6-14

「いたたた、痛いってば。」
「文句があるならベポに言え。」


結局残りの水風船を全てタクトでウイ目掛けて飛ばしたため
投げる物がなくなったこともあり、船室へと戻った。

20個程の水風船を一身に受けたウイは盛大な悲鳴をあげたものの
割と楽しかったらしくそのあと関を切ったように笑いだした。

全ての水風船を使ってしまったことには文句を言われたが
泣き止んだとは言え赤く腫れた彼女の頬を早く冷やした方が良いだろう。
良く見ると擦りきれて薄く血が滲んでいなくもない。

何で揉めたかは知らないが
ここまで殴ることもないだろうに。

消毒を終えると
傷口に抗菌薬と保湿剤を塗って上から湿布を貼ってやった。
特に治療の必要がないベポと比べると
おあいこ、と言うにはあまりにも彼女の姿は痛々しい。



「雨止まないけど、結局今日ってどうするの?」
「もう明日で良いだろ。俺はシャワー浴びてくる。」



リビングに戻って真っ先にウイの治療に取りかかったものの
雨に濡れた服が体にまとわりついて不快だ。
体温のせいでそれが生暖かいことがより一層気持ち悪い。

じゃあ私もと風呂へ向かおうとする彼女に頬は濡らすなと一言言ってリビングを出た。

シャチとペンギンは着替えだけで済ますようで
ベポに至っては毛を乾かして終了らしい。







まとわりついていた生ぬるい服を洗濯籠に放り投げ、バスルームに入ると
蛇口を捻りシャワーから勢い良く流れ出る熱い湯を頭から被った。



今日は疲れた。

朝起きれば自分に覚えのない二日酔いに苦しみ

それをウイやクルー達に咎められ

仲間にするのを諦めると伝えればどう見ても不自然にしか見えない笑顔の彼女に胸を痛め

状況の理解が足りないクルー達に散々文句を言われた。

極めつけが
ベポから平手打ちを食らったウイが大泣きだ。

感情をありのままに出させようとそれを検討したこともあるが
あれは違う。
しゃくりをあげながらぼろぼろと涙を溢すウイには
正直どうしたら良いかが分からず慌てた。




あれからと言うか
今朝起きてからウイのよそよそしい雰囲気がなくなった。

これは今日唯一起きた良かったことかもしれない。

記憶のない間の自分がどんなファインプレイをしたのかは知らないが
夕食時にあいつらの前でキスをして怒って部屋に戻ったらしい彼女を変えたのは

一体何だったのだろう。


自分の好きな彼女の香りと相性の良いシャンプーに手を伸ばす。

良い香りではあるがやはり、彼女からする匂いとは少し違う。



ペンギンにも
最近のウイは自分に対して満更でもなさそうだと言われたが

そんなことは自分が一番分かっている。

あんな盛大な思い違いをしたくらいだ。



いや、今落ち着いて考えてもあれはやはり思い違いではなかったように思える。

ウイが本心では仲間になりたいと思っているのを隠すように

彼女は本当は、自分のことを好きで、それすらも隠そうとしているのではないだろうか。


『お前だって父親と母親が愛し合って生まれて来たんだろうが。世の中にどれだけの人間がいると思っている。そう珍しいもんでもないだろ。』


地雷は自分が言ったこれで恐らく間違いない。

父親と母親?
どれだけの人間がいる?
珍しい?

