12-19
「ロー叩く部隊が動いてる間、他の皆は身を隠しながらあっち側の人の動きを監視!」
「うっす!」
纏まった作戦を復唱するウイと、それに威勢の良い返事を返すチームメイト達。
「見つけても100%勝てる時以外は動かないで!場所さえ把握してれば連携取れるから囲める!」
「うっす!」
遊びだけど本気。
只でさえ最初からノリ気だったこいつらは、罰ゲームの内容と勝てそうな作戦を得て更に浮き足立ってる。
「水鉄砲持ってる人とその場所を連携して、ロー叩いたら一人ずつ囲もう!」
「うっす!」
人が増えればこういう遊びも出来て楽しい。
チーム戦、そしてとんでもない策士が仲間内に居るのはテンションも上がる。
鼻の下あかせる相手がキャプテンだと思えば尚更。
「あっちはどう出るかな。戦力ない人は隠しそうな気がするけどどう思う?」
「あー、それっぽいかも。キャプテン負ける気してないだろうし。」
「最悪自分が全員仕留めれば良いと思ってるなら寧ろ全員安全圏に置いとくかもね。」
相手の出方も組み込んだ作戦。
これが出来るか出来ないかで作戦がどう進むかが分かれる。
対人戦初心者のウイにそこを少し心配してたけど、必要ないみたい。
流石。
「攻撃力の有無に関わらず一人は一人なのよ。一番まずいのは隠れてる人が見つからないこと!」
「そこを動き出しで見つけてマークしとくと。」
「おうよ!」
ヤバい、明後日が楽しみ。
ウイと同じチームでキャプテンをぶっ潰せる。
「ベポの武器、鉄板挟んどく?流石に紙じゃ萎びてバレんだろ。」
「重くない?ってかそれケガするじゃんあっち。」
不満を漏らしつつも中々悪い顔をしているベポは鉄板入りのハリセンの重さくらい問題ねぇだろ。
「私どこに隠そう!やっぱ胸が一番自然?」
「即刻バレるからやめとけ。デカめのなんか羽織ってぽっけにいれときなよ。」
なんだと!と噛みついて来るこんなやり取りがただ楽しい。
ウイが居るとただそれだけで何てことないことがすげぇイベントになる。
こんな感じのウイとの時間を、キャプテンは知らないと思うとなんか得意気になる。
でもこういうんじゃないウイをキャプテンは見てんだろうなって思ったら
なんか虚しくなった。
「船長!俺らも作戦立てましょう!」
「どうします!?」
あっち程バカ騒ぎはしてねぇにせよ、こっちもこっちで明後日に向けて士気は高い。
「おまえらならどうする。」
「え?俺っすか?」
俺が立てた作戦に従おうと思っていたらしいクルー達が途端に眉を寄せて唸りだす。
指示に忠実なのは良い事だ。
だがいつでも自分を指揮するヤツが周りに居るとは限らねぇ。
「勝利条件はなんだ。」
「こっちがゼッケン守りきって、…あっちのゼッケン濡らすこと?」
遊びだが実践に役立たねぇこともねぇ。
コイツらにも少しは考えさせねぇと。
「どう守る。まずはあっちの攻撃を想定しろ。どんなヤツが戦力を持つ。」
「…当てれるヤツ?」
「あと逃げ足早いヤツもっすよね!!」
思考を巡らせ始めたクルー達の出した答えに頷いてやる。
当てれるかどうかも大事だが、攻撃力あるヤツが即退場では話にならねぇ。
放水から逃げる能力は勝ちを確保するのに重要な要素。
そこはウイも確実に想定してくる。
「攻撃力のねぇヤツが残った所でこっちが減らされるリスクはねぇ。」
なるほど!と数式の答えでも導き出したように表情を明るくするこいつらに、一応教えておかねぇといけねぇことがある。
「それ以外に、普通の戦いで残しとくとやっかいなヤツ…分かるか?」
