6-15

「それで?そろそろ1分経つよ?言わないのね?」
「あー!!待って待って待って!!えっと、絶対!それ以上聞かない?」


ベポが嬉しい話してくれるから
考えるのを忘れてた。
畜生。



「聞かない。それに絶対誰にも言わない。勿論キャプテンにも。」


ベポの目は真剣だ。
昨日の夜のことだって何だかんだで黙ってくれてるし
本当に絶対
それ以上は追及しないし
誰にも言わないでくれるんだろう。

















「仲間に、なりたい。……ローのことも、本当は好き。」










ベポの反応が怖くて、胸元のふさふさした毛を指で弄る。


ちゃんと言ったんだから

早く何か言ってくれ。









「良かった!話してくれてありがとう!!」


こうして笑ってると、
ベポは最初の頃のベポのままだ。

仲間になりたいという気持ちを、良かったと言われてほっとした。

嫌な顔をされたらどうしようって
蔑むような目で見られたらどうしようって

怖かった。




「じゃあ俺からも。絶対皆に内緒だよ。」
「う、うん!!」


そうだった。

なんだろう。


「俺たちがウイを仲間にするのを諦めたのは、ウイのせいだよ。」
「……え?ちょっと待って。それ全然私喜ばないけど。」


そんなこと知っている。

でも、何か続きがあるようで
ベポは眉間に皺を寄せた私の顔を
笑いを堪えたような顔で見ている。


「ウイがいつも無茶しすぎて、俺らの為に危ないことばっかりするから。このままウイを無理矢理連れてっても、何度言ってもウイは聞き分けがないから。ちゃんとウイを守れるように強くなってからって。だから今は諦めたの。」


なんだって?


じゃあ、私に愛想つかしたとか


私が要らなくなったとか


そういうんじゃないってこと?



「ね?本当は仲間になりたいと思ってるウイにとっては嬉しい話だったでしょ?」
「そ、それは嬉しいけど。そう言ってくれたら良かったじゃない!」



なんで、突き放すような

要らないとでも言うような

あんな言い方したのよ。



「そっくりそのままお返し。」
「え?」
「俺らにとったら、なんで本当は仲間になりたいって言ってくれないの?って、皆だって思ってるよ。」




「なんで皆がそれ黙ってたかと、それ以上は教えない。聞きたかったらウイも全部話して。」
「あ、……そっか。じゃあ、聞かない。」


私の返事に面白くなさそうな顔を浮かべたベポは
ちらりと顔を覗きこむとまた視線をぷいと逸らしてしまった。

なんだ。

私、要らなくないんだ。

むしろ

そんなこと思ってくれてたんだ。






離れてしまうことは悲しいけど

皆が、ローが私を大切に思ってくれてることが分かっただけで

十分幸せだ。



皆が私を都合良く使ってるなんて
一瞬でも考えてしまったことが申し訳なくなってくる。















ローも、まだ私を好きでいてくれてるの?

私が嫌になった訳じゃないの?






あれは、やっぱり酔ってたとか夢とかじゃなくて

ローの本心だったって

自惚れても良いの?





「どうせ俺達のことよりもキャプテンのことばっかり考えてるんでしょ。ウイの薄情者。」
「なっ……!」


ベポはなんで人の考えてることを適切に読み取るような発言をするんだろう。
本当に、人の心が読めるのだろうか。



「ウイは自分が思ってるよりも誤魔化すの下手だよ。特にキャプテンのこと考えてる時とか、そうかなと思って見てたら駄々漏れ。」
「そう、ですか。……気を付けます。」



マジか。

それは、本当に意外だ。

心の中を覗かれないことは得意だと思っていたのに。









きっと、人を好きになるのが初めてだから

他の気持ちとは種類の違うこれを

上手く使いこなせてないんだ。




「記憶ないって分かってるキャプテンと二人っきりで甲板デートね。ウイも結構大胆だよね。」
「なっ……あれは!」
「そりゃキャプテンも何もしない訳ないもんね。なにせ俺らの前であんなに熱烈なキスしちゃう位だしね。」
「ぁ……うぅ……。」



