12-14
「おまえが言おうとしてる事は、なんとなく分かった。」
その言葉にシャキーンとでも効果音がしそうな程ウイの背筋が伸びる。
今はまだ、受け入れらんねぇ。
なぁなぁにそうなるでもなく、ウイは自分で課した課題を乗り越えてそれを口にしようとしてる。
俺がそれを乗り越えてねぇ状態で、このまま流されるのはどこか癪で。
そもそもウイを受け入れるのならば
俺はコラさんの仇伐ちを諦めるべきだ。
無鉄砲なこいつは何かがあれば自ずと危険に飛び込んで行くだろうし
ウイをどうにか思い止まらせても、あっちが黙っちゃいねぇ。
「纏まらねぇけど、取り敢えず要点だけ話す。」
「え?…うん。」
不安気に揺れる瞳に、己の不甲斐なさを感じた。
折角ウイがこうして話してくれてるのに。
「俺はまだ、おまえを受け入れられねぇ。」
ぴくりと揺れた肩と、伏せられた目が動揺で揺れたのが見て取れる。
そんな顔を自分がさせてると思うと、自分で自分が情けない。
「やるべき事がある。それにおまえを巻き込みたくねぇ。」
顔を伏せたまま目線だけがこっちを向いた。
その顔はどこか叱られている子供を連想させて、おまえは悪くないと抱き締めてやりたい感情が疼く。
単純で、身勝手。
ウイの気持ちがこっちに向いてると
それを言葉にしようとしてる事に確信が持てた途端
変な責任感が生まれる。
火拳屋にとられるかもしれねぇと思った時には、全部投げ捨ててでも欲した癖に。
「待ってろ、必ず蹴りを付ける。…おまえが言いてぇ事は俺から言う。」
早く、何とかしねぇと。
のんびりやってらんねぇ理由ができた。
「私、巻き込まれても平気だよ?」
「おまえがそうだから連れて行けねぇ。失いたくねぇんだよ…そこは察しろ。」
途端に頬を染めるウイに、どこかほっとしている自分がいる。
くそだせぇこの状況。
そんなヤツじゃねぇとは分かっていても、愛想尽かされてもおかしくねぇ程にダサ過ぎる。
そしてそれを想定していなかった自分も軽率過ぎた。
「思ってるとこは同じだ。でもこの状況でおまえの口からそれを…今は言われたくねぇ。」
「意地っぱり。」
ちゃんと守る為に、俺はまだおまえに手は出せねぇ。
「あーもう!!…すっごい緊張したのにっ!!」
「途端に横柄になったな。」
ソファーに雪崩れ込むように倒れたウイのさっきまでとの変わり様に
今回ばかりは自分が悪いと思いつつも呆れた視線を投げた。
「だって!!ずっと!!そればっかり考えて凄い悩んでたのに!!」
「悪い。」
これはもう謝るしかない。
完全なる俺の想定ミス。
ぷんすかし出したと思えば、わなわなと震え出すその様子は申し訳ないを通り越して少し面白い。
そんなに思い悩んでたのか。
「もしかしたらそんな事になるんじゃないかって!昨日も今日も可愛い下着着けてたのにっ!!」
「…。」
状況が変わった途端恥じらいもなくすげぇ事言ったぞこいつ。
開き直りやがった。
実際そうなればビビって狼狽える癖に。
「私の乙女心を返せ!ローのバカ!」
「乙女は勝負パンツ履いてるとか言わねぇぞ、多分。」
黙りこんで不機嫌になられるよりはよっぽどマシだ。
ウイがそういうタイプじゃねぇことは分かってても
流石にここまで開けっ広げに開き直るとは思わなかった。
すくっと立ち上がったと思えば、つかつか寄ってきたウイに見下ろすように睨み付けられる。
なんだ。
「今日くらい甘やかして!!」
すとんと割り込むように足の間に腰を降ろしたウイが、いそいそと俺の手を自分で誘導しては抱き締められる体勢に持っていく。
