「へ?……んぅっ…。」
急にローの顔が目の前に現れたと思ったら、
その顔はニヤリと笑った。
それと同時に唇に温かい感触。
こちらを覗き混むように横から顔を寄せたローが
当然のごとく唇を割って舌を挿し入れてくる。
あっという間に舌をからめとられると、擦るように舌先でそれをなぞられた。
「ふっ……んぅ!!んー!!」
ローの吐息からお酒のにおいがする。
やっぱりこれは相当酔っている。
頭がぼおっとしてくるのを感じていると
ローは顔を倒して更に奥まで舌を挿しこんできた。
これは少し苦しい、とぎゅっと瞑っていた目をうっすら開けると
そこには頬杖をつきながら呆れた顔でこちらを見ている皆の顔。
そうだ。ここはダイニングで今は夕食の時間。
先ほどローが顔の角度を変えたせいで、
めっちゃ皆と目が合っている。
これは恥ずかしい恥ずかしすぎる。
「んー!!んんっ!!」
抗議しようにも口が塞がれていて言葉が発せない。
絡めた指に力を込めて抗議の意を示してみたものの
それは優しく握り返された。
(ちげーよ!!)
握りしめた手をどう勘違いしたのかは知らないが
どうでも良いからやめて欲しい。
依然として舌に絡み付くローの舌は
皆がいなければまた私の頭をとろけさせていたのだろうとは思うけど
今はそれどころじゃない。
「っはぁ、な、なな何すんのよ!!」
ローの舌を無理矢理押し出すことに何とか成功するが
ローは依然として顔を近づけたままこちらを見ている。
ローとキスしている最中に皆と目が合うなんて顔から火が出る程恥ずかしい。
でも、ローが好きだと自覚してから初めて
至近距離でこうして見つめられるのも
それはそれで中々に恥ずかしい。
再びローの顔が近づいて来るのに
私はもう耐えられなくて
滑り台よろしくローの腕から体を滑らせ逃れると
ダイニングテーブルの下から薄情者三名の足をグーパンチで思い切り殴りそこから脱出した。
別に悪いことなどした覚えがないのに
ローがこちらを不満そうに睨み付けている。
「わ、私もう今日は寝るから!」
気まずくて皆の顔を見れないまま、2階への階段を駆け登り部屋の扉を閉めた。
「キャプテーン。あんまり苛めるとウイに嫌われるぜ?」
「別に。」
見せつけるかのようにウイにキスをしておいて
ウイに逃げられたら逃げられたで
何事もなかったかのように焼き鳥の串をつまむキャプテン。
そういややっぱりウイは、キャプテンにキスされても泣かないらしい。
怒って部屋に戻ってしまったが、あれはキスに怒ったというよりも
俺らの前でそれが始まったことに対して怒ったようにも見えた。
「お前何度言えば分かる。あんまりウイにベタベタ触るな。」
どの口がそれを言うんだ。
確かに耳元に顔を寄せてこそこそ話してはいたが
俺は断じて下心を持ってそれをしている訳でもなければ
キャプテンのように実際手を出したりもしていない。
どこまで嫉妬深いんだ全く。
どうせ何を言っても納得しないことは分かりきっているので
はいはいどうもすいませんでした、と投げやりに謝っておいた。
「そういえば明日、ガレーラカンパニー行くの?」
「ああ。特殊過ぎて頭金1割払わねえと着工しねえと言われてる。金払ってこねえといつまで経っても完成しねえ。」
まあ潜水艦なんて珍しい上に値が張るものだし
作っておいて金払いませんなんて言われてもあっちも困るだろう。
内装に関してベポとシャチとあれを入れたいこうしたいと話しているキャプテンは
酒の影響が大分あるのだろうが随分と楽しそうだ。
いつもこうしていれば良いものを
我らがキャプテンはどうにも頭が良すぎるせいで色々と考え込みすぎる。
その癖慎重かと言われれば結構大胆なことを独断で決めてみたりと
中々捉え所のない性格をしている。
まあ大体その独断も一番良い判断だったりするから文句も言えない所ではあるのだが。
今回の件にしてもそうだ。
思い付きのように決まったものの
色々とメリットが多い潜水艦。
デメリットである金銭面も、自分でさっさと何とかしてしまうのは
年下ながら本当に頼りがいのある男だと思う。
「そういやさ、ウイの件、どうすんの?」
「そうだった。あの後何か話した?」
ベガス聖のおかげで、ウイの酒は彼女が海賊だろうと何だろうと、飛ぶように売れるだろう。
これで心置きなくウイを仲間として迎えられる。
今さら改めて、というのもアレだが
ちゃんと全員の居るところで、これからも宜しく的なものはやった方が良いと思う。
「ウイは、連れてかねえ。」
「「「は?」」」
そう言って酒を呷るキャプテン。
飲み過ぎて言葉を間違えたのだろうか。
それとも聞き間違えか?
「え?何で?」
シャチもベポも同じく固まっていたため、聞き間違いかどうかの確認も込めてキャプテンにもう一度それを確認する。
「今アイツを連れていっても守ってやる力がねえ。」
「でもウイは?アイツ商売できれば仲間になりてえって、そう言ってたじゃん!」
やはり聞き間違いではないらしい。
なぜ急にそんなことを。
せっかく最大の難関を乗り越えたと言うのに。
確かにウイを危ない目に合わせてしまう可能性はある。
でも、仲間になりたいというウイの意志はどうなるのか。
「アイツがずっと断ってたのは、商売のことだけが原因じゃねえよ。」
「なんだよその原因ってのは。」
その情報は初耳だ。
「言いたくねえんだと。」
「は!?んだよそれ。意味分かんねえ!キャプテンはそれで納得したのかよ。」
これだけ一緒に居て
あんなに助けられて
もう形式以外はすっかり仲間だと思っていたウイが
本当は仲間になりたくないと思っている?
