6-17

「濾過装置、頼んでも良いのか。」
「え?ああ。勿論!うっかり忘れてた。」


結局ローは応接室の前まで口をきいてくれなくて
扉の前で立ち止まったと思ったらそんなことを口にした。

すっかり忘れてたけど
ローはあれに凄い興味を持っていた。

懐かしいな。
それまでローと全く会話という会話をしたことがなかったから
濾過装置に興味津々であんなに喋ってくれるローが嬉しかったのを覚えてる。


「どのくらいかかる。」
「スペースと汲み取り口確保して貰えば後は船でも作業できるから、特にこっちの為の時間はいらない、かな。」


運ぶのと設置はローにシャンブルズでやって貰おう。
それなら物を揃えてパーツを作っておけば一瞬だ。


「金はいくら必要だ。目安フリーウィングの3倍の要領が欲しい。」
「……3倍!?うーん。そうなるとレイアウトどうしよう。」


どんだけ水使うつもりだ。

流石にただ3倍の大きさにした所でガラスの強度とか濾過できる時間は同じにはならない気がする。

管や穴のサイズも調整が必要だろうし

考え出すとあれこれ気になる。
むしろ改良してもう少し濾過時間早くとかできるんじゃないだろうか。

この前読んだ砂鉄と磁石の実験報告とか上手いこと使えば
自然の重力でゴミを沈めるよりめっちゃ早くゴミの除去できないか?

でもグランドラインって磁力の強い島多いらしいし、砂鉄がそっちに引っ張られるリスクもあるのか。
じゃあダメか。


「色々考えて貰ってるとこ悪いが、費用だけ概算で先に教えてくれ。」
「お金要らないよ。作ったげる。」
「あれが船にあるだけで大分助かる。金くらい取れ。」


ローは何回いらないと言っても譲ってくれない。
なんでこういうところは律儀と言うか堅物過ぎるんだこの人は。


「今までだって散々世話になってる。このくらい受け取れ。」
「別に良いって言ってるじゃないしつこいなー。お金なら困ってないっていうか、ベガス聖のせいでありすぎて困ってるくらいだし。」


そうだ。
ベガス聖に手配解除と御用達職人任命のお礼のでんでんむしをかけたとき、
彼の言葉に耳を疑ったものだ。


『手配金もウイの口座に振り込んでおいたえ。一生分前払いだえ。』


その後一応確認の為通帳を記帳してきたが
0の数が多すぎて

目が眩んだ。



「ウイあの10億ベリー貰っちゃったの?」


ベポの唖然とした声が背後から聞こえて来たことで
ローだけじゃなくベポも一緒に探しに来てくれていたことを思い出す。

全く何も話さずに気配を消してたものだから
一瞬ちょっと驚いた。



「貰っちゃったの。一生分前払いって。ね?だから遠慮しないで貰ってよそのくらい。」
「そういう問題じゃねえ。」



なんなんだ本当に。
遠慮しないでっていうだけじゃないのに。




「じゃあ、濾過装置は潜水艦の完成祝いってことなら良い?」



相変わらず表情も変えずにこちらをじと目で睨んでいるローは
つまりまだ納得してくれてないんだな。
全くもう。
どうにかなんないのかその頑固は。



「じゃあ注文受けない。濾過装置売らない。あれ非売品なの。」
「ねえキャプテン、お言葉に甘えようよ。」
「どうぞ長旅の間は節水生活をお楽しみ下さい。」
「っとに分かったよ!……悪ぃな。」