嬉しそうに腕の中に収まる存在がとてつもなく愛しく思えた。
そうだ、こいつはこういうやつだ。
腕に力を込めて抱き締めてやれば、すり寄るようにごろごろと甘えてくるウイに思わず頬が緩む。
「っとに。」
行動は確かに乙女と言えなくもない。
ただウイは、口が悪い。
ぶつぶつ文句を垂れる自称乙女の頭を撫でてやれば、えへへと弧を描くその唇を塞ぎたくなった。
流石に今この状況でそれは顰蹙物だ。
目の前のウイから香るシャンプーの匂いに、色々と耐えなければならない欲を擽られつつも
それを堪えて好きにさせる事にした。
顎を乗せた頭が、覗き込むようにこっちにこっちを見上げてくる。
「ロー、髭!ちくちくする!」
言うと思った。
…嬉しい癖に。
「ねぇ、ローが片付けなきゃいけないことってなに?」
「…おまえが俺を拒んでた本当の理由はなんだ。」
ローに抱き締めて貰いながらそのぬくもりを堪能していたら、ふと気になったそれ。
聞いてみればその答えは、質問で返ってきた。
「…良いじゃん。解決したんだから。」
「なら俺も教えねぇ。」
あぁ、そうですか。
どこか申し訳なさそうな雰囲気漂う今のローなら、いつもみたいなこんな感じの返答しないんじゃないかと思ったのに
それとこれとは訳が違うらしい。
「ケチ。」
「じゃあおまえも教えろ。」
それはなんか、やだ。
もし捨てられてもパパ達が居るからってそんな理由
聞こえが悪すぎる。
…捨てられても前より平気かもしれないけど
できる事なら嫌われたくないもん。
捨てられるのが怖かったとかそういう面倒臭いこと
ロー達には言いたくない。
「あんまりもたもたしてたら、私他の人にフラフラしちゃうかもしれないんだからね!意外とモテるんだからね!私!!」
「…知ってる。」
お、おう。
そう返されると今度はこっちが困る。
っていうか自分でそうしたんだけど
こんな体勢で
お互いにお互いの事好きで
それで思いとどまる理由ってなんなの?
いや、私が言えた事じゃないか。
散々それをローに対してやってきた。
私が危ないことしないようにって
強くなってからって、いつかベポに聞いた。
それ以上は教えないって言ってたってことは
それ以外でも何かがあるって事だ。
なんなんだろう。
「…急がなくて良いから、危ない事はしないでね?」
「考えておく。」
そこは否定してよ。
早く蹴り付ける為に焦って何かあったらって考えると
不安過ぎる。
ローはドフラミンゴとかヤバい相手に手を出そうとしてるくらいだ。
片付けるって言ってるそれも、あんまり簡単な事じゃない気がする。
そう言えば何も言ってこない辺り、ペンギンは本当にローにあの事黙っててくれてたんだ。
なんか出掛けて行ったペンギンに、気を使わせちゃったかなとか思わなくもない。
どこ行ったんだろ、ペンギン。
またお姉さんのお店にでも行ったのかな。
「それ暇って言うの!!良いじゃん久しぶりなんだし!」
「…じゃあ一杯だけ。」
途端に花が咲いたように顔を綻ばせるあゆみは、
前にこの島を訪れた時にナンパしてそういう仲になった女。
あの日は確か、シャチと新入り達とで女を買いに行く前に店で飲んでいた。
その店のカウンターで一人ロックグラスを傾けていた女。
それがあゆみだった。
ただ単に、見た目がタイプで気に止まった。
やたらハイペースで酒を煽り店員に愚痴っていたかと思えば、ふと目を伏せて悲しげな表情を浮かべてはため息をつく。
その様子を見て確信した。
この女ヤれる、と。
