12-24
「ペンギン普段アホだから。一緒に騒いでて楽しいし、実は頼りになるし、優しいのも知ってる。」
ぽつりぽつりと話し出したウイの顔は、今度は少し悲しそうで。
でもペンギンの良いところちゃんと知ってるなら、それよりもあの隈男が良いって言うウイが益々訳分からない。
「でもね、なんか…違うっていうか。ローのこと思う気持ちと他の人を思う気持ちって、なんか違う。」
「実はそんなに良いヤツなの?あの隈男。」
ぱぁっと目を輝かせたウイの、壮絶なるノロケ返しが襲ってきた。
さっき私も聞いて貰った。
ここは大人しく聞くか。
…長い。
とんでもなく長い。
取り敢えずあの隈男が良いヤツなのはなんとなく分かった。
文句言う割にウイに甘いとこも実際に見た。
分かったけど、長い。
どんだけ好きなんだあの隈男が。
「…でもね、ペンギンのことも大事だから、いつまでも甘えてちゃいけないなって。それでこの前他の人に目を向けてって言おうとしたら、キレられた。」
「は?」
やっと終わりそうかと思ったら、突如急展開を見せた話の流れに驚きすぎて目を見開く。
「誰を好きでいるかまで私に決められる筋合ないーみたいな感じで。大事だから幸せになって貰いたかったんだけど、確かに我が儘だったのかなって。」
…どういう事?
あれ。
また私、ペンギンを弁護したくなってるのかな。
私の為を思って、とかは言ってなかった。
言い方だって冷たかったし素っ気なかった。
実際私も、今落ち着いて考えたら鬱陶しいことしたって自覚してる。
でもそのペンギンがキレたらしいこと、さっきペンギン私にしたよね。
ウイがペンギンにそれを言う時、ペンギンの幸せを思って言おうとしたっていうのが本当だとしたら。
いや、この子はそんな嘘付かない。
きっと本当の気持ちだ。
もしそうなら。
答えられない大事な人へ思う気持ちが、そうなんだとしたら。
ペンギンもそうだったのかな。
私の幸せを思うからこそ、あんな言い方したのかな。
「でも私、実際ペンギンが誰かと付き合っちゃうのかもって思うとちょっと焼き餅みたいなの感じなくもないんだけどねー。」
あっけらかんとズルい女発言をするウイに度肝を抜かれる。
普通言わないだろ、そういうの。
しかも私の前で。
「強欲な女…やな感じ。」
「そうなの。私やな女なんだー。」
口で言う程、ウイをやな女だって思ってない自分が居る。
きっとそれは、綺麗事じゃなくて真実だから。
変に取り繕われた気持ちじゃなくて、ダメでも聞こえが悪いことでも
ウイはそれを素直に認めて口にするから。
ダメだって分かってたって、それでそのダメな事を思わないで居られる程
人の心は単純じゃない。
私は本当はどろどろで汚い癖に綺麗事を並べる人より、ダメな所をちゃんと認められる人の方が好きだ。
「でもペンギンには内緒だよ!良くない我が儘だってちゃんと分かってるし!ペンギンに幸せになって貰いたいのも本当!」
そう言ってグラスの中身を飲み干したウイが、自分のそれに焼酎を注ぐついでに私のにも注ぎ足してくれた。
人ってさ、好き嫌いあると思うんだ。
ウイみたいな人を好きじゃないって人だって居ると思う。
でもなんでかな。
こういうとこが、ペンギンは好きなんだろうなって思うと
やっぱり敵わないなって思ってしまう。
「ねぇ、私さ。あゆみちゃんに聞きたい事あるんだ。」
「何ー?」
もじもじとグラスを両手で抱えるウイは、ちょっと顔を赤らめててなんか可愛い。
その中身、芋焼酎ロックだけど。
「セックスって、初めてだと痛いの?」
「…え?ちょっと待て。…ウイ処女なの?」
こくこくと頷く様子に唖然とする。
なんとなく、ペンギンとウイに体の関係がないのは分かってた。
でも、…あの隈男両想いの癖に手ぇ出してないとか…。
正気か。
「アイツテクどうこう以前に勃たないんじゃないの!?勃起不全!ED!!」
「わーわーわーわー!!違う!!違うもん!!違うからやめてよ!!あゆみちゃんのバカ!!」
信らんない。
何この今時珍しいプラトニックカップル。
「楽しそうね、あの二人。」
「おまえも相当イカれた女に手ぇ出したもんだな。」
明日決められる罰ゲームの内容についてウイチームの奴らの口を割ろうと試みて居たら
いつの間にか隣に来てたペンギンが呆れた声を上げた。
確かにキャーキャー騒いでいる。
さっきまでしっぽりしながら飲んでたかと思えば。
ウイも中々変わり者だが、あの女も中々酷い。
「ねーキャプテン、あのピッチャーの中身なんだか知ってる?」
「さぁ。水じゃねぇのか。」
ウイがそれを片手にあっちの席に移動した時、その中身は溢れるんじゃないかと思うほど満杯だった。
それが今や空。
遠目だから見えねぇとしても、残ってたとしてもそれはほぼねぇ筈。
「芋のロック。…ウイちゃん明日大丈夫なの。」
「大丈夫っすよ!明日は念願の罰ゲームの決定と執行があるんすから!」
「そっすよ!ウイさんならゲロってでも這ってでも参加する!!」
