12-18



「…わぁ!!これ格好良い!欲しい!!これで戦争ごっこしたら楽しそうじゃない!!?」
「欲しいなら買え。」


昨晩話したら異様に食い付いて来たから、連れて来てやった。
好きそうだから話した。


喜ぶと思った。
こんな風に。


ごちゃごちゃとした店内で爛々と目を輝かせるウイはそれはそれは無邪気で。
見たことのない物に興味がそそられ過ぎるその様子は小さなガキみてぇだ。


「これ、出てる分しかないのかな。」
「何に使う気だ。」


本物の拳銃を模した水鉄砲。
それの引き金をチャカチャカと玩びながら、10本程度陳列されているその量に不満気に眉を寄せている。


「うーん。…でもそれはそれで!!店員さーん!これ下さい!!」


またか。
ウイのこの頭の中で思ってる事を途中から口に出す癖は何度言っても改善されない。


どこまで口に出してるつもりなのか
もしくは全て口に出してるつもりがないのか


「これ全部っすか!!?」
「そう全部!!」


目を丸くする店員にもお構い無しで次の獲物を物色し出すウイはそれはそれは楽しそうで
昨晩ねちねちと文句を言い続けていた人物と同じ人間かと目を疑いたくなる。


後腐れないとこも
変なとこが異常に素直なのも
コイツの魅力だ。


「あ…でもこれは後の方がいっか!」


得体の知れないチューブを片手に独り言を呟くウイを横目で眺めながら、そんな事を思った。


必要な物を入手する目的がない買い物は正直好きじゃねぇ。
時間の無駄。


それなのになぜだろう。
ウイが一緒に居るだけで、楽しそうにはしゃぐその姿を見てるだけで
そんな時間も楽しく思える。


「ねぇロー、これはそれっぽく盛るべきなのかな。キーマカレーとか中々際どくない?」


便器型カレー皿と書かれた商品のポップ。
カレー専用とか言ってる時点で悪意を感じる。


ふざけた物が膨大に溢れる店内はウイにとってはパラダイスらしい。
好奇心センサーを擽る物の山が、日常とは違うまだ知らなかった一面を垣間見せてくれる。


こういうのも悪くない。


また新たな掘り出し物を見つけてはそれに駆け寄るウイの姿にそんな事を思った。


見えた一面が女子としてどうかと思う所はこの際目を瞑ろう。
そういうヤツだ、こいつは。



「決戦は明後日の午後!真剣勝負だからね!!」
「「「「「おー!!」」」」」





なにこの茶番。
起きてすぐの回らない頭では、恐らく楽しそうな筈のこのイベントにも乗り気にはなれない。




「じゃあ私とローで取り合いっこね!罰ゲームは勝ったチームの言うこと1つ!何でもきくこと!!」












昨日は結局なんか眠れなくて。
感傷に浸り過ぎたんだかシャチのイビキが煩すぎたのかは分かんねぇ。

きっとどっちもだ。


意識が浮上する原因を作ったのは睡眠不足の原因を作った片割れで。
悪気なんて全くなく不足した睡眠を貪ろうとする俺を手加減なく揺さぶり起こした。


どこかテンション高めな大好きな女。
睡眠で昨晩の記憶が薄まってたせいで、悩みの種である筈のウイの笑顔を可愛いわーとかただそう思ってた。


ずるずると引きずるようにそのままポーラータングに連行されたかと思えば、意味わかんねぇ企画に強請参加。
本当に我儘。
自分勝手。







「じゃんけんぽん!!……勝った!!ペンギン!!」
「…じゃあシャチか。」



事の次第はよく理解できてないものの、机の上に並べられた10本の銃とゼッケン。


決戦、罰ゲーム、チーム分け。


少しずつ覚醒してきた頭が、クルー達が戦争だ水鉄砲だとやや興奮気味に話してる声を拾ってきた。


なるほど。
それは楽しそう。


「よっし!!勝った!!ベポおいで!こっち!!」
「…そんなでけぇ熊抱えて良いのかよ。的だろ的。」


ふざけてんだろうけど、この手の冗談が通じないベポがどんよりと肩を落とす。


