12-22
「あっはっは!ごめんごめん!そんなに驚くと思わなかった。」
「いえ、こちらこそ…急に大声出してごめんなさい。」
けらけらと笑うその子からは、飾らない活発そうな雰囲気が滲み出てる。
「私ウイっていうの。よろしくね!あなたは?」
「あゆみ、です。よろしく。」
付き出された手を握れば、暑いくらいの気温なのにその手は少し冷たくて。
透き通るような白い肌も、全体的に華奢な体付きも、ナイスバディとはまた別な意味で男心を擽りそうとか思わなくもない。
「あゆみちゃん暇?折角だから一緒に見ようよ!今からペンギンが男を見せるよ!!」
「え!?ほんとに!?」
マジでガチ!と弾けるような笑顔を浮かべたウイさんに、そのままぐいぐいと手を引かれて他の皆の所に連れて行かれた。
意外と結構強引だな。
「皆ー!ペンギンのお友達連れて来た!あゆみちゃんです!」
「おー!女!!しかも可愛い!!」
「え、っつーことは副船長のお手付きかよ。ちぇーっ。」
「え!?そうなの!?」
ぎょっとしたようにこっちを振り返るウイさん。
そのリアクションはどういう意味なんだろう。
「副船長が可愛い女の知り合いに手ぇ出さねぇと思う?」
「思わない。」
囃し立てる彼らの言葉に真顔で答えるその様子は、ペンギンと関係を持ったかもしれない女に焼き餅とかを妬いてる感じは微塵もなくて。
ペンギンの気持ちを考えたらこんな事思うの良くないんだろうけど、少しほっとした。
「現地妻!?前この島来た時副船長が店行かなかったのってあゆみちゃんとこ行ってたから!?」
「え!?どうなんすか!?」
何て言うか、随分オープンな人達だ。
普段なら開けっ広げに話せるけど
彼らがペンギンの仲間達で、しかもペンギンの好きな人まで居るっていうこの状況だとどこまで話して良いのか悩む。
困った。
「あ!シャチだ!!さっさとくたばれー!!」
急に弾かれるように港の奥に顔を向けたウイさんのおかげで、皆の注意がそっちに逸れた。
向こうから煩ぇよ!と返ってくるシャチと呼ばれたサングラスの人の声。
それにぎゃーぎゃー野次を飛ばすこの人達は、一体ここで何やってたんだろう。
「おいシャチ!負けたらてめぇ…分かってんだろうな。」
「キャプテンが落ちたのが悪いっしょ!人のせいにすんな!!」
ずっと口を閉ざしてたウイさんの恋人。
キャプテンとか呼ばれてるってことは、この人がペンギン達の船長か。
「何してたの?」
「水鉄砲戦争!あのグラサン落とせば私たちの勝ち!!」
ゼッケン濡らしたら負けとか、白対迷彩のチーム戦とか、簡単にその内容を教えてもらって
ウイさんが全身ずぶ濡れだった理由を理解した。
なんか面白そうな事やるな。
食い入るように鉄砲を構え合ってるペンギン達を見つめながら野次や声援を飛ばす彼らはとても愉快な人達だと思った。
「ペンギン行けー!やっちゃえ!」
低い声の中で目立って聞こえる高い声。
それを合図にペンギンが地面を蹴ってシャチさんの方に駆け出した。
仕留めようと襲ってくる放水をひらりと身をかわしながら距離を詰めたペンギンが、シャチさんの水鉄砲を自身のそれで打ち付ける。
シャチさんも簡単にはやられない。
ぎりぎりと水鉄砲同士を力で押し合う二人のそのスピード感は凄くて。