正直いくら考えても地雷になり得そうなことが思い当たらない。

でもどこかがウイの隠したいことの何かを刺激して

彼女は殻にこもってしまった。




あれを言わなければ、
また違った今があったのだろうか。








考えても仕方がない。

今は己を磨くだけだ。

戦う力も、人としての器も。

何からでもウイを守ってやれるくらい強くなって

ウイを殻から引きずり出す。

そして、もう戻れないように
粉々に叩き潰す。

絶対に、ウイを手に入れる。




その為なら

多少傷付けても
多少離れ離れになっても

そのくらい受け入れよう。






ウイは、
仲間にするのを諦めると言った時
あの下手くそすぎる笑顔の下で何を思ったのだろう。

ハートの海賊団への誘いから手を引かれたことだけでなく
少しは、自分に対して
何か思ってくれただろうか。



「ウイ!寝るなら部屋で寝ろ!風邪引く!」
「眠くないよ。」
「嘘つけ!今半分寝てただろうが!」


今日はオセロ大会をしていて、
チェスの時から定着してしまった負け残り勝ち抜けルールのせいで




暇だった。




チェス程複雑ではないものの
皆はやっぱり下手くそで。

だからと言ってわざと負けてやるのも癪に障る。

同じく暇そうに本を読んでいるローとなら、楽しい勝負ができそうだ。

しかしこのルールで強者同士が対戦することなど起こり得ない。



「お前寝たら起きねえんだから自分で部屋戻れ。」
「やだー。眠くないもん。皆とここ居るー。」



暇だしちょっと眠い。
だからとは言え
せっかく皆が起きているなら一緒に居たい。

寝てしまうなんて勿体ないじゃないか。



「じゃあウイ今日は俺と一緒寝よう?」
「!じゃあ寝る!行こうベポ!」



最近は二人でお昼寝することが少なかった。
ベポが一緒なら部屋に戻っても
寝るまで話をして過ごせる。

昼間助けられてしまったことも
ちゃんとお礼を言いたい。



「っていうことで俺今日はウイの部屋で寝るから。」
「皆おやすみー!」
「「おやすみー。」」



皆に挨拶をしてベポの腕を引いて階段を登った。
夜にこうしてベポと一緒に寝るのは初めてだ。

なんだかお泊まり会みたいで
わくわくした。















「キャプテーン。顔!顔怖い!」
「良いじゃねえかベポ熊だし。」



主にペンギンではあるが
人間の男であるクルー二人がウイに近すぎる時は途端に不機嫌になるロー。

今まではベポがウイと昼寝をしようが
抱きつこうが水着で戯れようが

特に気にした様子など微塵も見せなかったと言うのに

あれだけ頑なに寝ないと言い張っていたウイが
ベポも一緒だと聞いた途端にそれを了承し
嬉しそうにベポの腕を引いて部屋に引っ込んだのを見て

途端に不機嫌になったローは舌打ちと共に乱暴に本を閉じた。




「ウイのベッドやっぱり大きいねー。」
「しかもふかふかだよ!電気これだけ付けとくねー。」


サイドテーブルのランプだけを残し消灯すると
布団に潜り込む。


「ベポあったかーい。ふかふかー。」
「ウイの方がぷにぷにしてて柔らかいけど。」


仰向けで寝るベポの胸元に頬杖を付いた体勢で
二人は目を見合わせて笑った。



「ベポ、昼間はありがとう。本当に助かった。……あと色々酷いこととか言って、ごめんなさい。」
「俺も結構力入りすぎちゃって。加減はしたつもりだったんだけど。ごめんね、痛かったでしょ。」


ベポは湿布の張られた頬を撫でながら
申し訳なさそうに謝った。

ベポの機転がなければ、
あの後泣いていた私の事情聴取が始まっていただろうと思うと
本当に、本当に助かった。



「でもなんで助けてくれたの?」



あれだけ壁を作るなと言っておきながら。


壁を作っていたつもりはなかったけど
言えないことがあったのは事実だ。
ベポはそれが知りたいから、あんなに怒ってたんじゃないのだろうか。

泣きじゃくる私が皆に尋問されれば
聞き出せる可能性は上がったかもしれないのに。



「ウイが俺にだけ文句言って、俺の前だけで泣いてくれたのが、……嬉しかったから。」



意外な答えに、ぱちくりと瞬きをしながらベポを凝視してしまった。

な、なんだこいつ。
可愛いぞ。



「だからチャラって訳じゃないよ。本当のこと言ってくれないのも、頼ってくれないのも、そこが嫌いなのは変わらない。」
「ごめん。」



頼っていないつもりはないのだが
隠し事をしているのは事実。
そういう風に、見えてるんだろう私は。
もう今更、ベポにそんなことないと否定するのは通用しない。



「それだけ言いたくないんでしょ。全く理解できないけど。ウイがどうしても、それを言えないってことは分かったから。」



ベポはなんでこんなに優しいんだろう。
元からベポは優しかったけど
いつからかベポに対する印象が変わった。

最初の頃はブラックな一面があることも知らなかった。
泣き虫で、打たれ弱くて、優しくて、いつもにこにこしているなって思ってたのに

今のベポの方が好きだけど
ベポに対する印象が変わったのはいつからだっただろう。


「ねえウイ。1つだけ聞いて良い?」
「……内容による。」


なんだろう。
言えないってことは分かってくれたって言ってたし
多分、それではないんだろうけど。


「絶対誰にも言わない。それ以上も追及しない。」
「うん?」


念入りだな。


「俺は、昼間怒鳴り散らしてたウイは好き。捻くれてて自己中で、とんでもないと思ったけど。」
「あ、なんか。どうも。」


好きと言われたものの複雑だ。
でも、投げやりというか
あんな言い方しちゃったらそれもそうか。

生まれて初めて
頭に血が登ったというか
後先考えずに色んなことを口走った気がする。

やっぱりベポは、皆は私の友達だ。

あんなことしても、それでも好きって言ってくれるなんて嬉しい。


「ウイは、本当は俺たちと仲間になりたいって、思ってくれてるよね?……キャプテンのことも、好きだよね?」


それは、

確かに理由とかじゃないかもしれないけど

大分核心に迫ったことを仰る。


さすがベポだ。


「タダでとは言わない。もしそうなら、ウイが喜ぶこと、少しだけ教えてあげる。」
「……やり方が悪どいなぁ。」


ベポはそれにつん、と顔を背けてしまったけど

なんだろう。

気になる。

さっき、私に話す内容で食い違いになった事だろうか。



「1分。それで答えてくれなかったら俺も聞かないし教えない。」
「どこまでも悪どい!考えさせてよちゃんと!!」



ベポは詐欺なんかしたら中々上手く相手を丸め込みそうだ。
全く。

どうしよう。

聞きたいけど

言っちゃったらそれって殆ど答えにならないか?



「でも悩んでくれるんだ。」
「え?」
「俺さ、ウイに初めて仲間になれってペンギンが言ったとき、凄いショックだったんだ。」



それは、大分前だな。
懐かしい。
ローに聞いた話だと、その後こっそり盗み聞きまでしたらしいけど
これは私は知らない事になっている。
言っちゃダメな話だ。



「ウイは俺たちとずっと一緒に居たいって思ってないんだって思ったら、悲しかった。」



それで気になり過ぎて二人の話盗み聞きとかしちゃった。ごめんね、とベポは舌を出した。

情に訴える作戦なのか。

流石すぎるぞ、ベポ!


でも、





嬉しいな。



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destruct at reality.