6-35

「そりゃさぁ。あれだけ手慣れてて何しても飄々としてるんだもん。色々とやらかしてるんだろうね。」
「まぁ。でも良いじゃん。キャプテンウイと会ってからは本当に夜出歩かなくなったでしょ。」



あんまりからかいすぎても気の毒かと慰めてやれば
今度は皆が迎えにきてくれるのがいつになるか分からないのに
ずっと我慢させるのも可哀想だとグチグチ言いながらお腹の毛をむしり出すウイ。



めんどくさっ!
ウイ本当にめんどくさっ!



「別にウイが頼んでしてもらってる訳じゃないんだから好きにさせとけば良いんじゃないの?」
「えー。ねえ!我慢できると思う!?そういうもんなの!?」



シャチとかペンギンの欲たかりっぷりとか見てると男の人の性欲って分かんないとウイが身を乗り出して来る。



どうだろう。



正直微妙だ。
キャプテンは前から女を漁りに行くような事はなかったけど
自分から求めなくても相手が常に居た訳で。

言ってしまえば島に居るときなんて本当に取っ替えひっかえ毎晩お楽しみだった。

本当に嫌なことはしないキャプテンの性格上
嫌ではなかったんだろう。

あの二人程ひどくはないだろうとは思うけど
キャプテンだって男だし、性欲だってあるだろう。
むしろ旺盛な筈だ。



「なにー?やっぱりベポもローが千人切りに戻っちゃうと思ってるの?」
「千は流石に切ってないと思うよ。女は。敵は斬ってると思うけど。」


まじか!ローってそんなに修羅のようにおっそろしいんだねと千人斬り倒したことに関心が逸れたらしい。

なんとも言えないのは前例がないからだ。

このちょっと色々可笑しいウイに骨抜きにされているキャプテンの
あんな様子を今まで見たことがない。


鬱陶しい程ヤキモチ妬きで
何かにつけてウイのことばかり話す。

ウイがシャンブってと頼めば文句を言いながらも言うことを聞いてあげてるし
何よりもウイと居るときのあんな甘ったるい顔は今まで見たことがない。
正直あれは見慣れないせいなのか気色悪いとすら思う。


もしかすると
キャプテンは本当にウイを迎えに来るまで
他の女の人なんて抱かないつもりなのかもしれない。




「キャプテンがどうするかなんて多分本人にしか分かんないよ。そういう人だもん。」



実際の所予測不能だ。
思ったことを口にしただけなのに
ウイは唸りながら相変わらず人の上をゴロゴロ転がっている。
鼻が通過する度に本当にくすぐったい。

でもそれを言ったらウイは面白がってくすぐり倒して来そうだ。

安眠のために我慢しよう。



「ベポはさ、ローが女遊び始めちゃって、それ発見しちゃったら私に何て言う?」
「えー。……別にどっちでも良いけど。ありのままを聞きたい?それとも俺もウイお得意の嘘付いた方が嬉しい?」


嫌味!ベポの意地悪!とバシバシお腹を叩くウイは結構理不尽だ。



嫌味じゃなく事実なんだから文句を言われる筋合いはない。

ウイの下らない悩みも
ウイと離れなきゃいけないのも

元はと言えばウイが自分の気持ちに嘘をついているからこんなにこじれてるんだから。



「聞きたくないけど、もしそうなっちゃったら聞きたい……のかなー。」
「一個質問だけどウイそれ聞いてどうするつもりなわけ?」



途端に驚いた顔で目を見開いたウイが確かに、と呟いた。

自分の好きな所すら聞けないウイが
キャプテンが女漁りを再開した所でそれを問い詰められるとは思わない。



「参考までに、だよ。ほら、私だってずーっとローのこと好きでいるとも限らない……じゃん?」
「……俺に聞かれても。」



結局どうして欲しいんだか分からないウイはこの際放っておこう。
もしそうなったとしても
ウイに聞かれたら話せば良い。

この面倒臭い恋する乙女にまともに構っていた所でこっちがくたびれる。





「あ、ねえウイってさ。何か欲しいもんとかないの?」
「……愛が欲しい。永遠のローからの愛が欲しい。」






もうこの女殴り飛ばして良いかな。






だったらさっさとキャプテンに告白して来いとベッドから放り出したいけど
ウイはどうせそうはしないんだろう。

一番喜ぶんだろうけど
だからと言って流石に
今までのお礼ですとキャプテンをそのまま渡す訳にはいかないだろう。





「なんか必要なものとか、あったら良いなって物とかないの?本当に。」
「うーん。なんだろう。ベポから見て私に必要そうなものって何?」
「まともな神経。」



んだと?とお腹をグーで殴られた。
ウイは結構良い拳を持ってる。
地味に痛い。



「えー?うーん。ログポースとか?バイバイしたらウイも必要でしょ?」
「あー確かに。じゃあ明日にでも買ってこようかな。」



ログポースか。
自分で言っといてなんだけど
グランドラインを航海するなら絶対に必要なものだ。
そして今はエターナルログポースで航海しているけど
普通のやつは俺が持ってる。

