6-16

ベポは基本的に二人を避けていたし、皆で行動するときも常にびくびくしていたようだ。
それを二人も気付かない訳はなく、別にもうどうするつもりもねぇと二人が怒鳴れば、ベポが泣くという
負のスパイラルが完成していたのだと言う。


「それって、どうやって今みたいに打ち解けたのよ。」
「何て言うか、この人達バカなんだなーって気付いたから、かな。」


ベポがブラックに目覚めたのはそんなに前からだったのか!

昔というより、私が皆と旅を始める前までは
ペンギンと一緒になって騒ぐのはシャチの役回りだったらしい。
シャチはペンギンよりも落ち着いているというか、兄貴肌ではあったらしいが
それにしたって二人の悪ノリはベポにとっては衝撃的だったようだ。


「あ、でもウイに会ってからは、シャチってまともだなって思うようになったかも。」
「おいこら。どういう意味よ。」


そのまんまの意味だよ、とにこりと笑うベポは顔だけ見れば癒し系だ。
結構際どいこと言っても、こんな風に笑ってれば多少印象は良くなるもんなんだな、と頭の中のメモにこっそり記憶させて貰った。


呆れ果ててびくびくすることもなくなっていったベポに
二人は自然と話しかけたり笑顔を向ける事が多くなったらしい。
そうするとベポもどんどん気を許していって
気が付けばだらしない二人の説教をしたり
二人の悪ノリに巻き込まれたりと
今の関係が出来上がったそうだ。


「癖になっちゃったのか分からないけど、どういう人かまだ分からない人の前だと、あんまり思ったこととか言えない。」
「随分社交的な人見知りだね。」
「あと気も張ってるかも。失敗しちゃいけないって。」


だからリバースマウンテンの時もあんなだったのかもね、とベポは苦笑いした。

なるほど。
なんか謎が解けたぞ。

確かにベポが黒くなりだしたのはその後くらいからだ。


「熊だけど、ベポのこと私大好きだよ。」
「それはへこまないや。」


そう言って目を見合わせた私達は
同じタイミングで笑った。

その後も私達は色んな話をした。
結局寝たのは日付が変わった後くらい。

なんだかこの日、ベポのことを今までの何倍も
好きになったなと思った。


翌朝、昨日までの雨は嘘のように晴天で
私達は早い時間からガレーラカンパニーを訪れていた。


「ンマー!随分短期間で金を用意したもんだ。良いぜ。潜水艦だろうが何だろうが造ってやる。」
「では詳細の打ち合わせはこちらで。」


口癖なのか、あれは。

仕事ができそうな美人の秘書さんは特に何でもないことのように話を進めてるけど。



ちょっと衝撃的なガレーラカンパニーの職人さんに面食らったものの
皆はこれから応接室で船の設計に関する打ち合わせだ。



「ねえ、私中を見学してても良い?」
「あんまりはしゃぐなよ。」



ローの許可を貰ったので私は広い造船所の中を見て回ることにした。

まだ作りかけなのだろうが
フリーウィングより大型の船も多い。

あの子も、こうやって職人さん達が協力しあって造られたんだろうなと思うと
なんだかほっこりする。



「巷で話題のロレイシル・ウイじゃねえか。」
「こんにちは?」



まるで一つの街のような造船所。
その中心で組み立てられている一際大きな船に見とれていると
オールバックの男の人に声をかけられた。

いかにもガテン系の彼も、船職人なのだろう。



「船でも新調すんのか?」
「いえ、ちょっと見学に。」



ほぉ、と特にどうでも良いのか気のない返事をすると
彼はじろじろと値踏みするようにこちらを見ている。

なんだか居心地が悪い。



「天下の天竜人御抱えの職人様も、意外と普通の女なんだな。」



ああ、そういうことか。
仕事の邪魔にでもなっていただろうかと少し心配したが
この彼は私の名前も知っていたし
新聞でも一面に乗ってしまった私に興味を示したのだろう。



「邪魔じゃない?見てても。」
「ああ。なんなら案内するか?」
「良いの!!?」


ニカッと笑った彼の好意に甘えて
造船所内を案内してもらった。

彼はパウリーという名前らしく
一番ドックの職長さんらしい。

一番ドックにはガレーラカンパニーの中でも最も腕利きの職人が集まっているらしくて
技術のいる船や特殊な船はここで造られるらしい。

きっと皆の潜水艦が造られるのもここだろう。




「ねえねえ、船を作るにも手順とか工程とかきっちり決まってるものなの?」
「まあ一応な。だが腕の良い奴らは殆ど感覚だ。物によっても他のパーツによっても、その船にとって何がベストかは一概に決めらんねぇよ。」



確かに。
私もどちらかと言うとフィーリング派なのでそれはとても理解できる。
原料や水質、気温など
全てが一定であることなんて絶対にない。



「パウリーはマストの担当なんでしょ?何かこれだけは譲れないって拘りとかってあったりする?」
「そうだな、全部っつったら全部だが。強いて言えば角度か?」


スピード重視か操作性重視か
船の規模や全体のバランスによっても
その船によってベストな傾きは違うらしく

あれだと小型だから何度がベスト
あっちは注文者が神経質だから操作性重視でこの位

とパウリーは一番ドックで組み立て中の船全ての適切な角度とその理由を教えてくれた。

説明してくれる時のパウリーの顔は生き生きとしていて
この人も自分の仕事が大好きで
誇りを持ってるんだろうなと思った。


マストの角度なんて気にしたこともなかった。
フリーウィングはどういう角度なんだろう。
直角に立っていると思い込んでいた船のマストは
よく見てみたら傾いているかもしれない。

