海を見ながらウイと話していると
突然ウイが自分の好きなタイプはどんなだと聞いてきた。
ヤるだけなら
胸も尻もデカいそれなりのテクのある女だろう、それは。
顔も良くて出るとこ以外は細い方が良い。
でも恋愛対象として、となると
正直目の前にいるウイみたいなのが良い。
彼女はキャプテンの想い人で
彼女もキャプテンが好きなんだろう。
キャプテンの恋路を邪魔するつもりもなければ
あんなハイスペック相手に勝てる気がしない。
キャプテンもそうだが
ウイも普段へらへらしてる癖に色々と訳有りのようだ。
そんな二人が想い合って幸せなら
それで良いと思う。
ウイみたいな
何でも言えて、ノリも良くて
気軽に、でも少し可愛いらしく引っ付いてくる感じは
結構あんまり居ないタイプだと思う。
弱いところを全面に押し出すのでなく
むしろ隠そうとするウイは
ひ弱なただの女の筈なのに
誰よりも強いと思う。
皆はウイが抱えている何かを知りたいようだが
正直俺はそこはどうでも良い。
言いたいなら言えば良いし
言いたくないならそれで良い。
そこをどうにかするよりも
普段ウイがそんなことを考える暇もないくらい楽しければ
いつかはそんなこと忘れてしまうんじゃないかと思う。
頑固すぎるところはどうかと思うが。
支えてあげたいというよりも
あまりに度を越えたそれは
正直苛つく。
ウイは先日言った全裸で迫られてもそんな気起きねえの下りを本気で信じているようだが
そんな訳ないだろう。
シャチだって同じ筈だ。
男というものをいちいち分かっていないウイは本気でアホだと思う。
キャプテンも居ないから少しくらい良いかと押し倒してみた時も
体の柔らかさと小ささに改めて驚いた。
全然普通にイケるだろと思った。
でもあいつは
全く動揺すらしてなくて
男として見られてないんだなと痛感した。
少し、イラっとした。
いつまでたっても
俺が好きだと言ったらどうするかという問の返事がないウイは
何やらやたらと考えこんでいる。
「何をそんなに考える必要があるわけ?」
「いや、ペンギンをそういう目で見たことなかったから。そういう目で見てみてた。」
やっぱりそうな訳ね。
でも考えてくれているらしい。
どうせウイがキャプテンのことを好きなのは分かっているし
もしそうでなくても
キャプテンがウイを好きでいる間は
どうこうするつもりはない。
いつからだろう。
ウイをこんな目でみるようになったのは。
最初からノリも良いし可愛いなとは思っていた。
こんなヤツと毎日一緒に過ごせたら
それはそれは楽しいだろうと。
シャチからキャプテンがウイを好きらしいと聞いて
実際にそれっぽいキャプテンの様子を見て
この女を好きになってはいけないと思った。
まだそうかもくらいの気持ちだったから
なかったことにするのは簡単で。
でも
キャプテンにヤキモチを妬かせるという大義名分を引き下げてウイにちょっかいを出していた頃は
キャプテンがウイを好きでいなければ
俺は本心からこの女を可愛がれるのにと
少し気持ちが傾いた。
でもそれも
抑えがきくほどの範囲で。
それから色々ウイのことを知っていくと
やっぱり自分も
恋愛をするならこんな人が良いと思った。
キャプテン程、人と距離を作る性格でもない自分は
ウイじゃなくても好きになれるだろう。
ただ、きっと似た人を好きになると思う。
だからこそ、ウイから見た自分がどう見えているのかを聞きたい。
というのは言い訳だ。
ただ純粋に自分がウイに告白したらのもしも、の先を知りたいだけだ
きっと。
「なに?そんなに悩むってことは俺結構有りなわけ?」
「うーん。楽しそうだなーとか、変に気を使わなくて良さそうだなーとか、マイナスな面が思い付かないんだよね。」
親指に顎をのせて握り拳を唇に押し当てるのは
ウイが考え事をするときの癖らしい。
キャプテンに言われて初めて気が付いたらしいそれを
今現在も絶賛発動中だ。
マイナス面がないと言うのは良いようで悪い。
それがなくても特別にはなれないのだから。
「あー、でもペンギンとちゅーとかその先とか、それは想像付かな過ぎるかも。うん。無理だ。」
けろっとした顔で結構胸に突き刺さる事を平気で言うなこいつは。
何でこんな流れになったのか分からない。
けど抑えていたものが少し流れ出すと
中々止まらないものだ。
「想像付かねぇならしてみる?」
「なにを?」
「俺とちゅー。」
「……なっ!?」
掴んでいた腕を引き寄せて顔を寄せてみると
この前は全く平然としていた癖に
ウイが面白い程頬を赤く染めた。
冗談のつもりだったのに
そんな顔をされるともう少し苛めてみたくなる。
「どうしたの本当に。今晩には島に着くんだからもう少し我慢しなさい!」
「うっ!」
欲求不満なだけだと勘違いしてるらしいウイに溝尾に一発食らわされた。
前振りなく繰り出された拳に油断してたせいか
結構痛い。
鳩尾を押さえてじと目でウイを睨むと
彼女は海に顔を向けて顔を扇いでいた。
揃いも揃って鳩尾を殴るとは