ベルトの部分とか加工して貰って、世界に1つだけのログポースとか作ってあげたら良いんじゃないの?
これ。



「ウイログポースの選び方ちゃんと知ってるの?あれちゃんと見極めないと結構すぐイカれるよ。」
「嘘!?知らなかった!!」



うん。嘘なんだけどね。



「俺選んどいてあげるよ。一番良さそうなやつ。」
「やったー!航海士に選んで貰ったら絶対壊れないね!」



……ベルト付け替えられるようにしておこう。
この子結構ガサツだからぶつけて壊しそうだ。

とりあえず任務も果たしたし
ウイも言いたいことを一通り話したのか眠そうにあくびをしている。



「キャプテンに抱き締めて貰えなかった可哀想なウイにプレゼント。」
「わー。うれしー。」


お腹に顔を擦り寄せていたウイをぎゅっと抱き締めると
凄い棒読みで喜ぶウイの声が思ったより低すぎて

二人で声を上げて笑った。



「おやすみ。こじらせ女子。」
「おやすみ。腹黒白熊。」



抱き締めたまま背中を軽く叩いてあげると
一分もしないうちに寝息が聞こえてきた。



「本当、世話がやけるな。」



お腹の上の温もりが心地好い。
今日はシャチとペンギンのいびきもないし
熟睡できそうだ。




ベポに気が済むまで話を聞いて貰った次の日

皆で濾過装置の材料を買いに行って、他の買い出しがてらぶらぶら街を散策してから出航することになった。

くじ引きを引いたのはシャチだ。

目的地はニシキ。
なんだか今までと毛色が違う名前にわくわくしていたら
どうやら同じことを考えていたらしいペンギンが
和装美人いるかなとニヤついていた。

本当に女の人のことばっかり考えているペンギンを見ると
ローもそうなのかなと思えてきて心配になる。













「寒い。」
「同じく。」


暖房器具が暖炉しかないフリーウィング号は
グランドラインを舐めてかかり過ぎた私たちの準備不足で
薪がなくて暖を取れない。

地下の倉庫からこたつを引っ張り出してきて
厚手のアウターを着こんで気休め程度に遊園地で買った帽子までかぶってガタガタ震えている私とペンギンは
多分結構おかしな人たちに見えるだろう。

まだ出航して一週間も経っていないというのに
なんだこの天気の変わり身の早さは。



「寒ぃなら体動かせよ。」
「だらしないなー。」



シャチは良い。
ごもっともだ。
寒すぎて動く気持ちすら起きない私と
同じく面倒臭がりなペンギン意外が平気な顔をしているのは
体を動かさないからより寒い悪循環を生んでしまってこうなっているのは認めよう。

でもベポは違うだろ。
白熊のベポは寒い方が適温なのか
雪降ってきたよーととても楽しそうだ。

くそっ。
毛皮剥いでやろうか。



「ローは寒くないの?」
「寒ぃに決まってんだろ。」



そう言う割に
ローは特に厚着をする訳でもこたつの住人になるでもなく
涼しい顔をしている。


「もうすぐ着くと思うからすぐに薪買いに行こう?」
「「平気ならお前(ベポ)が買ってこい!」」


ペンギンと声がハモった。
なんでそんなに偉そうなのと怪訝な顔をしてこっちを睨んでいるベポには申し訳ないが
こんな状態で雪まで降ってる外に出たら確実に凍死する。



「ねえロー。どっかから薪っぽいのシャンブって来れないの?」
「あるわけねぇだろ。その辺に浮いてたとしてもそんなもん暖炉に突っ込んだら湿気って火がつかなくなる。」


ごもっとも。
流石ローさん。
寒いらしいけど頭はいつでも冷静だ。



結局一時間も立たないうちにニシキへ到着し

ぶつぶつ文句を良いながらもベポが薪を買ってきてくれた。



「暖まるー。」
「まじで死ぬかと思ったー。」



暖炉の前を独占して暖まる私とペンギンを
呆れた目で眺めている3人はこの際無視しよう。



「おい腹減った。」
「無理!!まだ寒くて動けないから作れない!!1時間暖まったらご飯食べに行こう!!」



私だってお腹は減ってるけど
今は暖炉から離れられる気がしない。

暖まってから作り始めるより島に着いたんだから食べに行った方が早いだろう。






結局20分も経たないうちに
私はローに、ペンギンはベポにそれぞれ暖炉から引き剥がされ
引きずられるように街へと連れていかれた。


「鬼!悪魔!」
「人でなし!最低!」


ある程度引きずられた所で
雪も冷たいし動かないのも寒いので
諦めた私達はぶつぶつと文句を言いながら
少しでも暖を取ろうと腕をがっしり組んで最後尾を着いて行った。

私たちの呪いの言葉のような悪口に心底呆れたのか
普段だったらペンギンと腕でも組もうものなら
即刻説教が飛んで来るのに
ローは私たちに何も言わなかった。



「ねえー。もうここで良いじゃん。あんまり遠くだと帰りも寒いー。」



酒場らしき建物を見つけてそこに入りたいと駄々を捏ねてみると
本当に憐れんだような目でため息をついたローが店の扉を開けた。


やった!!
お店の中なら暖かい!!


まじ寒ぃー俺冬まじ無理嫌い、和装美人どころか人が居ねぇじゃんと未だにぶつぶつ言っているペンギンと私も
腕を組んで手をポケットに突っ込んだまま
皆の後に続いて店に入った。


雪国のオアシスだと思って飛び込んだこのお店で
まさかあんなことが起こるとは



この時の私は思ってもみなかったんだ。



明日の私が何か助言をしてくれるとしたら
寒いけどここはダメ。
次のお店に入りなさいって

きっとそう忠告しただろうに。





destruct at reality.