「見ねえのか。」
ほっこりしながら見つめていると
その視線に気付いたローが花火を見ないのかと不思議そうにこちらに目を向けた。
「見てるよ。」
一緒に花火を見ているあなたを。
花火だけじゃこんな気持ちにはなれない。
どんなに綺麗でも
どんなに儚くても。
あなたとだから嬉しいんだ。
ローは不可解な私の言動に眉を寄せたが
そんな表情すらも愛しい。
私、ローだったらもうなんでも良いんだろうな。
何をしてても
どんな顔をしても
ローの一挙一動が全てが私の心を温かくする。
穏やかな気持ちでローの顔を眺めていると
怪訝そうだったローの顔から徐々にそれは消えていって
花火も終わってしまったのか
遠くで聞こえる人混みの喧騒と波の音だけが
私達を包んでいた。
絡み合った視線に
穏やかだった気持ちとは別の
期待が生まれる。
口には出せなくても
好きって気持ちを込めて見つめてたら
抱き締めてくれるかな。
キス、してくれるかな。
ローの左手がそっとこちらに伸ばされて
私の髪を耳にかけてくれた。
温かいローの手が
優しく私の髪を撫でてくれるのが心地好い。
私を見つめるあなたの目にも
同じ気持ちがこもってるんじゃないかって思ってしまうのは気のせい?
どこか優しいけど
求めてくれてるような、そんな顔。
ねえお願い。
このままぎゅっと抱き締めて。
少し苦しいくらいに
あなたの腕に抱き締められたい。
あなたの体温を感じたい。
必要とされてるって
あなたも同じ気持ちだって
そう思いたい。
髪を撫でてくれるのも好き。
でも、それじゃ足りないよ。
願いを込めて
ローの目を見つめ返した。
ねえ、勘違いじゃないでしょう?
ローも、同じように思ってくれてるよね?
そっと私の髪を撫でていたローの手が止まって
頭にローの手の重みを感じる。
期待が高まった私の胸は
さっきからいつもより早い鼓動を打っていて
ローの瞳に熱がこもっているのを感じると
それは更にスピードを上げる。
もう、私から抱きついてしまおうか。
ダメだって分かってるけど
止まらない。
この気持ちを抑えられそうもない。
ローの腕に手を伸ばそうとしたとき
急に辺りが明るくなった。
クライマックスなのか
先程とは比べ物にならないくらいの光と花火が弾ける音がする。
ローの顔に反射する光は
今、夜空にとても素敵な絶景が広がっていることを教えてくれていた。
「見とけ。すげえぞ。」
頭に感じていたローの手は
私を抱き寄せてくれることはなくて
私の頭を空の方へと向かせた。
夜空に広がる満開の花々は本当に綺麗で
光の滴が海まで流れ落ちて消えては
上空では新しい光が花開いていた。
綺麗なのに
なぜかそれを素直に喜べない。
ローは今
私を抱き締めてはくれなかった。
私のこういう気持ちは駄々漏れだってベポにも言われたくらいだ。
むしろ伝われと思って念じていたくらいなのに
人の心を透かしてしまうのが得意なローに
それが伝わらない筈はないのに
かわされてしまった。
ローの気持ちをなかったことにして受け取らなかったのは私だ。
色々ハプニングがあって忘れかけてはいたけれど
ローはあれから
ちゃんと彼の意志がある所では私に何もしてこない。
自分勝手なことを言っておいて
弱い心に負けてズルいことばかりしている私とローは違うんだ。
沢山の光が夜空を彩っては闇に溶けて消えていく。
消えていく光が
私に思いをぶつけてくれていた頃のローの姿と重なって見えて
花火とは別の儚さが
切なさが
体の中が空洞になってしまったんじゃないかと思うほど
寂しくなった。
「また、一緒に見てえな。花火。」
ごめんね。
本当に。
ローも、抱き合いたいって
思ってくれてたよね。
拒絶しておいて
求めて欲しいと思った私の気持ちも
バレてたよね。
ちゃんと全部分かったうえで
流されずに意志を貫いて
それでもそんなこと言ってくれちゃうんだね。
本当にあなたは
どこまで素敵な人なんだろう。
「絶対にまた見ようね。約束!!」
私が小指を出して顔を見上げると
仕方なさそうにローが私のそれに小指を絡めた。
ローの節くれ立った指をぎゅっとにぎると
それだけで少し心が満たされた気がした。
私も、本当にいつまでもこんなんじゃいけないね。
ローはきっと
まだ私のことを好きでいてくれてる。
それでも
気持ちを受け取らなかった私を尊重して
ちゃんと仲間みたいに
私が嬉しいって言った特別扱い、してくれてるもんね。
「ねえローはどの花火が好き?」
「しだれ柳っつったか?あれ。」
そう言ってローが指差す方向に目を向けると
私も一番好きだと思った
だーっと金色の稲穂が垂れ下がっているような花火が夜空に咲いていた。
一番綺麗だと思ったものがローの好きな物で良かった。
「花火作れないかなー。あれどうなってるんだろ。」
「知らねえ。そういうのはお前の得意分野だろ。」
本当に最後なのか
ローのお気に入りのしだれ柳が
これでもかってくらい夜空を覆い尽くして
もうすっかり耳に慣れてしまった花火の音が止んだ。
いくつか闇に溶け込めずに残ったキラキラと輝く光が
海に落ちて
空は普段通りの静かな夜の色に戻ってしまった。
「すっごい綺麗だったね!……戻ろっか。」
「まだお前を負かしてねえしな。」
結局そのあと、ローに一本取られてしまって。
ムキになった私が取り返し、
最後の一戦はまた引き分け。
こんなに頭を使ったのは久しぶりだった。
チェスは通算したらまた引き分けだったけど
私が変なことを考えないで接していれば
ローは普通に話もしてくれるし
たまにだけど笑ってくれたりもしてた。
やっぱりまだ少し寂しかったけど
多分もう大丈夫。
100の幸せはいらない。
1でも5でも
ローがくれる幸せを離したくない。
シャチとペンギンは思った通り12時を回っても帰ってこなかったけど
ベポが戻ってこないことは少し意外だった。
ベポに、話を聞いて貰いたかった。
彼はちくちくと正論を諭しはするけれど
聞かれたくないことは言わなくて良いと言ってくれるし
何よりも私のわがままな気持ちを知っていて
それでも失望しないでいてくれるのは
世界でたった一人、ベポだけだ。
ベポのバカ。
なんで帰ってこないのよ。
「おはよう。朝帰り諸君。」
「あ?はよ。いやー中々上玉揃いだったな。」
「お前相当溜まってたんだな。」
朝ごはんの準備をしていると、シャチとペンギンが揃って帰ってきた。
ペンギンはお店のお姉さんを一気に3人も連れ込んだらしく
流石のシャチも呆れていた。
くぁ、とあくびをするペンギンは全くもって普段通りだけど
3人のお姉さんを一気に相手するって
どういうこと?