「え?やっかい?」
「強いヤツじゃないんすか?」
まだまだ爪が甘い。
戦場では戦力を持たねぇヤツはいない。
強い弱いはあるにせよ、戦場に出てきた以上ノーマークで良いヤツなんていねぇ。
実際争いの場で使われるのは水鉄砲ではなく剣や鉛を込めた拳銃。
「仮に実際の戦闘で予想外な事が起こったとする。そこで俺がいなかったら、おまえらどうする。」
「絶望。」
「オワタ…ってなる。」
自分が困る状況を作る、それが勝ち筋の描き方。
「司令塔を削ぐ…ってことっすか?」
求めていた答えがやっと返ってきた。
ここまで言ってやらねぇとそこに行き着かねぇとは
甘やかしすぎたのかもしんねぇな。
「あっちの司令塔って誰っすか?副船長?」
「間違いなくウイだろうなー。」
傍観を決め込んでいたシャチの発言にざわつくクルー達。
あの勝ち誇ったような表情。
好戦的なヤツではあるが何かしら策があってのアレだろう。
そもそも勝てねぇ戦いを吹っ掛けるようなヤツじゃねぇ。
一見あっちに不利に見えるこの状況を、ひっくり返して来るだけの策がウイにはある筈だ。
「ただこれは実戦じゃねぇ。ウイが水鉄砲持つ役になると思うか。」
「こう言っちゃなんですけど、武器の無駄っすよね。」
ウイさんなら楽勝で当てられる!と意気込むクルー達のその想定を、あっちも当然してくる。
逃げ足も速くなければ射撃の腕もねぇウイ。
勝つ為にはアイツは絶対にそれを持たねぇ。
どこかで自分の得意分野を生かして立ち回る筈だ。
「戦力のねぇ司令官。指示を出そうにもあっちからもそれは見渡せねぇし伝達手段がねぇ。となればウイを叩く優先順位はどうだ。」
「…低い。…なんか戦略的で面白いっすね!!」
「まずはあっちの戦力持ちを潰す!残りの3人はそれからっすね!!」
大分状況が整理できて来た。
「次にこっちの戦力の配分だ。このメンツで、放水を避けながら敵を減らせるのに最適なヤツは誰だ。」
「…キャプテン!」
「俺が全員とは行かなくても戦力を削ぐ。後は相手が嫌がる布陣で鉄砲持ちを囲め。」
「了解っす!!え、でもキャプテン全員のしちゃうんじゃないっすか!?」
甘い。
身体能力だけで言えばそれも有り得る。
しかし相手はウイだ。
何重にも策は練っておかねぇと、足元を掬われる。
「ウイは中々手強ぇぞ。俺が脱落後、あっちを削る為の策を考えろ。」
「了解っす!」
「大丈夫かよ、アイツらに任せて。」
「俺が最初に大分削ぐ。戦術で負けようが数で勝ってればアイツらでもなんとかなんだろ。」
作戦会議に混ざる様子のないシャチは、俺の意図に気付いたんだろう。
どう頭を捻ってもこいつらは戦術でウイに勝てない。
命の掛かっていない戦いだからこそ、精一杯考えた策がどの程度通用するのか。
結果を見ることは大事だ。
「あーあ、知らね。」
そもそも
負けてやるつもりはねぇ。
「なんかこういうの楽しいねー!」
「そっすねー!祭みてぇ!」
フリーウィングのリビングとダイニングでは、買い物を終えた各々が明日の決戦に向けて作業をしていた。
キッチンには、セルフでどうぞと言わんばかりのカレーとご飯。
食欲を擽り過ぎるその匂いは、青少年には耐え難い。
こんな大きな鍋どこにあったんだろうって位巨大な鍋に並々と入っていたビーフカレーも、既に残りは半分以下。
その減りようにはウイが一番驚いてた。
「ウイさーん!こんなもんで良いっすか?」
「えー?…なんかリアリティーに欠ける!本物もう少し黒くない?」
