6-20

「や、やだ!やっぱり怖い!」
「怖くねえって。痛ぇのなんて最初だけだ。」


シャワーを浴びてリビングへ戻ろうと廊下を歩いていると
リビングからウイとシャチの声が聞こえてきた。


「やぁっ!やっぱ無理ぃ!!絶対痛い!!」
「暴れんな全く。ほら力抜けって。」
「やだやだやだやだやっぱり怖いー!!」


何事だ。
ウイの声は熱が籠っているというか泣きそうにすら聞こえる。
最近ペンギンが大人しいと思っていたら今度はシャチか。
しかも無理矢理アイツは何をするつもりだ?



「ぃ、痛っ!」
「大丈夫だって。ほらもう入ったし。」



なっ。入ったっておい、まさか……


バタン



「ロ、ロー?」
「おうキャプテン。ドア壊れんぞ。」




ドアを開けて視界に入ってきた映像に色んな意味で度肝を抜かれた。

ウイが半泣きでいるのは声の調子からなんとなく分かってはいたものの彼女はちゃんと服を着ていて
シャチもシャチでウイの耳に刺した針を手にきょとんとこちらを見ている。

そして二人だけかと思っていたそこにはチェスをするペンギンとベポの姿も。



「お前ら、何やってる。」
「ウイがピアス開けてぇって言うから開けてやってたんだよ。」


ぷすっとな、とシャチは得意気に笑う。
俺が盛大な勘違いをした事に気付いたらしいチェス組の二人が胸糞悪い顔でこちらをニヤニヤ眺めていた。



「うわー。お約束ー。」
「キャプテンったらどんな想像してたんだろうね。全く。」



これは結構恥ずかしいやつだ。
当事者達は気付いていないようで、痛いと暴れるウイをシャチが押さえ込んで、穴の開いた耳朶にシンプルなピアスを突っ込んでいた。



「全然痛いじゃんシャチの嘘つき!」
「明日んなりゃ忘れてるって。」



ウイは半泣きになりながらも耳朶にはめられたピアスを手で触り、おお!開いてる!と何やら感動している。

本当に、紛らわしいことはするなと言いたい。
扉を開ける直前まで
自分は確実にシャチを殴り飛ばす気でいた。

こっちだって我慢してるというのに
なぜお前が、と。


「あ、そういや。キャプテンに開けて貰えば無痛でいけたんじゃね?」
「開けてから言うな!!詐欺!!シャチのバカ!!」



確かにピアスくらい、ルームの中では無痛で開けられるだろう。
涙目でシャチに文句を言っているウイの耳は赤くなっており、ピアスを開けたいことくらいなぜ自分に言わないのかと少し腹が立つ。

想像した状況とは違ったものの
耳であろうと彼女の体に痕跡を残したシャチに軽く殺意が沸いた。

気になるのかウイはピアスばかり触っている。
なぜ急にピアス等開けたいと思ったのだろうか。



「あんまり触るな。」
「んー。何か気になるって言うか、じんじんするー。」
「見せてみろ。」



ピアスとはいえ体に穴をあけるのだから
外傷に伴ってそれを塞ごうと体内の白血球やら血小板が総動員で稼働しているのだろう。

髪を避けて耳の裏の状態を確認すると血液と混ざりあった血小板が固まりかけており、特に腫れもみられない。
必要以上に触らなければすぐに赤みや痛みも引くだろう。

しかしやはり気に食わない。
どうせなら自分が開けたかった。
ウイの体に自分が痕跡を残したかった。



「あ、あの。大丈夫!もうそんなに痛くない。」



慌てたような声と共にウイが腕の中からすり抜けて行ってしまう。



「私お風呂入ってくる!」



そのままパタパタと階段を上がって行ってしまった。

ちょっと待て。

今あいつ、顔が……














「やっぱアイツ満更でもなさそうじゃん。」
「俺が触ってもなーんともなかったのに。なぁ?」



ウイの顔はクルー達から見ても明らかな程



赤かった。





目を潤ませて頬を赤く染めたウイは
俺が耳に触れたことに照れたのか?

やはり、ウイも本当は自分を好きでいてくれると
思って良いのだろうか。







なんだか気恥ずかしくなってしまい、左手で口元を覆ってクルー達から顔を逸らした。



「あーあ。良いなー青春。俺も恋してぇ!!」
「なんなの。二人揃ってもじもじしちゃって。余所でやって欲しいわー。」



クルー達の囃し立てる声が煩い。


だってあんな不意討ちは、
卑怯だろ。



ウォーターセブンを出航してから早半月。
一行はジャルタへと到着した。

久しぶりの全員揃っての航海はあっという間で
普段通りの海水浴や釣り、ゲームや酒盛りに加えて
バーベキューや缶蹴り、餃子パーティー等
ウイとハートの海賊団は楽しい時間を過ごした。

