6-36

「あったかーい。バラダイース。」
「俺まだ寒ぃけど。」



店内は結構賑わっていて
私たち以外にも海賊かなって思わしき集団がちらほら見られた。

奥の方のソファー席に腰掛けてる白熊の姿が目に入って
ドアから離れた席にしてくれるとか
やっぱりローは優しいなぁとペンギンを促して皆の元へ向かった。






「ロー!!やだ久しぶりじゃない!!また会えるなんて……運命かしら!!」
「……ステラ。」










わーお。

すんげぇ見たくないもの見ちゃったと思って足を止めると
同じものを目撃したペンギンが慌てて私の目を覆った。

もう遅いよペンギン。
バッチリ見えちゃったよ。

ローが金髪ナイスバディのセクシー美人に抱きつかれてる所なんて
それはそれはバッチリ見えたさ。
うん。



「知り合い?」
「……あー。北の海でちょっと。」



なんだ。
ローだけじゃなく皆も知り合いなんだ。
明らかに目線を泳がして挙動不審なペンギンの様子に
ステラと呼ばれたあの金髪美女は
ただの一夜限りの女の人じゃないんだろうなってことが
なんとなく分かってしまった。

頬杖をついて何もない壁の方に顔を向けて現実から目を逸らしているシャチと
腕組みをして珍しく険しい顔をしているベポの様子も

明らかにおかしい。



ローの顔は、怖くて見れない。



彼女の名前を呟いたその声は
嫌がってそうに聞こえたけど

一瞬でも
私に向けるあの気を許したような顔を
ローが他の人に向けるところなんて見たくない。




ずっと突っ立っているのもアレなので
ペンギンの袖を引っ張って座ろうと声をかけると

頭を抱えていたペンギンがお前大丈夫なのかと心配そうに見下ろしてきた。

大丈夫も何も
やっぱり私がここに居るとまずい相手なのか。ステラさんは。

心配してくれるのは有難いけど





なんて口が軽いんだペンギン。






何が?とバカみたいに神妙な顔をしているペンギンを安心させようと笑ってみせると
ペンギンはロー達から一番遠くに私を座らせて
向かい側に座っていたベポも呼び寄せて私の両隣をがっちりガードしてくれた。


本当に。

なんて優しいんだろう。この人達は。




「あら?皆も久しぶりね。そこのお嬢さんは新入りなの?」
「通りすがりの商人ですー。ウイって言いますー。お姉さんめちゃくちゃ美人ですね。」


やだぁ、良い子じゃない!と無理矢理ローの隣に座って腕を絡ませているステラさんは
それはそれは綺麗な笑顔で微笑んだ。

うわー。


おっぱいおっきいー。

爪もストーンやマニキュアで綺麗に整えられてるし

何よりこんな寒いのに胸やら足やらを露出できるのは
女の鏡だろう。



軽く挨拶を交わしただけで特に興味が失せたのか
ステラさんは相変わらずベタベタとローに密着しては何かを話し込んでいる。
別に聞き耳なんて立てないのに
ローの耳に顔を寄せて何かを囁いているステラさんを見るのは



何て言うか結構しんどい。




私がペンギンとこそこそ話してた時も

ローはこんな気持ちだったのかな。



「何か暖まるもん食おーぜ。ウイなに食う?」
「このアボカドとクリームチーズのわさび和えとかお前好きそうじゃん。」



ペンギンの隣に座っているシャチも
分かりやすい程私に気を使ってくれてる。

なんだか
仕込みや食事の準備があるとは言え
何も手入れをしていない爪も
寒いからと着込んでいる服装も
結構離れているはずなのに香ってくるステラさんの香水の甘い香りも