帰ったら早速チェックしようと心に決める。



「お前船にまで手ー出すつもりか?酒の他にも色々作ってんだろ?」
「船は流石に私じゃ無理だよ。物を作る人、見てるの好きなの。私も負けてらんないなって思うから。」



彼も何となくその感覚が分かるのか
そうか、と少し照れ臭そうに鼻を掻いた。



造船所内も一通り見て周り
パウリーにも仕事があるだろうからそろそろ遠慮しようかと思っていたのだが
せっかくだから中央で組み立てられている船の中でも覗いて行くか、と言ってくれるパウリー。

まだ甲板の板も張られていない船の内部。
しかも超大型船。



「良いの?」
「特別な。」



とても興味のあるそれは是非見てみたい。
まだ皆も打ち合わせも終わらないだろうし
こんな機械滅多にない。

彼のご好意に再び甘えさせて貰おう。

私はこっちだと言うパウリーの後に着いていった。




見学させて貰う船の袂まで来ると

遠くで見ていたよりもそれは大きくて
こんな大きい物を造っちゃうパウリー達は凄いなと改めて思った。


「あー、面倒臭ぇからショートカットだ。」
「え?」


パウリーは私を横抱きに抱え、捕まってろと言うなり近くの小屋や足場をひょいひょいと蹴りあげあっという間に私は大型船の内部に着いた。

私を抱えて居なくても十分びっくりクラスの彼の跳躍力。
常人離れした人達にとっては
人一人分の重量などさして問題にならないのだろうか。

私が梯子で登るのを待つのが面倒だと思ったみたいでこうしてくれたみたいだけど
なんだか絶叫系アトラクションみたいでちょっと楽しかった。



「わー!こんなに中に人が居たんだ!ねえ、あの人は何してるの?」
「中にも足場を組まねぇと床板をはれねえ。その為の足場組みだ。」



沢山の人が汗を流しながら作業を行っており
私はその人達が何をしているかを片っ端からパウリーに質問していった。

彼は足場が悪くて転ばれても迷惑だ、と私を抱えたまま
私の質問に全部答えてくれた。



「ウイー?」



一通り中の見学を終えた頃、遠くで私を呼ぶベポの声が聞こえた。
パウリーの耳にもそれは届いていたらしくて
そろそろ戻るかと、声のする方の船縁へと飛び乗り、そのまま地面へと飛び降りた。



「凄いねパウリー。さっきの声だけでどこから聞こえたか分かったの?」
「何年ここで働いてると思ってんだ。」
「誰だてめぇは。」




彼が着地した先には声の主であるベポとローの姿があり、
ローがパウリーをギロリと睨み付けている。

ベポだけだと思ったら、ローも一緒に探しに来てくれたらしい。


「あ、こちら一番ドックの職長のパウリーさん。中を案内して貰ってたの。パウリー、友達のローとベポだよ。」
「噂の潜水艦造りてぇって物好きか。」


潜水艦格好良いじゃんと反論すると、潜水する分材質が面倒臭ぇんだよとうんざりした顔を浮かべるパウリー。
あんなにマストが大好きな彼のことだ。
そんな顔しながらも拘りに拘って造ってくれるんだろうなと思うと、中々彼も素直じゃないと思う。




「ルーム、シャンブルズ。」
「ぅおっ!」




急に体に重力を感じたかと思うと
パウリーに横抱きにされていた筈の私はローの目の前に移動しており、
よろけた所をローが支えてくれた。


「ほー。能力者か。」
「てめぇには関係ねぇ。」


私はもう見慣れてしまったこれも、初見では驚かない方がおかしいだろう。
パウリーは私とさっきまで私が居た腕の中を交互に目をやりながらたまげた、と目を見開いていた。

それにしても。
お世話になったというのにローのこの態度は如何なものか。
それを抜きにしても、これから大切な船を造ってくれる職人の一人であるパウリーを依然として睨み付けているローは無礼者というか、失礼だろう普通に。



「連れが世話になったな。」
「あ、ちょっとロー!!パウリーごめんね!案内してくれてありがとう!!」



ローはそれだけ言うと踵を返して歩き出す。
腕を捕まれている私はローに引かれるがままにそちらへ足を進めざるを得ない。

親切にして貰ったのに申し訳ないと思いながらも
全く気にした様子もなくまたな、と手を振ってくれる彼に手を振り返した。








「ちょっと。パウリーに失礼でしょ?お仕事中なのに案内して貰っちゃったのに。」
「仕事中のやつに案内を頼むお前の方が失礼だろう。」
「う……。」



そう言われると何も言えない。
ローは無表情のまま、私の腕を掴んだまま歩いている。
掴まれている腕が少し痛い。




何となく、怒っている原因に思い当たる節はなくもないのだが。

かといって別に
パウリーは面倒だからとか、危ないから私を抱えてくれていた訳で
パウリーも私もそんなつもりなんてちっともない。



それに別に

私たち、恋人同士でもない訳だし。














焼き餅、妬いてくれたんだよね?
多分。




ちょっとだけ
パウリーには申し訳ないんだけど


嬉しいかも。






ただ、折角並んで歩いてるのに
二の腕を掴まれてるせいで
連行されてる風なのは、ちょっとあれなんだけど。



ねえ、


私あなた以外に触れたいとか思わないし
ドキドキしたりなんてしないんだから


そんなに怒らないでよ。



怒られたんだけど
どうしても、嬉しさで弛もうとしてしまう頬に力を入れながら
ローの後ろを着いていった。



destruct at reality.