随分とこいつらの中のウイの印象が現実と合致してきた。
確かにどんだけ二日酔いに苦しもうと、ウイならそれに参加すんだろ。
最初にビール2杯飲んで、カクテル4種類、ワインも何杯か飲んでたな。
そんで泡盛だろ。
それに加えてあの量の焼酎。
明日罰ゲームに参加出来るかは置いておくとして、これは二日酔い決定コース。
自分が何をどれだけ飲んだかは把握してねぇのに、ウイが飲んだ酒は覚えてる事に
自分に自分で引いた。
過保護すぎる。
そして行き過ぎてる気がする。
「ほっといたらまだ飲み続けそうだけど。どうする?」
「そろそろ帰るか。」
ウイにこれ以上飲ませたらいけねぇ。
明日の体調が悪くなればなるほど、その自業自得な体調不良への不満は俺らへの罰ゲームに反映されて返ってくる。
ペンギンに金を持たせて会計を任せると、他のクルー達にそろそろ撤退することを伝えた。
「えー、もう帰るの?」
「良いからさっさと立て。」
やだー!とソファーにどっしり座って帰らねぇと主張するウイを無理やり立たせる。
首根っこを掴み上げられたその様子は、猫みてぇだ。
「あんま遅くなると、そこの女も危ねぇだろ。」
「あゆみちゃん!ちゃんと覚えてよ名前!」
じたばた暴れるウイの襟を離してやれば、酔っ払いがいっちょまえに説教なんてかまして来やがった。
別に覚えてねぇ訳じゃねぇ。
名前で呼んでやる間柄でもねぇと思ってるだけだ。
「まさかあゆみちゃん1人で帰らせる訳じゃないよね?ペンギン送って行ってあげなよ!」
「なんで俺が。」
こうなったらウイは聞かねぇ。
送ってけよ女1人くらい。
女なら見境なく手を出す癖に
手ぇ出した女には比較的甘い癖に
ペンギンはどうもこの女に近付こうとしない。
送ったついでに一発ヤってくりゃ良いものを。
「なら私が送ってく!皆先帰ってて良いよ!行こうあゆみちゃん。」
「それ結局ウイの帰り道が危ないでしょ。大丈夫、1人で帰れるよ。」
そこら辺は比較的まともらしい女が辞退を申し出てるのに、ウイは引かない。
ほら見ろ。
結局こうなるじゃねぇか。
仕方なく強情なウイに着いて行ってやるかとため息を付けば、肩を掴んで来たペンギンの手。
「分かった。俺送ってくから。」
「え!」
「本当!?ありがとペンギン!」
さっきまでの膨れっ面はどうした。
いそいそとバックを肩に掛けて帰り支度を始めるウイの変わり身の早さはもう見慣れたものだ。
げんなりしてるペンギンに面倒ごとを引き受けさせた事を少し悪くは思うが
元はと言えば自分が手を付けた女だ。
こいつもこいつで自業自得か。
「じゃあね!あゆみちゃん!また飲もうね!」
「うん!ウイもちゃんと前見て帰るんだよ!その歩き方転ぶよ!」
店の前の通りを、後ろ向きで手を降りながら歩くウイは確かに危ない。
大丈夫だとへらへら笑ってるそのアホの手を掴んで、無理やり前を向かせた。
「えへへ。楽しかったね。」
「良かったな。」
本当に世話が妬ける。
でもそんな女が好きで仕方ない自分の方が、手に追えないと思った。
静かな夜の街。
少しだけ前を無言で歩くその後ろ姿は、ちょっぴり猫背。
二人で居られるこの状況は複雑。
嬉しい、けど…これは喜んで良い状況とかじゃない。
ペンギンが私を1人で帰らせるのが心配だとか
私ともっと一緒に居たいとか
そう思ってくれてこうなったなら心から喜べる。
でもペンギンは、ウイに言われたから仕方なくこうしてくれてる。
ペンギンが1人で夜道を歩かせたくないのは、私じゃなくてウイだ。
全く会話のないこの時間。
お互いの足音と、遠くで聞こえる虫の音だけが辺りに響いてた。
なんだか、これってあれみたい。
ペンギンが私にしてくれた事の真逆。
形だけのまやかし。
その場を取り繕うだけの優しさ。
気持ちのない、見せかけの優しさ。
空っぽの優しさ。
それが今の、私を送ってくれてるペンギン。
家に着いてしまえば今度こそおしまい。
ペンギンはきっともう、私と会ってくれない。
最後の二人だけの時間。
ねぇペンギン。
本当は、私の事思って素っ気なくしてくれてるの?
それとも本当に、鬱陶しくて面倒臭くて嫌になった?
どっちにしろ
ペンギンが私を遠ざけようとしてる事実は変わらない。
家が近付くに連れて重くなる足が、ペンギンとの時間のカウントダウンを刻んでいくのが悲しくて
それを踏み出せなくなった。
動かない筈ないのに、靴の底が地面に張り付いたように動かない。
可笑しいな。
こんな子供みたいなこと、したって無駄なのに。
助かる方法じゃなく、延命措置。
いつか終わるそれを引き伸ばしてるだけ。
引きずってでも動かそうと足に力を込めるけど
視界に移るパンプスはいつの間にかその輪郭が歪んでて。
瞬きした途端、通り雨がその上を濡らした。
変なの。
雲1つなくて、星が綺麗に見える夜だったのに。
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