6-33

皆が出掛けて行ったあと、私は台車を引っ張り出して来て早々に船を後にした。

濾過装置の材料はローに運ぶのを手伝って貰おう。
あれはもうバレてるし私一人じゃ無理だ。

材木屋さんでエターナルポースとシャチのピアス用のコレクションケースの材料を調達して
そのまま布地屋さんに立ち寄った。

彼らの事だ。
きっと着たらそのまま何日かそれで過ごすんだろう。
内側の肌触りが良くてしっかりした厚手の生地が良いかな。
薄いとすぐによれてしまいそう。

ロール状に積み上げられた白い布から良さそうな物を引っ張り出してカートに積む。

ローの分はどうしよう。
色は黒かなって思ってたけど。

黒の布地を物色していると
薄手で肌触りがとんでもなく良い割にしっかりした良さげな生地を見つけた。

あの人意外と拘りが細かいからこの肌触りは好きそうな気がする。

これに決めようと布地を引っ張り出すと
その下にもこもこした厚手の生地が出現した。







ローってたまにベポの毛弄ってたりするし
意外ともこもこ好きだと思うんだよなー。

結構厚手のその生地は
肌触りが良いというよりも防寒重視な感じだ。

まだ訪れたことはないけれど
グランドラインには極寒の冬島もあるんだろう。多分。

2パターン作ればいっか。



結構な重さのそれもカートに入れて
次は革製品売り場だ。

ペンギンが銃や剣を刺すポシェットみたいなのが欲しいと言っていた。

あの本物のヤリちん野郎に似合いそうな革ってどんなのだろう。
キャメルではないし、濃いブラウン?
いや何か違うな。

全身白になるわけでしょ?

ペンギン色ってことでネイビーで良いか!
うん。名案。

意外と適当に決めたそれをカートに入れて
塗料やスタッズ、転写式の布シールもカートに入れた。






ん?

皆にはつなぎ、ローにはコート。

ベポにエターナルポースのコレクションケース。

ペンギンに革のポシェット。

シャチにピアスケース。





ローに何あげよう。

皆は欲しい物を結構好き勝手言ってくれるから準備しやすいけど




ローが欲しがる物って何だ?



どうせならローにも何か作りたいから本とかはだめ。

お酒も喜ぶだろうけど飲んだら無くなっちゃうし。



ど、どうしよう。




店内をブラブラ見て回っても中々良さそうなものが思い浮かばない。

ローはエターナルポースのコレクションケースも気に入ってくれてたみたいだけど
特に収集癖もないし。

だからと言ってローには濾過装置?
あれは皆が使う物だしもうバレてる。

なんだろう。

ローが使う物で手作り出来そうなもの。
出来るなら私を思い出してくれそうな
彼の身近に居られる物が良い。
















帽子!!

遊園地に行ったときも、前に私のことを尾行してた時も
ローは帽子を被ってたけど凄い似合ってた。
なくても格好いいけどあの顔は帽子が似合う顔だ。

帽子なら外出るときは被ってくれるだろうし
ローも賞金首な訳だから顔が隠せるから役にも立つ筈!

トラファルガーさんにはやっぱ虎っぽい柄だよな。
遊園地行った時ももこもこの虎柄にしたし
あの時のことも思い出してくれたら尚嬉しい!





ファーの生地を手に取りながら
遊園地楽しかったなと思い出してしまう。

あの時は初めての遊園地がただ嬉しくて
ベポが乗り物酔いで苦しんでるのに色々引っ張り回して悪かったなと今更ながらに思う。

ローにコーヒーカップで一杯食わされた時は本当に目が回った。
この人結構いたずらっ子なんだって思って
あんまり他人に興味がなさそうなローが構ってくれたことが嬉しかった。

私の帽子を選んでくれたのも嬉しかった。


あ。
やっぱりローはもこもこしたやつ好きだ。


ローが私に選んでくれた帽子も
ニットでもこもこしたやつだった。







ローはあの時もう、私のことを好きでいてくれたのかな。


いつからだろう。

ローが私を好きになってくれたのは。





最初は絶対警戒されてたから一目惚れとかそういうのではないんだろう。

ほとんど人見知りなローが一目惚れとか絶対しなそうだし

私は一目惚れして貰える程美人でもナイスバディーでもない。




あれ?


ローって私のどこが好きなんだ?





ふと気になってしまった疑問に


私は白地に黒の斑が入った虎柄のファー生地を掴んだまま固まってしまった。





私自慢できることじゃないけど

ローが私をドキドキさせるようなこと
ローに出来てない。

あんな色気もなければ
戦ってて格好いい!っていうような見せ場もないし

むしろ皆からギャンブルでお小遣い巻き上げるわ
酔っ払ってくだまくわ
ローのシャンブルズをタクシー代わりに使うわ
怒られるわ
言うこと聞かないわ


最低やん私!!


