木材の加工が終わった所でそれを持って甲板に上がり
塗装作業が始まった。
適当にザシュって塗って!という分かりにくい注文をするウイの手元を見ると
結構ムラになるように塗っていることから
ザシュっというのはそう言うことなんだろうなと納得して同じように塗料を塗る。
「お前白好きだよな。」
「なんで分かるの?」
白い塗料を塗らせておいてそんなことを真顔で尋ねるウイは本当に頭のネジが局所的に緩んでいると思う。
その証拠に適当に間繰り上げたシャツの袖が落ちてきて今にも塗料が付いてしまいそうだ。
「っとにお前は変なとこしょうもねぇな。」
「ありがとー!」
袖をちゃんと捲ってあげている最中も、彼女は作業の手を休めない。
なんでこういう所は人懐っこいというか甘えん坊なのに
肝心な所で甘えられないのだろうと不思議に思う。
自分が接する機会の多い夜の店の女達は
それはそれは分かりやすく甘えてくる。
見え見えな所が良いというのも事実なのだが
結局はその場限りの関係だ。
それにひきかえウイは放っておくと何をしでかすか分からないし
周りに誰もいない時にはとんでもない重さの荷物を一人で運んでいたりする。
こんな細い腕であの重さを持てることも中々凄いと思うのだが
少しは頼れば良いと思ってしまう。
体力的な面以外でも。
そんなウイだからこそ、放っておけない自分がいる。
両腕の袖をちゃんと捲ってやると
シャチ器用ーと腕をぶんぶん嬉しそうに振るウイ。
嬉しそうなウイの笑顔を見ると
ふと、仲間になることを諦めるとキャプテンが言った後のひきつった彼女の笑顔が脳裏を過った。
結局あの後は普段通りへらへらと笑っているウイではあったが
あれからたまにあの微妙な顔が頭の中でチラつく。
「じゃあこれ適当にシャビって!こっちもう乾いてるから!」
なんだシャビるって。
思ったことが顔に出ていたのか
ウイはシャビー加工というアンティーク調の仕上がりにする為に折角塗った板を所々ヤスリで削れと丁寧に説明してくれた。
「なんだこれ。意外と加減が難しいな。」
「センスだよシャチ!センス!」
そう言いながらも適当そうにヤスリでシャビっていくウイの板は
なるほどと思うほど良い味を出している。
削りすぎた感がある自分の板を見下ろすと、どうもウイの板との差が気になる。
「こういうのはお前がやった方良いんじゃね?」
「良いじゃん!シャチと作ったなーって後からそこ見ながら思い出せるし!どんどん削りたまえ。」
そう言いながらも殆どの板のシャビー加工を済ませてしまっている彼女に後は任せるとして。
完成図がまだ想像できないこれを見るたびに
ウイが自分のことを思い出してくれるのはなんだか悪くない気分だと思った。
自分達との繋がりを思い出せることを嬉しく思うのであれば
素直に仲間になれば良いのにと思う。
能天気そうに見えても
何かしら抱えているらしいウイの頭の中がどうなっているかは
正直理解不能だ。
どこまでが素で、どこからが演技なのか
注意深く見ていても全く検討が付かない。
「ちょっとサボんないでよー。はい!次ニス塗ってー!」
もう手伝うのが当然とでも言うように刷毛とニスの入った瓶を渡された。
一人で何でもやってしまう癖に
ウイはこういう時は結構人使いが荒い。
日曜大工は嫌いではないし
自分が手伝うと言い出したものの少し溜め息が出る。
「ありがとね!おかげで早く出来上がりが見れそう!」
にっこりと笑うウイの顔を見ると
むしろ役に立てて良かったと思ってしまう自分は
やはりウイに甘いのだろうか。
「そういえばお前ピアスどうすんの?」
「あー。どうしよっかなー。空けたいけど痛いのやだ。」
痛くなく体に穴をあけるなど無理だろう。
撃たれたり骨折したり首に剣を食い込ませたりする時には飄々としている彼女は
先日ベポにひっぱたかれて大泣きした。
前に筋肉痛で大騒ぎしたこともある。
色々と事情がなければ痛いのは苦手なのだろう。
「試しに一個あけてみよーぜ?死にゃあしねぇよ。」
「うーん。まあ確かに。」
人生何事も経験だと今のところ乗り気な様子のウイ。
彼女の気が変わらないうちに、今晩にでも決行するとしよう。
速乾性の塗料を使っているせいか
塗装した板はあっという間に乾いた。
木材が飛ばされない程度の程よい風が吹いているのも大分影響していると思う。
一番ウイに甘いのはこの船だったと
こんな所まで彼女の要望を叶えてしまうフリーウィングの甘やかしっぷりに内心溜め息をつく。
乾いた木材を持ってリビングに入ると
ペンギンとベポが何事かとソファーから身を乗り出してその様子を眺めていた。
「まあ見てなさいって!」
得意気な顔を浮かべたウイは電動ドリルを片手に次々と木材を組み立てて行く。
なるほど。こうなる予定だったのか。
次々と形になっていくコレクションケースにソファーから顔だけ覗かせている二人も感嘆の声をあげた。
大まかな形が出来上がると、1つずつきっちり填まるような作りにしたいらしく
仕切りの中に留め具のような物を取り付けていく。
一々芸が細かい。
「シャチこっち持ってー。」
壁に直接取り付けるらしく
