12-20


「で?どしたの?」
「少し抜けらんねぇのか。」


突如水鉄砲戦争対策本部に押し掛けて来たロー。
罰ゲーム候補はバレちゃったけど、肝心の作戦の方はバレてない、筈!


バレたらもう絶対通用しないもんな。


「私明日の決戦に向けて忙しいよ?」
「行ってきなよ。後は俺らでも何とかなるし。」


ベポがしっしっ!と虫でも払うように行ってこいと手で払う。
確かに私もでんでんむしの改造はあと一個で終わりだけど

血の方がまだ…


「ちゃんと準備しとくから。キャプテン居たら作戦立てられないし。」
「あー…そうだよねー。邪魔だよねー。」
「おい。」


事実半分悪ノリ半分。
不機嫌そうなローに睨まれた。


だってチェスじゃない戦いをローと出来る。
張り切っちゃうのもその為に全力で準備したいのも仕方ないじゃない。


「どっか行くの?」
「まぁな。そんなに時間は取らせねぇ。」


着いてくるって確信が持てたのか、ローはさっさと扉を開けて船室を出ていった。


どうしたんだろ。
何か急いでしなきゃいけないこととか、話さなきゃいけない事あったっけ?


「じゃあちょっと行ってくるねー。」
「ヒューヒュー!デート!夜のお散歩デート!!」


囃し立てられる声に気恥ずかしさと居心地の悪さを感じる。
こっちを見ようともしない誰かさんは、何も気にしてないのかな。


この前だって私とローを残して出掛けてくくらいだし
…私の気にし過ぎか。


扉を開ければ、ローはもう港に降りて私を待っててくれてて。
たまに遠目でローを改めて見ると、雰囲気というか出で立ちというか

そういうのの格好良さが急に襲って来ることがある。




この人、私の事好きなんだよなー。




すらっと伸びた手足。
細身だけどその全部が筋肉だって知ってる。


全身で見ると凄い小顔。
近くで見ても私と頭の大きさはそんなに変わらない。
こんなに背、高いのに。

一見近寄りがたい程の目付きの悪さも、すっと通った鼻筋も、お姉さん達が放っておかないのも凄い納得だ。


「行くぞ。」
「うん!」


私の大好きな人。


「なんだ。」
「良いじゃん別に。」


すっと伸びる腕の先の指に手のひらを重ねれば、文句とは裏腹にそれを握り返してくれる。


こんな些細な事が、凄く幸せ。




「ねぇ、どしたの?」
「これ、やろうと思った。」


暫く夜の港を二人で歩いていても、ローが何か用事と思わしき事を切り出すことはなくて。
聞いてみたらロングコートのポケットから出てきたのは…線香花火?


「わー!私線香花火ってしたことない!どしたの?これ。」
「あの店で買った。」


港の木材の上に腰を降ろすローの隣に座ると、弱々しいその花火を一本渡された。


これも花火なんだもんなー。
こんなコンパクトにするには火薬どんだけ細かくすれば良いんだろ。


ひらひらしてる花火の先を摘まんでたら、準備の良いローがポケットから出したマッチで火を着けてくれる。


「わー!なんか地味だね!こういう花火もあるんだ。」
「その内割と派手になる。」


二人で肩を寄せあってじわじわと大きくなるその火種を見守ってた。


花開く前の蕾を早送りで見てるみたい。


ぷっくりとはち切れそうな程に大きくなったそれはぷつぷつと音を立てながらまだ膨らむ。


「…あっ!」
「下手くそ。」


その先を見つめてたら、その火種は地面に落ちて消えてしまった。
そういえばこれ、揺らさないように持って落とさないようにする楽しみ方するやつなんだっけ?

