「“誘惑”、神話の中でりんごは食べてはいけない禁断の果実。禁じられていても手を伸ばしてしまう。それほど魅力的な果物とも言われています。」
「“誘惑”、かぁ。確かにそんな神話聞いたことあるかも。」
仲間になりたいのに、それができない。
そんな彼女の好きな食べ物が手を伸ばすことを禁じられた禁断の果実。
何の皮肉かと思ったが、この店員にはウイの事情など知っている訳もない。
ただの偶然なんだろう。
「りんごの花言葉は“選ばれた恋”“最も美しい人へ”プロポーズの際指輪と一緒に贈られることもある花です。花も実も、どちらも意味は違えど魅力的な意味が込められているんですよ。」
「へー。なんだか素敵ですね!なるほどなー。」
店員はウイと楽しそうに話しながら頼んだ品を箱詰めし終えた。
りんごの花か。
見たことはないもののその用途からも
華やかな花なのだろうと思った。
「あっちゃー。台車持ってくれば良かったね。」
「問題ない。」
3箱に及ぶ買った品をシャンブルズでフリーウィングの甲板に転がっていた小石と入れ換える。
ウイはそうだったと箱の代わりに現れた小石を眺めながら笑っていた。
他の買い物も同じ要領でさっさと済ませてしまうと
船に帰ろうかと言うウイに寄り道を提案する。
快く了承してくれて彼女を連れてやって来たのは武器屋だ。
メルビスに折られてしまってから
取り敢えずは適当に調達した刀を使っていたのだが
ある程度質も良く使えなくはないものの
それはどうも手に馴染まない。
命を預ける相棒だ。
信頼のおける物を手元に置いておきたい。
「うわー。もうどれが何だか分かんないや。」
あまり武器屋になど来ることもないだろうウイは
店内に並ぶ刀や槍、銃を物珍しそうに見ている。
つまみ食い撃退用にこれ買ってこうかなと言いながらウイが手にもっているのは
小型のシルバーの銃。
いかにも厳つそうな武器ではなく扱いやすそうな物を選ぶ辺り
どこまで本気かが怪しく摘まみ食い常習犯のペンギンの身が少し心配になった。
「何か良いのあった?」
「微妙だな。」
正直どれもピンと来ない。
無理に微妙な刀を買うくらいなら今の物でもいい気がする。
「どうした。」
「あ、うん。……なんでもないと思う。」
ウイが見ていたのは一本5万ベリーの刀が無造作に刺さった格安品コーナー。
何やら神妙な顔をしているが、何かあるのだろうか。
「なんか、あの長い刀、……うるさい。」
「なんも聞こえねえぞ。」
そう言うんじゃなく、と言うウイには悪いがそちらからはうるさいどころか特に何も聞こえない。
試しに手に取ってみると、不思議と手にしっくり馴染む気がした。
「あ、止まった。」
元から何も聞こえていないのだが、彼女曰く自分が刀に触れた途端に刀から漏れていた音のような声のようなものが止んだらしい。
「お客さん、悪い事は言わねぇ。そいつは止めときな。」
「妖刀、か?これは。」
一際刀身の長いその刀の鞘を抜くと、ウイの言うような煩さは分からないものの
何かあるなというのは感じる。
いつの間にかこちらに寄ってきた店主は俺の言葉に頷く。
止めとけという刀なら最初から売るなと言いたい。
特に名のある刀ではないらしいが、刃の状態も重みも悪くない。
何よりも手にすっと馴染む気がする。
「鬼哭。鬼哭っていうの?この刀。」
「さあ。妖刀だってことしか俺は知らねえ。」
ウイは刀に触れるとそう言い出す。
店主はこの刀が妖刀である以外は何も知らないらしい。
ウイはなぜこの刀の名前が鬼哭だと思ったのだろう。
「店主。この刀をくれ。」
「欲しいなら持ってけ。金はいらん。その代わり、何があっても俺を恨むなよ。」
止めておけと言ったり持っていけと言ったり
よく分からない店だ。
大通りに出て船へと戻る道を歩きながら
手の中の新しい相棒を見つめる。
刀身が長すぎて腰に刺すには向かなそうだ。
「ねえロー。その、それに決めちゃって良かったの?」
なんだか曰く付きみたいだけど、と遠慮がちにウイが刀に目を向けた。
正直、ウイを武器屋に連れてきたのは
自分がこれから信念を果たすにあたって
相棒となる刀を彼女に選んでもらいたいと思っていたからだ。
しかしやはりフィーリングと言うか
合わない物は合わない。
そこは譲らないつもりだった。
でもこれはどうだ。
長年使い込んだ物かのようにぴったり手に馴染む。
ウイが巡り合わせてくれたと言っても良いこの刀とは
良い付き合いが出来そうだ。
「煩いってどういうことだ。」
「うーん。煩いっていうか……何て言えば良いんだろう。」
覇気を使える状態の時に感じる人から流れ出てる生命力みたいな物を感じた、とウイは言う。
そしてそれは俺が刀に触れた途端に感じなくなったらしい。
「俺を選ぶとは中々良い度胸だ。面白ぇ。」
「そういうもん?」
ウイにしか感じ取れなくても