「的だってチーム戦には必要なの!熊バカにすんな!ローのバカ!!」


気にしちゃダメだよとベポの背中を叩くウイと、それに頷きながら慰められているベポ。

それで面倒臭くへこまれるよりはマシだけど
チームの勝利の為に的になれって言ってるウイちゃんの方がキャプテンより酷いと思う。




「ねぇペンギン!この中で脚速い人って誰?」


次に指名するメンツの情報を得ようと駆け寄ってきたウイがお目当ての人材の条件をこっそりと耳打ちしてきた。


俺を一巡目で指名してきたのはこういう目的か。








でもなんか
一番最初に、当然のように俺を指名してくれた事が

凄ぇ嬉しかった。


「じゃあ私たち今から作戦会議するから!皆フリーウィングに集合!!」
「「「「「おー!!」」」」」


明後日の午後に行われる水鉄砲戦争。
8対8。
支給される水鉄砲は5本ずつ。


「ちょっ…ウイさんそっち行ったら俺らの飯は!?」
「シャチが居るじゃん!そっちには。」


鼻唄混じりのウイはやたら楽しそうだ。
かくいう自分も、これは面白そうだと心が踊らなくもない。

ガラクタ屋で見つけた水に濡れると色が変わるゼッケン。
自陣のゼッケンが濡れて全滅したら負け。
制限時間は一時間。
時間切れで両チーム生き残りが居る場合は生存数の多い方の勝利。


「あ、ロー!オペオペの実は使っちゃダメね!使ったら反則負け!」
「使わなくても負けねぇよ。誰に向かって口きいてんだ。」


それ以外はどんな手使っても良いよと挑発的な目で笑うウイに高揚感を覚える。


駒ではなく人。
負けても死なない対人戦。

こいつはどう攻めてくるだろう。


ウイ側のクルー達は和気藹々と水鉄砲やら荷物を持って移動の準備をしていた。


ゲーム自体も楽しみだが、ウイの戦略的な部分に触れることはこいつらの伸びしろになる。


「勝った時の罰ゲーム!考えといてね!」


どうせ私たちが勝つけど!と勝ち気な発言をかましたウイ達が潜水艦を出ていった。


俺に勝つ気か。
いい度胸だ。


それにしてもゲーム開始まで約2日あるというのに、こんな早くから籠ってどんな作戦を立てるつもりなのか。


「ウイさんどんな罰ゲームにするんすかね!」
「キスとかだったらどうします!?キャプテン!」


ゲームが楽しみで浮かれてんのか
ウイにどんな幻想を抱いてんのかは分からねぇ。


ただ言えることがある。


「おまえらウイを何だと思ってんだよ。んな可愛いらしい罰ゲームな訳ねぇだろ。禄でもねぇぞ、絶対。」
「えぇえっ!?楽しみじゃないっすか!女の子から罰ゲーム宣告!」


忠告しようとした言葉はシャチに先を越された。
この様子じゃシャチ以外はやっぱり分かってねぇらしい。


負けてやるつもりはねぇが、あいつがまともな罰ゲームを考えるとは思えねぇ。
戦力的にはこっちが有利。


でも手を抜けば負ける。
負ければ地獄、それは確かだ。



「ではこれより!作戦会議を始めます!」
「「「「「おー!!」」」」」


フリーウィングのリビング。
どこまでもヤル気満々なウイは議長を勤めながらも模造紙で垂れ幕作りに励んでいる。


“水鉄砲戦争対策本部”


支部はどこだ。


「今日ざっと作戦考えて、明日はそれに使うもの作ろう!明後日それも合わせて最終調整!」
「罰ゲーム何にします!?」


すっかり懐いたクルー達が背が低くて届かないウイの代わりにリビングの天井にその模造紙を張り付けてやってる。


中々本格的。
これは楽しそう。


「勝算あんの?」
「勝つ為にやるんでしょ!」


目を爛々と輝かせるウイは結構な興奮状態。
こういう一見下らない遊びに全力な所も、好き。


「ポイントは水鉄砲が5本ってとこ。どっちも3人は攻撃力がない。…あとはあっちの司令塔はローだよね。そこをいかに早めに削ぐか!!」
「キャプテンは手強いっスよ!!水鉄砲絶対持ってる!!」


