12-21


「それにしてもすげぇ量だな、一応診とくか。ルー…
「ダメダメダメっ!!」


まぁそれで反則負けでも良いんだけど、どうせ勝つならちゃんとローを水浸しにして勝ちたい。


「使ったらロー負けになっちゃう!大丈夫だから!ちゃんと止めてちゃんと負かす!!」
「…なら少し日陰で大人しくして…っ!」


作戦決行場所に決めたコンテナ。
その左右の通路を、足音を忍ばせながらも水鉄砲を抱えて走ってくる陽動要員。


陽動なのに足音を忍ばせてるのは、きっと皆もあわよくば自分の手でローを落としたいから。

陽動なんだから気付いて貰えないとその後に差し障る。
でも相手はローだ。

足音がしなかろうと、鼻血まみれの私に気を取られてようと
迫ってくる自分を狙う気配に気付かない訳がない。

寧ろ足音忍ばせてる方がリアリティーが増す。


残像でも見えるくらいの身のこなしで振り返ったローが、それと同時に肩に掛けていた水鉄砲を構えてコンテナを挟んで二方向から駆け寄ってくる二人のゼッケンを的確に撃ち抜く。


すっごーい。
ピンポイント!






でもね、ロー。












背中がガラ空きだよ。


「…そういう事か。」


後ろ姿だった筈のローは、いつの間にかこっちを向いてて
水風船を投げつけようと振りかぶってた私の手首をがしりと掴んだ。



ダメか。
やっぱりローは手強いな。



「残念だったな。」



呆れたような、それでいて攻撃を防ぎきったとでも言わんばかりの勝ち誇った顔。

ごめんね、ロー。
ローが手強い事なんて分かってる。



「残念キャプテン、俺らの勝ち。」



頭上から降ってきた声、それに少し遅れてローに襲いかかる水。
コンテナの上で、ペンギンが空のバケツを片手に不敵に笑ってた。


流石のローも立て続けに襲い掛かるトラップに目を見開いてそれをかわそうとしてるけど

させない。


「っ…!?」


バシャーン















「自滅覚悟とは良い度胸だな。」
「3人落とされても、ローさえ落とせれば勝てるもん。」


避けようとするローの腰に抱きついてそれを防ぐと、頭上から降ってくる呆れた声。

冷たいけど、私も脱落だけど
ローも道連れ。


「私達の勝ちー!」
「まだわかんねぇだろ。」


悔しそうな横顔に、自然と顔が綻んだ。



『うわっ!マジかよ!?すげぇ!!』
『おめでとー。本当にキャプテン落としたんだ。』
「後は任せたよ!」
「おまえらそれ…卑怯だろ普通に。」


ローは今さら小型のでんでんむしに気付いたらしい。


手遅れ。
時既に遅し。


「自分が思い浮かばない事卑怯とか言うの、器ちっちゃいヤツの典型でしょ。」
「ペンギン!ナイスバケツプレイ!!あとよろしく!」


コンテナから飛び降りて来たペンギンとハイタッチを交わす。
3対7だけど、これはもうこっちの勝ちだ。


「んー、プランDで!ベポはポイントB、エイジはポイントF辺りに誘い込んどいてー。」
『『了解!!』』


あとはもう副船長様にお任せしよう。


「じゃあ私たちは負け犬小屋へゴー!」
「なんだ負け犬小屋って。」


私の指差した先は脱落者達の待機所。