片側を押さえるとウイが電動ドリルでそれを固定していく。
割と大きなサイズのコレクションケース。
ウイはグランドライン中の島のエターナルポースを全制覇しようとでも言うのだろうか。
自分もコレクター気質ではあるものの
集めているピアスは結構乱雑に仕舞われている。
この調子だとウイはピアスを空けたらそれもコレクションを始めそうだし
便乗して自分のものも作って貰おうかと企んでいると
ウイがさっそくエターナルポースをうきうきしながらケースに嵌め込んでいた。
「えー。良いじゃんこれ。かっけーな。」
「俺も欲しくなってきたー。」
ペンギンとベポもコレクション心が擽られたのか
リビングに新しく設置されたエターナルポースのコレクションケースに興味津々だ。
「行ったことある島の集めたら楽しいかなって思って。」
順番に並べるんだ!とウイは嬉しそうにルンルンバースのエターナルポースを一番左端に納めた。
全ては無理だとしても
このケースの最後に収まるエターナルポースの島には
また一緒に彼女と訪れたいと思った。
いや、必ずそうしようと誓った。
ガガガガガガ
「今度は何やってんの?」
「プレートを、付けようと思って。」
コレクションケースを作り終えたのでリビングのテーブルで島の名前のプレートを彫っていた。
我ながら良い出来だと思う。
「お前1人居れば基本何でもできんのな。」
「そんな事ないよー。船造るとこ見てきたけどアレは無理だと思ったし。」
アレは構造も何もかも専門的すぎる。
こういう趣味の範囲から逸れる物に関してはきっと極めるまでに大層な時間と努力が必要だろう。
彫り終えたプレートのカスを息を吹き掛けて飛ばすとシャチにゴミ箱に捨てなさいと怒られた。
普段片付けとか出来ない癖にたまにこういう所を注意される。
どうせリビングの掃除は私がするんだから良いじゃないか全く。
「でもウイもお医者さんは必要でしょ?」
その言葉に誰かを連想して
声の主であるベポに目を向けると意地悪そうに目を細めてニヤニヤとこちらを見ている。
くそ。
からかってやがる。
「まあ、医学もあんまり詳しくないしね。」
「凄腕だったら尚良いじゃない?」
本当にベポはタチが悪い。
そこまで言ったらそれが誰を指しているのかシャチやペンギンにも簡単に想像出来てしまうじゃないか。
相変わらずニヤニヤしているベポを睨むとどうしたの?とわざとらしく首を傾げる。
色々と恋バナをした手前、
私がローのことを好きだと言うことを知っているベポはあれから然り気無くそれをからかってくる。
直接的にそれを言う訳ではない為問い詰めてもひらりとかわされてしまう。
「医者以外でも有能だぜ?強ぇし黙ってれば男前だろ?あっちの方の腕もバッチリだ多分!」
「おう!しかも意外と一途だ!お前と会ってからいっぺんも女遊びしてねぇぞ多分!」
ほら見ろ。
ペンギンとシャチが乗っかって来た。
ベポだけではなく皆も、私がローを振ったという認識でいるらしく
こうやって機会があれば必ず唆してくる。
別に振った訳じゃない。
ローにとってみればそう捉えられても仕方ないかもしれないが
ちゃんと言い切る前にそれを遮ったし
私たちの今の関係は友達の筈だ。
皆をじと目で睨みつつプレートを取り付ける為に立ち上がるが
皆は依然としてあーだこーだとローの売り込みを続けている。
私と会ってから女遊びをしていないっていうのには少し嬉しくなってしまったけど
離れてしまえばそれも再開されるんだろうなと思うと気分が沈む。
いやむしろ、船が出来るまでの8ヶ月の間ですらそれがないとも限らない。
あっちの方の腕も確かって、ペンギンはローと関係を持った女の人と面識があるのだろうか。
もやもやする。
聞きたい。
でも聞きたくない。
ローは何だか色々と手慣れていると思う。
ブラのホックにせよキスにせよ。
そうなるに至った経緯を考えると
なんだか無性にもやもやする。
私にとってローは初恋だけど
ローにとって私は今まで何人も好きになってきた中の一人で
むしろ好きにならなくても体を重ねただけの人だって大勢居るんだろう。
「お、どうした。」
どんな人達だったんだろう。
ペンギンは、ずっとローと一緒に居る皆は
その人達のことを知っている。
ペンギンの目をじっと見つめる。
その人を過去に映したた目を見つめた所で
面影なんて見える筈はないのに。
「また随分とでけぇ工事をしたもんだな。」
「おうキャプテン。」
2階から降りてきたローの声にはっとした。
危ない。
私あのままだったら皆に
ローの過去の女の人達の話を聞いてしまう所だった。
「なるほど。良いなこれ。」
「だろ!?ウイ俺らの船にもこれ作ってくれよ!」
「はいはい。全くもー。」
散々人の心の中引っ掻き回しといて。
本当にペンギンは調子が良いと思う。
「俺らの分も買っとけば良かったな。」
あれからローは
全然普通だ。
「次見かけたら買っとけよお前ら。」
当たり前だ。
覚えてないんだから。
あれは夢なんだから。
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