打ち上げ花火作るときに読んだ本にそういえば書いてあった。


「初めてやったんだもん!そんな事言うならローがお手本見せてよ。」
「ほら。」


付けろと言わんばかりに投げられたマッチをキャッチして、それをやすり部分に擦り付けた。


なんか、線香花火の匂いも好きだけど
マッチの燃える匂いも好き。


ローの持つそれに灯った炎は揺らめきながら花火に吸い込まれて、じじじと音を立てながら蕾を膨らませて行く。


「私より先に落としたらド下手くそだからね!」
「落とさねぇよ。」


いつもみたいなポーカーフェイスだけど、ローがその蕾に集中してるのが解る。
ローの瞳に映るその一点の明かり。

きっとローが今真剣なのを、周りは気付けない。
でもそれが私には解る。


「わっ!てやって良い?」
「ふざけんな。」


返事をしながらも橙色の蕾から目を離さないローが、可愛く見える。


ムキになっちゃって。
負けず嫌いなんだから。



橙色の蕾は私の時より大きくなって、やがてはち切れるように花開いた。


パチパチと音を立てながら周囲に放射線状に黄色い火花を散らすそれは、アレみたい。
松の葉。


確かに意外と派手だ。
綺麗。


それもやがて周りに散る勢いが衰えていって、膨らんだ火の玉が萎んで行きながら弱々しく重力に引っ張られながら下方へ火花を飛ばす。


これはあれだ、柳の枝みたい。
派手ではないけどなんだか儚げ。


黄色い枝は徐々に数を減らし、微かな火花の残像が花びらを思わせる。
それはまるで、散り際の菊のよう。


遂に火花さえも散らさなくなった火球が、花火の先っぽと同じくらい小さくなって、ぽとりと落ちた。


「落としたー。」
「最後は落ちるもんだろ。」


やりきったと少し自慢気なローを見てたら、なんだか切なくなったその気持ちがどこかへ吹き飛んだ。


負けず嫌いなの知ってる。
エースの懸賞金に張り合ったり、ゲームしてる時だったり、焼き餅妬きなとことかも知ってるから。


でもなんだか今日のローは可愛い。


「もう少し火元の近く持て。この辺りなら火も上がってこねぇ。」
「この辺?」


ローが新しい線香花火を持たせてくれて、その先に火を灯す。
火球が膨らんで行くとき、手に伝わる振動がなんだか癖になりそう。


「これ熱くねぇんだ。」


今度は上手くいってパチパチと火花を散らせるその先に手を翳すローはなんだか、あの時みたい。
トランスモード。


色んな難しい事考えてない、目の前の物に素直なリアクションをするロー。


真似して火花に触れれば、それは本当に熱くなかった。
なんでだろ。


やっぱり持つ位置が重要だったのか
存分に火花を散らした火球が、落ちて消えた。


「ねぇ勝負しよう!どっちが長持ちさせれるか!」


返事はない。
でも私に花火を手渡して自分の分の線香花火を握りしめながらマッチ箱を持つその様子は受けてたつと、そういう事でしょ。


マッチの先を擦り付けて素早く箱を投げ捨てたローが花火を持ち直して、同時に炎に先端をくべた。


「あはは、エースが居たら便利なのにね。」
「胸糞悪ぃ話すんな。」





ごめんね、わざとだよ。
焼き餅妬いて欲しくて名前を出した。


普段と違ったローを見てたら、やっぱり好きだなって思っちゃって。
愛されてるって実感したかったの。





「じゃあこれ鳴らしたらゲームスタートね!」
「「「「「「ういっす!!」」」」」」


遂に水鉄砲戦争の開幕だ。
午前中もギリギリまで準備してた。

絶対勝つ。
罰ゲームどれにするかはまだ決めてないけど、昨日のローの顔を見ればあの中のどれかは本気でやりたくない筈。


絶対させる。
したくなくてもローは負ければ絶対やる。


嫌がりながらも刑を執行するローを見たい。
絶対笑える。


紛らわしかったらいかんと思って、私たちのチームは皆の繋ぎに合わせて服を白で統一。
私も白のTシャツとショートパンツ、それに白のパーカーを羽織った。
髪の毛もお団子に纏めて戦う準備は万端。


対するロー達には迷彩柄のジャケットを配給した。


これで一目で敵と味方が分かる。
でも。


ローは確実に水鉄砲を持つ。
あの本物感漂う水鉄砲を抱えて迷彩柄のジャケットを羽織るロー。


絶対格好良い!
見たい!