この二人は本当に変な所が似ている。
まあ、良いか。
どうせ元から入る余地はないんだ。
キャプテンとウイが幸せなら、それで良い。
どこかで聞いたセリフを自分も思ってしまっていることが笑える。
これでは自分も失恋したようなものだ。
「そんなムラムラしてるならペンギンこっから泳ぎなよ。」
「フリーウィングが引っ張ってくれるならそれでも良い。」
「あー。それ面白そうだね。バナナボートみたいな?」
ウイとはこんなノリで話してるくらいが丁度良い。
俺の心を拐ってくれる女が現れるまで
このアホの子守りをするのも悪くない。
「でもマジで、キャプテンに捨てられたらしょうがねぇから俺が拾ってやるよ。背中に捨て猫ってプリントしてやるから安心しろ。」
「根に持ってるのはペンギンじゃん。」
こんなウイの笑顔を俺は俺なりのやり方で守ろうと思う。
「おっきい街!ってか島がでかっ!」
「割と海軍も幅きかせてんな。」
アルトが目視で確認できた日の夜、フリーウィング号は港に到着した。
今まで訪れた島の中でセントローズの次、もしくはそれ以上くらいに栄えた島だ。
さっそく島へ飛び出そうとしたウイの腕を掴んでそれを止めると
シャチとペンギンがそれを追い越して夜の街に消えていった。
「なんで私はダメなのよー。」
「お前は昼間安全を確認してからだ。」
眉を下げて街へ行きたいとすがり付かれると
それを許してしまいそうになるものの
どんな連中が居るかも分からない島で
それも夜にホイホイウイを出歩かせる訳には行かない。
天竜人の牽制があるとは言え、それを利用しようとする輩なんて履いて捨てる程居るだろう。
「けちー。ローのけちー!!」
「何とでも言え。」
諦めたのか船室へ戻るウイに着いていくと
彼女は冷蔵庫から酒瓶を取り出し、冷蔵庫を閉める前にそれに口をつけた。
やけ酒か。
「っぷはー!ローも飲む?」
切り替えの早さは本当に一級品だと思う。
最初の一口が格別なのは分からないでもないが
それで機嫌が直るのだから
本当に良い性格をしている。
「あれ?シャチとペンギンもう出掛けたの?じゃあ俺もー。」
「は!?メスの白熊なんて居ないよ!?なんでベポまで出掛けんのよ。」
ベポが一人で夜に出歩くのは珍しい。
誰かと飲みに行くことはあっても基本的に一人で外出するヤツではないのに。
ベポはウイに何か耳打ちをするとウイは目を見開いてベポを止めようとするが
スピードではベポに敵う訳もなくするりとそれをすりぬける。
「じゃあキャプテン、ウイのことよろしく。明日ちゃんと起きれるなら飲み過ぎても良いよ。むしろ飲み過ぎた方が良いんじゃない?」
何か含みのある言い方でそう言うと
じゃあねーとベポが船を出ていった。
「あんの野郎っ!」
「何か言ってたのか。」
「……なんでもない。」
この二人の秘密はどちらに口を割らせようとしても無意味なことを知っている。
どうせ大したことはないんだろう。
そう思ってソファーに腰を下ろした。
「あ!そうだ!!ローチェスしようチェス!!」
「名案だな。」
船にローと二人っきりで取り残されてしまった私は
せっかくだから強者とチェスを楽しもうと棚からチェス板を取り出す。
『お邪魔虫は退散するのでごゆっくり。』
ベポが変なこと言うから
二人っきりってことを意識してしまう。
シャチとペンギンはどうせ夜のお店に行ったんだろうけど
ベポは特に用もないのに出掛けた筈だ。
ローに飲み過ぎても良いって言うとか、
私にだけ分かるような冷やかしだアレは。
キスしかしてないのに
絶対にもっと色々してたと思われてる。
恋バナができるのは嬉しいけど
なんだか自分の欲というか
そういう恥ずかしい所を見られてしまった手前
そういう話は恥ずかしすぎる。
「どうした。」
「え?ああ、何でもない何でもない。」
いかん。
この人は些細なことも見逃してくれないんだった。
怪訝そうな顔でこちらを見ているローは
既に若干私の様子がおかしいことは気付いてるんだろうけど
ローには一番バレてはいけないヤツだ。
楽しもう。
ローと思う存分チェスが打てるなんて滅多にない機会だ。
「何賭けんだ。俺とお前じゃ金賭けてもつまんねぇだろ。」
「私はにゃーで良いよ。」
本当はもっと他のことを賭けてみたい気がするけど
それを願った所で実現されても困る。
お前それ見て楽しいのかとうんざりした顔で呟くローは
余程語尾ににゃーを付けて1日過ごすのが嫌なんだろう。
嫌じゃなければスリルがない。
むしろ本当に見てみたいからそれで良い。
「ローは?」
「俺は後で考える。何でも言うこときかせられる権利で良い。」
良いって、それ一番便利じゃねーか。
しれっとそう言うローには悪いが
フェアじゃない。
こっちも条件は提示してるんだからローも提示するべきだ。
「それなし!今決めて!罰ゲーム分かんないとどこまで死ぬ気でやるかも変わるでしょうが。」
「安心しろ。お前が絶対嫌がることを考えておく。」
ニヤリと笑うローに米神がピクピクと動いたのを感じた。
まあ良い。
負けなければいい話だ。