6-37

あからさまにウイを好きなくせに
その気持ちを自覚しないキャプテンを

鈍い鈍いと散々ディスっておきながら

正直俺としてはペンギンも良い勝負だと思わなくもない。

ペンギンこそ正真正銘のアホなのか
自覚して隠しているのかは知らないが

いつからかペンギンが女漁りに行って選ぶ女の系統が変わった。

昔からスキモノそうな
けばけばしい女ばかり選んでいた彼が最近連れ込むのは

どこかしらキャプテンの想い人に面影の似た
細身で可愛らしい感じの女ばかりだ。


まあ、楽しいんだろうな。



ウイと一緒に居る時のペンギンは
物心つく前からずっと一緒にいる俺が見ても一番だと思うほど自然体だ。

性格が似てるのもあるんだろうが
二人の暴走は誰にも止められない。


性格上、キャプテンに比べれば
ペンギンが鈍いアホだった所でさほど驚きはしない。


ただもし、


ペンギンが自分の気持ちを自覚していて
キャプテンに気を使ってそれを隠してるとしたらどうだ?

さっきも目に見えて苛ついていたようだし
この状況で二人を帰らせるのはかえって事を厄介にしてしまうんじゃないだろうか。


意見を聞こうにも
中立である筈のベポは相変わらず二人を睨み付けている。


だめだ。


頭に血が登ってるベポに今そんな事を言っても無駄な気がする。



結局いつも俺一人が肝を冷やすのかよ。



「なぁ。本っ当に大丈夫だよな?」
「なんだよさっきから。お前だってあれムカつくだろうが。」



ペンギンが顎で指す方向には
事の元凶であるキャプテンとステラ。


ベポじゃないが
確かに見たくもない状態だ。


これ、俺がウイと帰った方が一番安全なんじゃねえか?



「おーウイお帰り。お前温泉好き?」
「温泉?好きだけどなによ急に。」
「湯の花っつー温泉の素持ってんだよ。今日寒ぃし帰って一緒入ろうぜ。」
「湯の花!!?私見たことない!!」



おいおいおいおい。

見たことのないものに飛び付くウイはこの際目を瞑るとしても

風呂はヤバいだろ風呂は。

温泉談義で盛り上がる二人に
人生最大なんじゃないかと思うほどのため息が出た。





「じゃ、行こーぜ。」
「え、ローに声かけて行かなくて良いの?」



ペンギンはローがトイレに立った瞬間を見計らって船へ戻ると言い出した。

先に帰っておくって言った方が良いんじゃないかな。



「お前ら言っとけ。ほら行くぞ。」



ペンギンに腕を捕まれて立ち上がるとベポが了解、と返事をする。


確かに今は話しかけにくいけど


良いのかな。




ペンギンはステラさんに先に帰ると声をかけると
私の手を引いて店を出てしまった。





お店の中が温かくて忘れてしまっていたけれど

外の空気は痛いほど寒い。


こんな天気のこんな時間に出歩いている人なんていなくて
雪のせいもあるのか

外はとても静かだった。



流れで出てきちゃったけど

本当にこれで良かったのかな。



明かりの漏れる店内からは楽しそうにお酒を飲んでいる人達の姿が見える。

奥の方の席だったから

外から私たちが座っていた席は見えなかった。



「ウイ。早く帰ろうぜ。寒ぃ。」



未練がましく店内を眺めながら立ち止まっていたら

ペンギンがポケットに手を突っ込んだまま少し体を丸めて待っていてくれていた。






ローが戻ってきたら
私を探しに店から出てきてくれないかな。

ステラさんが居ない所で
ローと話したい。

ペンギンと先に帰ってるねって







ううん。

違う。




ローも一緒に帰ろうって、そう言いたい。




「凍死すんぞ。ほら。」




ペンギンが呆れたような顔で私に手を差し出す。






探しになんて


来ないか。



きっと私の目がなくなって

ステラさんと思う存分いちゃいちゃできて

せいせいしてるはずだ。



私はペンギンに駆け寄ってその手をとると
ニカッと笑ったペンギンが私の指を絡めてポケットに突っ込んだ。




寒い寒い言ってる割に

ペンギンの手は温かくて

なんだか少し

泣きそうになった。



「気になんの?」
「……別に。」


サクサクと雪を踏みしめながら船へと歩いていると
白い息を吐きながらペンギンが私の顔を覗きこんだ。


「分っかりやすいな。お前も。」
「違うって言ってるじゃん!!」


はいはいそうですねーとペンギンがけらけら笑う。

ペンギンには悪いけど





全然笑えない。





かといって
ベポならまだしもペンギンにそれを言う訳にもいかないし。






ダメだ。

目の前に居たら居たで見たくないけど

居なければ居ないで
今二人が何をしているのか




気になって仕方がない。








「俺の足跡以外踏んじゃダメね。」



ペンギンがするりと私の手をほどいて

真っ白な新雪の上を大股でひょいひょい歩いていく。




「ちょっとー。もうちょっと、間隔、狭くしてよ!」




ローと同じくらい背が高いペンギンは
それに比例して足も長いわけで。

彼の足跡だけを踏んで着いていくのは結構大変だ。


面白がっているのか足跡はじぐざぐにつけられていて

私が片足でなんとかバランスを取りながら次の足跡目掛けて跳ぶと


おー頑張れ頑張れ、としゃがみこんだペンギンがそれを眺めて笑っていた。








「これ、無理でしょ。」
「脚短いウイちゃんには難しかった?」



やっとのことでペンギンの所まで追い付くと
必死のジャンプが続いたせいか息は上がっていて。

体も暖まっていた。

むしろ暑い。

ペンギンがしゃがみこんでいる場所の前には彼が最後に付けた足跡。





これ絶対ペンギンもジャンプしたやつでしょ。

1.5メートル以上あるその間隔は
片足でしか踏み込めないこの状況では届きそうもない。



「助走つけても良い?」
「だめー。」



なんだよケチ!