遠目でもペンギンの口元が楽しそうに笑ってるのが見えた。
戦ってるペンギン格好良いけど…水鉄砲としても鉄砲としても使い方間違ってる。
「残念シャチ。罰ゲーム楽しみにしてて。」
「は?!まだ終わってね…うぉっ!!」
銃を押し合う二人の背後に現れた巨大な熊が、巨大なハリセンでシャチさんの背中を凪ぎ払う。
それと同時に白い方の人達から歓声が上がって皆がハイタッチしたり抱き合ったり
遊びにしても凄い喜びようだ。
「罰ゲーム楽しみだね!ロー!」
バシバシ恋人の背中を叩くウイさんは中々悪い顔をしてて、かたや船長さんの方は本気で不機嫌さを顕にしてる。
目付きっていうか、その雰囲気はゲームに無関係な私でも正直怖い。
恋人同士の二人だから許されるのか、ウイさんだから許されるのかは分からない。
でも不機嫌そうなだけで好きなようにさせてる船長さんは、なんだか悪い人じゃないのかもとか思えてくる。
好きな人には甘いんだね、皆。
「ではでは!私たちの勝利祝いと!!あゆみちゃんよろしくねってことで!!かんぱーい!!!」
「「「「「かんぱーい!!」」」」」
なんだか流れでそのまま連行されて、打ち上げ用に貸し切っていたらしい飲み屋さんにやって来た。
ペンギンの仲間達は、船長さん以外は皆気さくで社交的。
初対面なのに居心地の悪さを全く感じさせない彼らのおかげで、私はすっかりその飲み会を楽しんでた。
「なんで居るの。」
「誘われた、から?」
お酒は各自カウンターにおかわりを注文しに行く方式。
丁度タイミングが重なったペンギンがこの場に私がいることを咎めるように目を細める。
「ペンギン格好良かった!!凄く!」
「それはどうも。」
おかわりのビールを受け取ったペンギンは素っ気なく席に戻っていってしまった。
避けられてる。
確実に。
楽しいお酒の席なのに、これはちょっとつらい。
「何飲むの?」
「え、焼酎にしようかビールにしようか悩んでて。」
メニューを眺めながらぼーっとしてたら、背中にのし掛かってくる重みと甘い香りでその正体を知る。
本当に人懐っこい。
どこが人見知りだ。
「渋いねあゆみちゃん!焼酎飲むなら一口ちょうだい!」
「いーよ。ウイは何飲むの?」
えーっと次はねぇ、とメニューに目を落とすこの子も
中々に酒が強い。
上から順に全制覇を狙ってるらしいウイは酔ってなくても楽しそうだけどお酒が入るとそれは更に増すらしい。
二人で仲良くグラスを持って席に戻ろうとすると、ウイが獲物でも見つけたかのようにテーブルの上に目を向けた。
立食パーティーかのように注文した大皿料理を一ヶ所に並べて各自が取りに来るスタイル。
大人数で飲むとパーティーとかじゃなくてもこうなるのか。
「甘いの!誰頼んだんだろう!あゆみちゃん頼んだ!?」
「私じゃないよー。」
ジャンキーなメニューの片隅にある、フルーツタルトとチーズケーキ。
それに目を輝かせるウイは甘いものが好きなんだうな。
可愛い、手に持ってる酒泡盛だけど。
「あ!ロー!!助けて!!私今凄い困ってる!!」
「…なんだ騒がしい。」
これは癖なのかな。
文句は言う割に、この人はウイに凄く甘い。
「お酒持ってるから取れない!取って!あゆみちゃん一個ずつで良い?」
「私まだ大丈夫!」
甘いものを拒否するなんて!!
女子じゃない!!
