ローは私と、
その、
セックスしたいと思ってたけど
怖い思いさせないようにって
それで私を避けてたの?
夜のお店に行けば
その欲だって解消できたのに
リビングを通らなくても
ローならシャンブルズで外に出られたのに
ただ欲を満たしたいとかじゃなく
そういうのを全部我慢して
ああいう態度を取ってくれてたの?
「言っとくけどな、キャプテンがあんなんなるのなんてレア中のレアだからな。」
未だに手で顔を覆ったままの私は
恥ずかしいやら申し訳ないやら嬉しいやら
自分が今どんな感情でいるのかが分からない。
性欲関係なく、ローが我慢する所など見たことがないとシャチは言う。
そこら辺は、あんまり良く分からない。
だって私はローに結構我慢というか
思い通りにならないことを強いている。
仲間にならない理由を言わないことも
告白を遮ることも
行列に並ばせたり
探検に行くローに無理言って連れて行って貰ったり
むしろしたくないことまでさせてしまっている気がする。
確かにローは自分の思惑通りに事を運ぶための準備は念入りだ。
でも
「皆が言うほどローはそんなに自分勝手な人じゃないでしょ。」
「お前にだけだって。」
お前は今までのキャプテン知らねぇからんなこと言えるんだって、とそれはそれは呆れられてしまった。
「ろ、ローだって今まで好きになった人とか、居たわけでしょ?私が特別って訳じゃないよ。きっと。」
「居ねえよ。だから俺らがこんなに面白がってんだろ。」
面白がって、るね。
うん。
覗きとか結構してたみたいだし
ローは皆のそれを鬱陶しがっていた。
私だけって
本当?
ローも私と同じで
私に初めて恋をしてくれたの?
どうしよう。
凄く嬉しいかもしれない。
今までローが自分に向けていた顔を思い出すと
胸が苦しいくらい締め付けられた。
どうしよう。
今日は私が普通に出来ないかもしれない。
「キャプテンもちゃんとそういう感情あるんだーって最初は正直驚いた。」
シャチ、お願いだから
私をそんなに喜ばせないでくれ。
心臓が何かに締め付けられ過ぎて
潰れてしまいそうだ。
「お前さ、絶対キャプテンのこと好きだろ。何をそんなに意地になってる訳?」
もう分かってるよ。
確かにこんなに思ってることが表に出てるようじゃ
皆が気付かない方がおかしい。
「ローは友達だもん。友達としてなら大事だよ。大好きだし。」
「いつからキャプテンは友達の枠に落ち着いたわけ?」
もう、色々と自分の言動に辻褄が合ってなさすぎる。
そうだ。
私そんなこと言ってたわ。
ローは友達って感じじゃないとか。
何言っちゃってんのよ私。
「そういう友達枠もあるんだなって思っただけ。シャチとペンギンだって、同じ友達だけど全く同じ気持ちじゃないし。」
「……はいはい。そうですねー。」
苦しい言い訳だったと自分でも思うけど
それをシャチにまで話してしまったら
どんどん止まらなくなって
いつか
ローにもこの気持ちを伝えてしまいそうで怖い。
「あ、お前ピアスどうなった?」
私を問い詰めるのを諦めてくれたらしいシャチは
その後彼のピアスコレクションを見せてくれた。
ピアス用のコレクションケースが欲しいと言うシャチとデザインを相談して
今度一緒に作ることになった。
話題を変えてくれたのは助かったけど
私はどこか上の空で
ローのことばかり考えていた。
昨日、ローが避けていた理由を私に黙ってくれていて良かった。
あの時そんなこと聞いていたら
どうにか偶然を装ってローと接触を図ろうと
また変質者じみた考えが頭の中を占領していた気がする。
もう、本当に私は意志が弱い。
昨日は能力を使わずに戦ったから特に酷かったんじゃないかとシャチは言っていたが
今日は、能力を使って戦っているのだろうか。
いかん。
何を期待してるんだ。
大事にされてるっていうのは嬉しい。
でも、
そんなの取っ払って求められたいと思う気もする。
泣いちゃうかもしれない。
そういう時のローは怖いかもしれない。
でも、
我慢も何もしなくて
考えるんじゃなく、ありのままの欲望で
私を求めてくれるローを見てみたいと思った。
「雑魚しかいねぇのな。全く。」
出ていってから数時間。
不完全燃焼とでも言わんばかりのペンギンを筆頭に皆が帰ってきた。
「おかえりなさい。」
「ただいま。」
少しがっかりしている自分がいる。
今日のローは返り血も全く浴びていなければ
むしろ出掛けて行った時のままだ。
あれほど心配だと騒ぎ立てておいて
自分のこの思考には呆れてしまう。
皆が無事で帰ってくることは、多分ちゃんと分かってたんだ。
だからこそ、贅沢な私は皆のことよりも自分のことばかり考えている。
それも自分本意ないけない思考。
「お前も退屈だろ。出掛けるか?」
「良いの?」
ローが街を案内してくれると誘ってくれた。
確かにジャルタに着いてから一度も島に出ていない。
それに、ローが誘ってくれたのは嬉しい。
皆が絶対ニヤニヤしてるのは分かっていたから
その顔を確認することなく外出用の鞄を持って船室を出た。
別に二人で行動するのは初めてじゃないけれど
なんだかこれって
