色々と考えながら作り続けた水風船は
気づけばバケツ一杯になっていて
それはローが、皆が私にくれた今までの思い出かのように思えてきた。
カラフルでたくさんの、楽しい、嬉しい思い出。
色んなことがあった。
まだ彼らと出会って半年も経っていないのに
それまでの時間の何十分の一以下しかないのに
私の中の記憶は彼らで一杯だ。
これを全部割ってしまったら
なかったことにできるだろうか。
彼らと出会う前までの
ただ物を作って
それを売って
好きなことをして過ごして
島では観光をして
あの頃の自分に戻れるだろうか。
父様に叱られるから読めなかった本も好きなだけ読めた。
父様や母様、習い事の先生と日に少しだけしか接することもなかったのが、
沢山の人の親切に触れられたし、少しの間だけど楽しく過ごすこともできた。
外から鍵のかけられた部屋じゃなく、フリーウィング号はどこでも好きな所へ私を運んでくれたし
私が好きなことをしても、もう母様が父様に怒鳴られることも、殴られることもない。
それだけで十分幸せだったじゃないか。
入りきらなくなってしまったバケツをどけて
新しいバケツに縛りたての水風船を入れた。
あのまま、ベガス聖のところにいた方が
私は幸せだったのだろうか。
自分の自己満足で皆を救って
逆らいようもない支配の下で
自分のお酒を好きだと言ってくれる
10億の大金を出してまで私を必要としてくれる彼のもとで
皆に会いたいと思いながら
ローを好きだと気付きもしないまま
あのままあそこで一生を過ごした方が幸せだったんだろうか。
「ほんっと、バカだな。私は。」
実現しなかったことを想像するなんて
なんの意味もない。
あれだけ皆にまた会えたのが嬉しくて
流されては行けないと思いながらも
ローが私を好きだと言ってくれたことが嬉しくて
戻って来れたことをあんなに喜んだのに
嫌な事が起こればすぐこれだ。
私はどうしたら良いんだろう。
散々泣いて
沢山考えて
少し落ち着けば
やっぱり私は皆のことが大好きで
ローがどう思ってようが
彼のことを愛している。
あんな父様を
命が尽きる瞬間まで愛していた母様のように
不毛な思いを抱き続ける自分は
大好きだった母様に似ているらしい。
皆の顔を見るのが怖い。
ローと皆の間で、
何を私に話したらいけないかで食い違ったのかは知らない。
でも、仲間にするのを諦めると言ったローの話を
皆はいつも通り黙って聞いていた。
それが事実であるなら、
その他にどんな事実を私に言おうが言わまいが
どうだって良いだろう。
すぐお別れじゃないんだ。
まだ、船ができるまでは一緒に居られる。
彼らだって、私が居なければもっと自由に冒険ができて
好きな所にいけるはずだ。
たまに、近くにいる時くらい
また会って
一緒にお酒を飲んで
ゲームをしたり
下らないことで遊んだり
一緒にご飯を食べたり
できる筈だ。
仲間じゃなくても、友達ではある筈だ。
今まで一緒に過ごした皆が
私のことを好きだと思ってくれていることくらい
ちゃんと分かってる。
仲間にするのを諦めたからと言って
それが嘘になる訳じゃない。
仲間として一緒に旅をしなくても
たまに会って騒ぐぐらいなら
彼らだって喜んでくれる筈だ。
私だってそこまで捻くれてない。
一緒にお昼を食べた時だって
彼らに嫌われてしまったかもなんて
全く思わなかった。
だからこそあんなに驚いて動揺してしまったんだ。
これ以上、面倒だと思わなければ
いつも通りにできてれば
私は彼らの友達で居られる。
私がこんなに面倒臭いこともバレない。
知らないうちにいつの間にか嫌われてしまうことも
使えない私を不要だと思うことも
ずっとじゃなければ、ない筈だ。
それこそ私が望んだ形だ。
早く泣き止まなければ。
こんな顔をしていたら
いくらずぶ濡れでもバレてしまう。
「どういうことだよ!!なんでウイに、待ってろって!ドフラミンゴ倒したら迎えに来るからって言わねぇんだよ!!」
「わざわざ言う必要はねぇ。」
全てを話さずに話を終わりにしたキャプテンを追って部屋の戸を開けると
平然と薬棚を整理しているキャプテン。
話が違う。
迎えに来ることを前提にキャプテンの独断を了承した。
気が変わった訳ではないようだが
なぜウイにそれを伝えないのか。
「ねぇわけねぇだろ!あれじゃウイ、俺らが仲間にすんの諦めたみてぇに思うじゃねえか!!」
「元からその話を断ったのはあいつだ。望み通りの展開だろ。何の問題がある。」