怪しげなチューブを混ぜては調合に勤しんでいたクルーにダメ出しが飛んだ。
「もう!皆の方が良く見てるでしょ!」
「ウイちゃんのが毎月見てるでしょ。」
「あっはっは!確かにー。」
おい。
少しは恥じらえよ。
今更ウイにそんな乙女な部分は求めないけど、ペンギンもペンギンならウイもウイだ。
なぜか周りの方が照れだす始末。
「良いこと思い付いた!誰かサンプル提供してよ!ちょみっとで良いから!」
「俺貧血気味なんで。」
「俺痛いの嫌いなんで。」
「大事な体に傷とか付けられないんで。」
「おい海賊。」
血を提供する気はないクルー達にどすの利いた突っ込みを入れながらも
その血に寄せた絵の具をぐるぐるかき混ぜては仕上がりに眉を寄せている。
「とにかくもっと黒い!ローは血のプロだよ!血プロ!流石にこれじゃ騙されてくれない!」
「確かに船長騙すのは一般人騙すよりキチィな!」
「少しずついこうぜ!真っ黒になったら取り返し付かねぇ!」
再び調合に戻ったクルー達に鼻を鳴らしたウイがこっちに寄ってきた。
「そっちはどう?イケそう?」
「なんかこれ、アウトにする前に死人が出そうな武器になって来たんだけど。」
俺が改造していた鉄板入りのハリセン。
角が当たれば死ななくても骨くらいは折れるかも。
「度肝は抜けるね!それでバシバシやっちゃって!」
「キャプテンの顔もこれで殴って良いの。」
「ダメ!!それはダメ!!」
他は良いのにそこはダメなんだ。
可哀想に、皆。
「でもこれ本番になってみないと試せないよね。一発勝負。」
「萎びないかな。鉄板の方に付けようよ。」
こんこん
俺の武器、巨大ハリセンの最後の仕上げをどうするか試行錯誤を重ねていると扉を叩く音が聞こえてきた。
「どちら様ですかー?」
「俺だ。」
「只今留守にしておりまーす!」
キャプテンキレちゃいますよとふざけてるウイを嗜めながらも、げらげら腹を抱えて笑うその声は外にも聞こえてるんだろう。
あーあ、知らない。
「ふざけてん…
ガチャ
「ぎゃー!!!ドア!!ドア!!」
物凄い形相でドアノブを指差しながら叫ぶウイの指示の元駆けつけたクルー達の手によって、開きかけた扉は再び閉まった。
「ちょっと!貼り紙見なかったの?!覗かないでよえっち!」
「だからノックしただろ。」
フリーウィングの扉には、“覗くな変態!”の貼り紙。
バタバタと明日の準備物を廊下に放り投げて隠し終えると、ウイにオッケーサインを貰った扉抑え係がその手を離した。
「…楽しそうじゃねぇか。」
「楽しいよ!あ…。」
ひくりと顔をひきつらせたキャプテンの視線の先には、昨日作った段幕。
皆の悪意の籠った罰ゲーム候補が貼り付けられ過ぎて、ここが何の本部か見る影もない。
「やっべ!皆これ!!隠して!!」
「忘れてたっす!一番ヤバいモンを!」
そうは言いつつもそれを目の当たりにしたキャプテンの反応に、こっち側のメンバーが揃ってニヤリと人の悪い笑みを浮かべる。
(((((((凄い(ぇ)嫌がってる!!)))))))
「本当にくだらねぇことしか考えねぇな。」
「下らない?上がるってことか!向上心!良いことじゃん!」
おっさんもびっくりなギャグセン。
上機嫌なウイにバシバシ背中を叩かれるキャプテンは今にもぶちギレそう。
なんか…懐かしい。
まだ出会ったばかりの頃、機嫌の悪いキャプテンに全く動じないウイには随分驚かされた。
あれから4年経って、お互いに多少は大人になってたとしても
根本的なとこって変わらないんだなって。
そんな事考えちゃって、なんか嬉しくなった。