デートみたいだ。
「行くぞ。」
「うん!」
港に降りて私を待ってくれているローは
なんだかとっても格好良く見えた。
ローの顔が整っていることも
背が高いことも
知っていたけど
やっぱりローは格好良い。
こんな人が私を好きだなんて
それだけでどんな素敵な小説のヒロインよりもドラマチックに感じてしまう。
商店街で青果店を見て回ったり
お酒を選んだり
航海用品のお店で、私と同じエターナルポースのコレクションケースを作る為に今まで訪れた島のそれを探した。
ルンルンバースのものしか見つからなかったけど
これから訪れる島でそれを探すのも
スタンプラリーみたいで楽しそうだと思った。
商店街の最奥には買い食いに適した露店が集まっていて
それに目を輝かせた私にため息を付いたローが
全部一種類ずつ買ってくれた。
私が色んな物を食べたいことを分かってくれているのが
擽ったくて嬉しかった。
どこか座って食べられる場所を探していると
食べ物ではない、
甘い爽やかな香りが鼻を掠めた。
「凄く良い匂い。これなんだろ。」
「何かの花か?」
匂いを辿って足を進めると
小さな公園にたどり着いた。
良い匂いはここから香ってくる。
私は匂いの元を辿って公園中を歩き回っていると
オレンジ色の小さな花をたくさん咲かせている木にたどり着いた。
金木犀、木の根本にあるプレートにはそう書いてあった。
甘いけどどこかさっぱりしていて
他で嗅いだことのない匂い。
金木犀っていうのか。
凄く好きな匂いだと思った。
ローは公園に入るなりベンチに腰かけてパックに詰めて貰った物をさっそく頬張っている。
私が興味を示した物を見るために足を止めるのには文句も言わずに付き合ってくれるし
私が色んな物を食べてみたいのを知っていて何も言わずに私が望むことをしてくれるロー。
だからと言って気を使われていると思わない程度に
こうして気ままな所を垣間見せてくれると
私だけじゃなくローも好きに楽しんでくれてる気持ちになってなんだか嬉しい。
ローは白身魚フライの串が気に入ったのか
最後の一つを残して他は食べてしまっていた。
それは醤油と薬味の下味がしっかりついたフライで
今度似たようなものを作ってみようと決めた。
豚の角煮をバンズで挟んだ物は一口しか食べていない。
「これ嫌い?」
「お前のパンは旨いと思ったがこれは好きじゃない。」
なんて嬉しいことを言ってくれるんだ。
これはこれで美味しいのに。
ローは酵母の匂いが好きなのかな。
私が作るパンはりんごやバナナの酵母で発酵させているから
香りや味が結構強めだと思う。
この角煮バーガーのバンズは角煮の味を邪魔しない目的なのか、ふんわり感重視の癖がないものだ。
ローの好みを知れるのは嬉しい。
どうせ作るなら、美味しいと喜んで欲しい。
「匂いの元は分かったのか?」
「うん!金木犀って言うんだって。」
あれだったと金木犀を指差すと
聞いたことねえな、と言うローは鼻から息を吸い込み良い匂いだなとその木を眺めていた。
自分が好きだと感じる匂いをローも良い匂いだと思ってくれることすら嬉しく感じる。
ねえ、大好きだよ。
口には出せないけど
ローの横顔を見ながらそっと
そう思った。
「もう賞金首狩りは終わったの?」
「ああ。今日ので全部だ。」
割と小物だったらしい残りの賞金首は値段に相応しい強さで
暴れたりないペンギンが一人で全て倒したらしい。
少し前まで自分の首にも賞金がかかっていたことを思うと
ペンギンに呆気なく倒された人に同情しなくもないのだけれど
見ず知らずの誰かの人生よりも
目の前にいる皆の利益を考えてしまう私は
ひどい人間なのだろうか。
治療の方で稼げそうなのかを聞くと
余り富裕層がいないこともありジャルタでは往診はしないようだ。
興味がある所はもう見て回ってしまったし
次の島へ行こうかと言う結論に至り
買った物も食べてしまったので私たちは公園を出た。
「次の島に着くまでの食料買って行っちゃう?」
「そうだな。どうせ雑魚だが引き渡した奴らの仲間が仕掛けてくるのも面倒だ。」
仲間がやられたのなら、それの報復を考えるのも当然だ。
私だって
もしローが誰かにそんな目に合わされたら
絶対に許せない。
報復をするなら私が一番狙いやすいだろう。
彼らの足手まといにならない為にも
早めにこの島を出るのが懸命だろう。
商店街に戻って買い物を済ませると
ローは当然のように荷物をシャンブルズで船に移動した。
荷物の代わりに現れる小石を見ると
準備が良いなと思ってしまう。
でもさっきシャチに聞いた話から推測すると
ローはこんなとき
船に適当な物がなければ皆を無許可で荷物とシャンブってでも荷物を船に運ぶんだろう。
それもそれで面白そうだと思う。
「次の島はローがくじ引き引いてね。」
「またやんのか。」
少し呆れたような顔で私の顔を見下ろす顔は
気を許している相手に見せる
少しだけ優しそうな顔で。
それが嬉しくて私は自然と頬が弛んでしまう。
彼はなんだかんだ言っても
次の島を選んでくれるだろう。
私のワガママだけ聞いてくれるローが
大好きだ。
449