12-28
パパ達とのでんでんむしを切って、私も出来る事をしなきゃって思ってもまだ夜中。
緊急事態だけど、こんな時間に連絡なんて流石に出来ない。
明日の朝まで、出来る事なんて何もない。
夜中だったけど船を出した。
瓦礫の山をどけて回って、体はへとへとに疲れてた。
泣きすぎて、目も腫れてるし頭も朦朧とする。
でもなんだか眠る気にならない。
エースはもう、インペルダウンに着いてしまったんだろうか。
それとも船で護送中かな。
怪我してないかな。
一人で心細くないかな。
ティーチに負けて、悔しがってたりしてるんじゃないかな。
私に、会いたいって思ってくれてるかな。
汗と涙でベタベタの体を乾かすように夜の潮風が吹き抜ける。
「エース…会いたい。」
後悔の涙は何度でも溢れて来た。
いつも構ってくれて
気にかけてくれて、笑わせてくれたエース。
優しくて
面倒見が良くて
好きって気持ちを全身でぶつけてくれて
どんな時でも私の事ばっかり考えてくれてた。
甘やかしてくれるから
気付いてくれるから
いつの間にかエースの前では、思った事を顔や態度に出してしまう癖がついてしまった。
けど、気付いてって言う前に
エースはそんな私に気付いてくれて傍に居てくれた。
いつだって
私の事を一番に考えてくれてた。
今朝まで、あんなにわくわくしてたのに。
皆との楽しかった事を話したいなって
久しぶりにエースの笑った顔が見たいなって
楽しみで仕方なかったのに。
今はもう、そんな事が随分前の出来事みたいに感じる。
血塗れの指はもうそれが乾燥して、土や埃と混ざって黒くなってる。
エースが傍に居たら、きっと慌ててこの手を洗ってくれる。
何やってんだって怒って、下手なりに手当てしてくれて
落ち込んでる私の話を最後まで、気が済むまで聞いてくれて
最後は笑わせてくれる。
私本当に、エースに甘やかされてた。
必要としてて、傍に居て欲しいって思ってたのはきっと私の方。
エースならずっと傍に居てくれるって
居てくれる事を当たり前だと思ってた。
もう会えないかもしれないって思って初めて気がついた。
なんだろう、この気持ちは。
痛みのないナイフで胸を抉り取られたみたい。
全身に力が入らない。
後ろ手に組まされて、手首を覆っている海籠石の手錠。
原因はこいつだ。
波の揺れを感じながら、鉄格子に囲まれた薄暗い場所でただ過ぎていく時間を感じていた。
負わされた傷が傷んだけど
それよりも気がかりで仕方ないこと。
ウイはどうしただろう。
最後にでんでんむしで連絡を入れてから、もう随分時間が経った気がする。
日の光が差し込まねぇここは、あれから何日経ったのかも分からねぇ。
沖で一人、連絡のない俺を心配して待ってるんだろうか。
待ち切れずにバナロに上陸して、俺がどうなったかを聞いて心配してくれてんだろうか。
最後に聞いたウイの声は、きっと笑ってんだろうなって想像できるような明るい声だった。
今は声を聞かなくても分かる。
泣きそうな、抱き締めたくなるようなツラして
世界の終わりかってぐれぇ落ち込んでる。
心配してくれる事を嬉しく思う気持ちと
泣いてなきゃ良いなと思う気持ち。
泣かせても、もう俺はどうもしてやれねぇ。
本当に…情ねぇ。
ウイも俺に会いたいと思ってくれてるだろうかって
そんな事を思った。
親父にも、重ねて面に泥塗っちまった。
息子が、しかも隊長の俺が
海軍に捕まるなんてとんだ面汚しだ。
見張りの海兵どもが口にしていたのが聞こえて
俺がどこに護送されてんのか、分かっちまった。
インペルダウン。
脱獄不可能とされてる海軍本部の大監獄。
待ち受ける拷問の数々は流石に気が重い。
灼熱とも極寒とも、お噂はかねがねといった所。
俺が勝手にやった事だ。
見捨ててくれたら良い、そう思った。
いくら親父が化け物並に強かったとしても
海軍本部に乗り込んで来たらただじゃ済まない。
じゃらりと音を立てる腕を繋ぐ手錠。
恐らく何本か骨がイっちまってるんじゃねぇかって
少し身動ぐだけで軋む身体。
何もかも、不自由な身分になったもんだ。
親の言うことは聞いとくもんだと、禍々しいあの力を思い出して自嘲が溢れた。
目星を着けた最後の島。
そこにアイツは、ティーチは居た。
仲間と思わしき男達と、喧しく騒いでいるその様子を屋根の上から見下ろしてた。
「待てよティーチ。探したぞ。」
「おぉー、エース。隊長!!なんだよ、久しぶりだな!なぜここがわかった?」
俺の姿に気付くなり、にこやかに話しかけてくるティーチに虫酸が走った。
どの面下げてンな事言えんだ、てめぇは。
「よせ。いまさら隊長なんて。バカにしてやがる…お前ももう立派に船長やってんだろう。黒ひげ海賊団ティーチ船長。」
「あ?それよりどうだ!おれの仲間にならないか?これから成り上がる方法も考えてある!!」
本当にたまげた神経してやがる。
俺がおまえの仲間に?
なる訳ねぇだろうがよ…!
