同士を合わせながら口ごもる。


本題?






「あの…!私まだまだダメなとこもいっぱいあるんだけど…、でもね!!…あの、おすすめとかはまだまだ全然出来ないんだけど!」



ちょっと待て。



これは…



「でも私!!
「ちょっと待て!」



思わず結構なデカい声が出た。

言葉と共に突き出した手に、ウイが顔を真っ赤にしながらきょとんと首を傾げる。


「あの…私ローに…
「いいからちょっと待て。」


なんで?とでも言いたげな潤んだ瞳に心臓が跳ねる。


これは、…そういう事か。


こっちもこっちで想定の範囲を越えてきた。




見くびってたとかじゃねぇ。


でも正直、思うようにドフラミンゴ討伐への道が進まなかった所で
ウイが自分の中の問題を片付けるのはその先か、寧ろ乗り越えらんねぇと思ってた。


だからこの状況を想定してなかった。


二度も待てと言われれば大人しくそれに従おうとしてるのか
未だにもじもじしながらも自分の手元と俺の顔を交互にちらちら覗きこんで来るその仕草は可愛いと思う。


それを言おうと意気込んでいたのならさっきまでの挙動不審具合にも納得だ。













どうする。





俺の方は何も片付いていねぇ今、ウイを受け入れて良いのか?





開いて座っていた膝に肘を乗せて、指を組んでそれを口に押し当てる。


誰かが考える時によくする癖のようなそれをすれば、少しは名案が浮かぶ気がした。




頭に浮かぶのはこれまでウイと過ごした時間。




いつからかウイの事が気になって仕方なくて
それが好きという感情だと知った。

なんでこんな女をと思いつつも
過ごした時間に比例するように、ウイという人間を知れば知る程に
自分でも異常だと思う程固執するようになった。

俺の気持ちに全く気付きもしねぇウイに腹を立てる事もあれば
人の気も知らねぇで他の男と必要以上に距離が近かったり
気付いたら気付いたで遠ざけようとしてみたり


へらへら笑ってる仮面の下で、デカいものを抱えている事も知った。


弱い癖に、臆病な癖に
全く周りを頼ろうともしなければ

そんなウイに逆に守られたり。


死にそうな程弱って戻って来たり。







「ロー…?」


黙り混んだ俺を不安に思ったのか恐る恐る掛けられた声。

眉を下げて俺の名を呼ぶのはずっと好きだった女で
本音を言えば今にも手に入れて縛り付けてでも手元に置いておきたい女。



いいのか?
ここでこいつを受け入れて。



形勢逆転だ。



今度は俺がどうしたら良いのかが分からねぇ。




destruct at reality.