それは今後これを使っていけば俺自身にも分かる筈だ。
鬼哭。
中々禍々しい名前だが、それすらも自分に合っているように思えた。
浮かばれねぇ亡霊だろうが何だろうが切り伏せる。
寧ろそれを背負ってドフラミンゴを倒すのだ。
随分お誂え向きなシナリオだと思う。
「ありがとな。助かった。」
「何もしてないよ。でもお役に立てたなら良かった。」
そう言って笑うウイの顔を横目で見ながら
鬼哭を握る右手に力を込めた。
強くなる。
大事なものを守れるように。
大事な人の果たされなかった信念を遂げる為に。
その為に、お前の力が必要だ。
何となく
鬼哭から冷たい何かが腕を通って体に染み入ってくる感覚がした気がした。
妖刀だか何だか知らないが
こいつとは上手くやれる。
そんな確信めいた予感がした。
「じゃあ船出しちゃいますか!」
「待って待って。目的地どこにしたの?」
ログが溜まるのも関係ないので
買い物から戻ってすぐ船を出そうと思ったら
ベポに言われて気がついた。
どこに行こう。
「ちょっと待ってね。はい!ベポ引いて!」
「ウイくじ引き好きだね。」
ローに買って貰ったエターナルポースの紙袋から
今まで訪れた島の分を抜いてベポの前に突きだした。
少し呆れた顔でごそごそと中に手を突っ込んで中をあさるベポは
ローよりはくじ引きシステムを楽しんでいると思う。
ローはこういうのもなく
さっと取って終わりだから。
「えっと?ジャルタ、次の行き先はジャルタでーす。」
「はーい皆さんジャルタに向けて出航準備お願いしまーす。」
ベポと二人で皆に行き先をアナウンスすると
皆がやれやれと碇を上げたり帆を張ったりとそれぞれ作業に移る。
皆と出航するのはなんだか久しぶりで
なんだかわくわくした。
流石私の相棒。
フリーウィングは舵をとる前に船体を回転させ、ジャルタの方角を指す方向に船首をぴたりと合わせた。
ジャルタはどんな島なのだろう。
ベポが一応ね、と苦笑いしながらエターナルポースと海流、天候のチェックを行って皆で船室へと戻った。
こんな何てことないことを
あと何回できるのかな。
「何作ってんの?」
「コレクションケース!」
船室に戻ると、買い物した荷物の中から木材や金具を引っ張り出し
私は地下2階の作業スペースで切り出しを行っていた。
お店でエターナルポースを沢山見てから
どうしても作りたくなってしまったそれのコレクションケース。
これからも、可能な限り行ったことのある島のエターナルポースを集めてコレクションしたら
なんだかとっても素敵じゃないかと
早く作りたくてうずうずしていた。
大まかな構図はもう決めてある。
後は頭の中の設計図に沿って木材を切り出して塗装と組み立てをするだけだ。
「お前こういうの得意だよな。」
「得意っていうか、自分で作っちゃえば欲しい物そのまんまじゃない。」
大荷物を抱えて地下へ降りて行ったウイが気になったものの
中々彼女はリビングに戻ってこない。
何をしているのだろうと地下に降りると
自分たちが借りている地下2階の一角にある作業スペースで
ウイは性別を疑いたくなるほど雄々しい姿で木材を切り出していた。
ウイに女らしさを求める訳ではないが
結構高さのある作業台に乗せた木材を足で踏みながら固定して切り出しをするのは
ちょっと如何なものだろう。
「手伝うか?」
「本当?!じゃあこれこの印に沿って切って貰って良い?」
シャチ意外と器用だから助かるーとノコギリを手渡され受けとると
ウイは棒状の木材とエターナルポースを手に印を打っていく。
結局ウイと同じ格好で切るのが一番やりやすく
同じ大きさの木材を印に沿ってカットしていった。
自分も釣具をカスタマイズしたりするのは好きだが
彼女のこれは趣味の範囲を越えている気がする。
よくもまあ設計図もなく次々と作業を進めるものだと感心してしまう。
「これ切ったけど次は?」
「早っ!流石だな。じゃあ角ヤスリかけてー。」
ポイと板状のやすりを投げられ、それで木材の角を削る。
ウイの頭の中ではエターナルポースのコレクションケースの完成図が思い描けているのだろうが
正直さっぱり全貌が見えてこない。
その間にもウイは切り出した木材に穴を空けたり、コルク板を四角くカットしたりと迷うことなく手を進める。
フリーウィングに乗ったばかりの頃に
この部屋の机やソファー等を一緒にというか殆どウイが作ったことはあったものの
コレクションケースというどんな見た目にもなり得そうなものとなると
今自分がヤスリがけしているものがどこのパーツなのかが良く分からない。
「お前これ適当にやってんの?」
「うーん。適当と言えば適当だけど一応ちゃんと考えてるよ!」
鼻歌を歌いながら
空けた穴の大きさを足に挟んだ棒を通して確認するウイの姿は
やっぱり女らしさに欠けるというか
足癖が悪いというのを通り越して、器用だなと思った。