勝った。


ため息を付きながらうんざりとした顔をしているローには悪いのだが

私の作った濾過装置を、私の代わりに一緒に連れていって欲しい。

濾過装置を積んで貰った所で
実際は何も変わらないだろう。

気持ちの問題だ。

私の作ったものが、皆と一緒に居るっていう
自己満足。

何かしらお祝いはしたいと考えてはいたんだけど
ローが譲ってくれないのもあったけど、もうこれで良いだろう。

私の代わりとして船に乗るんだ。
お金なんて受けとりたくない。


その後応接室で、濾過装置の設置場所と汲み取り口について
あの変な口癖のおじさんと話し合った。

貯水槽と汲み取り口はガレーラカンパニーに任せることにしたので
私の仕事は設備のみだ。

全体の設計図も机に乗っていたので見せて貰った。
フリーウィング程ではないものの
大分大きい気がする。

前の大破したらしい船がどのくらいの大きさだったのかは知らないが
これよりは小さかったんだろう。


新しい仲間を、沢山迎え入れるつもりなのかな。



私には何の口出しをする権利もないんだけど




嫌だと思った。



私はなれないのに、他の人がハートの海賊団の仲間として迎え入れられるのが。


いつまでも、私の大好きな四人で居て欲しい。
そこに他の人など入ってきて欲しくない。


最低だけど、そう思ってしまった。


打ち合わせが終わり、
後は完成を待ちつつ資金を調達するだけだ。

完成するまでの間の行き先を選ぶ為、お店でエターナルポースを物色していたのだが
名前ばっかり並べられても正直良く分からない。

沢山並んでいるエターナルポースに心が踊って
つい今まで訪れた島の物は購入することにしてしまった。

全部集めてコレクションしたい気もするけど
いくらベガス聖に貰ったお金があるとは言え
無駄遣いはいかん。



「ねえどういう所が良いとかそういうのもないの?」
「人がいればそれで良い。」



素っ気ない返事を返すローはダイヤルと言う貝殻を物色していて
一緒に行き先を考えてくれそうな雰囲気はない。

どうしよう。
資金繰りってことは
治療する人達が居て、賞金首もある程度居るような所が良いんだろう。

ウォーターセブンからあまり遠くない島である程度栄えた島をいくつか店員さんに選んで貰ったものの

決められない。

どうにか頑張って5つまで厳選したものの
そこから先はもうどこを選んでも変わらなそうな気もする。



「これ全部包んでくれ。」
「毎度あり!」
「え?」



5つのエターナルポースを穴が空くんじゃないかっていうくらい見つめていたら、
ローがそれ全部をあっさり購入してしまった。



「8ヶ月かかるんだから全部行けば良いだろ。」
「あ、そっか。」



皆の潜水艦ができるまで、8ヶ月。







あと8ヶ月も一緒に居られる。
でも8ヶ月したら、今度こそ本当にお別れだ。








ローは結局、私が欲しがっていた分の会計も済ませてくれていて
私にエターナルポースの入った紙袋を放り投げた。

受け取ったそれには
9つのエターナルポースが入っていて

船に戻ったらコレクションケースでも作ろうかなと
わくわくしてしまった。





「ありがとうございましたー!」



エターナルポース以外にも結構色々買い込んだらしい皆は
大きな袋をいくつも持っていた。
店員さんの威勢の良い声に送り出されて外に出ると何とも食欲をそそる匂いが鼻をかすめる。




「飯でも食ってくかー。」
「ベポ!なんかこの良い匂いのする店探して!私これ食べたい!」
「この良い匂いって、どれ?色々混ざってるからなー。」





「ウイ、ここであと用はあるのか。」
「特には。出航前に少し買い出しするくらいかなー。」


これ一個頂戴とウイは殻付きエビの唐揚げを自分の皿から掠め取っていった。
うま!と顔を綻ばせる彼女の様子は微笑ましい。
クルー達が同じことをやったら苛立つだろうがウイが喜ぶなら残り全部をあげても良いくらいだ。



「もう出航するの?」



美味しそうにエビを頬張るウイに見とれていたせいで聞くだけ聞いた質問の返答を無視していたようだ。
きょとんとそう言う彼女に頷いて返事をすると
買い出しするから夕方以降ならいつでもオッケーと出航許可を貰った。