ベポが模造紙に何やら書き始めたのを見て、面白そうだから混ざる事にした。
あっちの司令塔はキャプテンで間違いねぇけど、こっちの司令塔はウイだ。


俺らをどう使うのか。
楽しみ。


「こっちの作戦は、ローを早めに潰す!そして戦力外だと思ってた人が実は戦力持ちな騙し討ち!」
「あっはっは!それくっそ卑怯!!良いっすね!どうやんの?」


書き上がった紙を垂れ幕に張り付けようとするベポに俺のも頼むとそれを託した。
俺が書いたそれを見て吹き出すベポは熊差別でへこんだメンタルからすっかり回復したらしい。

ちらりと見えたベポのそれも、中々えげつない。


「ロー潰しには私以外で3人は必要!あそこを早めに叩いちゃえば後は一人ずつ潰して行けば良いだけ!」
「え、なに?囲むんすか?」


ニヤニヤと笑うウイの立てた作戦に、どっと船内が沸いた。







「やべぇ!!それならイケるかも!!」
「ってかウイさんマジでそれやんの!?ウケる!!」
「勝てば良いの!!勝てば!!」


卑怯極まりないその作戦。
流石のキャプテンも、いやキャプテンだからこそその成功率は高い。


「俺最後の仕上げ係に立候補。ついでに上から状況見張るわ。」
「任せたペンギン!!」






なにこれ、超楽しい。






「先に明日の相談だけどね、これ買ってくるでしょ。後は野生のでんでんむし探しに行く部隊も必要!」
「野生の捕まえてどうすんの。」


明日の役割表を作るウイが必要だという野生のでんでんむし。
改造されて機能を備えたそれは役に立つだろうけど、野生のままではただの能面面の虫だ。


「でんでんむし作れるようになった!無線みたいにして情報共有しよう!」
「すっげぇウイさん!!イケる!!勝てる気がする!!」


もうこの時点でチームウイの士気は絶頂だ。
確かにキャプテンを潰す策もあって無線で連携が取れれば、これは十中八九こっちの勝ちだろう。


哀れ、向こう側。


「ウイ、どっちにする?俺案とペンギン案。」
「え?…あっはっは、それ良い!!私も考えてけど!!こっちのが良いかも!!」


腹を抱えて笑い出すウイの視線の先には段幕に張り付けたられた俺とベポの罰ゲーム案。





“中央広場の時計台の下で全身タイツで花束持って仁王立ち二時間”

“ふりふりエプロン着ておたまバトンで商店街一周リレー”






「ちなみにウイちゃんは何考えてたの?」
「口の中に梅干し大量に詰めてにらめっこトーナメント!笑う以外も表情変わったら負け!負け残り戦!」


クルー達の笑いが止まらない。
それキャプテン優勝じゃん。

キャプテンの梅干し嫌いは有名だ。
これはある意味、拷問。


面白そうだけど、好きな男にそんな事させようとしてるウイはやっぱどっかズレてる。


「皆も思い付いたら貼って行ってね!一番嫌がりそうなやつにしよう!」


顔だけ見てれば可愛いのに
言ってる内容がえげつな過ぎる。


「つーかウイさん!こっちの水鉄砲は誰が持つんすか?」
「私とベポ以外なら誰でも良いよ!」
「俺もないの?」


持ちたかったらしいベポは不満げな顔。
そんなベポにウイがニヤリと人の悪い笑みを浮かべた。


「ベポにはもっと良いもの持たせてあげる。」
「何させるつもり。」


呆れたような顔の熊は、そう言いながらもどこか楽しそう。


何する気か知らねぇけど
これはキャプテン、どう転んでも罰ゲーム決定だな。


1047


destruct at reality.