店の女はそこそこ見た目も良ければ積極的でテクもそれなり。
セックスだけ楽しむ分にはそれで大変大満足。
ただたまにふと、プロじゃない女を抱きたくなる。
それをウイと重ねやすいと思ったのか
ウイに振り向いて貰えないその欲を、他の女を落とすことで代償しようと思ったのかは分からねぇ。
ただ気付いたら、カウンターに座るあゆみの隣に腰を降ろしていた。
「どんだけ酒癖悪いの。」
「…別に良いでしょ放っといて。」
店員には離れた席に座っていた俺らにも聞こえるくらいの声量で愚痴を吐いていたくせに
途端にしおらしく膨れっ面を浮かべるその様子は可愛らしく見えた。
「彼氏に浮気されたんでしょ、ドンマイ記念に乾杯。」
「なんでそれ知ってるの!?」
目玉が落ちるんじゃないかって程見開いて驚きながらも、条件反射なのかしっかりグラスを重ねてくるその行動に自然と笑いが溢れる。
なんかこの子、誰かさんに似てる。
「声デカいから丸聞こえ。店員さん忙しそうだから俺がお話聞いたげる。」
「好き!どこの誰だか知らないけどその顔と雰囲気と優しさが好き!!抱いて!」
あらまぁ。
売春婦もびっくりの尻軽さ。
顔は可愛いのに。
まぁ、酔ってんだろうけど。
「こりゃ浮気もされるわ。」
「なに!何か言った!?」
「いいえなんにも。」
中々破天荒な女だけど、面白ぇ。
そしてあれだ。
性格云々も似通ったとこもあんのかもしんねぇけど
些細な仕草や表情がどこかウイを思わせる。
隣でグラスを傾ける見ず知らずの女相手に、ふとそんな事を思った。
「酷くない!?彼女との待ち合わせ場所他の女とお手て繋いで通りすぎるとか!酷いよね!酷すぎる!」
「そうねー。酷いしバカな男だねー。」
怒り狂っていたかと思えば、どこか納得したように
そう!バカなの!ところころ表情を変えるあゆみは人の事言えない程単純だ。
「でもさ、ペンギンだって浮気するんでしょ?」
「俺?」
男はそういう生き物だって力説してるけど、中々鋭いようで肝心なとこを分かってない。
「浮気できない男の心理教えてあげよっか。」
「なにそれ聞きたい!」
めっちゃ前のめりで食い入るように聞き入るその様子がなんかウケて、思わず笑ってしまった。
バカにされたと思ったのか頬を膨らますあゆみの頭をよしよしと撫でてやれば、途端に頬を緩ませる。
こういうとこは素直で大変よろしい。
「1つ、バレたら絶対許して貰えない時。2つ、バレるリスクが高い時。」
「結局バレなきゃするんじゃん!」
「ナメられたらいかんってことよね。」
どうせナメくさられてたよって不貞腐れてたと思えば、目の前のグラスの酒があっという間に消え失せた。
この子、本当に中々強い。
ぶつぶつ文句を垂れるあゆみに、大事な3つ目の条件を教えてやらねば。
「3つ。その子を失ったら、その子以上は自分にはもうねぇなって思う時。」
「結局私がダメって事じゃん!全然慰めになってないよペンギン!」
だって本当の事だもん。
どんな女が好みかなんて人それぞれ千差万別だ。
比べて他の方が良ければ、男は案外あっさり乗り換える。
浮気して許しを乞うのは、つまみ食いして来たけどおまえのが良かったってこと。
浮気すらしようと思えないのは、どこか1つでも比べようがない程自分にとって魅力的なとこがあったり
本命が奇抜すぎて対抗馬すらいない時。
あんな女が世の中に溢れてれば、俺もその内の一人くらいとは想いを通じ会わせれたかもしんねぇのに。
…いや、世の中がウイっぽい女でいっぱいとか
それもそれでカオス。