「お子ちゃまには刺激が強すぎて話せねぇな。」
ケラケラ笑うペンギンを呆れたような目で見ながら
ご飯とお味噌汁をテーブルに運ぶ。
残り物の金平とお浸しはもうセルフでどうぞと言わんばかりにタッパーごと出したし
お魚が焼ければ完成だ。
ローはペンギン達と話している途中で二階から降りてきたけどベポの姿が見えない。
ペンギンはいただきますをまだしていないというのに既に味噌汁を啜っているし
先に食べてしまおうか。
「おはよー。今日の朝ごはん鮭?」
くんくんと鼻を鳴らしながら地下へ続く階段からベポが顔を出した。
どうやら私たちが引っ込んだ後にちゃんと帰ってきてたみたいだ。
「鮭だよー。塩焼き。ベポ鮭好きでしょ?」
「焼き魚好きなのは誰かさんでしょ。」
まだ眠そうなくせにそういう頭は働くらしい。
生の鮭を一本そのまま食卓に並べたら
それはそれで面白そうだけど皆が泣くな。
「「「「「いただきます。」」」」」
皆揃った所で食卓につくと
話題は自然と昨日の花火のことになる。
「なんかドンドンうるせぇと思ったら花火やってたのか。」
「なんか昨日丁度祭りやってたみてぇだな。」
シャチはお相手のお姉さんにお祭りのことを聞いたらしいけど
あんなに大規模な花火大会の話すら話題にならない程別のことを楽しまれていたらしいペンギンは少し悔しそうだ。
「すっごい綺麗だったよ!花火って凄いね!!」
「キャプテンと二人で見たの?」
ニヤニヤとこっちを見ながら味噌汁を啜るペンギンが良かったじゃんと目を細める。
何が言いたいかは知らないけど
絶対お前の方が色々突っ込みどころ満載なことしてきてるからな!!
心の中でそう叫びつつ金平をおかずにご飯を頬張った。
「今日どうするー?東の酒場らへんに2000万ベリー一人は見かけたけど、後は目ぼしいの居なかったな。」
ベポは昨日偵察に回ってたのか。
さっさと狩っちまおうぜと言うシャチの意見に皆意義はないようだ。
「その程度ならお前らで行って来れんだろ。今日は俺が残る。」
「私も街散策してくるからローも行ってきて良いよ?」
「お前一人じゃ危ねぇだろうが。」
「もしかしたらすんごい強い賞金首いるかもだし!海軍支部とかもあるから大丈夫だよ!ちゃんと気を付ける!」
今回の私のお守りがローだと聞いて少し心が踊ったものの
皆に内緒で買い物を済ませてこなければいけない。
頼む!
一緒に出掛けて来てくれ!
「……明るいうちだけだぞ。日がくれる前には戻ってこい。」
「私は子供か。」
じと目で睨まれたけどどうやらローも一緒に出掛けてくれるようだ。
良かった。
「俺留守番でも良かったのに。流石に眠ぃわ。」
さっきからあくびばかりしているペンギンは
まさか夜通しお姉さん達といちゃこらしていたのだろうか。
私なんて抱き締めてすら貰えなかったのに。
なんだか少し腹立たしい。
完全に逆恨みというか八つ当たり根性なだけだけど。
皆はそれぞれ剣やら銃を準備し初めたので
ベポに手伝って貰ってお皿を洗ってしまうことにした。
「ベポって何も武器とか使わないの?」
「使えなくもないけど。自分の体の方が思い通りに動くからない方が得意かな。」
確かにベポは動きも機敏だし意外と力持ちだし
手からバチバチしたの出す時もあるし
何て言うか体が武器だね。うん。
丁寧に洗い終わった皿を拭いていくベポ。
こんな普段の彼だけしか知らなければ
そんな原始的というか文明放棄したぜ!っていう発言しちゃうのは意外な発言に聞こえたんだろうな。
「ねえベポ。今日一緒に寝よう?」
「なに?昨日また何かやらかしたの。」
「ちっがうっ!!」
大声をあげた私に腰に付けたケースに替えの弾を充填していたシャチがうるさいと文句を言う。
なんですぐそういう話に持ってくのよ全く。
横でお茶碗を拭き上げるベポがふっと鼻で笑うのが聞こえて睨み付けるとベポと目がかち合った。
「しょうがないなー。じゃあ今日は程々に暴れてくるね。」
ベポの言葉に頬が弛む。
やっぱりベポ様々だ。
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