「ポールダンスするシャチ、チョコレートと友達になったベポ、……あとなんだったっけ?」
「筑前煮の具になった俺と、あとこれが確かポストに住んでるシャチだ。」
てめぇ俺に何させてんだよと呆れながら突っ込むシャチ。
なるほど。
確かに言われて頑張ればそう見えなくはない。
相当な頑張りが必要だが。
破天荒すぎる設定と適当すぎる絵のせいで
描いた本人達にももうわからなくなっているようだ。
「お前本当にくだらねえことしかしねぇのな。」
「ペンギンには言われたくないよ。」
正直どちらも良い勝負だと思う。
ウイはそう言いながらもダイニングテーブルに皿を並べており
昼食の準備が整ったようだ。
「「「「いただきます。」」」」
旨い旨いとクルー達が頬張るせいで
やはりそれがとても旨そうに見えてくる。
心なしか胃が空腹を訴えている気もしなくはない。
「そんなに嫌いなの?パン。」
むしろそのパンに手を伸ばそうか考えていたのだが
自分がパンを睨み付けているようにでも見えたのだろうか。
ウイがタマゴサンドを手に持ちながら笑っている。
それに返事をせずに再びサンドイッチの乗った皿に目を落とす。
卵以外にも、ベーコンやトマト、レタスが挟まったものやツナ、ジャムなど
彩りの良いそれはやはり自分の食欲を刺激してくる。
一つだけ、食べてみようか。
そう思い、ウイが食べているのと同じタマゴサンドに手を伸ばした。
「え?」
「は?」
「マジ?」
「キャプテン?」
全員が唖然とした表情でその様子を見ている。
一口かぶり付くと、パンの香ばしさと卵とマヨネーズの味が口に広がる。
「うまい。」
パンの味はこんな味だっただろうか。
耳の部分は香ばしいものの中身はふわふわと柔らかい。
バターとマスタードの風味を感じる中の卵も
塩気とマヨネーズの濃厚さがパンによくあっている。
「ど、どうしたキャプテン!」
「また飲んだのか!!?向かい酒か!!?それ何だか分かってんのか!!?」
「いつの間に!!?え?うまいって、それパンだよ!!キャプテンが嫌いなパンだよ!!」
長い付き合いのクルー達はその様子に気でも狂ったのではないかと思うほど動揺を見せた。
食わず嫌いだったの、かな?
皆がどよめいているのを無視してローがBLTサンドにも手を伸ばす。
それを信じられないという目で見ている皆。
ローはパンが嫌いなんじゃなかった?
「ロー、無理して食べなくて良いよ?」
「これは食える。うまい。」
ローの言葉に更に目を見開いて固まっている皆。
皆の様子を見ると、これは有り得ない出来事なんだろう。
私としては自分が作った物で好き嫌いを克服してくれるのは正直ちょっと嬉しい。
ローがパンを食べるということはそれほどまでに有り得ない事、なんだろうけれど
あまりにも驚く皆の目の方が、落ちてしまうんじゃないかと心配になる。
「でもローが食べられるならこれからはたまに朝ごはんパンにしよっか。」
「あー。うん。良いんじゃない。」
「そうだな。アレか。愛の力か。」
「すげー。あれだけ絶対食わなかったのに。」
ローは皆の言葉に目線だけ向けるものの
それを無視して今度はツナサンドに手を伸ばした。
なんだかその様子がおにぎりを食べている時のローみたいで
とても嬉しくなった。
多目に作った筈のサンドイッチは全て完売し
綺麗に空になった皿を片付けようと席を立とうとするとちょっと良いかとローに声をかけられた。
まだ外の雨はザーザーと強い音を立てて降り続いていて
こんな天気ではまだ出掛けられない。
急いで片付ける必要もないので少し浮かせた腰を再び椅子へと戻した。
「雨が上がり次第ガレーラカンパニーに船を注文してくる。」
「あ、うん。私も行きたい。」
グランドライン一の造船所。
船は流石に作ろうとは思わないものの
物作りをするものとして少し興味がある。
昔一度だけ生まれた島の造船所に行ったことはあったものの
その時はフリーウィングに気を取られて他の物など目に入らなかった。
ローがそれは構わないと了承してくれたことに少し安心する。
「潜水艦は特殊すぎて注文してから製作を始めるそうだ。」
「まあ、それもそうかもね。」
潜水艦なんて誰もが買おうとする物ではない。
在庫で余らせておくのは制作費もかかるだろうしリスキーだ。
「潜水艦が出来るまでの間、もう少しお前の世話になりたい。行き先はお前に任せる。」
ウォーターセブンでそれを待つのは資金繰り的に厳しい、と。
いくらするのかは分からないが、潜水艦だ。
普通の船の比じゃないんだろう。
「良いよー。思ってたより早く着いちゃったし。せっかく戻ってきたのに急にお別れなんて私も寂しい。」
「すまねぇな。助かる。……船が出来たら、………俺らはお前を解放する。」
「あはは!解放って!それは設定でしょ。やだなぁ。」
「半年かかるか、あるいは一年になるか。詳細は確認しねぇと分からねえが、それが済めばお前は自由の身だ。」
やめて。
聞きたくない。
「私はいつだって、自由にやってるよ?」
「……お前を仲間にするのは諦める。散々無理言って悪かったな。」
嘘つき。
仲間だって
愛してるって
気持ちは変わらないって
泣いて喚いても離さないって
そう言ったじゃない。
「そんなことない。誘って貰えて嬉しかったよ!そっかー。どのくらいかかるんだろう。楽しみだね!潜水艦!」
「でもな!俺ら絶対「話は以上だ。」
「キャプテン?」
俺ら絶対
絶対なに?