くそっ。

いけるか?

私はついていない方の脚で勢いをつけて
地面を踏み切った。








「おー。良くできました。」



思い切り踏み込んだせいでバランスを崩した私を
最後の足跡の前でしゃがんでいたペンギンが支えてくれて

よしよしと頭を撫でたペンギンは
自然に私の手をとって、それをポケットに納めて歩きだした。




「中入るとあったけーな。」
「めっちゃジャンプしたから私暑い。」


船に戻ると俺湯の花持ってくるわとペンギンが地下へ降りて行ったので
私はまだ寒くはなかったけど時期に冷えるだろうと暖炉に薪を足して種火をくべた。

パチパチと薪が燃える音とともに
前方から暖かい空気が部屋へと広がっていく。



「お湯入れてくるな。」



リビングに戻ってきたペンギンがバスルームへ続く廊下への扉を開ける。





え?





ちょっと待て。



私はペンギンを追ってバスルームへと向かった。












「ねえ、本当に一緒入るの?」
「良いじゃんたまには。」


けろっとそう答えるペンギンは
勢い良く蛇口から流れるお湯が貯まっていく浴槽に
湯の花と思わしき石をぽちゃんと投げ入れた。







あー。たまには。







そうね。

うん。










っておい!!!



「いやいやいやいや!ダメでしょ!それは!」
「嫌なの?俺と裸の付き合い。」


ペンギンはニヤリと笑いながらこちらを見ている。

確かに酒場で湯の花の話を聞いたとき
一緒に入ろう的なことは言われたけど

え?






お風呂って








男湯と女湯とか分かれてたよね?












一応男と女な私たちだけど



たまに一緒に入るもんだっけ?









いや、ダメでしょ流石に。

普通がそうだとしても無理だ。

恥ずかしいし、いかんだろ。




これは私でも流石に分かるぞ。

一緒にお風呂は
ローによく怒られる危機感がないだとか
そういう部類のやつだ。



ペンギンは私が裸で迫っても何ともないらしいから
そういう心配はないんだろうけど

ペンギンが良くても私が恥ずかしい。



混乱しすぎて頭を抱えていると

いつの間にかニヤついていたペンギンの顔は真顔になっていて

こちらに手を伸ばして来る。




ちょっとこれは本当にどうしたら良いのか分からない。


私は色々と想像しすぎて赤くなってしまった顔を覆いながら


伸びてくるペンギンの手を見つめていた。




「わぁっ!」



突然顔にぬるい水滴が飛んできて

驚いた私は目を瞑ってしまった。




「むっつりスケベのウイちゃんは何を想像してるわけ?」



ペンギンの発言に目を開けると

目の前には水に濡れた手と
ニヤニヤ笑ってるペンギンの顔。




「だってお風呂って!!」
「水着着ないで俺と一緒に風呂入りたかったの?」



そんなに見て欲しいなら見てやっても良いけど、と相変わらずニヤニヤ笑うペンギン。
















こンの野郎っ!!!











一万ベリーで見てやっても良いぜとゲラゲラ笑うペンギンに

怒りを通り越して力が抜ける。





「もー。びっくりさせないでよ本当に。」
「びっくりしたのはこっちだわー。」



絶対分かっててからかわれた。



水着持ってこいよと未だに笑っているペンギンをバスルームに置いて
水着を取りに部屋へ向かった。





一瞬珍しく真面目な顔をしていたペンギンにすっかりしてやられた。

普段ふざけてばっかりな人があんな顔すると
ちょっと調子が狂う。


















「硫黄の臭いちゃんとする!凄い!!本当に温泉みたい。」
「俺も買っといてすっかり忘れてたわー。」



お湯の色は透明だけど
結構強い硫黄の臭いがする。

心なしかお湯にとろみがついてる気もしなくはないし。

本当に温泉みたい。

すげーな湯の花。



「ねえこれどこで買ったの?」
「……忘れた。」



一階のバスルームは私の部屋の浴槽より大分大きいから
二人で手足を伸ばして入っても全然余裕だ。

うん。

一緒にお風呂に入るって

なんか楽しいかも。




「私誰かとお風呂入ったの初めてだー。良いね、たまには。」
「は?ガキの頃親と入んなかったのかよ。」




一般的にはそういうものなのか。

私は湯の花の臭いを嗅ぎながら昔の記憶を引っ張り出す。

父様や母様と一緒にお風呂に入った記憶なんてどう頑張っても見当たらない。

小さい頃は誰かしらが入浴の手伝いをしてくれたけど
一緒にお湯に浸かるとかでもなければ

彼女達にとってあれは仕事だ。



destruct at reality.