「お買い物付き合ってくれる人ー?」
「俺が行く。」



ウイが荷物持ちを募るが
クルー達がそれに名乗りをあげる前にそのポジションを確保する。

ペンギンは面倒事は嫌いなので特に何も思ってなどいないのだろうが
ベポとシャチに至ってはやや悔しそうだ。


「わーい!じゃあ荷物船に置いたらすぐ行っちゃおうか。」
「荷物はこいつらに持ち帰らせれば良いだろ。」


その発言には我関せずとカレーを頬張っていたペンギンも反応を見せる。
なかなか荷物は大量だ。


「え、皆大変じゃない?」
「買い出しの荷物の方が多い。それくらいやらせとけ。」
「まあ、それもそっか。」


お願いね、と申し訳なさそうにクルー達に声をかけるウイをよそに
シャチに船に戻ったら甲板に小石か何かを撒いておくように伝えた。

俺は荷物をわざわざ運ぶつもりはない。

シャチは結局重いの持つの俺らだけじゃんと文句を溢していたが
そこは無視した。






「はー。お腹いっぱい!じゃあ皆お願いね!」
「「「はーい。」」」


項垂れた返事をするクルー達と別れ、飲食店の多いエリアから商店街へと移動する。

クルー達とはもう大分離れた。
人も多い。

人を避けながら隣を歩く彼女の手を
助けるふりをして然り気無く握った。


「あ、ありがと。」


こちらを見上げてそう口にした彼女は驚いた顔でもしているのだろうか。
声の調子からそんな気はしたものの
それに構わず手を繋いだまま人混みを歩いた。




「何買うんだ。」
「えっとね、りんごとお野菜と砂糖と、あと塗料と木材と金物屋さんかな。パーツ売ってそうなとこ。」


結構長く滞在していたこともあり、店の場所がすぐに頭に浮かぶ。
前にウイは買うものは自分で見て決めたいと言っていた気がする。

生鮮食品は規模の大きい店に連れていこう。
きっと彼女はただの買い出しなのに目を輝かせて喜ぶだろう。





「うわー!なに?これ総合ギルドの建物みたい!」


人が多いのはあまり喜ばしくはないものの
いくつもの商店が集って1つの建物に入っているこの店は
確かにルンルンバースの総合ギルドの建物に似ているかもしれない。


「わー。これなんだろ?」


何やら見たことのないフルーツを手に取ったウイが目を輝かせて
フルーツの匂いを嗅いだり回転させてみたりと見たこともないそれに興味津々だ。

結局そのフルーツは買うことにしたらしく
次はお目当てのりんご選びに移る。

色や大きさなど結構沢山のりんごが並んでいるというのに
ここに関してはウイは目当てのりんごに一直線だ。

手にとって重さと芯の裏の匂いを確認し、それを店員に注文した。


「随分これ選ぶのは早いんだな。」
「どれがどんなりんごかなんとなく分かっちゃうんだよね。」



照れたようにそう言う彼女ではあるが
これだけの種類のりんごからあんな数秒で目当ての物を選ぶとは
やはり彼女は相当腕利きの職人なんだろう。


「アップルブランデーにするならアレかな。普通に食べるならこっち。ジャムとかアップルパイはこの辺が良いんじゃないかな。」
「凄い目利きですね。りんごお好きなんですか?」



次々とお勧めのりんごを選んでいくウイに
店員の女が声をかけてきた。
店員の目から見ても凄いと称される彼女の目利きは
本当にりんごを正確に評価できているんだろう。



「りんご大好きなんです。生でも煮てもジュースでもお酒でも!」
「うふふ。本当にお好きなんですね。お客様、りんごの実に込められた意味ってご存知ですか?」


花言葉みたいな物ですね、と言う店員の言葉にウイはきょとんとした顔を浮かべている。
自分もそう言った類に関しては知識はないが雑学王の彼女にも知らないことはあるのかと少し意外に思った。



destruct at reality.