楽しい時程過ぎるのは早いと言うが
その言葉がぴったり当てはまるほどに
時間は刻々と過ぎていった。

事件と言えば
ブラーヴェに加入するのが8ヶ月遅くなることを連絡し忘れたウイがアオイにしこたま怒られたくらい。

アオイのでんでんむしから聞こえる声量が大きすぎるのはいつものことなので
ベポがついにでんでんむしをリビングの角に移動してしまった。

お陰でアオイの声に鼓膜を痛めることはなくなったものの
今度はこちらの声が届かないと文句を言われ、結局煩いという結論に陥ったのであった。








「なんか、これはまたそれっぽい雰囲気だね。」
「お前絶対一人で出歩くなよ。」



船縁に肘をついて島を見下ろすウイとシャチ。
着いて即刻一人で外出禁止令を食らったウイはつまらなそうにそれに頷いた。


ジャルタは人口こそそこそこの人数がいそうではあるものの
港からいって治安が悪そうな、そんな島だった。

道端には酒の瓶やゴミが散乱しており
堂々と海賊船が停泊している。

まあフリーウィング号も見た目は違えど乗っているのは海賊なのでそこはなんとも言えないのだが。



「お前らは偵察だけして来い。くれぐれもまだ手は出すなよ。」
「「おうよ!」」



ジャルタに滞在中の賞金首を洗い出す為、シャチとペンギンが出掛けて行き、ローは治療で稼げそうな富裕層を物色すると出掛けていった。

そうなると居残り組は必然的にいつかの二人組になる訳で


「なーんか嫌な予感しかしないんだけど。」
「それウイが言う?」


自分の身を守れないウイと
護衛を兼ねてはいるものの目立ちすぎるベポは船室で紅茶を飲みながら文句を垂れていた。


「どのくらい稼げるかな。」


治安が悪そうだと言うのにほくほくした顔で賞金首リストを眺めるベポを
ウイは心配そうな顔で眺めていた。




机の上に並べられた賞金首のリストは低いものでも500万ベリー、高いものでは億超えだ。
自分のような特殊な件を除いて懸賞金に強さは比例していることは誰でも知っている事だろう。

偵察にせよ割とわくわくして出掛けていった二人と目の前でほくほくした顔をしているベポ。

本当に大丈夫だろうかとどうしても心配になってしまう。


「そんなに心配しないでよ。安全に済ませる為の偵察なんだから。」
「そなの?」


もうちょっと慎重になって欲しいというのが顔に出ていたらしい。
ベポは偵察班は相手の力量も見てくるし、敵わない相手に挑むことはしないと言う。

皆にとっては慣れたことなのかもしれないが
自分がいるせいか、あまりこれまで戦闘を行わずに来た彼ら。
それが今、自ら進んで戦いの場に身を置こうとしている。

皆の強さを疑う訳じゃない。
ローは能力者だし、皆の日々の鍛練を見ていれば
少しは戦闘についてかじった程度の自分でもその実力は分かる。

でもどうしても、メルビスやロイに大怪我を負わされたローとペンギンの姿が脳裏をチラつく。

いざというときは私の覇気もないよりはマシだろう。
毎回そう都合良く使えるかは分からないけど、気を引きしめておかないと。



「そうならないようにしてるつもりなんだけど、次やったら本当に許さないからね。」
「え?」


考えてること駄々漏れ、と言われベポは本当に凄いなと思ってしまう。
自分はそんなに考えてることが顔に出ているのだろうか。

どんな顔をしているものかと顔を触ってみたものの
解せぬ。



「俺達そんなに弱くないし、無鉄砲でもないよ。」
「うーん。分かってるつもりだけどやっぱり心配。」



あんまり心配してるのが顔に出てしまっているのも失礼だ。


そうは思っても

大切だから心配なんだもん。

危ないかもしれないっていう事を知ってしまっている今、この気持ちはどうしようもなさそうだ。


二時間程して、三人は一緒に帰ってきた。

ローは相変わらず普段通りだったけど
シャチとペンギンのテンションが高い。

豊作だと浮き足だっている二人に不安は高まる。



「ペンギンは留守番だ。何があっても絶対にこいつを見張ってろ。」
「ちぇー。久々に手応えありそうな連中なのに。」



お前も分かってるな、とでも言うようにローに睨まれる。
どうやらすぐに賞金首狩りに行ってしまうらしく
私のお守りを言い渡されたペンギンは不満そうだ。

ローの念押しにせよ、ペンギンの賞金首への評価にせよ
やっぱり不安だ。

シャチとベポは体を解しながらも
わくわくしている感が滲み出ているし
ローも心なしか目がギラついている。

彼らは海賊だし
戦うことも、むしろ好きなんだろうけど



「俺がお守りしてやるんだからんなシケた面すんなって。」



ペンギンにがしがしと頭を撫でられる。
皆は出撃に備えて武器の確認をしているし
ローも追加で2つ程腕にミサンガを付け足している。




なんだ。
自分で付けられるんじゃない。





特訓の時には追加の度に自分じゃ付けられないと言って
腕を出すくせに。



「行ってくる。」
「あ、あの!」




気付いたら
背を向けて船室から出ていこうと言う彼らに声をかけてしまっていた。

皆が私に視線を向ける。



言いたいことは沢山あるけど

これだけは絶対に守って欲しい。






「絶対に戻ってきてね。」






「当然だ。」



ローと目があった。

私がそれに頷くと

今度こそ、船室やの扉を開けて出ていってしまった。











「どんだけ心配性なんだよ。ったく。」



皆が出ていった扉を見つめたまま
暫く動けないでいた私に
ペンギンがため息を付いた。



「だって……。」
「それより麻雀講座やってくれよ!あいつらを出し抜くチャンス!」



ペンギンはそう言ってリビングのテーブルに麻雀マットを用意し始めた。

ペンギンも皆を心配する様子もないし
私が気にしすぎてるだけなのかな。





destruct at reality.