「みんな作戦はばっちり?」
「「「「「勿論っす!」」」」」


こっちのスタート地点で最終確認をすれば、威勢の良い返事が返ってくる。
返事をしなかったベポとペンギンもニヤリと口元に笑みを浮かべてて、それはいつでも作戦に移れる事を物語ってる。


「じゃあ行くよ!!」


ッパァァァン!!


大空に向かってバトル開始の合図を打ち上げた。












さぁ、覚悟しろローとその仲間達。
勝てば良いんだ勝てば。


ちゃんとルールは伝えてる。
そこに気付けないあっちが悪い。


一斉に散っていく皆の後ろ姿を見送りながら、あっちのスタート地点に向かって足を進めた。


『こちらポイントD。緑のコンテナの影に鉄砲持ちを一人確認、どうぞ!』
「こちら指令部!了解、どうぞ!」


緑のコンテナ…、あれか。


そこを避けるように進行方向を変える。


『こちらポイントE!…』


続々と入ってくる向こうのチームの居場所情報。
それを昨日頭に叩き込んだゲームのエリアに落とし混む。


予測通りっていうか、攻めるつもりがある布陣ではないな。
バラけて身を隠してる。

ロー以外。


『こちらペンギン!準備完了!ポイントBにて待機。プランA要員、配置にて待機せよ!』
「了解!」


決行場所はそっちか。
絶対にローを落とす。


さて、行くか!





ローの動きに注意しつつ、プランAの私の配置に身を潜める。
移動してる人の情報を脳内のマップ上でも移動させて他のメンバーの到着を待った。


流石と言うか、目立って攻撃をしかけてないにも関わらず鉄砲持ちも含め二人が既にローに落とされた。


あっちの脱落者は0。
こっちの残りは鉄砲持ち四人とベポと私。


ベストな進行ではないけど想定の範囲内。
寧ろこれはこれで。


ロー以外あっちが攻撃を仕掛けて来ないこの状況。
スタート直後の入り乱れたフォーメーションで、一番当てられて避けられるローが数を減らす作戦か?


それは効率良いな。


でもね









きっとローは上手くいってると思ってる。
そういう時は変な意図に気付きにくい。


計画通りの進捗に満足してるだろうこの状況は、寧ろチャンス。





『『配置完了!いつでもオッケーっす!』』
「了解!」
『りょっ!』






さて。
こっちも動きますか。


ポケットに忍ばせた中々本物らいし血もどきが入ったスポイト。
それを持ってローの視界の先を彷徨つかなければ。


バチり、とかち合った視線。
慌てたふりをしてコンテナの影に身を潜めようと振り返り、鼻の中にスポイトの先を突っ込んだ。


たらり、と垂れてくる感触を感じてしゃがみこむ。


『指令部!キャプテンが網にかかりました!驚いた顔しながらそっちに向かってます!』
「了解。」


鼻を抑えながら振り向けば、少し心配そうなローがこっちに歩いてくる所だった。



「どうした。」
「鼻…鼻血でた。」


ちょっと突っ込み過ぎたかもしれない血もどき。
あの後改良を重ねられまくったこれは、成分以外はほぼ本物。


顔を覆いながらも、鼻血で顔を汚して動揺したふりをしてる私にローが心配そうに身を屈める。


「のぼせたか?少し休んでろ。」
「平、気!すぐ止まる。止める!」


強情設定の私にローは呆れ顔だ。


イケる。
騙されてる。


「ローいつもと雰囲気違うから、それ。格好良いなーって思ってたら…つーって。」


血まみれの手で迷彩のジャケットを指差せば、アホかと優しく頭を撫でられた。


流石医者。
患者には攻撃してこない。


たまげたスポーツマンシップだ。





ねぇロー、ここは戦場だよ?


んなもん









くそ食らえだ!





destruct at reality.