どんな冗談だよそれは。
アイツは仲間とも思っていない奴らの為に
命かけて体張って俺らを庇ったのか?
んな訳ねぇだろう。
「皆のことが大好きなのは本当、そこは信じて、だってよ。」
「俺は嫌だ。納得できねえ。」
「ごめんキャプテン。俺も、ちょっとそれは嫌だ。」
「キャプテンは何も検討つかねえのか?ウイが断る本当の理由。」
シャチの言葉にさてな、と再び酒をグラスに継ぎ足すキャプテン。
酔いすぎて可笑しな事を口走ってるのか
それが本音なのかが正直微妙だ。
「憶測だが、アイツの大事な人間が死んでる筈だ。後は両親、家を出た理由、その辺が絡んで、何かでかいトラウマみたいなもん抱えてる気がする。」
「トラウマと言ったらキャプテンに敵うやついねーよ。」
「起こったことの大小じゃねえ。どう受けとるかと予後の方が重要だ。」
半分冗談で言ったものの
マジで返してくる辺り、きっとキャプテンは本気でウイを連れていかないつもりなのだろう。
外科が専門とは言え、そういう病じみたことに関しては彼が誰よりも詳しい。
「それってさ、ウイが俺らの前で弱音吐かなかったり、実はやたらと俺らに気ー使ってるのとかとも関係あんの?」
そう言うシャチの顔は結構真剣な顔だ。
「言っただろ。憶測の範囲だ。ただ俺はそう思ってる。それでいてアイツは、絶対に口を割らねえ。」
「キャプテンは良いの?大好きなウイと離れ離れになっちまっても。」
確かにウイがただのアホじゃないことは
この前痛いほど実感した。
過去に何があったのかは知らない。
それがどう関係してるかは分からない。
しかし例え原因が何であろうとそれはウイの事情だ。
あれだけ執着しているウイと、キャプテンは離れても構わないと思っているのだろうか。
「俺はドフラミンゴを討つ。守りきれる確証がない以上ウイを巻き込むことはできねえ。」
「答えになってねえから。」
言いたい事は分からなくもないが
それがウイと離れても良いという事にはならないだろう。
悪いけど
ウイの事情も考えてやりたい気持ちもあるけど
せっかく出会えた一緒にふざけあえる相棒と
別れてやるなんて言うのは嫌だ。
「それを成し遂げた後に、必ずウイを迎えに行く。」
ああなんだ。そういうことか。
全く、ウイもウイなら
キャプテンもキャプテンだ。
頑固な所はどっちも同じ。
結局いつもの独断に乗っかるパターン。
ウイを仲間に入れる為に、今は離れる。
完全に諦めた訳ではないようだし、彼の良すぎる頭で弾き出した決断がそれなら
それがきっとベストなんだろう。
「やだなー。だって、そしたらもうすぐウイとはお別れなんでしょ?」
ベポが分かりやすくため息をつく。
確かに、勝手にこれからも一緒だと思っていたせいで
急にウイが居なくなるというのはちょっと心の整理がつかない。
「そこは要交渉だ。」
キャプテンの案では
潜水艦が出来上がるまでの間、ウイに頼んで適当な島を回って貰おうと考えているとのことだ。
この島では取れる所から取ったせいで診る患者がいない。
首に賞金をぶら下げたカモを捜すにしても
ここに留まるより大分効率が良い。
結局引き延ばし案でしかないものの、今すぐここで別れるよりは大分マシだ。
「お前らに異存がねえなら今からアイツに話してくる。」
そう言って席を立とうとするキャプテンを
必死で引き止めた。
異存はないが、彼をこのままウイの部屋にやった所で
そもそもキャプテンは明日になれば忘れているし
この男がウイに何もしない訳はないだろう。
別に二人の関係の進捗状況に口を出すつもりはないが、
そういう交渉をするなら酔った勢いで押し倒す事は避けた方が賢明だ。
ウイもウイで満更でもなさそうには見えたが
この状態のキャプテンが翌日にはすっかり記憶を飛ばしていることはシャチが喋ってしまったし
そうでなくても何かしらあったのに当の本人がそれを覚えていないなんてことは
最低以外の何者でもないだろう。
「今日はウイそっとしておいてあげよう?明日、ガレーラカンパニーで船ができるまでの期間聞いてからの方が良さそうだよ!」
ベポも同じことを考えているのか必死でキャプテンの前に立ちはだかっている。
「まあ、それもそうか。」
暴君が諦めてくれた事にほっと胸を撫で下ろす。
こういう役回りは自分には向いていない。
むしろこういう相手を乗せて面白がってる方が自分には向いている。
やっぱりキャプテンは、いつもの考えすぎるぐらいで居て貰った方が良いのかもしれない。
未だに酒をハイペースで飲み続けるキャプテンは、明日起きられるのだろうかと本気で心配になる。
「じゃあそう言うことで、今日はウイも引っ込んじまったし早めに解散。キャプテンも、頼むからその位にしてもう寝てくれ。」
パックのゴミを片付けながら解散を宣言したシャチに倣って、触らぬ神に祟りなしとばかりに早々に地下へと待避した。
誰も絡む相手が居なくなれば、キャプテンも早めに切り上げてくれるだろう。