今から私達もそこに行くのに、ローの顔はとんでもなく嫌そう。


「早く行こう!」
「…あぁ。」


ローの腕を引いてそこに向かった。
凄く清々しい気分。









「ねぇロー!水鉄砲顔にブシャーってやって!顔洗いたい!」
「結構水圧強ぇぞ。」


バケツの水じゃ落ちきらなかった傑作の血糊を落とさなければ。
いつまでもこの状態は女子としていかん。





















プランDか。
キャプテンが不要と言ったこの目立つ体を存分に活用して一仕事。それが俺の役目。


作戦通り、ペンギンはコンテナの上から辺りを見渡しながら堂々と陣取ってるし
エイジも派手に騒いでキャプテンの陥落を吹聴しながら姿を晒してる。


シャチをマップの隅に誘き寄せるのに成功したらしいエイジからの報告を聞きながら、じりじりとにじり寄ってくる鉄砲持ち3人の姿を確認した。


「いくらベポが機敏な熊でも囲めば落とせる!」
「まだ射つなよ!ぎりぎりまで距離詰めろ!」
「おうよ!絶対逃がすな!」


大人数で確実に落とそうってのは良いと思う。


飛び道具なんて射程が長い事を生かした武器なのに
こんなに寄ってくるとは。
俺に攻撃力がないと思ってるのと、反射神経の良い俺の避ける能力を買ってくれての事なんだと思う。


3つの銃口と引き金に掛かった指、3人のアイコンタクトを観察しながら、絶好のタイミングを待った。




「おいベポ!それで殴っても良いけどゼッケン濡らさねぇと勝てねぇんだからな!」
「なんでおまえハリセンなんて持ってんだよ!」


分かってるよそんなこと。


油断し腐ってる3人がゲラゲラ笑い出す。


そろそろひと振りで届く距離。
さっさと片付けて残りを落とさないと。


「うちのチームのスローガン、“勝てばそれで良し”だから。」
「は?」


どうやって勝つんだとでも言いたげな3つの迷彩の塊を、重心を落としてハリセンで凪ぎ払う。


皆右利きで良かった。
俺を狙う為に水鉄砲を構えてる標的達の体はみんな右側に傾いてて、時計回りに一周振り回しただけで全員のゼッケンをハリセンが掠めた。


「このハリセン、うちのリーダーのお手製なんだ。」


振り回し終えたハリセンから、ぽとりと落ちた水滴が地面に丸い染みを作る。


「は!?なんで!?」
「おまえそれ!!卑怯だろ!!ずりぃよ!!」
「反則!!反則だ!!」


変色したゼッケンに目を見開いて抗議の声を上げる3人に、捨て台詞を残して残りの討伐に向かった。


「水鉄砲でしか攻撃しちゃダメなルールなんてないでしょ。」


ギャーギャー騒ぐ負け犬を残してペンギンとエイジに報告を入れる。
残る鉄砲持ちはシャチ一人。


作戦次第で戦力的に不利な相手にも勝てるんだ。
正直キャプテンにいらないって言われた瞬間、もう俺は勝てないと思ってた。

どうせキャプテンのチームが勝つって。


卑怯ってのは実際そうなんだけど
本当にウイは凄いな。


『こちらエイジ!ポイントFにて被弾!すんません!後任せるっす!』
『「了解!」』


流石に水鉄砲持ってる者同士だと、エイジじゃシャチに敵わないか。
でも俺の濡れタオル付きハリセンがシャチにバレない状態で他の戦力を削げただけで、エイジの頑張りは次に生きてくる。