でもいらないのに無理強いも良くないよね。
「じゃあ2つずつー。」
「おい、そこの女要らねぇって言ったよな。」
「そこの女とか言わない!あゆみちゃんだよ!そして4つとも私のだよ!」
不貞腐れたような顔でケーキを盛ってくれたローはもう返事すらしなくて。
ソニアとかカレンにもあんまり友好的な態度は取らないけど今日は殊更酷い気がする。
戦争で負けて気が立ってるのかな。
可愛いやつめ。
あゆみちゃんにローの不躾な態度を謝って席に戻った。
ペンギンとそういう仲らしいあゆみちゃん。
飾らない雰囲気と豪快なその飲みっぷりには凄い親しみを覚える。
なんだか女の子っていうよりも、男友達に近い感じかな。
嬉しいな。
新しい女の子の友達。
「ウイペンギンのこと振ったんでしょ?」
「ごふっ!」
泡盛に口を付けてたら突如降りかかってきた質問にアルコールが気管に侵入してきた。
これはつらい。
アルコール度数が高いせいか
むしろ痛い!
ごほごほムセてると、あゆみちゃんは真剣な目をしてて。
ああ、ペンギンのこと好きなんだろうなって思った。
まぁそういう関係ならおかしくないか。
でもなんで私のこと知ってるんだろ。
落ち着く為に食道を泡盛で洗い流そうと思った。
「あの目付き悪いのと付き合ってるんでしょ?」
「ごふぅっ!!」
わざとなのか。
なんで私がお酒飲むタイミングで毎回そんな度肝抜く質問してくるの。
返事はまだかと言わんばかりのあゆみちゃんの真剣な視線がちくちくと突き刺さる。
「なにやってんの。ほれ。」
「あ…りがと…!」
目の前に置かれた水が入ったコップと、むせるタイミングに合わせて叩かれる背中。
気管に入るどころか寧ろ詰まったんじゃないかって程苦しくて、死ぬかと思った。
タイミングの良い振動で、誤嚥した泡盛が食道の方に流れてく。
助かった。
でも…
いつの間に隣に腰を降ろしてるペンギンと、目の前に座ってるあゆみちゃん。
これは…これで
なんだか波乱な…予感なのか?
「ウイちゃん喉の老化早くない?」
「違…げほっ、…びっ、くり…した…の!」
中々しつこい泡盛だ。
ムセが止まらない。
ムセる度に、背中叩いて貰う度に、少しずつマシになってる気はするんだけど
中々収まらない。
「おい触るな。」
「人命救助でしょ。なんか死にそうだけどこの子。」
ローがやめさせたのか、背中を叩く振動が止まった。
なんて事するんだ。
ローは私を殺す気か。
げほげほとムセ込みながら、文句を言えない代わりに思いっきり睨み付ける。
「ルーム、…シャンブルズ。」
「…あれ?あ!そっか!そういう使い方もあるんだね!便利便利ー!」
気管の中の泡盛を取り除いて貰って、やっとお腹の底から空気を吸える。
普通に息が出来る素晴らしさを噛みしめた。
「隈酷い癖に。ペンギンより良い男な意味が分からない。」
焼酎をぐいっと流し込んだあゆみちゃんが、私の隣に腰かけたローを目を細めて品定めするように見てる。
ローにメロメロにならない人が居るなんて…。
はっ!!
こいつ他の女と違ぇなって気になっちゃって、ローがあゆみちゃんを好きになっちゃったらどうしよう!
なんかありそう!
これ小説とかにありそうなパターン!!
じっとあゆみちゃんを見つめる。
あゆみちゃんは可愛い。
胸も大きいし、ペンギンとそういう仲ってことは…そういうテクもお持ちなんだろう。
どうしよう。
ライバル出現。
「そんなに凄いテク持ってる訳?」
!!!
誘ってる!!
誘ってるのか!
マジか!
ペンギン好きなんじゃなかったの!?
訳分かんない。
ちょっと混乱してきた…
「ペンギンは凄いもん!」
え?
処理しきれない事態に抱えていた頭を上げれば、どや!と胸を張って挑むような目でローを睨むあゆみちゃん。
本当に混乱してきた。
え、これはペンギンの方が凄いって主張なの?
それとも…
負けず嫌いなローを挑発してベッドに誘おうっていうそういう作戦?
どうしよう。
訳分からん。