一緒に出掛ける時も私は結構好き勝手に動いちゃうから気の使える女っぷりもアピール出来てないだろうし
前に酵母から出る泡をニヤニヤ眺めていた時は結構本気で引かれてた。
マニアックな物を愛でる気色悪い女だと思われたんだろうか。

お菓子が焼き上がるまでオーブンを覗いたり
酵母が増えてるんだろうなって水に浸かったリンゴを眺めてるのは
結構大好きな時間なんだけど。




なんだか思い返してみても良いことが全くなくて
とても残念な気持ちで会計を済ませて船へと戻った。




フリーウィングには人気がなくて
まだ皆は戻ってきていないみたいだ。
急いで荷物を部屋に運んでクローゼットの中にそれを隠す。

これは内緒だ。

シャチにサンプルを着せて細かい調整をしてから大分日は経っているし

最悪つなぎがバレても他の物はバレたくない。

あと半年。

絶対に隠し通す。







そういえば
2000万ベリーの賞金首が一人って言ってたけど
皆は大丈夫なんだろうか。

金額だけ見てもローの方がよっぽど格上なんだろうし
今日は全員で出撃だ。


金額に見合った強さは良く分からないけど
一番強くないらしいシャチだって
私を拐ってくれた海賊達をまとめて海軍に突きだしてしまうくらいだ。
なんで彼らの首には賞金が懸かっていないだろう。


懸けられたら懸けられたで心配だけど






彼らは寧ろ喜びそうだ。









考え出すと何だか今更心配になってくる。


じきに帰ってくるだろうと自分に言い聞かせて
私はミシンを走らせた。





「ウイー!土産買ってきてやったぜー。」



階下からシャチの声が聞こえて来て
皆が帰ってきたことを知る。

時計を見るともう夕方で
集中して作業をしていたらお昼ご飯を食べ逃してしまった。



「お帰りー!怪我は、してないね!!」



皆は怪我どころか今回も返り血一つ浴びていなくてほっとした。
シャチがお土産と言って差し出した紙の箱は
見るからにケーキだ。



「あけて良い?寧ろ食べて良い??」
「お好きにどうぞ。」



空腹も相まって見るからにテンションが高いだろう私にシャチは現金なヤツ、とため息をつく。



「わぁー!!何これ超美味しそう!可愛い!!誰チョイス!?ありがとー!!皆大好きー!!」



箱の中には小ぶりなケーキが10個程整列していてテンションが上がる。
全部違う種類のそれはどれもカラフルでデコレーションも凝っていて
女子が絶対に喜ぶやつだ。



「キャプテンがお土産買ってくかって言い出して、俺がケーキ1ホールで良いんじゃない?って言って、ペンギンが色々食べたいって駄々こねて、シャチが持って帰ってきた。」
「皆の合作か!ありがとね。コーヒー淹れてくる。」



ケーキでこんなにテンションが上がるのは我ながら現金だと思う。

どれにしよう。

チーズケーキも好きだけどアップルパイも食べたい。
チョコレートのも何種類かあったけどグラサージュがかかったてらてらのやつも食べたいし
生クリームにチョコが混ざったやつも捨てがたい。
ベリーたっぷりのタルトも、綺麗なグリーンのピスタチオのケーキも食べてみたいし

ていうか全部食べたい。
流石ペンギン。
チャラいだけあって女の好みを分かってる。


人数分のコーヒーとお皿とフォークをトレーに乗せていそいそと皆が待つリビングに向かうと
意外とレディーファーストらしい皆が私に先に選ばせてくれた。


「うんまー!!幸せー。」



なんて言えば良いんだろう。
ピスタチオのホワイトチョコでコーティングされたケーキは甘さとほろ苦さが絶妙だ。
デコレーションももぐるんと巻かれたチョコが刺さっていたり金箔が散りばめられていたり
これは相当お高いヤツだろう。



「今日の収穫は上々だったの?」
「額面は結構いったか?歯応えのねぇやつらだったから俺は何もしてねぇ。」





つまらなそうに呟くローの皿からチョコのケーキを失敬する。

てらてらのグラサージュのチョコレートケーキと
シンプルなイチゴのショートケーキ。

ローは男の人らしいと言うか、結構シンプルな王道のケーキが好きみたいだ。

うん。
これも美味しい。

ついでとばかりにショートケーキにもフォークを突き刺すと
ローはそんな私に呆れているのか
お皿を私の方にスライドさせて食いたきゃ食えと言ってくれる。




なーんていい人なんだー。



「全部食べてみたいから一口で良い。ローも食べる?」



私はチーズケーキをフォークで取ると
お皿に乗ったケーキをローの方へと寄せた。



「貰っとく。」



ローはそう言って私の手を掴むと



私が食べようと思って切り分けていたチーズケーキを
そのまま口に運んで食べてしまった。



「ちょっとそんな堂々とイチャつかないでー。」
「なに?むしろ俺らが邪魔?」
「くれるって言ったもん食って何が悪い。」



これは、わざとじゃなくて

ローはもしかして本当に天然なの?



私は呆気に取られてぽかんと開いていた口を慌てて閉じたものの
ローは何事もなかったかのように平然としている。





ずるいな。
私ばっかりドキドキさせられて。




ローが口を付けたフォークで自分のケーキを食べるのは何だか恥ずかしくて
隣のペンギンのケーキにフォークを突き刺しそれを掠め取った。

新しいフォークを取りに行くのもなんだか意識しすぎな感じで恥ずかしいし
このままもじもじしてたらドツボに嵌まる。

前の焼き鳥事件が良い例だ。




「間接ちゅーじゃん。キャプテンだけじゃなく俺まで!お前中々欲張りだな。」
「あんたにだけは言われたくないわ。」



冷やかすペンギンのもう一種類のケーキも失敬して口へ運ぶ。
ペンギンチョイスのベリーとカシスのムースは甘酸っぱくて。

そういえばファーストキスの味って甘酸っぱいとか聞いたことがある。

そんな味したかなと
うっかり記憶を辿ってしまって




後悔した。




丁度この場所でローに凄いファーストキスをされてしまったことがなんだか鮮明に思い出されて
顔に熱が集まる。




「何赤くなってんの。俺に女として意識して欲しかったら豊胸でもして来い。」



私はペンギンの顎を殴り飛ばした。



destruct at reality.