正気かこいつは。
さっきのウイの顔が、そんな風に見えたかよ。
あんなん俺だって分かる。
「迎えに来んだろ!!?強くなって、ドフラミンゴ倒して!」
「そのつもりだ。でもそれをあいつに言う必要はない。」
「なんでだよ!!キャプテンだって見ただろウイの顔!!あれが思い通りに事が運んだヤツの顔かよ!!?」
あんな泣きそうな
無理して笑ってるのが丸分かりな顔
俺ですら分かるんだからキャプテンに分からねえ筈ねぇだろうが。
「あいつがそれを知って、いざドフラミンゴを倒した後、のうのうと俺らと接触すると思うか?」
「……どういう意味だよ。」
キャプテンの、言っている意味が分からない。
「あんだけ誘っても頷かねえヤツが、それを知って素直に待ってるとでも本気で思ってんのか。」
「あいつはお前らが思っているよりも頭が回る。先を想定してそれに備える。本気であいつを捕まえておこうと思うなら、下手な準備はさせねぇ方が良い。」
「不意討ちだったからこそ、あんな面したんだろ。あんな下手くそな演技してまで、本音を隠そうと必死なんだろ。」
やっぱり、キャプテンは頭が良すぎる。
「確かに、そうかも知れねえけど。……あーもう!!訳分かんねぇ!!!」
がしがしと頭を掻きむしる。
キャプテンが言うことは正論だ。
ウイがあんな顔をしたのは
仲間にするのを諦めると言われて辛くて
でも、それを隠そうとしたからだ。
ウイも仲間になりたいと思ってくれてはいるんだろう。
でも、彼女の何かがそうさせない。
さっきの表情
目覚めたばかりでキャプテンに抱きついたウイ
確かに咄嗟の時には彼女らしくない行動を取ることが多い気もする。
だからと言って、仲間にするのを諦めると言ってあんな顔をするウイを見ると
やりきれないというか、なんというか。
「俺だってあれを見て何とも思わねぇ訳じゃねえ。……だからこそ、本音では仲間になりてぇと思ってるあいつの邪魔をしてる何かを、本気でどうにかしなきゃいけねぇんだろ。」
落ち着いてさえいれば、感情の制御が上手いキャプテンではあるものの
平然としている彼の顔は
よく見れば悲しさと決意の入り交じった複雑な表情を浮かべていた。
そうだ。
あの顔を見て一番やりきれないのは
キャプテンだ。
「告白、しねぇの?ウイに。」
「振られた。」
「え!?」
なんと。
知らない間にそんな事が。
ベポが驚きのあまり声をあげる。
「あいつ、最近満更でもねぇ様子だったじゃねえか。」
「その何かに、邪魔された。俺が気付かず地雷を踏んだ。」
だからか。
邪魔されたってことは、途中までは良い雰囲気だったのだろう。
「力を付ける。そしてドフラミンゴを討つ。あいつに無茶させなくても守ってやれるようになったら、無理矢理にでもあいつの殻を叩き割る。」
無理矢理、ね。
そりゃ本当に無理矢理だ。
こうなると結局、何も言えねえんだよな。
「ねえ、ウイは何て言ってたの?何て言ってキャプテンを振ったの?」
「かわされた。気付いてんだろうけど。仲間だと思ってくれてるのが嬉しいとかほざいてたな。」
「尚更残酷じゃねえか。それで仲間にするの諦めるとか言われたら。」
なぁウイ、ここまでしねぇとダメなのか?
お前が仲間にならねぇという理由ってのは
一体何なんだ本当に。
「俺ちょっと心配だし、ウイの様子見てくるよ。」
ベポがそう言って部屋から出ようとするのをキャプテンが呼び止めた。
「ベポ。余計なこと言うんじゃねえぞ。」
「変なところ似てるよね。二人揃って本当に嫌になる。」
呼び止められたベポは何やらブラックモードだ。
あまり大きな声ではないそれは
部屋の奥に居るキャプテンの耳には届かなかったらしく
言いたいことがあるならはっきり言えとさぞご立腹の様子だ。
キャプテンもキャプテンで、仕方ないとは言えウイにあんな顔をさせてしまったせいで
虫の居所が悪いんだろう。
「言わないよ。キャプテンの指示には従う。」
わざとらしいほど大きな声でそう言うと、ベポは部屋を出ていった。
納得はしたらしいものの、何をあんなに怒ってるんだあいつは。
「何なんだあいつは。」
「まあまあ。俺も、納得はしたけどやりきれない気持ちもあるし。」
あいつら同い年で仲も良いし、任せとけば?と言うと
キャプテンはそれに返事もせず、薬棚の整理を再開してしまった。
「雨、やまねえな。」
シャチが窓の外を見ながらそう呟く。
泣かないウイの代わりに空が泣いているんだろうか。
柄にもなくそんなことを思った。