ウイのえっち、とベポがじろりと私を睨む。

ダメだ。
本当にベポには全部筒抜けだ。

穴があったら入りたい。

恥ずかしすぎて死ねる。




「ほら。すぐ真っ赤になる。それで隠せてると思う方が頭おかしい。」
「……返す言葉もございません。」



熱くなった顔を両手で覆っていたら
ベポが声をあげて笑いだした。

なんか恥ずかしいけど
こういうのって楽しいのかも。


「ねえベポ。もう眠い?」
「別に?」


じゃあお酒持ってきて飲まない?と誘うと
ベポはそれに良いねと乗ってくれた。

ベポは男の子だけど
多分こういうのがガールズトークって言うんだ。

ローを好きだということを隠さなくて良い相手と話すのは
なんだかとっても
楽しい。


私は素早くベッドから降りると
船内用のサンダルを履き駆け足でリビングへと向かった。








「あ?お前寝たんじゃねえのかよ。」
「起きた!!」


ペンギンがリビングに降りてきた私を少し驚いたような目で見ている。
ローとシャチが対局中らしい。

盤面なんて見なくてもどうせローの圧勝だろう。

私は適当に試作品の瓶と、アップルブランデーとアイスベールを用意してトレーに乗せると

いそいそとベポの待つ部屋に戻ろうとした。



「酒飲むなら降りてきたら良いじゃねえか。」
「やだ。ベポと二人で飲む!」




皆ともできるだけ一緒に居たいけど
今はベポと二人で飲みたい気分だ。

ペンギンの誘いを軽く断り階段をかけ登った。













「あーあ。想像通りの顔してんなぁ?」
「キャプテンもウイぶん殴って来たら良んじゃね?そしたら懐いてくれるかもよ?」
「するか。くだらねぇ。」



リビングでは再び不穏な空気が流れていた。



















「っぷはー!我ながらうまい!」
「おっさんみたいだよ。ウイ。」



場所をソファーに移動して酒盛りを始めた私たちは最初はやっぱり炭酸で、とレモンスパークリングで乾杯した。

わくわくしてると、いつもよりお酒が美味しい。
なんだか本当に、お泊まり会みたいだ。





「ねえ、ウイってキャプテンのどこが好きなの?」
「え。」



それ以上は聞かないと言ったからだろうか。
固まる私に、言いたくないなら聞かないけど、と軽くため息を付きながら言われてしまう。

ローのことが好きなのはもう言ってしまったし
どこが好きかを話すくらいは良いだろう。

むしろ、私はベポとそういう話がしたい。

私がローを好きなことを知ってるのは
世界でベポ一人だけだ。




「どこって、どこってどこだろう。むしろ好きじゃないとこないかも。」
「うわー。凄いね。聞いておいてむず痒いや。」


「あ、でも嫌いって訳じゃないんだけど。流してくれないっていうか、何でも全部拾っちゃうとこは厄介だなって思うかも。」
「それは分かるかもー。悪い所じゃないんだけどね。あんな暴君だけど頭良いし実は真面目だから。」



そうなんだよベポ!
さすが分かってる!!




「ローって気を許してる人と、そうじゃない人だと微妙に態度違うじゃない?気を許してる方のローを見れるのって、なんか特別みたいで、嬉しいんだ。」
「キャプテン地味に人見知りっていうか、知らない人嫌いだもんね。」



確かに。
あれは人見知りとも呼べるかもしれない。
排他的とも言えるのかな。

ベポは部屋に置いてあったナッツをツマミ代わりにポリポリと頬張りながら、でもウイには特に特別だと思うよと少し呆れたように呟いた。

どこから先が私だけが知っている特別なローなのかは分からないけど
付き合いの長いベポも知らないローを自分は知っているのかと思うと
なんだか、すごく得意気な気持ちになってくる。




「あとね、凄いなって。お医者さんだし、頭良いし、知らないこと沢山知ってるし、強いし、信念持ってるし、でも優しいし、たまに可愛いとこあるし、ちょっと悪戯っ子みたいなとこもあるし、あと格好良い、し……。」
「もう大好きじゃん。」



自分で話してて恥ずかしくなる。

そうだ。

私はローが大好きだ。




「あ、ごめん勝手に喋りまくって!なんか止まらなくなっちゃって。」
「良いじゃん。リハビリ。ウイが思ってることちゃんと話せるようになるための。」



聞いたのこっちだし、と呆れたような顔で笑ってくれるベポは
本当に優しいなと思う。

そんなこと考えてくれてたのか。




「ありがと。でもさ、ベポってなんか最初の頃と雰囲気変わったよね。前はピュアホワイトだったのに、今半分以上真っ黒じゃん。」
「そお?んー、俺も人見知りだからじゃない?」



何てことないようにそう言ってベポは新しい酒のコルクを抜いたのだが
ローはともかく、ベポが人見知りというのは理解しがたい。
初めて会ったときですら、彼はとても友好的だったように記憶している。

意外そうな顔をしていた私に気付いたベポが、本当だよ、と笑った。


「俺さ、シャチとペンギンに初めて会った頃、二人のこと怖かったっていうか、嫌いだったんだよね。」
「あー。なんか苛められてたらしいね。」


そうなの!と当時を思い出したのか少しむっとした様子でベポは皆が出会ったばかりの頃の話をしてくれた。

お兄さんを捜すつもりが乗る船を間違えてノースブルーに辿り着き
誰も知り合いも居ない見知らぬ土地で
ベポ達のようなミンク族も1人も居なくて

途方に暮れていた彼に、シャチとペンギンが声をかけたらしい。
その辺りでは物珍しかった白熊のベポに興味関心があった二人は
昔からあんな調子だった訳で
内気なベポが思い通りのリアクションを返してくれないから、と気付けば苛めに発展していたと。

そこを偶然通りかかったローが助けてくれた。
ベポにはその時ローが救世主に見えたらしい。
自分には誰も頼れる人が居ないから、この人に着いていこうって、そう決めたんだって。

でも、そのまま上手くは事は運ばなかったらしくて
ローにコテンパに負けたシャチとペンギンが、ローの強さに憧れて一緒に着いてきた、と。


「ふざけんなって思ったよね。お前らは着いて来るなって、本気で思った。」
「そんなに?でも、確かに嫌か。自分を苛めてた人と一緒に旅するのは。」


そう言って二本目のレモンスパークリングを飲み干したベポはブラックモードで、ベポは本当は未だに二人のことを嫌いなんじゃないかと実は少し心配になったくらいだった。


ベポはいつでもローの側を離れなかったらしい。
ローが居ない所で、シャチとペンギンはまた自分を苛めるに違いないと思って
ローに守って貰おうと思ってぴったりと張り付いていたそうだ。

ローもローで、あまりにもまとわりつくベポを鬱陶しいと一蹴し
シャチとペンギンとも普通に接していたらしく
裏切られたような気持ちを抱いたようだ。

ベポは自分が熊だからいけないのかと
人間じゃないから、シャチやペンギンは自分を苛めるし
ローにも鬱陶しがられると思っていたらしい。


「それからなんだ。熊なのに、とか。熊の癖にって言われると無条件でへこんじゃう。」
「そういう経緯があったのねー。」


ベポは自分で言った言葉にすら、へこむようだ。
その姿は、なんだか可笑しかった。




destruct at reality.