こっちの気を知ってか知らずか、さも名案かのようにぺちゃくちゃと御託を並べるティーチにはうんざりだ。
「これ以上無駄な問答はやめようぜ。この状況を理解できねぇ訳ねぇよな?」
「無駄じゃねぇさ!!エース、俺と一緒に世界を取ろう!!おれが成り上がる手段はもう全て計画してある!!!」
随分とでけぇ夢描いてるじゃねぇか。
世界?おまえの仲間?
ふざけんじゃねぇ。
なんで俺がおまえの夢を叶えるのを手伝わねぇといけねぇ。
「白ひげの時代はもう終わりだ!!海賊王にはおれがなる!!!まず手始めにこの先のウォーターセブンにいる”麦わらのルフィ”をブチ殺して政府への手土産にする!」
それは聞き捨てならねぇな。
さっきからちょいちょい気に障る物言いをする。
なんだこいつは。
仲間になれって言っといて、俺の気を逆撫でしてぇだけなんじゃねぇのか?
親父だけに留まらず、ルフィの名前まで出てきた事には正直驚いた。
「つくづく野放しにできねぇな、そいつは俺のの”弟”だ!!!そして当然…俺もおめぇの仲間にゃあならねェ!!」
お誘いをはね除けた瞬間、ティーチの仲間と思わしき男のライフルが火を吹いた。
鉛弾が体をすり抜けていく。
「へへ…行儀の悪ぃ野郎がいるな。」
俺に銃弾は当たらねぇ。
かと言って、話の途中でぶっぱなして来るとは
躾がなってねぇにも程があんだろ。
屋根の上にしゃがみこんだまま状況を見守る。
どうやら躾が行き届いてねぇのはあの性悪そうな狙撃手だけじゃねぇようだ。
今度は無駄に巨体な男が、路地に建つ建物を根こそぎ持ち上げたと思えば
それをぶん投げて来やがった。
「オーガー!バージェス!てめェら勝手に手ェ出すんじゃねぇよ!!おめェらじゃまだあの男にゃ敵わねェ!!引っ込んでろ!!」
「…すまん。」
大した力だとは思う。
人の事言えた義理じゃねぇが、このデカいのは頭が弱そうだ。
銃弾を受け流す俺になぜ攻撃が通ると思った。
狙撃手の方は良い腕をしてる。
間髪入れずに連射された銃弾は、ピンポイントで俺の脳天と首、心臓を貫通して行った。
「4番隊隊長サッチは確かに俺が殺した。…仕方なかったんだよ!あいつが俺の”意中の悪魔の実”を手に入れやがったんだ!!」
仲間の力量を値踏みしていれば、急に自白を始めたティーチ。
やはり悪魔の実。
サッチが殺されたのはンな下らねぇ理由だったか。
「俺はおめェにゃ殺されねェ…”悪魔の実”の歴史上、最も凶悪とされるのがこの能力!自然系”ヤミヤミの実”俺ァ闇人間になったんだ!!」
随分ペラペラ喋りやがる。
こいつはその昔、赤髪の顔面に傷を負わせる程の実力を持ったヤツ。
それ以来目立った手柄も立てねぇで身を潜めていた事に合わせて、あの出世欲のなさ。
見落としてただけで内に秘めたもんはデカかったと言う訳か。
こんだけ手の内を喋るぐれぇだ。
そんだけ自信があんだろ。
気は抜けねぇ。
「その実力のほどは…今すぐ見せてやる!」
ゼァア!!!と声を上げたティーチの四方に広がる闇。
それは建物や人の下を這うように範囲を広げていった。
俺の前でピタリと進行を止めたそれ。
今回は俺にどうこうしようってアレじゃねぇらしい。
言葉通り見てろ、と。
そういうことか。
覚えたての芸を見せたがる猿じゃあるめぇし、一体なんなんだこいつは。
「闇とは引力!!全てを引きずり込む力!!!一切の光も逃がさねェ、無限の引力だ!!闇穴道!」
ご丁寧な解説と共に、満を持して発動するその能力。
地に這う闇に触れている物体が全て、ティーチに吸い込まれていく。
これは中々、お誂え向きな名前を付けたもんだ。
ブラックホール。
その名の如き無限とも思わしい強大な引力。
ティーチの数十倍もあろう建物が、瞬く間に闇に引きずり込まれて消えていった。
「闇の引力は物体を無限の力で凝縮させ、押し潰す…!!消えた町なら今見せてやる。そのなれの果ての姿をな…!!解放!」
吐き出された町だったものはただの木片に姿を変えて放出される。
なるほど。
ドラムの街のヤツラが言ってたのはこういうことか。
「ゼハハハハ!わかったかエース!!これが俺の手に入れた能力!!」
勝ち誇ったようなその高笑いに、募るのは苛立ちばかり。
確かにそこいらの能力よりその性能は有能だろう。
だが、アイツは街を消さなかった。
木片と化した街も中々な衝撃だが、跡形もなく消えた方がそのインパクトはでけぇ。
敢えて吐き出したんじゃねぇ、消せなかったんじゃねぇのか?
「蛍火、火達磨!!」
「ぅあぁぁっちぃっ!!熱っ!!」
やっぱり。
その身に炎を受けてやたらと熱がるティーチの姿に、予測は確信に変わった。
その優れてるらしい能力も、万能じゃねぇって訳だ。
「闇の力の凄さはよくわかった。だが不思議だな!!ロギアならこんな攻撃受け流せてもいいだろうに。」
どういう理屈かは知らねぇ。
ざっと目算したこの瓦礫の山は恐らく引き込んだ建物と同量。
引力。
引き寄せてるだけで消してる訳じゃねぇ。
ティーチは物質を受け流せねぇ。