「どうする?」
『プランX!ポイントは…Cで!状況読んで挟もうぜ!』
「了解!」



シャチを潰す。
攻撃力のない生き残り3人はゲーム開始から全く移動せず身を隠してる。

シャチさえ落とせばこっちの勝ちだ。








『ようシャチ。グラサン貸してよ。眩しくて見えない。』
『誰が貸すか。』


無線から聞こえて来た会話に隠されたペンギンの意図。



ポイントCの太陽側にシャチが居る配置ね。

了解。




失恋、したんだよなー。きっと。


仕事も休みで
なんだか家の中に一人で居ても気が沈む一方で


なんとなく散歩に出た。


立ち入り禁止区画の港の外れ。
使われてないコンテナや樽が無造作に並んでいるその場所。

立地と見通しの悪さのせいでここは大層治安が悪い。
夜は絶対来ちゃダメなとこ。

治安以前に、何年も前から雨ざらしになってるコンテナは老朽化も激しくて
いつ崩れ落ちるか分からない。

普通に危険。




でもなんとなく一人で海を眺めたくて、そこに向かった。
家の中で一人だと落ち込む思考も、海と大空の下では違った気分になると思ったから。

どうせ考え事するなら、良い方向に考えたい。
誰にも邪魔されずに気持ちの整理をつけたかった。




のに。



目的の場所に近づくに連れて聞こえてくる人の声。
わーわー騒がしいそれはなんだか楽しそう。


でもこんな場所で騒ぐくらい。
柄の良い先客ではなさそうだ。


そっとコンテナの影に身を潜めて声の元を覗き込めば、どくりと心臓が跳ねる。








ペンギンと同じつなぎ。


この先客はきっと、ペンギンの仲間達。
ペンギンはどこだろう。


柄の悪い人達に見つかっちゃいけないとか
私失恋したんだったとか


そういうの綺麗に忘れてしまってて。
好きな人を一目だけでも見たいって逸る心が、隠れていた身を大胆に乗り出させた。










…ペンギンだ!!
銃持ってる!
何!?
物騒!


どこか憂いを帯びた顔で一点を見つめるペンギンに胸の動悸が止まらない。


格好いい!
格好良すぎる!
銃のせいでいつもよりワイルド!



どこ見て…













「それ意味ないから!ローも水浸しだから!」
「まだ取れてねぇんだよ馬鹿。…ったく。」


可愛らしい女の子が、向かい合うように立つ男の人に顔を拭いて貰ってた。

文句を言うその子も、仕方なさそうに自分のTシャツを伸ばして顔を拭いてあげてるその人もなんだかどこか幸せそうで。


そんな二人を見つめるペンギンの目を見て
…解ってしまった。










この子だ。
ペンギンの好きな人。



「あんまり擦んないで!赤くなるじゃん!」
「付けっぱなしのが肌荒れるぞ。」


仲良くじゃれ合う二人。



その子の笑顔は可愛過ぎて、天使かと思った。




うん、確かに。


ペンギンの好きな人の彼氏は確かに整った顔をしてる。
背も高くて細身だけど、間繰り上げた腕は筋張ってて
良い体してるんだろうなーって思う。


なんだか喋り方が高圧的っていうか、優しくないっていうか、無愛想。

あの子はそれでも嬉しそうだから、それで良いなら良いんだろうけど

…絶対ペンギンの方が良い男だと思う。


なんで?
凄いテクニシャンとか?
いや、ペンギンも凄いぞ。

あれは凄い。
あんな上手い人に初めて会った。

セックスが上手ってこういうことかって、今までの認識が覆された位だ。








いや、それだけが目的って訳じゃないんだけどさ。






その子は彼氏さん以外とも仲が良いみたいで、常に誰かが傍に居るしにこにこしてて楽しそう。




“すっげぇ人見知りでずっげぇ人懐っこくて、ずっげぇバカでずっげぇ頭良い子。”



人見知りには見えない。
バカなのか頭良いのかも分かんないけど。


でも人懐っこそうなのは分かる。


なんか、こう…
凄い絶世の美女とか、ナイスバディだとか、そういうの想像してた。


いや、可愛い。
凄い可愛いし良い子なんだろうなって思うけど。


思ったより普通で拍子抜けだ。


絶対敵わない相手だって思ってたのに、そのライバルはどこにでも居そうな普通の女の子で。


だからこそ、だからこそだ。


どんなに外見を磨いても、ペンギン好みの女になれるように努力しても
あの人の気持ちがこっちに向くことはないんだろうなっていう現実が重たくのし掛かる。




それでもやっぱり好き。
私はペンギンが、あの人がどうしようもなく好きだ。

他の人なんて、もう考えられない。




止められない気持ちがもどかしくてペンギンを見つめてたら、そう近くはない距離なのにこっちに気付いたペンギンと目があった。


それだけで嬉しくなって手を振れば、咎めるように目を細めてしっしっとあしらわれる。


そんなツレない態度に唇を尖らせて抗議するけど、私に構ってくれることのないその人は背を向けて港の奥へ行ってしまった。




隠れて見てれば、もっとここに居てくれたのかな。


「こんにちは!ペンギンのお友達?」
「っうわぁあああ!!」


急に聞こえてきたその声に、我ながら凄い声が出た。




destruct at reality.