顔やスタイルはもう比べても仕方ないから置いておくとして

女子力の格が違すぎる。



なんだか、ステラさんとローがくっついていることで
私が気を使われるなんて

あんな凄すぎる人と比べられてる事自体がなんだかおこがましいというか恥ずかしい。



「とりあえずお酒頼もうよ。ステラさんは何飲みます?」



にっこり笑ってビールをお願い、と話すステラさんは
女の私から見ても魅力的だ。

話しかけるのに顔を見ないなんて失礼だと思い
頑張ってステラさんに笑顔を向けたけど

微笑む顔も人形かと突っ込みたくなるほど綺麗なステラさんの笑顔の隣で
げんなりとした顔のローが視界に入ってしまった。

私は店員さんを捕まえて人数分のビールと適当なおつまみを注文した。





そんな顔するくらいなら


アオイの腕をひっぱたいたみたいに
ステラさんの腕も振りほどけば良いじゃない。




「じゃあ運命の再会を祝して、かんぱーい!」



ステラさんの声に合わせてジョッキを合わせた。

そもそも再会に含まれていない私はよく考えたらここに居るべきじゃないのかと
とてつもない疎外感を感じる。



変なの。



シャチもペンギンも私の方に寄せて座ってて
やたらと構ってくれてると言うのに

なんでこんな気持ちになるんだろう。

ジョッキを軽く掲げて合わせもしなかったベポは
さっきから結構怖い顔をしてステラさんを睨み付けたままずっと喋らない。

初対面ではないんだろうけど
ベポがここまで苛立った様子を表に出すなんて珍しい。


「ベポはステラさん、好きじゃないの?」
「……嫌い。ていうかキャプテンもなんなのアレ。ウイもいるのに見苦しい。」



嫌いって。

はっきり言うなー。

ローにべたべた引っ付いてなければ
そんなに嫌な人には見えないんだけど。



「まあ、ステラ誰にでもあんな感じだし!お前も気にすんな!」
「別に。気にしてないよ?シャチとペンギンはステラさんタイプじゃないの?超美人じゃん。」



二人が好きそうな
どこから見ても完璧美人なステラさんなのに
二人のリアクションは微妙だ。



「シャチもペンギンも。お世話になった事があるから色々気まずいんじゃないの?」
「ほぉ。なるほどね。」



お前余計なこと喋んなとムキになる二人を見ると
ベポの暴露は本当のことらしい。

ローにあんな感じのステラさんを見ると
きっとローもお世話になった内の一人なんだろう。

確かにそれは気まずそうな関係だけど

それにしたって皆の様子がおかしすぎる。



「別に気にしないから言えば?何があったのよ。ステラさんと。」



途端に黙り混むシャチとペンギンは
これはもう口を割らないだろう。

ターゲットを変えよう。

頼りになるのはベポしか居ない。

ベポの顔を見上げると
それに気付いたベポが私に目線を向けてため息をついた。



「別に俺は話しても良いけど。ウイは泣かない?」
「泣かないよ別に。っていうか何なの本当に。」



いや、ベポ落ち着け。そこは別に言わん方が良いんじゃないかと慌てふためく二人を睨み付けて黙らせた。

もうここまで聞いちゃったらちゃんと聞きたいよ。



「簡単に言っちゃえばステラはキャプテンの初めての女だよ。」



なんと!!
そんな昔の知り合いだったのか。

いやローの初体験なんていつだか知らないけど。

余裕で百人切りのローの初体験なんて
きっと恐らく大分昔の話だろう。







良いな。

私がファーストキスが甘酸っぱい、みたいな感じで思い出したみたいに

ローもステラさんとの初体験を思い出すことって
あったりするんじゃないか?



「そうなんだ。でもなんでそれでベポはステラさんが嫌いなの?」
「……そのあと船の風紀が乱れに乱れまくったから。キャプテンだけじゃなくどっかの誰かさん達もこぞって所構わず楽しまれてたから。そんな人の顔見たくもないでしょ。」



気分悪い、と鼻を鳴らすベポは本当にステラさんが嫌いみたいだ。

っていうかちょっと待って?




所構わずって




「あんた達何やってんのよ。」
「俺らも若かった!うん。仕方ねぇ!」
「男なら誰もが通る道だ!通過儀礼!」



過去の失態をバラされた二人はついに開き直った。

何て言うか。

所構わずってとこには少しびっくりしたけど

今更この二人にはあんまり驚きとか感じないかも。



「別に、思ったより衝撃的でもなかったかも。」



確かに良い気はしないけど

ローがモテるのは知ってたことだし。
ステラさんが初めてだったってだけだ。



「ステラが通りすがりの海賊船に乗ってどっか行っちゃうまで、半月くらいずっとだよ?引くでしょ。普通に。」



なんだと?




「ローって、同じ人としないんじゃなかったの?」
「アレだけ例外。まあ初めてだったんだから仕方ないんだろうけど。俺その時11才。流石に衝撃的だった。」



あー。

なるほど。

それは確かにショックかもしれない。






自分達の話をされてるなんて露程も思ってないのか
やたら顔の距離が近い二人はこっちなんて見向きもしてない。

嫌そうな顔をしてるくせにステラさんを振り払わないローが
なんだかムカつく。



結局くっついてるなら

いっそのことそんな顔しなければ良いのに。




トイレに行ってくると席を立ったウイを
ステラを腕に纏わりつかせているキャプテンの目線が追う。

気にしてんなら追い払えよ
本当に。



「なぁ、どうすんの?あれ。キャプテンは未だにステラに未練とかあるわけ?」
「知らねえよ。ウイの前なのに好きにさせてるってことはそうなんじゃねぇの?」



相変わらずステラを睨み付けているベポはさておき
ペンギンも虫の居所が悪そうだ。

ステラが消えた後
確かにキャプテンは少し荒れた。

2、3日くらいの短い間だったけど。

久しぶりの初めての女との再会で
ステラが相変わらずなのは仕方ないとしても

良いのか?キャプテン。

なんとか普通にしてるみたいではあるが
ウイの笑顔がどこか不自然なことくらい
キャプテンだって分かってるだろうに。



「なぁ。ウイばっかり気の毒だからちょっとキャプテン懲らしめてやろーぜ。」
「良いね賛成。何か案あるの?」



ニヤついているペンギンと相変わらず不機嫌そうに酒を煽るベポ。

今思えば確かにベポには悪いことをしたとは思うものの
きっと彼の機嫌がここまで悪いのはそれだけじゃないんだろう。

ウイと仲が良すぎるベポは

彼女にあんな顔をさせているキャプテンにも
怒っているはずだ。



ペンギンはキャプテンが次にトイレに立った時にでも
ウイを連れて先に船に戻ると言い出した。
キャプテンが焼き餅を妬くのであれば俺が適任だろうと。

ベポもそれに無言で頷き、後は任せるぜとペンギンが俺の肩を叩いた。



「お前さ、そっちはそっちで本当に大丈夫なのか。」
「あ?何がだよ。キャプテンに怒鳴られるなんてもう慣れた。」



可愛い可愛い家のお姫様の為ですもの、とおどけているペンギンには悪いが
俺が心配しているのはそっちじゃない。

普段ならまだしも

お互いに酒が入ってる状態で
ウイのメンタルも最悪だ。

そんな状態の二人を二人っきりで船に帰らせて大丈夫なのだろうか。






destruct at reality.