絶対私のことは忘れないって?
「雨が上がり次第出発する。お前も着いてくるなら準備しとけ。」
「まだ話は終わってねぇだろ!」
「それは必要ねぇ。」
「キャプテン!」
そう言ってローは席を立った。
皆は慌ててそれを止めようとするけど
ローの足は止まらなくて
私に背を向けて、階段を登って行った。
必要ない、ね。
私もう、仲間でも何でもないし
関係ないもん、ね。
「ウイ悪ぃけどちょっと待ってろ。おい!キャプテン!!」
皆も、それに続いて階段をかけ登って行った。
一人残された私は、張り付けた笑顔が
戻らない。
ちゃんと、出来てたかな。
私、自然に笑えてたかな。
皆行っちゃったし
もう良いかな。
皆が居なくなったダイニング。
なんとなく目に留まったベポに買って貰った水風船。
私はそれを手にとって、甲板へ続く扉を開けた。
気温が高いせいか蒸し暑かったのに
やっぱり雨は冷たいや。
体に打ち付ける雨は
少し痛いくらいだった。
あっという間に
頭からバケツの水でも被ったんじゃないかというほど
全身ずぶ濡れになった。
これだけ濡れてれば
多少他の水が混ざったところで分からないよね。
「ローの、嘘つき。」
外に出る理由として持ってきた水風船を作るため
甲板の蛇口へと向かう。
こんなに耐えきれないくらい悲しいのに
それでも取り繕おうと考えている自分が可笑しくて、自分で自分が本当にいやになる。
ため息と共に瞬きをしたら、雨とは違う
温かい水が頬を伝った。
一度決壊してしまうと
それは次々と溢れてきて
ひっく、と横隔膜まで痙攣を始める。
ダメだ。
本格的に泣いたら
皆にバレてしまう。
私が、仲間にするのを諦めると言われて
泣いてしまってることが知られてしまう。
知られたからってどうなるんだろう。
必要ないって言われたし
今更それを知ったところで皆は何も思わないかな。
ローも、
面倒だって思うかな。
仲間になれないと断りながら
それでも仲間にしようとしてくれる皆の好意に
私は浸ってたんだ。
断るのが心苦しい?
私だって本当は一緒にいたいんだから分かってよ?
違うな。
私は断っても手を伸ばし続けてくれる皆の気持ちに 酔いしれて
一人で浸っていただけだ。
なんてバカなんだろう、本当に。
今日からローとも普通にしようって
今まで通りの私で頑張ろうって
ベポとめそめそしないって約束したのに
さっそくこれ?
たった1日ですら頑張れないの?
違う。
夢だ、これは現実じゃないって思いながら
昨日ローに言われた事が
ローがしてくれた事が嬉しすぎて
覚えていなくても
酔っ払っていても
あれがローの本心だって思いたくて
それと真逆の言葉を急に突きつけられて
あんなに動揺してしまったんだ。
嘘つきとか
良く言えたものだ。
一番嘘つきは私で
誰よりも私が一番バカだ。
酔っているとは言え
いつもと変わらない彼の言葉を信じてしまった。
記憶を飛ばすくらい飲んでいる人が
まともなことなんて言うわけないじゃないか。
現に酔っていない彼が言ったあの言葉が真実。
私のことは諦める。
自由の身。
解放。
仲間だって、特別だって思ってくれてるのが嬉しいって
私あなたに言ったじゃない。
どこに居ても、お前は仲間だって
気持ちは変わらないって
あなただって言ったじゃない。
泣いて喚いても離さないって
そう言ったのにどうして
私はこんなに泣いているのに
どうして離れて行ってしまうの。
結局これが現実だ。
誰も私のことなんていらないし
必要ないんだ。
私は皆の船ができるまで都合良く使える足でしかなくて
ローにとっても、ちょっとした暇潰しでしかないんだ。
身近にいる女に手を出してみようと思ったら
上手くいかなくて、思いの外面倒で
もう嫌になったんだろう。
良かった。
仲間になる前に思い知れて。
ローの腕に飛び込む前に、これが分かって。
あの時、一緒に寝ないのかと聞くローの誘惑に打ち勝てて本当に良かった。
あのまま彼に抱かれていたら
今の悲しさも、虚しさも、寂しさも、辛さも
こんなものじゃなかった筈だ。
百戦錬磨のチャラ男の思い通りにならなくて良かった。
大して好きでもないくせに、あんな思わせ振りなことする最低男と手が切れて良かった。
ローが、私なんかのこと本気で好きじゃなくて
本当に良かった。
ダメだ。
どんなに頑張っても
どんなに酷いことされても
ローを嫌いになれない。
戯れでも
酔っていても
それでも私は嬉しかった。
そんな彼が好きだった。
人を好きになるって
理屈じゃないんだな。